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ご都合主義な盤上の中で

作者:白玉
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嘘は言っていないぞ

 
前書き
話を進めましょう 

 

塔矢は碁会所の扉を開けたヒカルを見て固まった。
からんからんと軽い音と共に入ってきたヒカルは塔矢を見ると500円を置いて颯爽と現れ、一言「打とうぜ!」と告げた。

是非もないが、いやまてと混乱する。

「まて、強くなったら打つんじゃなかったのか?まだ一週間しか経ってないぞ!」

あれだけ大きな啖呵をきったのに一週間でさあ、打とうとは一体どういうことだ?
強くなったら打つと言ったのは何だったんだ?
塔矢がどういうことだと当惑しているのを、ヒカルは、はあ?と怪訝そうな顔をして言い放った。

「そんだけあったら、お前なら強くなってるだろ?それともお前成長してねえの?」

そのもの言いにカチンと来た。
成長していないとは聞き捨てならない。

「しているに決まっているだろ!あの後、研究しまくったさ!」

その言葉にヒカルはにっかりと笑って椅子に座って打つ準備を始める。

「なら、問題ねえじゃん!いいから打とうぜ!門限あるからそんなに長くここに居られないし」

その態度になぜ自分が困ったのかとか、まだヒカルに勝てると思えるほど力をつけていないことへの焦りだとかが吹き飛んだ。
いいから打とうと言うヒカルに、アキラもぐだぐだ言うよりも打つことを選んだ。

塔矢もヒカルと打ちたくてたまらなかったのは本当なのだから。


結果は二目差でヒカルの勝ちだったが、前回と違いアキラの碁は苛烈だった。
ヒカルに勝つことに執着し、食い破ろうと追い上げて行った。
対するヒカルも手加減するような余裕もなく防ぎ、逆にアキラの隙をついて相手の地を荒らしにかかった。
結果としてヒカルが勝ったが、アキラの実力が成長したことが分かる碁だった。

打ち終わった後、アキラは時計を確認してヒカルが慌てて帰った時間まで余裕があることを確かめると、疑問に思っていたことをぶつけた。

「君はどこの先生に習っているんだ?」

ヒカルのことを塔矢は全く知らなかった。きっとどこかの先生の秘蔵っ子なんだろうとあたりを付けての発言だったが、ヒカルはその質問に眉を寄せた。

「うーん、それは・・・」

歯切れの悪さに、聞いてはいけない質問だったと取り下げようか迷っていると、そのことに気が付いたヒカルから待ったが入った。

「塔矢なら言ってもいいんだけど、ここじゃ話せねえ。だから今度、俺の家に来いよ。そしたらお前になら話すから」

真剣にこちらを見据える目に誠意を感じ、そして『お前になら』という言葉を嬉しく思う。
まだ、たった二度しかあったことがないというのにアキラにとっては今まで会った誰よりも親しくなった気がする。
来週の土曜日にヒカルの家に行く約束をして、軽く検討《こうろん》した後ヒカルはまた慌てて帰って行った。

 
 

 
後書き
不自然な急接近、アキラは碁以外に興味と人間関係が不器用なのでまあいいとしているところ多そうだ。 
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