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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第2章:埋もれし過去の産物
  閑話6「古の戦い」

 
前書き
かつてあったシュネーの最期です。
ただの補完みたいなものなので読み飛ばしは一応可です。
 

 










  ....え?シュネー()の最期ですか?

  前々世の話な上に、大して面白くもありませんよ?

  .....それでもいいのなら...まぁ、話しますけど...。







   ―――...そう。あれは、ベルカ戦乱時代。ムートが死んでしばらく経った時...。











       =out side=





「ふふふ、あはは♪」

  荒れ果てた大地。立ち込めた暗雲。
  草木は枯れ、地には罅が入り、そして...夥しい量の血と肉片が散らばっていた。

  その肉片と肉塊...人間の死体を積み重ね、その上で少女が嗤っていた。

  黒い、艶やかな長い髪に、黒を基調として、赤や白の装飾があるドレス。
  髪も白いカチューシャで纏められている。

  ....しかし、その全てが血に濡れていた。

「つまんないなぁ...もっと骨のある奴はいないの?」

  血に濡れた少女は嗤う。狂気を滲ませて。



     ―――ザッ....。



「....んー?」

  そこへ、一つの集団がやってくる。
  金髪の女性と、碧銀髪の男性を筆頭にした、鎧を来た集団だ。
  鎧を着たと言っても、筆頭の二人は軽装だった。

「...シュネー...。」

「...あは♪誰かと思えば、オリヴィエとクラウスじゃん。何しに来たの?」

  女性...オリヴィエが少女の名を呟く。
  そこで少女...シュネー・グラナートロートがそう返事した。

「...シュネー、貴女を止めに来ました。」

「.....ふーん...そう...。」

  ニコニコと、飽くまで嗤っていたシュネーの表情が、オリヴィエの一言で変わる。
  目を細め、見下すように屍の山の上から集団を睥睨した。

「シュネー、貴女はどうしてそこまで...。」

「...なに?言葉で止めに来たの?...ふざけないでくれる?」

「っ....。」

  オリヴィエがシュネーに対し何かを言おうとして、酷く冷たい声色でそう言われる。
  気に入らないのだ。今更言葉で止めようとするのが。

「止めたいのならさぁ...その拳で止めてみなよ!そのために矮小な戦力を引っ提げてここに来たんでしょ!?」

「......。」

  “矮小”。そう言われて鎧の集団の一部は少し憤る。
  ...が、相手が誰だか弁えているため、行動に移す者はいなかった。

「....分かりました。...貴女を殺してでも、止めます。」

「...あはっ♪殺せるものなら殺してみなよ!!」

  ついに覚悟を決め、オリヴィエはシュネーと相対する。

「クラウス!」

「ああ。...皆の者は第三者の介入を阻止するのに専念!!彼女は僕とオリヴィエの二人だけで相手をする!...何人たりとも、この戦いの邪魔をするな!!」

  オリヴィエが男性...クラウスに呼びかけ、クラウスは他の者に指示を飛ばす。

  ...さすがに、その指示には戸惑った。
  元々、彼らはシュネーの討伐隊として集まったのだ。
  それなのに、実際戦うのは二人だけだった。

「あはは、戸惑っている暇なんかないよ!!」

〈“Zerstörung(ツェアシュテールング)”〉

  戸惑う彼らにシュネーは手を翳し、緋色に光る球のようなモノを握りつぶす。
  瞬間、爆発が起きる。

「っ....!」

「オリヴィエ!」

「大丈夫です!」

  彼らは爆発を避けきれずに吹き飛ばされるが、二人は回避して近くに着地する。

「『...行きますよ。』」

「『...あぁ、ここで僕達が...シュネーを止めるっ!!』」

  念話でタイミングを合わせ、同時に二人はシュネーへ挑みかかる。

「はぁっ!」

「ふふっ♪」

     ―――バシィイッ!!

「っ....!」

  強く踏み込んだ、先手且つ強力なクラウスの拳を、シュネーはあっさり受け止める。
  覇王流の使い手でありながら、あまりにあっさり受け止められたため、一瞬とはいえ、クラウスの動きが硬直してしまう。

「“殴る”って言うのはこうするんだよ?」

「させません!!」

  空いている手で、殴り返そうとするシュネーに、オリヴィエが割り込む。
  繰り出された攻撃をクラウスを庇うように逸らし、同時にカウンターを叩き込む。

「ぐっ...!?」

「はぁっ!」

「っ、ぁあっ!!」

  カウンターでよろめき、そこへすかさずクラウスが追撃する。
  だが、シュネーは魔力を解放し、衝撃波で辺りを吹き飛ばす。

「ふふ、ふふふ...!いいよいいよ!少しは楽しめそう!ねぇ!シャル!!」

〈“Lævateinn(レーヴァテイン)”〉

  シュネーは手に歪んだ棒状の物...シャルラッハロートを持つ。
  そして、それは炎に包まれ、大きな魔力の大剣と化す。

「そー、れっ!」

「「っ....!」」

  そしてシュネーはシャルを大きく振りかぶり、振り下ろす。

「...導王流...“流水”!」

「導王流...“流撃衝波”!!」

  それを、オリヴィエが当たらないように紙一重で逸らし、クラウスが地面に当たった衝撃を利用して、回転しながら間合いを詰め、強力な回し蹴りを放つ。

「くっ...!」

「はぁああっ!!」

「っ、ぁあっ..!」

  それを、シュネーは片腕で受け止めるも、クラウスは気合で蹴り抜き、後退させる。
  だが、大してダメージは入らない。

「(大振りの攻撃...例えばレーヴァテインなどは隙が大きい...。)」

「(だからこそ、反撃できますが...無傷と言う訳にはいきませんか...。)」

  二人はまるで通じ合っているかのように、同じことを思考する。
  だが、オリヴィエが思った通りに、受け流しに使った腕は負傷していた。

「(おまけに、大して傷を負わせれる訳でもない...。)」

「(やはり...。)」

  オリヴィエは負傷した腕に魔力を回し、治癒力を向上させる。
  だが、もちろん治るのを待つ訳でもなく、二人はシュネーとの間合いを詰めた。

「「(攻めなければ、勝てない!!)」」

「ふふふ..あはは...!あははははははははは!!」

  二人の猛攻をシュネーは迎え撃つように受け止める。
  そのまま投げ飛ばそうと引っ張った瞬間、それを利用されて同時に蹴られる。

「っ....!」

「「はぁっ!」」

  蹴りで仰け反った所を、さらに追撃として二人は魔力弾を放つ。

「うざったい!!」

  だが、それをシュネーは魔力で薙ぎ払う事で無理矢理打ち消す。
  オリヴィエとクラウスはそれぞれ左右に避け、着地してすぐに間合いを詰める。

「....“覇王断空拳”!!」

「効かないよっ!!」

「っ、がぁっ!?」

  クラウスが足から練り上げた力を拳から放つ。
  それに対し、シュネーは()()()()()()()だけで相殺どころか競り勝った。

「(なん、て...力....!)」

「はぁっ!!」

「くっ....!」

  自身の渾身の一撃が、ただ殴りかかられただけで押し負けた。
  その事に慄くクラウスだが、シュネーも無傷ではなかった。
  殴った手の骨が折れていたし、オリヴィエに懐に入られ、吹き飛ばされていた。

「...ふふ...いいね。ホントにいいよ....これで心置きなく全力を出せるよ!!」

「っ...!」

  ドンッ!と魔力が放出され、吹き飛んだシュネーが相当なスピードで戻ってくる。
  そのままオリヴィエに向かい、スピードを乗せた一撃が繰り出される。

     ―――ヒュ、パンッ!!

「っ.....!!」

「がっ....!?」

  その一撃は、オリヴィエの髪を掠めるだけに終わった。
  逆に、シュネーの顔面にオリヴィエのカウンターが命中した。

  ...なんて事はない。紙一重で避け、相手の力をカウンターに利用しただけだ。
  だが、それでもオリヴィエは拳圧だけでダメージを受けていた。

「っ...ふふ...!」

「しまっ....!」

  明確なダメージを与えた事はよかった。
  しかし、そのカウンター後の隙で腕を掴まれ、逃げられなくなってしまう。

「まずは...オリヴィエから!!」

「させ、ないっ!!」

  攻撃を繰り出した腕に、クラウスが横から断空拳を繰り出す。
  それにより、オリヴィエを殺すはずだった一撃は紙一重に逸れた。

「っ、今っ!!」

「くっ...!」

「はぁあああっ!!」

  その瞬間に、オリヴィエは掴まれてるのを利用して逆に投げ飛ばし、地面に叩き付ける。
  間髪入れずにクラウスが追い打ちをかけるように拳を放つ。

「っ....!」

「なっ!?」

  しかし、それは転移魔法によって避けられた。

「さすがだよオリヴィエ!クラウス!じゃあ、これらも耐えれるよね?」

〈“Obst falle(オープストファレ)”〉

  シャルがそう言うと同時に、四方から魔力弾が襲ってくる。

「っ...クラウス...。」

「オリヴィエ...あぁ、分かってる。」

  オリヴィエとクラウスは背中合わせになり、魔力弾を対処する。
  受け流し、それを利用して他の魔力弾と相殺させる。
  決して受け止めも、被弾もせずにただ受け流し、凌ぎ続ける。

  ...だが、それでは防戦一方だ。
  だから、クラウスは行動に出た。

「オリヴィエ!」

「分かっています!」

  オリヴィエに呼びかけ、一瞬だけオリヴィエだけに受け流させる。
  一瞬、ほんの一瞬だけクラウスに余裕ができ、その余裕をクラウスは利用した。

   ―――“覇流旋衝波”

  次に迫ってきていた魔力弾を、全て高みの見物をしていたシュネーに投げ返した。

「なっ..!?」

「今だ!!」

「はいっ!!」

  投げ返された事にシュネーもさすがに驚き、その隙にオリヴィエが接近する。

「―――薙ぎ払え!!」

〈“Lævateinn(レーヴァテイン)”〉

  咄嗟にシュネーは炎の魔剣で薙ぎ払うが、まるで木の葉のように躱される。

「はぁっ!」

〈“Panzerschild(パンツァーシルト)”〉

  躱し、すぐさま掌底を放つが、シャルによる防御魔法で防がれる。

「なんで...!?どうして...!?今のも...さっきまでのも...!」

「...ムートの動きとそっくり...ですか?」

「っ....!」

  シュネーは違和感を持っていた。自身の大好きな人と同じような動きをする二人に。
  その答えを、オリヴィエは口にした。

「...託されてたんですよ。....自身が、死んだ時のために...。」

「え....!?」

  ムートは、自分が死ぬ可能性も考えていた。
  だからこそ、いざという時のため、オリヴィエ達に導王流を教えていた。

「....ムートのためにも、シュネー。貴女を止めます!!」

「っ....ぁあああああああああ!!」

   ―――“Tod Käfig(トートケーフィヒ)

  シュネーが叫ぶと同時に、魔力が迸る。
  鳥籠のようにオリヴィエ達を魔力弾が囲う。

「うるさいうるさい!!ムートのため?今更出てきたお前らがそんな事を口にするな!!...今更、出てこないでよ!!」

「っ、ぐ、く....!」

  シュネーがそう言うと同時に、オリヴィエに襲い掛かる。
  それを、何とか受け流すオリヴィエだが、受け流しきれない程の重さと、シュネーの動きによって動いた鳥籠の魔力弾に動きを阻害される。

「オリヴィエ!」

「クラウス!そっちにも行きます!!」

「っ...!」

     ―――ドンッ!!

  オリヴィエに攻撃したシュネーは、受け流された事もお構いなしにクラウスに迫る。
  クラウスはそれを辛うじて避け、シュネーは地面へと突っ込み、陥没させる。
  その衝撃を利用して、クラウスは飛び上がり、オリヴィエの傍へと行く。

「...二人で対処するべきだな...。」

「...はい。この“鳥籠”も、シュネーの攻撃力も、厄介すぎます。」

  そう言って二人は並んで構える。
  クラウスは覇王流を。オリヴィエは導王流を混ぜた自己流の構えを。

  ...同時に、再びシュネーが途轍もないスピードで迫る。

「シッ....!!」

「ぜぁっ!!」

「っ...!」

  それをオリヴィエが逸らし、その隙にクラウスが懐にカウンターを繰り出す。
  だが、シュネーは身を捻らせ、掠る程度に終わらせた。

「はぁぁああっ!!」

  攻撃はそれで終わらない。鳥籠の魔力弾が再び襲い掛かる。
  オリヴィエがそれを全て受け流すが、またシュネーが襲い掛かる。

「(受け流していては...!)」

「(勝てない...!)」

  そう悟った瞬間、二人はその場から飛び退くように離れる。
  シュネーはすぐさま避けた片方の方...オリヴィエへ向きを変え、爪を振るう。

「っ....!」

「死ね!死んじゃえ!お前らなんかが...ムートの技を使うな!!」

「くっ...!」

  振るわれる爪をまともに受ける訳にはいかない。
  そんな思いで、オリヴィエは爪を躱し続ける。

「はぁっ!!」

「邪魔!!」

「っ、甘い!」

  そこへクラウスが背後から攻撃する。
  それを、シュネーは爪を振るう事で阻止しようとするが、躱される。
  クラウスは横に回り込み、躱された隙を突いてオリヴィエも反対に回り込む。
  そして、同時にクラウスの拳と、オリヴィエの蹴りが繰り出される。

「っぐ...!」

「(受け止められた...!)」

  ...が、それはそれぞれ片腕で受け止められる。

「爆ぜろ!!」

「っ....!!」

  振り払うかのように腕が振られ、二人は間合いを離す。
  ...が、その瞬間、“破壊の瞳”によってオリヴィエがロックオンされる。

「壊れちゃえ!!」

「オリヴィエ!!」

「.......。」

  ロックオンされたオリヴィエは、観念したかのように目を瞑る。
  クラウスは、そんなオリヴィエに悲痛な声で呼びかける。
  そして、“破壊の瞳”の“眼”を握りつぶされる。その瞬間、

「っ、ここっ!!」

     ―――パキィイン!!

「なっ...!?」

「クラウス!!」

「っ...!」

  オリヴィエが心臓辺りを殴り、それによってオリヴィエに仕掛けられていた“破壊の瞳”の術式が破壊される。
  それにより、シュネーが動揺する。
  クラウスがその隙を逃す訳がなく、無防備な体に一撃を叩き込む―――!

   ―――“覇王断空拳”

「っ、ぁあああああああああっ!!?」

  まともに入り、シュネーは大きく吹き飛ばされた。

「....ムートの言うとおり、集中すれば術式の基点が視えました。」

「なるほど...こっちも、直撃させた。」

  再び横に並び、短く言葉を交わす。

「だけど....。」

「“ロートレーゲン”!!!」

  クラウスが何かを口にしようとして、二人の頭上から赤い魔力弾の雨が降り注ぐ。

「『....やっぱり、あの再生力は厄介すぎる。』」

「『骨が折れてもすぐに元通り...ですか。』」

  そう、シュネーは一度腕の骨が折れたし、先程の一撃も肋骨を何本も折っていた。
  だが、すぐに戦闘に復帰してくるのは、その異常な再生力があるからだ。

「(....戦闘状況は拮抗しているように見えて、押されてばかり。)」

「(人間なら致命打になる一撃も、シュネーならすぐ回復...か。)」

  戦況を分析し、完全にジリ貧になっているのに二人は苦笑いする。

「(...ですが、ここでシュネーを止めます。)」

「(それこそが、ムートの無念を晴らす、たった一つの手だ...!!)」

  だが、すぐに顔を引き締め、いつ終わるか分からない死闘へ、再び身を投じた。











「はぁああああっ!!」

「ぁあああああああ!!」

  轟音が鳴り響く。
  大地は荒れ裂け、轟音の度に地割れが広がる。

  あれから、どれぐらい経ったのだろうか。数分か、それとも数十分、数時間か。
  オリヴィエとクラウスは、その轟音の元であるシュネーの拳をいなし続けた。
  右に、左に、上に、下に。全て直撃しないように受け流す。
  その度に地面に向いた拳の拳圧で、轟音と地割れが起きる。

「ぜぁああっ!!」

「っ....!」

  オリヴィエが一瞬隙を作り、クラウスが渾身の一撃を繰り出す。
  シュネーはそれを片手で受け止めるが、勢いは殺せずに大きく吹き飛ばされる。
  だが、ダメージは少ないだろうと、二人は確信する。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ...!」

「(このままでは...このままでは、勝てない...!)」

  息を切らす二人は、既に満身創痍だった。
  一度もシュネーの攻撃をまともに受けていないのだが、その途轍もない力で掠ったりほんの少し受け流し損ねただけでダメージを負うのだ。
  長期に渡る戦闘でそのダメージが蓄積し、二人の体はボロボロになっていた。

  ...対して、シュネーは傷を負った様子がない。
  半端に傷を負わせても、戦闘中に回復してしまっているのだ。

「また、来ますよ!」

「あぁ!」

  吹き飛ばされたシュネーが戻ってくるやいなや、クラウスに殴りかかる。
  それをクラウスは紙一重で横に避け、同時に腕に衝撃を与えて逸らす。
  それにより、攻撃後の隙を大きくし、そのままカウンターを撃ちこめる。

  ....が、

「クラウス!!」

「なっ...!?」

     ―――ッ、ドンッ!!

  オリヴィエがクラウスを横から庇うように立った瞬間、途轍もない衝撃音が鳴る。
  そこにはもう一人シュネーがおり、どうやらクラウスに攻撃しようとしていたらしい。
  それを、オリヴィエは庇い、攻撃を受け流したようだ。

「分身...!」

「厄介ですね...!」

  ただでさえ一人でも大苦戦するのに、分身によりさらに増える。
  分身の数だけ強さが割かれるらしいが、それでも脅威には変わりない。

Alter Ego(アルターエゴ)....これをムートは良く防げていましたねっ!!」

  受け流しの際に作った隙を突き、オリヴィエは分身を吹き飛ばす。
  ...ちなみに、オリヴィエの言った通り、ムートはかつてたった一人で、分身も暴走していたシュネー本体とも相手取っていた。

「っ、ぁあああああああ!!」

「っ...!まだ...!」

  そこへさらに分身...否、本物が襲い掛かる。
  クラウスの方にもさらにもう一人の分身が襲い掛かっていた。
  これで、分身は三体だ。

「くっ...!ふっ!!」

「「がっ..!?」」

「ぜぁっ!はぁっ!!」

「「っ...!」」

  オリヴィエは攻撃を受け流して誘導し、同士討ちを。
  クラウスは足払いで体勢を崩し、掌打で両方を吹き飛ばす。

  ...力が四分の一になった分、それを成すのが容易になったのだろう。

「ちっ...!」

「「....!」」

  本物のシュネーは、あっさりいなされた事に舌打ちし、離れる。
  二人もそれを追いかけようとして、再び背中合わせになる。
  ...三体の分身がまた襲い掛かってきたからだ。

「シュネーが何を仕出かすか分かりません!早急に片づけます!」

「分かった!!」

  四分の一に弱まっているのなら、一人でも受け流す事は出来る。
  よって、二人は三体の分身の攻撃を受け流しつつ、反撃をしていった。

「はぁっ!」

「“覇王断空拳”!!」

  オリヴィエが分身の動きを阻害し、クラウスがトドメを刺す。
  この戦法で多少なりとも時間はかかったが、分身は全て倒された。

「シュネーは...。」

「あそこです!!」

  遠くで何やら魔力を練っているシュネーを二人は見つける。
  すぐさま跳び、間合いを詰めるが...。

「...遅い。」

   ―――“Alter Ego・Schöpfung(アルターエゴ・シェプフング)

  刹那、凄まじい魔力の奔流がシュネーから放たれる。
  現れる四つの魔法陣。そこから、シュネーの偽物が四体、現れた。

「...もう、二人は私の全力で葬ってあげる。それまで偽物とでも戯れて。」

「っ、来ます!!」

  二人共とっくのとうに満身創痍の身。
  加えて、先程既に同じ強さの分身三体と戦ったのだ。
  疲労とダメージが蓄積し、このままでは二人共倒れてしまう。

「(しかし、倒れる訳には...!)」

  守るべき民のため。親友として止めるため。
  ...なによりも、彼女を想っていたムートのために、それでも二人は立ち向かう。







「...っ、ぐ...!」

「っ、ぁ...く...!」

  ...それから、十分以上。
  二人は、大きな傷こそないものの、満身創痍で、限界も来ていた。

  ...しかも、分身は倒せたが、シュネー本人は依然健在だ。

「...ムー、ト...。どうか、貴方の、力...を...!」

「シュネーを...止めなくては...!」

  それでも...それでもなお、二人はシュネーの下へと向かう。

「....遅かったね。」

「シュ、ネー...!」

「あはっ、ボロボロだね。でも...容赦はしない!」

  再び、魔力が迸る。...それも、先程より()()だ。

「...染め上げろ。我が狂気に!!」

   ―――“悲哀の狂気(タラワーヴァーンズィン)

  ...刹那、世界を狂気が覆った。

「「っ....!?」」

  空を紅い暗雲が覆っている。それにも関わらず、赤い月が煌々と輝いている。
  大地の様子は、先程とさほど変わらないが、血のような水面が、大地を覆っていた。

「...なん、だ...これは...!?」

「(血...いえ、幻覚!?けど、これは...!?)」

  いきなり辺りの風景と雰囲気が変わり、動揺する二人。

「二人は止めるって言ったけどね、私は止まる気はない!!ムートはもういない世界なんていらないから!全部、全部全部全部!全て壊し尽くすためにも、私は止まらない!!」

「っ、ぁ...!?」

「ぐ...!?」

  赤い水面に波紋が広がる。
  それが二人の所まで来た瞬間、精神を蝕むような感情が流れ込む。

「ムートの為?いらないよそんなの!ムートが殺された時点で、そんなの関係ない!!私は全部壊さなきゃ気が済まないんだから!!」

「それ、を...ムートが望んでいると思っているのですか!?」

「うるさいうるさい!!全部、全部今更なんだよ!!」

  再び、波紋が広がる。その度に、二人の精神が蝕まれる。

「ぁ、ぐ...!?」

   ―――殺したい壊したい悲しい苦しい怖い嫌だ死んで死に死死死死死死

  それは、まさに狂気。
  “狂気”が波紋となって、二人の心を蝕む。

「(...こんな..!こんな感情を、シュネーは...!!)」

  狂いそうになるのを必死に耐えながら、オリヴィエは戦慄する。
  ...あぁ、彼女は、ここまで苦しんでいたのか...と。

「どうせ...どうせ誰も私の本当の気持ちなんかわかりやしない!!私が、どれだけ..!」

「っ.....!」

  シュネーの叫びに、悲しみが混ざる。

「...だからさ、皆...皆、壊れちゃえばいいんだ!!!」

  再び、魔力が膨れだす。...結界を発動する時に近い魔力量だ。
  その間も、波紋は何度も広がり、二人の心を蝕む。

「....クラウス!!」

「...オリヴィエ!」

  ...だが、二人はその瞳に強い意志を宿し、それ以上の干渉を許さなかった。

「“狂気に染めし悲しみの紅(ルナティック・グラナートロート)”!!」

  狂気を表すかのような紅色の極光が放たれる。
  範囲も広く、既に満身創痍な二人には回避不可かと思われる一撃。

  ...それを二人は避ける。
  刹那、大地に命中した極光は巨大な爆発を起こした。

「(シュネーに対する勝率は既にないに等しい。)」

「(だけど、ゼロじゃない...。)」

「「(なら!その可能性を掴み取る!!)」」

  幻覚だろうか。二人の体を淡く、見えない程の金色の光が包んでいた。
  紅い極光をギリギリで躱した二人は、爆発をその身に受け、加速する。

  ダメージがない訳じゃない。既に立っているのもきつい。
  それでも、二人は立ち向かう。...可能性を掴むため。

「なっ...どうして...なんで!?」

「シュネー!!」

  さしものシュネーも、避けられたのには動揺していた。
  その隙を逃さず、オリヴィエが肉薄する。

「貴女の悲しみを断ち切るため...今、ここで斃します!!」

「くっ...!」

「甘い!!」

   ―――導王流奥義“刹那”

  苦し紛れに放たれた..だがオリヴィエを砕け散らせる程の威力を持つ拳を、受け流す。
  それだけじゃなく、その拳に匹敵する程の威力のカウンターが、放たれる。
  ...その一撃が、シュネーの心臓を穿ち、吹き飛ばす。

「...“覇王...断!空!拳!!”」

  二人の体はボロボロ。だからこそ、クラウスは全てを込めて、拳を放つ。

「っ、ぁ―――――」

  ....その拳が、シュネーの頭を捉えた。

  シュネーの体は、吸血鬼になっており、脳と心臓のどちらかが残っていれば再生する。
  だが、オリヴィエの一撃で心臓が、クラウスの拳で脳が穿たれた今...。

「....ぁ...ムー....ト.......。」

  ...シュネーは、灰になり、空中で屍と化した。

  残ったのは、力を使い果たし倒れながらも、悲しみに暮れる聖王と覇王だけだった...。



















  ―――...以上が、(シュネー)の最期ですよ。

  ...いえ、いいんです。もう、終わった事ですから...。

  ...でも、オリヴィエとクラウスには悪いことしちゃったな...。
  (シュネー)を殺したという重責を背負わせたんだから...。

  ...後悔はありませんよ。もっと良い方法はあったかもしれませんけど...。

  でも、それでも、私は後悔していません。
  体は死んでも、心はムートに...お兄ちゃんに救われたんですから。

  ...はい!自慢のお兄ちゃんです!...あ、渡しませんよ!

  ...あー...寂しい...っていうのは、もちろんあります。

  あはは...さすがに生き返るのは無理ですよ...。

  ...でも、お兄ちゃんなら、またいつか、会えると思うんです。

  根拠?....勘...ですかね...。

  ...はい。さて、もうこの話はいいでしょう?では、また特訓、お願いします!















   ―――とこよさん!

















 
 

 
後書き
流撃衝波…敵の攻撃をギリギリで躱し、その攻撃で発生した衝撃を利用してカウンターを繰り出す導王流の技。攻撃に応じて構えも違う。
Tod Käfig(トートケーフィヒ)…“死の鳥籠”。カゴメカゴメの上位互換。
Alter Ego・Schöpfung(アルターエゴ・シェプフング)…“分身・創造”。喜怒哀楽を模した分身を四体作り出す。本来のAlter Ego(アルターエゴ)と違い、本体の強さはそのままで、分身も四分の一程の強さを持っている。
悲哀の狂気(タラワーヴァーンズィン)…名前の由来は悲哀と狂気のドイツ語(Trauer Wahnsinn)。fateの固有結界...に近い魔法。というか固有結界という認識でもいい。
  空を紅き暗雲が覆い、尚且つ地を照らす赤い月が輝いている。大地は荒れ果て、草木は枯れ、まるで紅い血の水面のようなモノが地面を満たしている。そんな風景の結界に招き入れる。その水面に波紋が広がる度、中にいる者は狂気に襲われる。
  この結界を討ち破るには、狂気に負けない強い意志と覚悟が必須である。

頭に浮かんで消えないので話にしちゃいました。
原作設定と違う部分が多々ありますが、ムートとシュネーの存在が影響しています。
原作ではクラウス<<<(越えられない壁)<<<オリヴィエってレベルで実力差がありましたが(おまけにまだ覇王じゃない。)、この作品ではムートと共に鍛え、シュネーの暴走から民を護るために既に覇王レベルの強さを持っています。(なお、それでもクラウス<<<オリヴィエな模様。)

原作メインキャラよりサブor脇役キャラのが動かしやすいのはなんで...?
...あ、ちなみにオリヴィエ、クラウス以外に集まっていた人達はあの後復帰して二人の戦いに介入できないと悟った後、言われた事を遂行しに行きました。 
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