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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~ 戦争回避成功ルート

作者:sorano
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第91話

~トールズ士官学院・1年Ⅶ組~



「フフ、国家の元首になっても全然変わっていないわよね、リザイラ。」

「というか国家の元首が今もリィンの使い魔をしている事自体がありえないのだがな。」

「そうだよね~。それどころかクロスベルの第一皇女まで使い魔にしているもんね~。」

「しかもリィンの”パートナードラゴン”のセレーネだって、養子とは言えメンフィルの皇族の上、アルフィン殿下とも結婚するからリィンの元に4つの国の皇族がいる事になるよね……」

「う”っ……」

リザイラがリィンの身体に戻るとアリサは微笑み、ユーシスとミリアム、エリオットはそれぞれリィンに視線を向け、視線を向けられたリィンは冷や汗をかいて唸った。



「メサイアと言えば……確か『西ゼムリア同盟』の数日後に行われたクロスベルの”二大皇帝”の戴冠式にもメサイアも出席し、その際にヴァイスハイト皇帝から正式にメサイアが”クロスベル第一皇女”であると認められたのだったな?」

「あ、ああ。それがどうかしたのか?」

ラウラの問いかけに答えたリィンは尋ね

「いや……もしかしたらメサイアなら、クロスベルが『西ゼムリア同盟』でエレボニアの領地の一部の返還等の要請に応じた事について何か知っているかと思ってな。」

「い、言われてみれば確かに……」

「今のメサイアさんの公式な身分はヴァイスさんとマルギレッタさんの”養子”―――――”クロスベル第一皇女”ですからね。皇帝の一人であり、父親でもあるヴァイスさんから何か聞いている可能性はありますね。」

ラウラの答えを聞いたマキアスは冷や汗をかき、プリネは真剣な表情で呟いた。



「―――メサイア!もしかして何か知っているのか?」

そしてリィンはメサイアを召喚して尋ねた。

「ええ。……ただ、皆さん――――特にエレボニアの人々は知らない方がいいと思うのですが……それでも構いませんか?」

「そ、そう言う言い方をするという事は……」

「どう考えてもエレボニアにとって、良くない内容なんだろうね。」

「フィ、フィーちゃん。」

メサイアの問いかけを聞いたセレーネは表情を引き攣らせ、フィーの言葉を聞いたエマは冷や汗をかいた。



「そんな言い方をされたらむしろ知りたいよね~。」

「そうだな……それに今のオレ達ならどんな事を聞かされても大丈夫だ。是非聞かせてくれ、メサイア。」

ミリアムの言葉にガイウスは静かな表情で頷いた。

「……わかりました。まずクロスベルが『西ゼムリア同盟』に関してリベールが要請したエレボニアの領地の一部の返還等に応じた理由ですが……お父様――――ヴァイスハイト・ツェリンダー皇帝陛下から3つの理由があり、その理由があるからこそリベールの要請に応じたと伺いました。」

「え……3つも理由があるのですか?」

「ヴァイスの事だから、とんでもない理由だろうね、キャハッ♪」

「冗談になっていませんよ、エヴリーヌお姉様……」

メサイアの答えを聞いたツーヤは目を丸くし、口元に笑みを浮かべているエヴリーヌの言葉を聞いたプリネは疲れた表情で指摘した。



「まず一つ目ですが……クロスベル帝国は新興の国家――――それも他国に侵略して領地を奪い取った事で成り上がった国家です。混迷に満ちたゼムリア大陸の平和の切っ掛けとなる条約を守る為とは言え、他国から奪い取った領土の一部を返還するという殊勝な姿勢や寛大な心を見せる事を世間に印象付けし、周辺国家との関係を良くする……―――それが一つ目の理由です。」

「それは……」

「そ、そんな事を考えていたの!?」

「あの”鉄血宰相”すらをも超える狡猾さだな。」

「しかもそれで”一つ目”という事は、後の”二つ”は一体どのような理由なのでしょう……?」

「……残りの二つも何らかの思惑である事には間違いないだろうな。」

クロスベルの思惑の一部を知ったリィンは真剣な表情になり、アリサは驚き、ユーシスは目を細め、エマは不安そうな表情をし、ガイウスは重々しい様子を纏って呟いた。



「そして二つ目に関してですが、エレボニアに返還した領地が関係しているのです。」

「エレボニアに返還した領地が関係しているって……」

「確か返還されたのはラマール州の”フォートガード地方”だったよな?」

「うむ。ラマール州の首都である”オルディス”に次ぐ都市で、オルディス程ではないが大規模な港がある上鉱山もある資源豊かな地だ。」

「普通に考えれば返還する領地ではありませんわよね……?」

メサイアの答えを聞いたエリオットが戸惑いの表情をしている中、マキアスの確認にラウラは頷き、返還された領地の事を知ったセレーネは不思議そうな表情で首を傾げた。



「……お父様の話では”フォートガード地方”の貴族達はユーディット様やキュアさん―――”今のカイエン公爵家”に従う事に反感を持つ者達が多いとの事です。」

「なっ!?カイエン公爵家は元々ラマール州の統括領主だったし、ユーディットさんがクロスベル皇家に対するカイエン公爵家の”忠誠の証”としてヴァイスハイト皇帝の側室の一人として嫁いだお蔭で、カイエン公爵家はそのままラマール州の統括領主を任せられた上、他の貴族達もそのままクロスベルの貴族として帰属する事を許されたんだろう?なのにどうして……」

メサイアの答えに驚いたリィンは信じられない表情で尋ねた。

「どうやら父親であられる”貴族連合”の”主宰”―――前カイエン公爵や兄君のナーシェン卿、そして公爵家に協力した貴族の方々を切り捨てた事もそうですが、前カイエン公爵の暴走によって貴族連合が敗北する状況を作った原因――――オーレリア将軍達を降伏させた件と元”四大名門”の”カイエン公爵家”の長女―――つまり”尊き血”を引く由緒ある大貴族の子女でありながら成り上がりの皇――――”尊き血”を引いていないお父様の側室の一人として嫁いだ事に反感を持っているようでして。また政治家としての経験が無く、しかも女性であるユーディット様がカイエン公爵家の”当主代理”を務め、更にはその妹であられるキュアさんが将来のカイエン公爵家の当主になり、ラマール州の統括領主になる事にも不満を持っているとの事です。」

「それは…………」

「ユーディット殿がその身でクロスベル皇家に”忠誠の証”を示して爵位を剥奪されて平民に落とされる可能性もあった彼らを庇った上メンフィルに裁かれたカイエン公達に関しては自業自得だし、オーレリア将軍達を降伏させたことに関してもユーゲント陛下達―――”アルノール皇家”の方々はオーレリア将軍達を降伏させたユーディット殿の行動は間違っておらずユーディット殿も内戦を終結させる切っ掛けを作ったエレボニアの恩人の一人であると公言されたというのに、ユーディット殿達を恨むのは筋違いだぞ。」

「しかも公爵家の当主が”女性”だからって言う理由だけ不満を持つなんて、私達―――女性を馬鹿にしているじゃない!」

「馬鹿じゃないの、そいつら。”男”だから偉いなんて、馬鹿過ぎる考え方だよ。」

「ユーディットさんの政治家としての能力は高く、ヴァイスさん達―――クロスベルも彼女の能力を高く評価して行政・外交の重要な役職に彼女に就かせた上、既に”実績”は十分残しているのに、まだそんな事を言っているんですか。」

「それに女性の有力者を侮辱する事はエレボニアの為にクロスベルとメンフィルに領地返還等を嘆願してくれたリベール王国のアリシア女王陛下やその跡継ぎであられるクローディア王太女殿下をも侮辱する事にもなりますよね……?」

「愚か者共が……その様子では内戦を引き起こした事やエレボニアを衰退させてしまった事にも、全く反省していないようだな。」

事情を知ったプリネとラウラは真剣な表情になり、エヴリーヌとツーヤは呆れた表情をし、エマは不安そうな表情で呟き、ユーシスは厳しい表情をした。



「その……ユーディットさんは大丈夫なのか?今の話だと他のラマール州の貴族達にも恨まれていると思うけど……」

「確かにその可能性は考えられますが、だからと言って彼らはユーディット様を含めた”カイエン公爵家”に危害を加える事はありえませんわ。ユーディット様はクロスベルの皇帝であられるお父様の数多くいる側室の中でも”第一側室”でもあるのですから。妃達の立場の中で正妃の次に高い位を持つ”第一側室”やその関係者に危害を加えれば、今度こそ自分達が滅ぶ事は目に見えていますし、お父様の側室であるユーディット様が自分達の事を庇ってくれているからこそ自分達は今も貴族でいられる事はわかっているでしょうから。その為にお父様はお母様を含めた他の側室の方達とも話し合ってユーディット様を”第一側室”にしたと仰っていました。」

「そ、そこまで考えていたの!?」

「……ちなみにユーディット殿はその事をご存知なのか?」

リィンの質問に答えたメサイアの話を聞いたアリサは驚き、ラウラは真剣な表情で訊ねた。

「ええ。ちなみにこれは余談なのですがユーディット様に訊ねて答えてもらった事なのですが、ユーディット様はお父様に持ちかけた取引――――ユーディット様がクロスベル皇家に対するカイエン公爵家の”忠誠の証”としてお父様に嫁ぎ、カイエン公爵家を保護してもらう取引をお父様が断る可能性はほぼ”ゼロ”であると確信していたそうです。」

「なっ!?ど、どうして確信していたんだ!?」

「”黄金の戦王”がリィンみたいに好色家だからじゃないの。」

(だから、何でそこで俺が出て来るんだよ……)

メサイアの話を聞いたマキアスは信じられない表情をし、フィーはジト目で呟き、フィーの言葉を聞いたリィンは疲れた表情をしていた。



「それも理由の一つですが、一番の理由はラマール州の統括領主であった”カイエン公爵家”にお父様達―――クロスベル皇家に忠誠を誓わせる事ができれば、ラマール州の貴族や平民の大半が納得してラマール州の領地経営をやり易くできる上、本来なら爵位剥奪どころか一家郎党処刑されてもおかしくない立場である”カイエン公爵家”を救った所か配下として新たな国造りに携わらせた事で、国内の人々は当然として、諸外国に対してもクロスベルが簒奪者の国ではなく慈悲深く、また懐が広い国であると印象付ける事もできる為、自分が持ち掛けた取引に応じてくれる可能性は極めて高かったと仰っていました。」

「………………」

そしてメサイアの口から語られた驚愕の事実を聞いたリィン達は絶句し

「そ、そこまで考えてメサイアのお父さんに取引を持ちかけたなんて……」

「あのカイエン公のご息女とはとても思えない程思慮深い方ですね……」

「ユーディット嬢は社交界でも”才媛”と名高い事で有名だが……兄上と同等―――いや、それ以上の慧眼の持ち主だな。」

我に返ったエリオットは表情を引き攣らせ、エマは戸惑いの表情で呟き、ユーシスは真剣な表情で呟いた。



「ふ~ん……なるほどね。要するに自分達の状況がわかっていない無謀で厄介な反乱分子をエレボニアに上手い事押し付ける事ができる上世間からしたらクロスベルが寛大な心を持っているように見られるから、資源が豊かな”フォートガード地方”をそんなあっさりと手放したんだ。」

するとその時クロスベルの思惑を理解できたミリアムは意味ありげな笑みを浮かべてメサイアを見つめ

「それはさすがに考えすぎだと思うのだが……」

「―――いえ、クロスベルは新興の国家です。国内を早期に安定させる為にも制圧した地域の貴族や民達の反発はできるだけ抑えたいというのが本音でしょうから、恐らくミリアムさんの推測通りでしょうね。そうですよね、メサイアさん?」

ミリアムの推測を聞いたガイウスが呟いた言葉を否定するかのようにプリネは複雑そうな表情でミリアムの推測に同意した後メサイアに視線を向けた。

「はい。そして最後の理由ですが……―――”次の戦争”に向けての足がかりです。」

そしてプリネの言葉に頷いたメサイアは驚愕の事実をリィン達に伝えた。


「つ、”次の戦争”って……!」

「まさかクロスベルは更にどこかの国家に戦争を仕掛けるつもりなのか!?」

メサイアから語られた驚愕の事実を聞いたエリオットは信じられない表情をし、リィンは血相を変えて尋ねた。

「はい。」

「なっ!?それじゃあ一体何の為にクロスベルは『西ゼムリア同盟』に調印したんだ!?」

「『西ゼムリア同盟』に強制力は無いとはいえ、”空の女神”であるエイドスさんもその場で出席したのですから、もし早々に条約を無視するような事を行えばゼムリア大陸全土が崇める”空の女神”の意志も無視した事になり、クロスベルが求める他国からの信頼が無くなってしまいますが……」

「そ、それに……一体どこに戦争を仕掛けるつもりなのですか……?」

「まさか内戦とメンフィルとの戦争で衰退したエレボニアなのか?」

メサイアの答えを聞いたマキアスは驚きの表情で尋ね、エマとセレーネはそれぞれ不安そうな表情で呟き、ガイウスは真剣な表情で尋ねた。



「――”西ゼムリア大陸の国家”には戦争を仕掛けるつもりは一切ありませんから、当然エレボニアにも侵略するつもりはなく、むしろ友好を結ぶつもりですからそこの所は安心してもらって構いません。」

「”西ゼムリア大陸の国家には戦争を仕掛けるつもり”はない、ですか。それじゃあ一体どこの国家に……―――あ。」

「まさか……クロスベルは”東ゼムリア大陸の国家”に戦争を仕掛けるつもりなのか……!?」

メサイアの話を聞いて不思議そうな表情をしていたツーヤだったがある事に気付くと呆けた声を出し、ラウラは厳しい表情で尋ねた。

「はい。東ゼムリア大陸の国家は『西ゼムリア同盟』には調印していませんから、例え戦争を仕掛けても条約を無視した事にはなりません。同時に『西ゼムリア同盟』が盾となり、西ゼムリア大陸の国家は『西ゼムリア同盟』に調印した国家に戦争を仕掛ける可能性はほぼゼロですから、東ゼムリア大陸の国家との戦争に集中できるとの事です。」

「あの平和条約をそんな風に利用するなんて……!」

「でも確かに東ゼムリア大陸の国家はどこも『西ゼムリア同盟』に調印していないから、戦争を仕掛けても『西ゼムリア同盟』を無視した事にはならないね。」

「なるほどね~。上手い事『西ゼムリア同盟』の抜け道を見つけて、利用したね~。」

「フン……二大国の領地を奪い取って大国に成り上がってなお、更に国を繁栄させる為に戦争を望むとは”鉄血宰相”以上の野心家だな、クロスベルの”二大皇帝”は。」

メサイアの話を聞いたアリサは信じられない表情をし、フィーとミリアムは真剣な表情で呟き、鼻を鳴らしたユーシスは目を細めた。



「ま、まさかヴァイスさん達がそんな大それたことを考えていたなんて……いえ、かつて戦争でメルキア帝国を発展させたヴァイスさん達らしいと言えばらしいわね……」

「くふっ♪もしその戦争が起こったら、リウイお兄ちゃん達も手伝うかもしれないから、エヴリーヌ達もいっぱい遊べるね♪」

「冗談になっていないですよ、エヴリーヌさん……」

信じられない表情をしていたプリネは複雑そうな表情になり、凶悪な笑みを浮かべたエヴリーヌの言葉を聞いたツーヤは疲れた表情で指摘し

「メサイア。ギュランドロスさんもクロスベルのもう一人の皇帝だが、ギュランドロスさんも東ゼムリア大陸の国家との戦争を望んでいるのか……?」

「ええ。というかあくまで私の主観になりますがお父様よりギュランドロス皇帝陛下の方が野心家だと思っていますわ。あの方は元々自分が治めていた国―――ユン・ガソル連合国を繁栄させる為に長年の宿敵であったメルキア帝国に何度も攻め入ったのですから。」

ガイウスの疑問にメサイアは静かな表情で答えた。



「…………」

「ガイウス……」

メサイアの答えを聞いて複雑そうな表情で黙り込んでいるガイウスをリィンは心配そうな表情で見つめ

「クロスベルの”二大皇帝”……ヴァイスハイト皇帝とギュランドロス陛下皇帝だが、以前我らがメサイアと初めて出会った時にメサイアが話してくれた予言が実現と化した事になるな……」

「あ…………」

ラウラの言葉を聞いたアリサはかつてメサイアと初めて出会った時の話を思い出した。



しかし……話を聞く限り、クロスベルという地域にはお父様どころかかのユン・ガソルの国王ギュランドロス・ヴァスガンと”三銃士”達が共に手を取り合っているのですから、近い将来クロスベルは”覇道”を歩む事になるかもしれませんね。



「あの時はさすがにそんな事はありえないと思っていたが……」

「まさにメサイアさんの言う通りになってしまいましたわよね……」

メサイアの話を思い出したマキアスとセレーネは不安そうな表情になり

「そしてクロスベルと盟友関係であるメンフィルも”盟友”としてクロスベルと共に東ゼムリア大陸の国家との戦争に参戦するかもしれんな。」

「それは……そこの所はどうなんだ、プリネさん。」

重々しい様子を纏って呟いたユーシスの言葉を聞いたリィンは複雑そうな表情でプリネに尋ねた。



「その可能性は十分にあるでしょうね。お父様とヴァイスさん達との個人的な仲が良好である事に加えてクロスベルが持つ技術―――魔導技術や魔術技術はメンフィルにあらゆる発展と利益をもたらせました。クロスベルが大国となった事で更にこれからも新しい技術開発も可能となりますから、シルヴァンお兄様やシルヴァンお兄様の跡継ぎであられるリフィアお姉様もクロスベルとの盟友関係を続けられるでしょうね。」

「当然その技術開発には間違いなく”ラインフォルトグループ”も深く関わる事になるのでしょうね……既に”ラインフォルトグループ”とクロスベル帝国の技術者達との共同開発が始まっている話も聞いているし。それにクロスベルと東ゼムリア大陸の国家の戦争が始まれば、”ラインフォルトグループ”にも莫大な数の兵器や武器の注文が殺到するでしょうから、”ラインフォルトグループ”はとてつもない利益を叩き出す事になるから母様は当然その注文を受けるのでしょうね……」

「アリサさん……」

プリネと共に複雑そうな表情で同意したアリサをエマは心配そうな表情で見つめ

「その……逆に考えればヴァイスさん達は東ゼムリア大陸の国家との戦争をする為に『西ゼムリア同盟』を守る必要がある事を理解していますから、『西ゼムリア同盟』に調印したエレボニアには関係のない話ですから安心していいと思いますよ。」

「ん。薄情な話だけど東ゼムリア大陸の国家なんてわたし達には関係ないから、別に気にしなくていいと思う。」

「それはそうだけど、何だかボク達エレボニアの事なんてもう眼中にないみたいにも感じて腹立つ話だよね~。」

「エレボニアに侵略するつもりがないとわかっていてもちょっと複雑だよね……」

「それに他の二つの理由も考えれば、クロスベルは領地の一部とザクセン鉄鉱山の鉱山権の一部を失った事もクロスベルにとっては”損”ではなく、いくつもの将来の”益”になるからこそ反論する事なくリベールの嘆願に応じて”フォートガード地方”とザクセン鉄鉱山の鉱山権の一部をエレボニアに返還してくれたんだろうな。」

ツーヤとフィーの話を聞いたミリアムは不満そうな表情で呟き、エリオットとリィンはそれぞれ複雑そうな表情をし

「東ゼムリア大陸の国家か……どのような国なんだろうな?」

「東ゼムリア大陸の国家と直接関係していたのは旧カルバード共和国だったからな。詳しい事は旧カルバード共和国の者達しか知らないだろうな。そのカルバードが滅びて新興の国家であるクロスベルがカルバードの領地を手に入れたのだから、新興の国家の為まだ国内の情勢が安定していない隙を突いた東ゼムリア大陸の国家が逆にクロスベルに戦争を仕掛け、クロスベルがそれを理由に東ゼムリア大陸の国家に侵略する事もありえるかもしれないな。」

ガイウスの疑問を聞いたラウラは静かな表情で答えた後真剣な表情で考え込んだ。



「けどヴァイス達って、結構黒いよね♪ゼムリア大陸を平和に導く為の条約を戦争の為に使うなんて、平和条約を結べた事に安心しているクローゼ達も想像していないだろうね♪」

「エ、エヴリーヌさん。」

「―――綺麗事だけでは国は成り立ちません。エヴリーヌお姉様が先程仰ったような腹黒い事も国を治める皇族には求められています。ですから決してヴァイスさん達の考えも間違ってはいないんですよね……」

「その一番良い例が”殲滅天使”だよね。」

口元に笑みを浮かべているエヴリーヌの言葉を聞いたセレーネは冷や汗をかき、プリネは複雑そうな表情で答え、フィーの正論とも言える答えを聞いたリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「それにしてもあの時”特務支援課”の人達と一緒にいた人がクロスベルの皇帝に成り上がって、そんな大それたことを考えるとは想像もしていませんでしたね……」

「二大国から領土を奪い取り、クロスベルを大国へと成り上がらせたクロスベルの”二大皇帝”は間違いなく後の世で称えられる存在になるのであろうな。」

不安そうな表情をしているエマの言葉に続くようにラウラは重々しい様子を纏って答え

「ちなみにこの話は余談になるのですが……お父様は『西ゼムリア同盟』を提唱したアリシア女王陛下こそがまさにゼムリア大陸随一の”賢王”と仰い、アリシア女王陛下の事を相当褒め称えていましたわ。」

「へ……クロスベルの皇帝がアリシア女王陛下を?しかも何で『西ゼムリア同盟』が関係しているんだ?」

メサイアの話を聞いて呆けたマキアスは不思議そうな表情で尋ねた。



「『『西ゼムリア同盟』を提唱して混迷に満ちたゼムリア大陸が平和になる切っ掛けを作った事でリベールの国際的な立場を著しく上昇させた事もそうだが、『戦争回避条約』によってメンフィルとクロスベルに贈与されたエレボニアの領地の一部とザクセン鉄鉱山の鉱山権の一部をエレボニアに返還させた事で、エレボニアはリベールに対して大きな”恩”ができた為、その”恩”を返すまでは再びリベールに侵略するような事は考えない上国際会議の場ではリベールの考えに同意する可能性、そしてリベールが窮地に陥った際エレボニアが救いの手を差し伸べる可能性を確実にした』と、お父様は仰っていました。」

「それは……」

「ただでさえ”百日戦役”の件でエレボニアはリベールに対して”負い目”があるのに、メンフィルとクロスベルに奪い取られた領地とザクセン鉄鉱山の鉱山権の一部をリベールのお蔭で返してもらった”恩”があるからね~。少なくてもその”恩”を返せるような機会が訪れるまではエレボニアはずっとリベールの味方をしなければならないだろうね~。」

「もしかしてアリシア女王陛下はその為に『西ゼムリア同盟』を提唱したのかな……?」

メサイアの説明を聞いたガイウスは真剣な表情になり、ミリアムは疲れた表情で答え、エリオットは複雑そうな表情で呟き

「いえ、アリシア女王陛下の慈悲深い性格を考えれば恐らくそこまでは考えていないと思います。勿論メサイアさんが仰った事も考えていたかもしれませんが……少なくてもエレボニアに領地とザクセン鉄鉱山の鉱山権の一部を返還させた事は純粋にエレボニアと友好を結んでいるリベールの”王”として嘆願したのだと思います。」

「それに”不戦条約”を提唱した事も考えれば打算の為だけにゼムリア大陸の平和を望む人ではありませんよ。」

「そ、そうよね。」

エリオットの疑問をプリネとツーヤはそれぞれ否定し、二人の意見を聞いたアリサは安堵の表情をした。

「……アリシア女王陛下やリベールにどんな思惑があったかわからないけど、そのお蔭でエレボニアは領地とザクセン鉄鉱山の鉱山権の一部を返還してもらえた。それだけは”事実”なんだから、アリシア女王陛下には感謝すべきだ。」

「……確かにそうだな。」

「それに受けた”恩”を返すのは人として当たり前の事なんだし、エレボニアの為にあそこまでしてくれたアリシア女王陛下はエレボニアでも称えられるべき人だな。」

静かな表情で語ったリィンの言葉にユーシスとマキアスはそれぞれ同意した。

「フフ……皆さんの知りたい事は全て答えましたから、私は一端失礼しますわね。」

そしてリィン達の様子を微笑ましく見守っていたメサイアはリィンの身体の中に戻った。 
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