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艦隊これくしょん【幻の特務艦】

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第七話 偵察任務。その3

「くそっ!!撃ち落としても撃ち落としても、まだ来るか!!」
利根が舌打ちしながら応戦する横で、暁、雷が深雪と共に高角砲を連射している。
「いいぞ、3時方向の敵を、撃破!!次、くるぞ、9時方向!!」
「なのです!!」
「攻撃するからね!!」
3人は息の合ったチームワークでお互いをフォローしながら敵機を叩き落とし続けていた。
「長良さん、電さん、響さん、川内さん!!」
筑摩が叫んだ。強力な電探を搭載している彼女は中央に位置して、敵機の襲来方向と編成、それに機数を確認して、それを各艦娘に伝達し続けていた。
「6時方向からも敵機大編隊が来ます!艦爆です!射程に入りました!先制射撃、構え!!」
『はい!!』
5人は一斉に砲を構えた。米粒状の敵機が見る見るうちに大きくなり、今にも顔面に突っ込んできそうな勢いで迫ってくる。
「撃て!!」
5人の打ち出す弾幕により敵機は次々と撃破されていくが、砲火をかいくぐった敵機が次々と爆弾を投下していく。
「ああっ!!」
川内の悲鳴が海上を走り抜けた。
「川内さん、大丈夫・・・・ひゃあっ!!」
長良が傷を負って、よろめいたが、それでも屈せずに応戦を再開した。
「大丈夫なのです?!」
電が川内を支えた。
「ごめん・・・・く、ううっ・・!!」
「ひどい傷だ。・・・・ちっ!!!」
響が二人をかばうようにして前に出て、敵機を直前で撃破した。
「・・・・・・・。」
筑摩は周りを見た。自分も含めてどの艦娘も応戦で手いっぱいの上、傷を負っていない者はいない。このままでは、撃破されるのも時間の問題だった。
「みんな・・・本当に・・・・ごめん・・・・!!」
悲痛な声がした。電に支えられた川内が片目を苦しげにつぶりながら筑摩を見ている。
「川内さん・・・?」
「私なんかのために・・・・こんなことになって・・・・本当に・・・・ごめん・・・・・。」
「バカ者。何を言うか。」
利根がこっちを振り返った。
「傷ついた者を助けるのは、同じ艦娘として当然のことじゃ。それに・・・・。」
利根が不敵な笑みを浮かべた。
「それに、まだ負けだと決まったわけではないぞ。ん?」
「姉さん・・・・。」
筑摩は姉の快活さがとてもうらやましかった。平素はどちらかというとしっかり者の自分が姉をフォローしたり叱ったりしているのだが、こういう修羅場に来ると、その役割が逆になるようだ。自分が叱られたり励まされたりする。今まではどこかそれに対して反発する自分がいたのだが、今は・・・・それがしっくりと受け入れられる。
「ええ、そうね!!姉さんの言う通りだわ。まだまだこんなところで負けられるものですか!!」
『はい!!』
5人もうなずいた。
「よし、その意気じゃ。長良!!」
「はい!」
「ちと提案してもよいかの?」
「なんでしょうか?」
「このまま応戦していても埒があかぬ。ビスマルクの奴も鳳翔もこちらに向かっているという連絡も入っていることゆえ、いったん艦隊を北東に転進させるのはどうじゃ?」
「あのあつい雲の下に入ればいいということですか?」
長良の指す方向には画家が急いで書きなぐったかのような白黒の雲が出現していた。急速に発達しているということはこの先嵐になるに違いない。
「高度からの敵の艦載機の爆撃は防げるかもしれませんが、低空で侵入された場合には対応できません。それに、こっちの対空射撃も雲に阻まれてできなくなりますし、視界も悪くなって敵艦隊の発見に気づかない場合もあります。」
「わかっておる。が、こうしていても不利になるばかりじゃ。今はビスマルク達との距離を縮めるほうが良いと思う。」
長良はしばらく考え込んでいたが、やがて強くうなずいた。
「はい!」
「よし。」
敵の艦載機から放たれる機銃と爆撃の雨の中を8人は海を全速力で走り、厚い雲の中に突入しようとした。
「右舷3時方向に敵艦隊!!」
深雪が叫んだ。
「なにっ!?」
利根が叫んだ瞬間、猛烈な射撃が艦隊を襲った。
「しまった!艦載機に足を取られているすきに、敵艦隊が・・・・っ!?」
利根が筑摩に倒れかかった。敵の砲弾の炸裂を食らったのだ。直撃ではなかったがそれでも負ったダメージは小さくはない。
「姉さん!?」
「だ、大丈夫じゃ。だが、下手を打ったな・・・・すまん。」
「何を言っているんですか!?」
利根は体を起こしながら、来襲してくる新手をにらんだ。
「戦艦2隻、重巡1隻、軽巡1隻、駆逐艦2隻か。空母に足止めをさせ、こちらにとどめを刺しに来たか・・・・。」
「応戦します!!暁さん、響さん!!」
長良が叫び、二人を促すと、激烈な砲火の中を飛び出していった。
「待て!!」
利根が叫んだが、3人は足を止めなかった。
「私も・・・・まだ、やれる!!」
「あたしだってやって見せる!!」
川内と深雪も続けざまに飛び出していった。
「無茶しおって・・・・無傷の新手とやりあえるだけの気力は残っておらんというのに。じゃが、吾輩も行くぞ!!」
「姉さん!」
筑摩が叫んだ。走り出そうとした利根がつんのめるようにして筑摩を振り返った。
「なんじゃ!?」
「後方からさらに別の敵艦隊が接近中!!先ほど撃破した艦隊の残存部隊と思われます!!」
「なんじゃと!?まだあれには撃ち漏らした戦艦が少なくとも1隻・・・・仕方がない、筑摩、おぬしまだ動けるか?」
「当り前です。」
「まずは全力を挙げてこの敵艦隊を叩く!!戦艦とまともにぶつかり合っていてもかなわぬ。おぬしと雷、電は大きく迂回して敵の後方に回り込み、死角から魚雷を打ち込め!!もはや雷撃戦でしか勝機はない。よいな!」
「はい!」
その時、大きな叫び声が聞こえた。4人が振り向くと、長良が被弾した響を引きずるようにして後方に下がってきた。さらにその後ろから暁がぐったりとなった深雪を連れて全速力で下がってくる。その後ろでは一人残った川内が相手をしているが、何度もおびただしい水煙が彼女を襲っていた。
「くそ・・・・。」
利根は一瞬目を閉じたが、長良に指令した。
「作戦中止!!これ以上の交戦は危険じゃ!!ここは吾輩が抑える!おぬしたちはこのまま北走して敵を突破して逃げろ!!」
「何言ってるんですか!?そんなことができるわけないです!!それに・・・だったら私が残ります!!」
長良が叫んだ。
「お主は旗艦じゃ。最後まで艦隊を護らなくてはならん。皆を無事に送り届ける仕事があるじゃろう?」
利根がぎゅっと長良の両肩をつかんだ。
「でも・・・・。」
利根は首を振った。
「なに、吾輩なら大丈夫じゃ。心配するな。」
「ええ。私も残ります。」
「筑摩?」
「姉さん一人を残して、私だけのうのうと帰りたくはない。私も旗艦ではないのですから、いいでしょう?」
「無茶しおって・・・。」
ふっと利根が息を吐き出したが、笑みを浮かべていた。
「なら、行くか、筑摩。」
「はい!」
「でも――!」
「行きなさい、早く!!」
筑摩がそう叫び、利根と共に敵艦隊の正面に飛び出した。
「すまんな・・・・。」
利根が口にした言葉は筑摩の耳に届いたかどうか、それはわからない。二人は川内に追いついた。
「早く、退避しろっ!」
利根が叫んだ。
「いいえ、私も残ります!!」
「それでは佐世保鎮守府の皆に申し訳が立たん!!」
「こっちだって同じです!!私たちなんかのために・・・・もう充分ですからっ!!!」
泣くような叫び声が利根の胸を打った。
「川内・・・・。」
主砲は根元から片砲がねじ曲がり、魚雷発射管も艤装もボロボロだったが、川内はそれでも敵に背を向けなかった。
「戦いはこれからです。だから、私の分まで、最後まで戦い抜いてください。それが、私の最後のわがままです。」
川内はそう言うと、敵艦隊に残っている砲を向けた。
「さすがは佐世保鎮守府じゃ。その心意気、吾輩たちも見習わなくてはならんの。のう?筑摩。」
「はい。川内さん。私たちも――。」
3人は砲を構えた。
「行くぞ。撃て~~~~~~ッ!!!!」
利根が叫んだ瞬間おびただしい水煙が敵艦隊を走り抜け、たちまち戦闘の戦艦1隻が撃破され、軽巡が木端微塵に吹き飛んだ。
「!?」
3人が振り仰ぐ頭上におびただしい艦載機隊が飛来してくるのが見えた。九六観戦、九七艦攻、九九艦爆、そして烈風に流星、彗星・・・・・。

 鳳翔と紀伊の攻撃隊がようやく戦場に到着したのだ。

不意を突かれた敵艦隊は慌てふためいたように防空射撃を開始し、飛来していた敵の艦載機も応戦の構えに入ったが、新鋭の鳳翔と紀伊の艦載機たちはバタバタとなぎ倒すようにしてこれらを撃破していった。
「今だ、撃て!!」
利根の言葉に3人は砲戦を開始した。接近していた駆逐艦が一撃で撃沈し、反転しようとした重巡に多数命中弾を浴びせた。
「あんたたちの居場所はないわよ!!」
ききおぼえのある声がした。利根がはっと海上に顔を向けると、大きく手を振り上げる一陣の艦隊があった。
「あんたたちの母艦のヲ級たちは日向と紀伊が撃沈したわよ!!さぁ、どうする?それでも挑んでくる奴には、ビスマルク級超弩級戦艦のネームシップの威力、存分に味あわせてあげる!!」
その言葉を理解したのか、艦載機たちは慌てたように南西諸島方面に飛び去っていく。その背後を襲った烈風隊は次々とこれを撃破していった。
 一方、艦攻隊と艦爆隊によって満身相違になりながらも戦艦2隻は戦場を離脱しようとしていた。
「霧島!!」
ビスマルクが叫んだ。
「ええ!!主砲!敵を追尾して!!撃て!!」
二人が同時に発射した主砲弾は敵戦艦の1隻をたたき沈め、1隻の主砲をたたき折った。
「逃がさないわよ!!甘く見ないで!!」
ビスマルクが敵の進路を阻むように回り込みながら主砲弾を浴びせ、粉みじんに吹き飛ばした。
 次第におさまっていく戦闘を感じ取ったのか、ビスマルクは掃討戦を霧島とプリンツ・オイゲンに任せると、利根たちのもとに走ってきた。
「遅いぞ!!」
「ごめんごめん!!危なかったわよね。」
ビスマルクが頭を下げた。
「いや、とても感謝しておる。本当に危ないところだったからの。」
「ええ、本当にありがとうございました。」
筑摩も川内も頭を下げた。
「話はあとよ。すぐにここを離脱しましょう。」
ビスマルクの言葉に3人はうなずく。
「引き上げるわよ!!」




 
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