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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~ 戦争回避成功ルート

作者:sorano
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第55話

ゼムリア歴1205年、1月1日、同日9:30―――――



翌朝、朝食を取り、準備を整えたリィン達は待機メンバーを先にカレイジャスに戻らせた後サフィナにある事を頼む為に城館に残ったセドリック皇太子とアルフィン皇女と共にサフィナを訊ねて事情を説明した。



~バリアハート・クロイツェン州統括領主の城館・執務室~



「――――ユーゲント皇帝夫妻の保護を引き続き頼みたい、ですか?色々と問題が残っているとはいえ内戦が終結したというのに何故そのような事を?」

「はい。サフィナ元帥閣下もご存知の通り、カイエン公や残りの貴族連合の部隊は現在行方不明です。姿を消したカイエン公達が敗北寸前の状況を打開する為に隙を突いて父上達の身柄を確保する恐れも十分考えられますので、できれば警備が完璧なバリアハートで保護して欲しいのです。」

サフィナの疑問にセドリック皇太子は静かな表情で頷いて答えた。

「…………常識で考えれば正規軍や貴方達”紅き翼”でお二方を警護すべきだと思うのですが。」

「サフィナ元帥閣下の仰る通りなのですが、このままでは貴族連合の数々の愚行によって怒りの炎を燃やしていながらも、寛大な心を持って提案して頂いたメンフィル帝国の”戦争回避条約”の条約内容の一部にあるカイエン公の引き渡しができません。数多くの慈悲を頂いたにも関わらず、条約内容の一部が実行できない事に関して申し訳ないと思い、必ず全ての条約内容を実行するという”保証”をメンフィル帝国に示す為に父上達の保護を引き続きお願いしたいのです。」

「…………話に一応筋は通っていますが……―――言い換えればカイエン公を捕えるまでの間の”人質”と見られてもおかしくないとセドリック殿下は理解していますか?セドリック殿下の話ですと、ようやく内戦の終結もひと段落したというのにカイエン公を捕えるまでの間、ユーゲント皇帝夫妻は復帰できない事になりますよ?それこそその状況が数ヵ月、数年間続く事も考えられますが。」

セドリック皇太子の説明を聞いたサフィナは真剣な表情で指摘した。



「はい。首謀者のカイエン公もそうですが、残りの貴族連合の部隊を捕えていない以上真の意味で内戦は終結したとは言えませんし、メンフィル帝国には今回の内戦の件で多大な迷惑をかけてしまいましたので、エレボニアが現時点で用意できるせめてもの”保証”だと思って下さい。勿論本国にいるメンフィルの民達にこの事を発表して頂いても構いませんし、何でしたらメンフィルだけでなく世界中に公表しても構いません。その事によってエレボニアの不甲斐なさや恥をメンフィルや世界中に知らせ、エレボニアを侮辱できますからエレボニアに怒りを抱いているメンフィルの民達の溜飲も下がると思われますので。」

「厚かましい頼みかと思われますが、どうかお願いしますわ……!」

セドリック皇太子の説明の後にアルフィン皇女は頭を深く下げた。

「…………………フウ。―――リグレ候、セドリック殿下に何か入れ知恵をされましたね?」

少しの間目を伏せて黙り込んでいたサフィナは大きな溜息を吐いた後疲れた表情でパントに視線を向けた。



「フフ、元帥閣下はどうしてそう思われたのですかな?」

「普通に考えて政治に携わった事も無いセドリック殿下がこれ程の条件を思いつく事をできる訳がありません。元ミレティア領主であった私を納得させられるくらいの条件を思いつけるくらいならレンのように既に政治に関わっていてもおかしくありませんよ。」

「うふふ、確かにレンみたいな”天才”でない限り、セドリック皇太子の歳で政治に関わるなんてありえないものね♪」

「レン、貴女ね……」

「よくそこまで自分の事を自画自賛できるわよね……」

「サ、サラ教官。レン姫に失礼ですよ。」

パントの疑問に答えたサフィナの話を聞いてからかいの表情になったレンの言葉を聞いたプリネは呆れ、ジト目でレンを見つめるサラ教官の言葉を聞いたリィンは冷や汗をかいて指摘した。



「ハハ……入れ知恵と言っても大した事はしていませんよ。具体的な内容を教えれば、それこそ私がセドリック殿下を傀儡にしているのかと勘違いされるでしょうし。私はメンフィルが納得できるヒントを与えただけで、先程の結論に辿り着けたのはセドリック殿下の成長の賜物かと。」

「そんな………今の僕がいるのもパント卿のおかげですよ。」

「うふふ、セドリックの成長ぶりを知ったお父様達もできればパント卿にセドリックに皇族としての教育をしてもらいたいと仰っていたくらい、パント卿のお蔭でセドリックはエレボニア皇族として成長しましたものね♪」

パントの話を聞いたセドリック皇太子は謙遜し、アルフィン皇女は微笑みながら答えた。

「ハア……リフィアもセドリック殿下を見習って、次代のメンフィル皇帝になる為に大人しくしてくれたら、私の苦労も減るんですけど……―――無理でしょうね、あの破天荒なリフィアにそんな事を求めるのは。」

「エ、エリゼ。」

その様子を見守っていたエリゼのリフィアに対する毒も混じった言葉を聞いたリィンは冷や汗をかき

「……殿下は将来きっと善き王になられるでしょうね。」

「ええ……それが衰退が確定しているエレボニアにとってはせめてもの救いにもなるでしょうね。」

ラウラの言葉にサラ教官は静かな表情で同意した。



「――――わかりました。セドリック殿下が先程仰った条件も含めて父上達には私の方から取り直しておきますので、カイエン公や貴族連合の残党を捕え、真の意味で内戦を終結させるまでの間引き続きこの城館にてユーゲント皇帝夫妻を保護する事を私がお約束します。」

「あ、ありがとうございます……!」

「できる限り早期にカイエン公や貴族連合の残党と決着をつけますので、どうかよろしくお願いしますわ……!」

そしてサフィナの答えを聞いたセドリック皇太子とアルフィン皇女はそれぞれ明るい表情で頭を下げた。

「これで陛下達の身の安全は保証されたな。」

「ああ。後はカイエン公達を拘束し、ヨアヒムを討つだけだ………!」

ラウラの言葉にリィンは決意の表情で頷いた。



「それでこれからどうするのですか?」

「そうね…………あれから一日経っているんだから”情報部”もカイエン公達について何か掴んでいるかもしれないから、クレアに連絡を取って聞いた方がいいかもしれないわね。」

エリゼの疑問にサラ教官は考え込みながら答え

「そうですね……―――それじゃあ俺達もカレイジャスに戻ろう。」

リィンはサラ教官の言葉に頷いて仲間達にカレイジャスに戻るように促した。するとその時通信の音が聞こえ、音を聞いたサフィナは自身が持っているARCUSで通信を始めた。

「―――私だ。何かあったのか?………………………何?」

(何か問題が起こったのかしら……?)

(サフィナお姉様のあの顔を見る限り恐らくそうでしょうね。)

通信内容を聞いて表情を厳しくしたサフィナの様子をプリネは心配そうな表情で見つめ、レンは真剣な表情で見つめていた。

「……ああ……ああ。囮の可能性も考えられるからケルディック、レグラム方面の警戒も怠らないように全軍に通達しておけ。」

「あの……サフィナお姉様。何か問題が発生したのですか?」

サフィナが通信を終えるとプリネは不安そうな表情で尋ね

「ケルディックとレグラム方面の警戒の話が出たって事はもしかして、オーロックス方面から貴族連合の残党あたりがバリアハートに向かって進軍しているのかしら?」

レンは自身の推測を口にして尋ねた。



「…………ええ。レンの推測通り、オーロックス方面から貴族連合の部隊がバリアハートに向かって進軍しているとの事です。」

「な―――――」

「何ですって!?」

「まさかこんなタイミングで現れるなんて……偶然でしょうか?」

サフィナの口から語られた驚愕の事実にリィンは絶句し、サラ教官は血相を変え、エリゼは不安そうな表情をし

「クッ……やはりまだカイエン公は陛下の身柄の確保を諦めていないのか……!」

ラウラは厳しい表情で呟いた。



「……ただバリアハート奪還やユーゲント皇帝夫妻奪還の為の侵攻部隊にしては戦力が余りにも低過ぎます。報告によるとバリアハートに進軍してきている貴族連合の数はおよそ一個大隊との事で、しかも歩兵が中心で戦車や機甲兵の数は歩兵の半分以下との事ですし。」

「え……たったそれだけですか?」

「幾ら何でも少なすぎよ。前にバリアハートに攻めて来た時は二個師団はいたそうだし。」

「囮の可能性も考えられますが………それにしては余りにも戦力が低すぎますな。」

サフィナの話を聞いたプリネは目を丸くし、レンは不思議そうな表情をし、パントは真剣な表情で考え込んだ。

「確かに色々と気になる話だけど、今は進軍してきている貴族連合の部隊の対処ね……もしこのまま迎撃体勢が整ったメンフィル軍とぶつかり合えば結果はわかりきっているわ。」

「……今までのように貴族連合軍が”全滅”するでしょうね。自国領に襲撃して来た貴族連合軍を殲滅する事はまだ続行していますし。」

「そんな……!ようやく内戦を終結させたのに、まだ犠牲者が増えるなんて……!」

「それに内戦が終結したばかりなのに、貴族連合の残党がメンフィル領を襲撃したとなると、下手をすればメンフィルとの国際問題がまた発生する可能性も考えられます……だったら僕達がすべきことは――――」

サラ教官とエリゼの推測を聞いたリィンは悲痛そうな表情をし、セドリック皇太子は不安そうな表情で推測した後すぐに決意の表情になってサフィナを見つめた。



「サフィナ元帥閣下、僕達に進軍してきている貴族連合の残党の対応をさせて頂けないでしょうか?お願いします……!」

「これ以上今までご迷惑をおかけしたメンフィル帝国に御手間を取らせない為というのも理由の一つですが、エレボニアとしては例え相手が皇家に歯向かった者達であろうと、できる限り生かして罪を償って貰いたいのです。どうかお願いします……!」

「サフィナお姉様。私からもお願いします……!」

セドリック皇太子やアルフィン皇女、プリネはそれぞれ懇願するかの表情でサフィナを見つめて頭を下げた。

「………………………―――フウ。仕方ありませんね。レン、彼らにオーロックス方面について説明をするので少しだけ手伝って下さい。」

「はーい。」

その様子を黙って見つめていたサフィナは溜息を吐いた後レンを呼び、レンに指示をして端末を操作させた。すると巨大なスクリーンが現れ、スクリーンにバリアハート近辺の地図が映った。



「これは……もしかしてバリアハート近辺の地図ですか?」

「ええ。レン、メンフィル軍がオーロックス方面からの襲撃に備えて配置している位置を記してください。」

「わかったわ。―――ここよ。」

ラウラの疑問にサフィナが答えるとレンが端末を操作してメンフィル軍の配置の位置を光らせた。

「この位置は確か……リィンさんとユーシスさんを連れ戻す為にユーシスさんと決闘したという丘へと続く裏道の手前ですね。」

「あのあたりか……!」

地図の位置の具体的な場所がわかったプリネの話を聞いたリィンは目を見開いた。



「進軍してきている貴族連合軍がこのポイントに到達すれば、メンフィル(われわれ)は迎撃を開始します。――――それがクロイツェン州の臨時統括領主として……そしてバリアハート守護の任に当たっている軍人として最大限の”譲歩”です。」

「つまりバリアハートに向かって進軍してきている貴族連合の残党を生かして捕えたいのなら、このポイントに貴族連合軍が到着するまでに進軍して来る貴族連合軍を何とかするのがレンやお兄さん達がやるべき事よ。」

「あ、ありがとうございます……!」

「必ず進軍して来る貴族連合軍の残党は僕達が何とかしますので、メンフィル軍への通達等の件をよろしくお願いします……!」

サフィナとレンの説明を聞いたアルフィン皇女とセドリック皇太子はそれぞれ頭を下げてサフィナの心遣いに感謝した。



「……………………」

「プリネ、どうしたのだ?」

「え、ええ……行方がわからなかった兵士達を食い止めるこの状況……クロスベルのIBCでの攻防に少し似ているような気がするんです。」

ラウラの質問にプリネは戸惑いの表情で答え

「あ、IBCでの攻防ですか……?」

「IBCで兵士達を迎撃するなんて……一体その時何があったんですか?」

プリネの答えを聞いたアルフィン皇女とセドリック皇太子はそれぞれ困惑の表情をした。



「……なるほどね。となると今回の貴族連合の残党の進軍はヨアヒム・ギュンターが関係している可能性が高いわね。」

「なっ!?」

「何ですって!?」

レンの推測を聞いたリィンは驚き、サラ教官は血相を変えた。

「そ、そう言えば……確かプリネ姫達が休暇でクロスベルを訪れた時に偶然ヨアヒム・ギュンターによる例のクロスベル襲撃事件が起こったのですのよね……?」

「ええ。その際にグノーシスを投与された事でヨアヒム・ギュンターに操られた警備隊をお父様達やロイドさん達と一緒にIBCにいるキーアさんを守る為にIBCで迎撃したのです。」

エリゼの話にプリネは頷き

「という事は進軍してきている貴族連合の残党はヨアヒム・ギュンターに操られている可能性が高い事が考えられるわね……もし、そうだとしたら殿下達が降伏勧告を呼びかけても無駄でしょうね。」

「そ、そんな……」

「…………」

サラ教官の推測を聞いたアルフィン皇女とセドリック皇太子はそれぞれ辛そうな表情をした。



「……例えそうだとしても俺達がやる事は変わりません。――――これ以上犠牲者を出さない為にも例え力づくでも貴族連合の残党の部隊を俺達の手で止めましょう!」

「ああ……!士官学院の意志が一つになった今の我らなら、例えどのような事であろうと達成できるはずだ……!」

「―――勿論君達の”協力者”である私達も全力で力を貸すよ。」

「私もパント卿と同じです。微力ではありますが、全力で皆様の力になります。」

「うふふ、ヨアヒムによるクロスベル襲撃の時以来の素敵な”お茶会”になりそうね♪」

リィンの決意にラウラは力強く頷き、パントとエリゼ、レンはそれぞれ微笑みながら答えた。



「皆さん……」

「皆さんの気持ちはとてもありがたいですが、どうか無茶だけはしないで下さい……!」

一方セドリック皇太子とアルフィン皇女はリィン達に心から感謝した。

「――――急いでカレイジャスに戻ってバリアハートに向かって進軍している貴族連合の所に向かうわよ!」

「はい!」

「レン、転移魔術を!」

「は~い。みんな、今から転移魔術で一気にカレイジャスに向かうから一か所に集まって。」

プリネの指示に頷いたレンはリィン達に指示をし、リィン達は一か所に集まった。



「―――それでは俺達はこれで失礼します、サフィナ元帥閣下!」

「ええ、貴方達の武運を祈っています。」

「転移――――カレイジャス。」

そしてレンの転移魔術によってリィン達はカレイジャスに戻った後クレイグ中将に通信で事情を説明し、正規軍の応援がかけつけて来るまでの間バリアハートに進軍して来る貴族連合の部隊の対処を行う事にした。 
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