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岩清水健一郎という存在

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4部分:第四章


第四章

 そして美樹の仲介で静香から手紙を受け取ります。そこにあった赦しの言葉を受けて心から泣きました。許されないことをしましたがそれでも赦されたのです。己の酷い過去を知りそれと向かい合いそれから赦されてです。心から涙を流しました。僕はこのシーンが非常に好きです。『ライフ』では一番心に残ったキャラは倫子でしたがこのドラマでは佐野チーフです。ドラマのもう一人の主人公と言ってもいいのではないでしょうか。彼女はこの己の罪と心にある弱さと酷さ、そして赦されたことを知り人として本当に意味で立派な人になるでしょう。 
 このドラマでは弱さから万引きをしたり夫にDVを受けていたり派遣社員故に待遇に悩んでいたりです。そうした人物が出ています。彼女達もやはり美樹をいじめていますがやがて彼女の真実を知りその心を知って謝罪します。その行動は確かに許されるものではありませんでした。
 ここで許されるものではないと申し上げましたがこれは周りの主観です。しかしいじめられていた当人である美樹は赦しています。ならばそれでいいのです。
 よくいじめではいじめていた相手を後で関係ない人間が徹底的に糾弾したりもします。僕が書いた岩清水もそうした人間の一人です。しかし糾弾も必要ですがそれでもいじめられていた本人が赦せば、そして適度なところでその糾弾も止めるべきだと思います。それも情ではないでしょうか。
 このドラマではもう一人重要な人物が出ています。いじめの黒幕である立花万里香です。裏に回って策謀の限りを尽くし美樹を追い詰めていきます。
 いじめる理由は簡単で仲原を自分のものにする為です。その為に仲原が見ている美樹を裏で追い詰めそのうえで会社から消し去ろうとしていました。
 この時の万里香の表情はドス黒くガラガラヘビの音が鳴っていました。これだけを見れば万里香はただ邪悪な人間に見えます。
 しかしよく見ているとです。彼女は腕を組んでいません。演じておられた杏さんのお話ですと執拗に欲しいものをどんな手段を使っても手に入れようとする人間なのは事実です。しかし何かを怖がっているそうです。従って普通に身体の前で腕を組むのではなく自分を無意識に守る様に身体を包み込んでいるのだそうです。腕を交差させてです。そして子供の頃から両親に可愛がられ甘やかされてきました。苦労も知らず叱られたこともないのでしょう。番組スタッフの方も言っておられますが子供のままなのです。
 仲原と結婚はできました。しかしです。覗いているその姿を桐野マネージャーに見られてです。
『人を陥れて手に入れた幸せなんて脆いものだぞ』
 万里香はこの言葉を聞いて顔を曇らせて去ります。やはりここでも重要なのは桐野マネージャーは彼女を倒してはいません。そのままにしています。これは結末まで、です。決してそれをせずにいました。ドラマで一番の悪役であり黒幕なのにです。それがどうしてなのかについても後で僕の考えを述べさせてもらいます。
 彼女の悪事はふとしたことから夫である仲原に知られてしまいます。そして仲原は二人の家で万里香に言いそのうえで彼女が作った食べ物を全て払ってしまいます。二人の結婚写真には弾痕の如きヒビが入ってしまいました。
 万里香はそれを見てその場に崩れ落ちます。その裏の顔を最も知られたくない相手に知られそれがどうなるかを悟ってです。この時の彼女の顔は蒼白でした。
 そしてそのうえで、です。仕事を成功させた美樹のところに来て彼女に襲い掛かります。その憎悪の顔を露わにさせたうえで、です。
 しかしここで桐野マネージャーと仲原が来ました。そして美樹を助け彼女を叩きます。そのうえで仲原は彼女に対して言いました。
『そうやって一生人を羨んで生きていくのか!』
 この言葉で遂に万里香も完全に終わってしまいました。自分に対してのその言葉にしゃがみ込んでです。泣き叫びながら言いました。
『私は貴方が欲しかっただけなのに!貴方の為だったら何でもできるのに!』
 こう言って泣き叫んだのですがこの時に彼女は顔を沈めさせて泣いてはいません。顔を上げてそのうえで顔を隠さずに泣いています。
 ここに万里香がどういった人間なのかわかるのではないでしょうか。この泣き方は子供の泣き方です。大人なら沈み込んで顔を隠して泣きます。しかし子供は顔をあげて隠さずに泣きます。万里香は無意識のうちにそうしています。腕を組まずに交差させているのもです。彼女は弱い子供でしかなかったのです。
 こうした意味において万里香にしても倫子にしてもミンチン先生にしてもです。彼女達は本質的に弱い人間なのです。人は弱いからこそ、そしてそれを無意識のうちで自覚しているからこそより弱いと見た相手をいじめるのでしょう。人間の持つ最も醜い一面の一つです。倫子はそれを必死に否定したくてトイレで居直りましたし歩と会おうとしませんでした。ミンチン先生はそれをずっとセーラに思い出させられるという復讐を受けました。
 万里香もです。彼女は全く強くありません。徹底的に弱い人間です。それを完全に曝け出してしまいました。最早彼女はここで終わってしまいました。
 この後仲原との離婚を覚悟し家を出ようとしました。そこに仲原が戻って来た時の万里香は弱々しい顔でした。あのドス黒い顔はありませんでした。
 そしてそのうえで、です。彼女は仲原に対して言いました。
『今まで有り難う・・・・・・』
 俯いてこう言って彼の前から去ろうとしました。彼女にとっては全てだった仲原を諦めてです。そのうえで去ろうとしました。しかし仲原はニューヨークでの住所を見せてそれから彼女に告げました。
『もう一度やりなおそう』
 僕はこの場面も好きです。仲原というキャラクターも大好きですが彼の無限の優しさは何よりも替え難いものです。万里香を赦しそのうえで彼女をつなぎ止めたのです。
 彼のその無限の優しさを受けた万里香は涙を流しました。それは自分のその醜悪な顔を見てもそれを赦して受け入れてくれた仲原の優しさへの涙だけではないでしょう。人の思いやりを知り赦されること、そして人の心の美しさを知ったからでしょう。そうした意味で彼女は倫子や佐野チーフと同じです。
 万里香を赦した仲原は一人考える顔で佇んでいました。その顔にはまだ悩みがありました。しかしかつて己が言った言葉を反芻して前に行こうとしています。それがはっきりとわかるものでした。
 このドラマでは美樹、桐野マネージャー、仲原といった無限の優しさと強さを持つ人達が出て結果として人を救っています。若し彼女達がいなければいじめている立場だった佐野チーフや万里香は間違いなくやがて破滅していたでしょう。何故破滅していたかというとです。
 誰かをいじめているとです。それは誰にも見えないようにしていても必ず誰かが観ています。天網恢恢、疎にして漏らさずです。必ず誰かが見てそのうえでそれは周りに知られます。そうなればどうなるかです。
 いじめがどういったものかは言うまでもないでしょう。人として最低の行いです。他の人はそのいじめている人を忌み嫌います。その結果周りから疎まれそのうえでやがてその感情が周りの然るべき対応を招きます。ですから結果として佐野チーフも万里香もやがて破滅していたでしょう。『人間・失格』の新見も究極の意味でそうなるのではないでしょうか。あの背中を押した手は誰のものであるのか。今も色々言われています。ですがあの末路に異を唱える人はいないでしょう。かつて何の罪もない猫をネットでいじめ殺した輩がいましたが今どうやらかなり無惨なことになっているようです。そのことにも異を唱える人はいないでしょう。誰もが当然だと思うものです。人は悪事をすれば必ずそれが自分に返ります。因果応報はこの世の絶対の摂理の一つです。ミンチン先生もあのままだと学園を破産させていたのは間違いありません。自分の愛する学園をです。倫子はまたいじめられて自殺して終わっていたでしょう。その際手を差し伸べる相手は間違いなく出なかったでしょう。絶対の破滅が彼女達を待っていた筈です。佐野チーフは懲戒免職になり万里香は最悪の形で仲原を知られるか桐野マネージャーが本気で潰そうとしたでしょう。そして終わっていた筈です。
 
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