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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第二十六話その2 対ラインハルト包囲網の形成です。

 
前書き
陰謀は放っておくとものすごい勢いで進行します。そう、放っておくといつの間にか繁殖する雑草の様に!! 

 
 帝国歴484年3月24日――。


 対ラインハルト包囲網が形成されつつある。それまで暗殺者の人選にすら事欠くベーネミュンデ侯爵夫人の周囲にはいつの間にか、ラインハルト、アンネローゼの台頭を憎む人々が集まってきていた。軍人、官僚、そして貴族。あまり相いれない人々が一堂に集まった要因は、水面下である人物が手引きしたためであった。


 ベーネミュンデ侯爵夫人邸――。

 ベーネミュンデ侯爵夫人邸に、少数の男たちが集まっていた。軍服姿の者、貴族風の服装をした者、官僚等、さまざまであるが、彼らはある一つの目的のために集まっていた。

「では、あの小僧を、再度特務と称して自由惑星同盟とやらの領域に派遣するのじゃな?」
「御意でございます」

 シュライヤーという帝国軍少将が言う。40代の、額が後退しかかったさえないおっさん風の軍人であるが、この男、ヴァルテンベルク大将艦隊にかつて所属していた。それも司令部幕僚だったのである。ラインハルト、イルーナからの並行追撃上申案を蹴り飛ばした結果、上司であるヴァルテンベルクが左遷され、それに伴って自身も閑職に回され、栄達から外れた。自業自得と言えばそれまでであるが、彼は「金髪の孺子」と「プラチナ・ブロンドの小娘」に対して憎悪の念を燃やし続けている。それを知ったグレーザーとヴァネッサ、そしてその背後にいる者が彼を呼び寄せたのだった。

「幸いイゼルローンにいる作戦課のヴェーデンは小官の僚友であり、気心が知れた仲。小官の策をうまく上層部に伝えてくれるでしょう。前回のヘルクスハイマーの亡命の際は失敗しましたが、今度こそは・・・・」

 口元が歪んだ。冷笑と、そして憎悪とをむき出しにしている。

 ヘルクスハイマー亡命事件の際、作戦三課アーベントロート少将を間接的に動かしたのはこの男である。当時少将がヘーシュリッヒ・エンチェンの際の単独任務の適任者を探していたころ、シュライヤーは彼の部下で准将であった。その際彼は直接ラインハルトを推挙するのではなく、ベーネミュンデ侯爵夫人を動かして、遠回しにラインハルトを推薦するように仕向けたのである。よってアーベントロート少将は、今でも「さるお方」からのラインハルト推薦であったと思い込んでいる。

「あの小僧の死にざまをこの目で見られぬのが口惜しいが、よい、構わぬ。あの小僧が死ねば、あの女の苦しみは耐え難いものとなるであろうからの。ククク、あの女がもだえ、死ぬ姿をとくと眺めることとしよう・・・・・」

 ベーネミュンデ侯爵夫人の目も光る。そして彼女は次の者に目を向けた。官僚風の男である。

「それで?あの女に対しては、どのような策を施すのじゃ?」
「はっ。皇帝陛下に置かれましては、アンネローゼ様にひとかたならぬご寵愛をお持ちのようで――」

 ベーネミュンデ侯爵夫人の手がグラスに伸びたのを見た官僚風の男は慌てて言葉を注ぎ足した。

「アンネローゼ様・・・あ、いやいや、あの女については、徐々に陛下のご寵愛から遠ざかるように細工いたします。とかく噂というものは醜聞であるほど人の耳目を引きますからな。寵愛が薄くなったところに、決定的な証拠を突きつければ、自滅は必定です」

 ここで、官僚風の男は一段と声を低め何やら策を話し始めた。この男、ゲオルク・フォン・ベルバッハは、少々気の弱そうな宮内省宮廷後宮課(後宮の管理や運営、侍女・侍従の人事用務等を行う部署である)に勤務する30代の男であるが、その外見とは裏腹に宮廷に広大なネットワークを広げ、情報操作等を手早くやってのける男である。
 この男の父親が、もともとベーネミュンデ侯爵夫人に目を付け、さる貴族を通じて皇帝陛下に推挙奉ったのである。一時その羽振りは絶大なものであったが、その後アンネローゼの登場によりすっかり日の目を失ってしまった。憎悪に燃える父親であったが、老齢で体の動きが聞かず、やむなく息子であるベルバッハに指令を下したのだった。
 父親とベーネミュンデ侯爵夫人にとっては、ベルバッハ自身がどう思っているかは、どうでもいいことなのである。

 ベルバッハの策を聞き終わった一同の顔色が輝く。それは決して健全な明るさではなく、野心と憎悪とが渦巻くどす黒い炎のような色であった。もっともそれは3月だというのに冬のような寒さであるがゆえにたかれている暖炉の火と、締め切られた分厚いカーテンのせいなのかも知れなかったが。

「ならば、私はその膳立をすることとしようか?」

 先ほどから黙って皆の話を聞いていた貴族風の男が口を出した。大柄な体つきをした茶色の髪の男は一見すると武人風に見える。帝国軍服を着ていれば間違いなく軍人と思われるだろう。エルマン・フォン・ゴッドホルン子爵は今年33歳、帝国軍准将として海賊討伐に当たったこともある武人であり、他方芸術においてはいくつもの戯曲を作曲、自らもピアノを弾き演奏会を催すなど文武両道の人として知られている。また、開明派のサロンに顔を出すなど柔軟な人として知られているが、ベーネミュンデ侯爵夫人とは幼いころからの付き合いだった。

 彼女がシュザンナの名前だったころ、ゴッドホルン家とベーネミュンデ侯爵夫人の実家のマイントイフェル子爵家は元々遠縁の間柄で有り、仲睦まじく、家族ぐるみの付き合いがあった。たくさんのいとこ、はとこの中で、まだ人見知りをしていたシュザンナが気心を許した一番の相手が、エルマン「お兄様」であったのだ。
 アンネローゼの事となると憎悪の念をたぎらせるベーネミュンデ侯爵夫人も、ゴッドホルン子爵が来た時には、かつてのような穏やかな様相に戻り、時には明るい笑い声を立てたりした。ベーネミュンデ侯爵夫人邸に仕える使用人たちはそんな主の一面に驚き、かつ自分たちのためにもこの武人子爵の来訪を心待ちにするようになったのである。

「いや、結構です子爵様。わたくし一人で今のところは充分。仮に手が足りない場合はこちらからご一報差し上げます」

 ベルバッハが恭しく言った。

「そうか。よろしく頼む」

 子爵はうなずいた。後は細かい打ち合わせというよりも、この場を取り繕う雑談がもおよされた。最近の帝国軍の動向、演劇界の流行、皇帝陛下の御気色、宮廷でのゴシップ等が紅茶などの飲み物交じりに飛び交った。一応名目上はベーネミュンデ侯爵夫人の御機嫌伺と言うことになっていたからである。

「では、今日のところはこれで失礼いたします」

 シュライヤー少将が立ち上がり、一礼すると、ベルバッハともども去っていった。ゴッドホルン子爵だけは椅子から動かなかった。このようなことはしばしばあったから、シュライヤーもベルバッハも敢えて子爵に声をかけることをしなかった。


 廊下に出た二人は無言で玄関ホールまで歩を進めていた。シュライヤーのやや後ろをベルバッハは歩いていく。途上、ベルバッハはちらと開いている部屋の一角に視線を転じた。そこにはヴァネッサがいる。彼はかすかに点頭して見せた。ヴァネッサがうなずき返す。ベルバッハはそのまま歩を進め、無関心な様子で玄関ホールの様々な陳列品の間を通り、シュライヤー少将と共に、玄関先に待たせてあった迎えの車に乗り込んで走り去っていった。



 バタン、とドアが閉まると、ゴッドホルン子爵はベーネミュンデ侯爵夫人に顔を向けた。

「やはりそなたは皇帝陛下のご寵愛を取り戻したいのだな」

 一瞬憎悪の念をほとばしらせたベーネミュンデ侯爵夫人は、少女のような一途な顔に戻って、こっくりとうなずく。

「それほどまでにお慕い申し上げている、というわけか」

 平板な声だった。事実を一つ一つ確認しようというカウンセラーのような穏やかな声音だった。

「誰だって、初めての殿方には恋い焦がれるものですわ。お兄様。ましてそれが万人の頂点たる皇帝陛下であれば、なおさらですもの」

 ベーネミュンデ侯爵夫人はグレーザーが聞いたら、飛び上って信じられないと目をひん剥きそうなほどの穏やかな声を出している。

「そうか」

 ゴッドホルン子爵は少し黙っていたが、

「シュザンナ、一つだけ聞かせてほしい。・・・・・お前の覚悟だ」
「覚悟?」
「そうだ。あのミューゼル姉妹を駆逐するにあたってのお前の覚悟、どれほどのものなのかを、聞かせてほしい」

 ベーネミュンデ侯爵夫人の顔が少女からただの一人の女――恋するあまりに妄執と憎悪の念にとらわれた一人の女――に戻った。ミューゼルという言葉、アンネローゼという言葉、それらがベーネミュンデ侯爵夫人の感情のスイッチを左右してしまう。

 ベーネミュンデ侯爵夫人はゴッドホルン子爵を正面から見つめ、ゆっくりと言葉を吐き出した。取り立てて強くきつい調子でもなかったが、子爵がその後長い事忘れられなかった言葉である。

「わたくしはこの思いが全うできるのであれば、死を賜っても構わぬと思っております」



グリンメルスハウゼン子爵邸――。
■ アレーナ・フォン・ランディール
 対ラインハルト包囲網が形成されつつあるようね。
 今日もシュザンナ、じゃなかった、ベーネミュンデ侯爵夫人邸で「不逞な輩」が集合して会議中のご様子。盗聴器の類は、使用人たちが掃除掛けするみたいに探知機で毎日探しまくっているから、仕掛けられないと思うのが普通なのだけれど、どっこい甘いんだな。全方位探索システムつかってるならともかく、ああいう古風なところだと、探知機っていうのは所詮人力で動かして探すものなんだから、どこかしらに穴は必ずあるってわけ。前世からの知識をつかって私が作った探知機は超極小、おまけに遠隔操作で電波のオンオフまでできてしまうし、ステルス機能搭載。それでいてキャッチできる会話は全部雑音なしのクリーンなものなんだもの。

 まぁ、あの人の皇帝陛下に対するひたむきさもわからないではないけれど、だからといってラインハルトやアンネローゼを狙うのは、ちょっと筋が違うんじゃないかなぁ。私も前世の時に恋愛でライバルがいたりしたときなんかは、女を蹴落とすよりも自分の魅力を磨き上げて彼にアピールしまくったけれどね。引かれないようにほどほどに。

 それにしても、原作やOVAと違ってずいぶんベーネミュンデ侯爵夫人の周りに、人が集まっているってのはひっかかるわね。宮内省、軍属、イゼルローン要塞にまで同志がいるわけか。原作じゃそこまで書いてないからわからないけれど、油断はできないというわけか。

 謀略にかけてはこっちも負けてはいられないわ。ラインハルトを守るために全力を尽くすけれど「獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす」なんていうことわざもあるし、あまり過保護にするとラインハルト育たないし。ほどほどにやっておきましょうか。

 そんなことをぼ~っと考えていたらグリンメルスハウゼン子爵爺様とエステルが姿を現した。エステルは士官学校を卒業してオーディン軍務省で内勤しているの。階級は中尉。まぁまぁね。内気なところは相変わらずだけれど、ああ見えて猛訓練を受けているし、私も時折手ほどきしてあげたし。大丈夫でしょ。

「お姉様、ご無沙汰しています」

 エステルは貴族令嬢風の挨拶をしようとして、慌てて敬礼をした。あ、いや、今はさ、休暇中なんだから別にいいと思うけれど。ま~でも休暇中と言ってもエステルは軍服姿だからね(一応帝国軍女性士官服装はスカートなのだけれど。)。

 勝手知ったるなんとやら。私はなれた手つきでグリンメルスハウゼン子爵爺様とエステルにお茶をいれてやった。

「調子、どう?」

 湯気の立ち上るカップをグリンメルスハウゼン子爵爺様とエステルに渡しながら聞いてみる。

「ええ、おかげさまで皆様に教えていただきながらなんとかやっておりますわ」
「儂としては一日も早く宇宙艦隊か陸戦隊の方に行ってほしかったのじゃが、何しろこれの運動神経がのう・・・・」

 エステルの白い項が赤く染まる。いや、爺様、私やイルーナたちがチートすぎるだけで、ちょっと前までのフツ~の貴族お嬢様がいきなり陸戦隊や宇宙艦隊の戦闘艦に勤務できるとも思えませんが・・・・。でもね、エステルの実技の等級試験の成績は1級。普通の平均は2級そこそこだから、意外といい方に数えられるのよ。

「大丈夫よエステル。最初っから何でもできる人なんて天才くらいしかいないんだから。爺様もそんなにエステルをいじめないでくださいよ」
「ほっほっほ、いじめておるつもりではないのじゃがなぁ」

 どうだか。どうもグリンメルスハウゼン子爵爺様については、この私でさえいまだに性格を把握できていないという事実。奥歯に物が挟まるような感覚なのよね。
 私がお茶を入れなおそうとしたとき、グリンメルスハウゼン子爵爺様が、エステルにお茶とお菓子を持ってくるように言いつけた。おやおや、何かまたお話があるのかしらね?エステルが部屋から出ていくと、

「それよりもどうかのう。ちと周りが騒々しく、きな臭くなってきておるようじゃが」
「はい。例のB夫人を中心に、『対ラインハルト戦線及び対私の友達イルーナ戦線』が構築中ですよ、おじいさま」
「それはまた物騒なことじゃのう。嫉妬という火の粉が飛び散ると、ろくなことにならんと決まっておるでなぁ・・・」

 前世じゃ私も常々部下たちに言っていたけれど、女の嫉妬ってのは怖いものだって相場が決まってるのよね、特にそれが地位権力のある女だと余計に。

「して、どうするのかな?」
「どうもしません。今のところ様子見です。ちょろちょろとネズミみたいに動き回る癖に、肝心な時は尻尾一つ出さないんですから。よほど逃げ隠れが好き上手なネズミたちだと見えますね」
「ほっほっほ、それはそれは苦労なことじゃのう」

 グリンメルスハウゼン子爵爺様はこっくりこっくりと気持ちよさそうに昼寝を始めた。そんな爺様の寝顔(?)を見ながら私は心の中で呟く。
 ええ、苦労ですとも。でも、私にとってはスリル満点、アドレナリン沸騰中。面白いことになりそうだもの。だからこそ、ここに転生した甲斐があったわけだしね。

 ベーネミュンデ侯爵夫人。皇帝陛下の寵愛を取り戻そうとするあなたの姿には心は動かされるわ。でもね、悪いけれど、あなたがラインハルトを、キルヒアイスを、アンネローゼを、そして私の親友のイルーナを狙う限りは、全力であなたを叩き潰すわよ。
 
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