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会いたかった

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1部分:第一章


第一章

                          会いたかった
 朝登校する。ところが。
 彼女はいなかった。彼女のクラスに行ってもいなかった。 
 いつも明るい太陽みたいな笑顔もそこにはない。僕はまずそのことに落胆して思わずこう言ってしまった。
「どうしたのかな。いないのかな」
「ああ、あの娘実はね」
「ちょっと今日は風邪ひいたのよ」
 彼女は寮生活をしている。僕達の通っているこの学校は全国から生徒が集まるので寮もあるのだ。男子生徒のものに女子生徒、それと野球部にラグビー部に柔道部の寮もある。
 彼女がいるのは言うまでもなく女の子の寮だ。その寮生の娘達が僕ににやにやとして言ってくる。
「それでいないの」
「まああんたにとっては残念よね」
「今日も会えるって思ってたでしょ」
「それがだからね」
「まあね」
 僕が彼女をどう思ってるかはそれこそ学校の皆が知っていることだ。もっと言えば交際まで至っていることも。ただ僕は自宅から通っていて彼女は寮生だから交際には色々と制約があるけれど。
 けれど僕達は確かに交際している。その僕に周りが言ってくる。特に寮生の女の子達が。
「仕方ないけれどね」
「今日はそういうことでね」
「残念だけれど諦めて」
「明日ひょっとしたらだけれど」
「寮で寝てるんだ」 
 僕は項垂れたまま言った。
「そうなんだね」
「そう。だからそういうことでね」
「お見舞いでも直接会えないからね」
 病気ではそれも当然だった。ましてや女の子の寮に男が入られる筈もない。
「まあお見舞い品なら私達が渡しておくから」
「それで我慢できる?」
「今日のところは」
「お見舞いだね。それならね」 
 僕は彼女の誘いに乗った。それでだった。
 この日僕は悶々として過ごした。いや、悶々とじゃなかった。
 苦しかった。彼女に会えないだけで胸が張り裂けそうだった。それで授業中ももがいていると。
 その時の授業を行っている先生が僕の方を見て呆れる顔で言ってきた。
「おい」
「はい、何ですか?」
「そんなに苦しいか?」
 声も呆れていた。その声で僕に言ってくる。
「今そんなに苦しいか」
「ええ、まあ」
 僕もそのことは否定しなかった。それでこう返した。
「何かもういてもたってもいられないです」
「そんなに苦しいのか」
「こんなに苦しいのはじめてですよ。どんな病気よりも」
「恋の病だな」
 先生は黒板のところから僕に言ってくる。
「完全にな」
「そうだっていうんですか」
「全く。困った奴だ」
 先生は怒らなかった。その代わりに。
 僕を呆れた顔で見てきてこう言ってくれた。
「あの娘のことは今は忘れて授業に専念しろ」
「えっ、先生まさか」
「あのな。あれだけいつもでれでれしてるとな」
 授業はとりあえず置いてだった。先生は僕にさらに言ってくる。
「誰だってわかるぞ」
「先生もだったんですか」
「わしだけじゃないからな」
 僕と彼女のことを知っている先生は他にもいるというのだ。
「教頭先生まで皆知ってるからな」
「何でですか。誰も言ってなかったじゃないですか」
「言う必要あるのか?あんなわかりやすいことを」
「うう・・・・・・」
「学生の本分は恋と勉強だ。だがな」
 ここでは先生らしく。先生は僕に少し真面目な顔になって言ってきた。
「勉強する時は専念しろ。いいな」
「わかりました」
 授業中に皆に周りからくすくすとされながら僕は先生に応えた。そうしてだった。
 僕はその日とにかく彼女のことを考えてばかりだった。放課後が待ち遠しかった。
 昼にもだ。特に寮の女の子達が言ってきた。
「で、あの娘の好きなものはね」
「ドーナツ大好きなのよ。知ってるわよね」
「放課後ミスタードーナツで買いに行ったら?」
「そうしたら?」
「ドーナツね」
 僕は真面目に彼女達の言葉を聞いて考え込んだ。
「そうだね。それじゃあね」
「そうそう。それで寮の前に来たらね」
「後は私達が渡しておくから」
「間違っても自分で食べたりしないから安心してね」
「あの娘に渡しておくから」
「そんなの当たり前だろ。僕はお見舞いであの娘に買うんだよ」
 このことはかなり真面目にだった。僕は彼女達に言い返した。
 
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