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IS~夢を追い求める者~

作者:かやちゃ
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第2章:異分子の排除
  第27話「姉妹対決×2」

 
前書き
蟠りの解決と決別のためのそれぞれ違う目的の姉妹対決です。
 

 




       =ユーリside=



「では、頑張ってください。」

「...うん。行ってくる。」

  そう言って、簪さんはアリーナへと飛んでいきました。

  ...今日は、簪さんと生徒会長さん。そして、私と姉様の試合がある日です。
  最初に簪さんで、次に私が試合をする手筈です。

「(...大丈夫ですよ簪さん。今の貴女なら、きっと勝っても負けても...。)」

  アリーナへ飛び立っていった簪さんを見送り、私は静かにそう思いました。







       =out side=





「...簪ちゃん...。」

「...お姉ちゃん。」

  アリーナの中心の空中。
  そこで、簪と楯無は対峙していた。

「...問答は無用。...この戦いで、全てを魅せる。」

「....うん。分かった。受けて立つ!」

  会話をする前に打ち切り、二人はそれぞれ薙刀(夢現)(蒼流旋)を構える。

【試合開始】

「「っ....!」」

  試合開始の合図と共に、二人はぶつかり合う。
  簪は、自身の全力を見せるため。楯無は、そんな簪の想いを受け止めるため。

「(受け流されるのは分かってる!)」

  “学園最強”と謳われるだけあり、簪の攻撃を槍で器用に受け流される。
  だが、それは簪も重々承知している事である。

「(元々格上...超えるつもりでも正攻法じゃ勝てない。...だったら!)」

  反撃の槍を跳び上がって回避し、叩き付けるように薙刀を振う。
  それも最小限な動きで横に回避される。....が、その回避方向にミサイルが迫る。

「っ!?」

「お姉ちゃんの動き...私だって、良く知ってるんだから!」

  それは、簪が回避方向を予測し、そこへ放ったミサイルだった。
  楯無の癖、戦闘データ。その他諸々から簪は楯無がどう避けるか予測したのだ。
  ...いつも姉を超えようと努力していた簪だからこそできる芸当だ。

「...なるほど。さすが簪ちゃん。」

「っ....!」

  ミサイルの煙の中から、そんな声が聞こえ、簪は距離を取る。

「水の...バリア....。」

「ナノマシンで操ると、こういう風にもできるの。」

  そう。楯無は水を操り、それを盾としてミサイルを防いだのだ。

「(あのバリアがある限り、遠距離武装は効果が薄い...なら!)」

  唯一水のバリアを斬り裂ける夢現で近距離戦を仕掛ける。

「(お姉ちゃんの方が戦闘技術は上。そんなのは分かってる。...でも、武器の性質上の隙を突けば...!!)」

  槍の一突きの際に、カウンターの要領で薙刀を一閃。
  槍を逸らしつつ、薙刀による攻撃が楯無に届く。

「っ....!」

「(躱された...いや、掠った!!)」

  しかし、その攻撃は上体を逸らされ、掠る程度に終わる。
  だが、それでも簪にとっては十分な一撃だ。
  なにせ、自身の力は姉に及ぶ物だと分かったからだ。

「(...けど!)」

「踏み込み過ぎよ!簪ちゃん!!」

「っ....!!」

  その一撃で大きな隙を晒し、楯無の蒼流旋に装備されているガトリングガンの攻撃をまともに受けそうになってしまう。
  かろうじて直撃は避けたが、明確なダメージを受けてしまった。

「(やっぱり、接近戦だけだと勝てない!でも、ISの経験でもお姉ちゃんに劣ってる分、遠距離でも全体的に見て不利!...それなら...!)」

  総合的に見て、簪は楯無に劣っている。
  たった一年とはいえ、経験の差がその力量差を生み出しているのだ。

  ...つまり、簪に勝機があるとすれば、楯無の意表を突いた攻撃のみ。

「(...中距離に変えてきた?)」

  薙刀を仕舞い、簪は中距離向けのライフルを展開して放つ。
  それを楯無は一度避け、追撃を蛇腹剣(ラスティー・ネイル)で防ぐ。

「(...移動しながらなうえに、ギリギリ清き熱情(クリア・パッション)の範囲外...。でも、だからと言って戦況が変わる訳ではない...どうするつもりかしら?)」

  反撃の危険性が高い近距離から中距離に変えた事は分かる。
  だが、だからといって戦況が変わらない事に、楯無は少し訝しむ。

  ...自分を必死に超えようとしてきた妹が、その程度なはずがない...と。
  ...同時に、そんな妹に楯無は無意識に期待していた。

「(....仕掛ける!)」

「っ...!」

  瞬間、楯無に向けていくつものミサイルが放たれる。
  強力とはいえ、あからさまな攻撃。愚策にしか見えなかった。

  ...だからこそ、楯無は経験からミサイルを避けつつ、最大限の警戒をした。

「はぁっ!!」

「っ!!」

  背後からの、薙刀の一閃。
  本来なら死角からの一撃であるそれは、ハイパーセンサーによって察知され、防がれる。

「っ....!」

「逃がさな...っ!」

  すぐさま簪は退き、それを楯無は阻止しようとする。
  その瞬間、反射的に楯無は飛来したモノを蛇腹剣で叩き落す。

「(簪ちゃんの薙刀!?)」

  それは、簪がついさっきまで使っていた薙刀だった。

  そして、武器を投げつけるという行為に動揺した楯無にISからの警告音が鳴る。

「(うし―――っ!?)」

「はぁぁっ!!」

  ブレードによる一閃。それを、楯無はまともに受け、大きく吹き飛ばされたた。

「ぐっ...ぁっ...!?」

「はぁっ...はぁっ...入った...!」

  楯無からすれば、その攻撃は不可解だった。
  簪は、薙刀を投げる際に後ろに退いた。だが、先程の一撃は背後からだった。

  瞬時加速を使えばその距離の移動は可能だが、反転して攻撃は体に負担が掛かる。
  なら、どうしたか?

「(...皆から教えて貰った“水”の動き...やっぱり、応用できた...!)」

  そう、“心に水を宿す”。それを一端とはいえ、簪は為したのだ。

  先程の動きは、瞬時加速の際、流水の動きを為す事で、体に掛かる負担さえも遠心力と共に楯無へと叩き込んだという事だった。
  なお、簪はその動きを為す事に精一杯でブレードを振るうのに力が一切込められてなかったが、動きで生まれた勢いによって生じた威力だけで楯無を吹き飛ばしたらしい。

「(今の内に...。)」

  楯無を吹き飛ばし、その隙に簪は叩き落された薙刀を回収しておく。
  先程の一撃は確かに強力だったが、SEを全て削りきれたとは簪は思わなかったからだ。

「(どれも、私が知る限りお姉ちゃんが経験した事のない攻撃方法。...でも、お姉ちゃんは国家代表。すぐに対応してくる。....だから、ここからは根競べ...!)」

  吹き飛ばされた際に生まれた砂煙の中から、攻撃の警告が現れる。
  それに従い、簪は接近しながら躱す。

「(お姉ちゃんに使えなくて、私が使えるモノ....やっぱり、“これ”しかない!)」

  先程までの動きとは違い、流れるように楯無に接近する簪。
  するり、するりと攻撃を躱しつつ接近してくる簪に、楯無も動揺する。

「(簪ちゃん、避けるの上手い!?...いえ、これは...!?)」

  更識家当主として、楯無は武術を扱っている。
  そのため、簪の動きの凄さにいち早く気づけた。

「くっ....!」

「...はっ!」

  先程までよりも避けづらく、鋭い一撃。
  それを、楯無は辛うじて避け、距離を取ろうとする。

  だが、その度に簪は流れるように接近し、間合いを取るのを許さない。

「(...でも、その動きはまだ未熟!)」

「っ!!」

  しかし、その動きに隙がまだあるのを楯無は見抜き、そこを突く。
  簪は、その攻撃に対して辛うじて躱す。

「しまっ....!」

「ちょっときついの、行くわよ!」

  躱す際に少し距離を取り、簪はそこで蒸し暑さに気付く。
  だが、気づくのが一歩遅く、簪は爆発に巻き込まれた。

  ...“清き熱情(クリア・パッション)”。水を操るナノマシンによって起こされた爆発だ。

「くっ....!」

「(...想定よりもダメージが少ない...。あそこからダメージを軽減したのね...。)」

  爆発の範囲から弾きだされるように出てきた簪は、そこまでダメージを負ってなかった。
  飛び退きつつ、“水”の動きで爆風を少しだけ切り裂いたからだ。
  ちなみに、直撃していたらSEは削りきられていた。

  ...しかし、それでもダメージは大きい。
  楯無も先程の一撃が効いており、互いにSEは残り少ない。

「(“水”の動きはまだ使いこなせない。そんな状態でお姉ちゃんと長期戦を繰り広げてたら動きを把握されて負ける!だから...!)」

「(簪ちゃんは恐らく短期決戦をしてくるはず。...私自身、長期戦に持っていける程余裕はない。...だったら、簪ちゃんの全てを受け止めるためにも...!)」

「「(次の一撃で決める!!)」」

  槍を、薙刀を構え、二人は一気に間合いを詰める。
  決着を付けるための最後の一撃。それが今、ぶつかり合った...!







「....本当に...本当に、強くなったわね...簪ちゃん...。」

「...お姉ちゃん....。」

「....でも、まだお姉ちゃんとして、負けないわよ♪」

  ...勝ったのは、楯無だった。

「私は更識家当主。...護りたい存在より弱かったら、意味ないでしょ?」

「.......。」

  ぶつかり合う瞬間、楯無は簪の動きを見抜き、クロスカウンターの要領で攻撃したのだ。

「....次は...負けないよ。お姉ちゃん。」

「...ふふ、次も負けないわよ。簪ちゃん!」

  楯無が簪の手を取り、二人は仲良くピットへ帰っていった。







       =ユーリside=



「(...よかったですね、簪さん...。)」

  私は改めて仲直りできた二人を見て、ただただそう思いました。

「...次はユーリちゃんの出番だ。」

「...分かっています。」

  桜さんが、緊張している私を落ち着かせるように肩に手を置きます。

「相手の機体名は“ゴルト・シュメッターリング”。通称“金色の蝶”だな。」

「...第三世代のIS...ですよね。」

  姉様も専用機を持っていた。...まぁ、エーベルヴァイン家は結構凄いですから。
  ...中身の質は別ですけど。

「特徴は蝶のように舞うのと、名前に見合った武装がある事だ。」

「...桜さん、説明はそこまででいいですよ。」

  恐らく機体のほとんどを知り尽くしてあるであろう桜さんの説明を、私は止めます。

「...そこからは、私自身の目で確かめます。」

「...いつになく強気だな。」

「私の手で、成し遂げたいですから。」

  母様のためにも、過去の私とは違うと証明するためにも。
  ...ここからは全て、私の戦いです。

「....頑張れよ。」

「はいっ!」

  桜さんに元気よく返事を返し、私はアリーナへと飛び立っていきました。





「...来たわね。出来損ない。」

「ええ。来ましたよ。....母様の名を穢した者を倒すため。」

  かつて、エーベルヴァインの歴史を母様に見せてもらった事があります。
  ...その歴史には、少なくとも姉様みたいな人物は存在していませんでした。

「...由緒正しきエーベルヴァインの血は、私が引き継ぎます!...母様の、エーベルヴァインの名は、私が守って見せます!!」

「思い上がらないで頂戴!出来損ないが!」

  私は変わる。その想いで、大きく宣言をする。
  それと同時に、試合が始まり、姉様が仕掛けてきた。

  鞭型の武装を用いた、舞うような動き。

「...その、程度...!」

  しかしそれを、私は同じく舞う様に躱します。

「あはは!結局避けてばかりじゃない!なら、存分に舞って、そして堕ちなさい!」

「....バルフィニカス!」

  目の前に来た回避できそうにない鞭を、バルフィニカスで切り払います。

「【....言い忘れていましたが、シュテル、レヴィ、ディアーチェ。...今回の戦い、あなた達のサポートはいりません。...私自身の力で勝ちます。】」

〈...了解しました。〉

〈ふむ...良い機会だ。自分だけの力を見極めてみるがよい。〉

  迫りくる鞭を切り払いながら、私は皆にそう忠告しておきます。

〈え~!ボクも一緒に戦いたいよー!〉

〈ええいレヴィ!空気を読まんか!〉

〈...なーんてね。頑張ってねユーリ!〉

  皆、分かってくれているようで、応援してくれました。
  ...これは、ますます負けられませんね!」

「(なるほど。さすが専用機を持つだけはあります。なかなか近づく事の出来ない、近距離も遠距離も対応できる鞭型の武装。....厄介ですね。“普通なら”。)」

  姉様の戦法を見て私はそう評価します。
  ...なにせ、私の身近には“普通”から圧倒的に離れた域にいる人がいるのですから。

「(この程度の攻撃、生身の桜さんの方が強いです!)」

  一度鞭を切り払い、少しの間が出来た瞬間。私は目を瞑り、バルフィニカスを肩に掛けるように持ち、構えます。

「観念したようね!じゃあ、大人しく...堕ちなさい!」

「......。一閃!」

  迫りくる鞭の気配を、荒波のように私は感じ取ります。
  それを、大鎌形態(スライサーフォーム)に変えたバルフィニカスで全て薙ぎ払います。
  “心に水を宿す”。...桜さん達のような本来の使い方はできませんが、限定的な事であるならば、その鞭の攻撃を全て薙ぎ払う程度、造作もありません!

「なっ...!」

「はぁぁあっ!!」

  鞭が切り払われ、動揺した所を一気に接近し、バルフィニカスで切り裂きます。
  ...ただ、エネルギー効率も考え、元の形態に戻していますが。

「っ...調子に乗るんじゃないわよ!!」

「っ...!」

  先程と違い、苛烈な鞭の攻撃が私に襲い掛かります。
  金色の、鱗粉のような物をまき散らしながら鞭を振う姉様。
  “水”の動きが出来ればあっさり躱せますが、今の私では...!

「くっ...!」

「あははは!!ほらほら!」

  バルフィニカスでいくらか切り裂きますが、凌ぎきれずに当たってしまいます。
  ただでさえ、この機体はSEを使う武装ばかりなので、いくらSEが多めでもこのままでは不利になるだけです...!

「(距離を...!そのためにも...!)」

  もう一度大鎌形態に変え、エネルギーの刃を飛ばして炸裂させます。
  それにより生じた煙幕に隠れ、私は姉様との間合いを大きく離します。

「...ルシフェリオン...!」

  その間にルシフェリオンを展開し、いつでも使えるようにします。

「(...バルフィニカスと違って、ルシフェリオンもエルシニアクロイツもエネルギーを使わないと大したダメージがありません。...ですから、ここからは無駄遣いと被弾は避けませんと...!)」

  煙幕を注視し、そこから現れる鞭を認識します。

「っ!」

  横から薙ぎ払われる攻撃を、私は体を横に倒すような動きで躱します。
  続いて縦に振るわれた攻撃も、そのまま回転するような軌道で鞭を躱します。

「(ここからは攻撃を相殺する事は難しい。だから、回避だけで隙を見つけます!)」

  斧のような効果も果たすバルフィニカスと違い、ルシフェリオンは杖です。
  桜さんならバルフィニカスと大差ない攻撃ができるでしょうけど、私には無理です。
  なので、ルシフェリオンで防ぐのはいざという時だけにしておき、回避に集中します。

「(...姉様の鞭の動きは大体わかりました。後は...。)」

  先程までの舞うような動きと違い、今の動きは非常に読みやすいものでした。
  激しさはこちらの方が上ですが、その分読みやすかったみたいです。
  なので、鞭を回避し、間合いを十分に取った所で...。

「パイロシューター!」

「っ!?」

  炎弾を放ち、鞭の動きを阻害します。
  その瞬間、私は瞬時加速を使い、姉様の懐へ飛び込みます。

「焼き尽くせ...!ブラストファイアー!!」

  急いで鞭を私に当てようとしますが、遅いです!
  炎の砲撃が、姉様を呑み込み、地面へと直撃します。

「っ....。」

  ...姉様も代表候補生は伊達じゃないらしく、引き戻していた鞭が当たっていました。
  ですが、今のでだいぶ削れたはずです...!

「.......?」

  ふと、そこで辺りに漂うモノが目に入ります。

「(...金色の...鱗粉...?)」

  そう、それは姉様が鞭を激しく振り回し始めた時から現れていた鱗粉。
  ...そんな鱗粉に、私は途轍もない危険性を感じました。

「.....喰らいなさい!!」

「しまっ....!?」

  先程の攻撃で吹き飛ばされ、鱗粉の範囲外に行った姉様がそう叫びます。
  それと同時に嫌な予感が膨れ上がり、咄嗟に防御態勢を取ります。

  ...瞬間、鱗粉が粉塵爆発の如く炸裂しました。







       =out side=





「ふふ、あはははははは!!!」

  鱗粉による爆発にアリーナが包まれる中、ユリアは高笑いしていた。

「あはは!所詮出来損ないね!あっさりやられたわ!」

  爆発による煙幕を見ながら、ユリアは勝利を確信する。

「ふふ...でも、まだ終わらせないわよ...。私に歯向かった事、後悔させてあげるわ!」

  そう言って、ユリアはおそらく地面に落ちたであろうユーリを探そうとする。
  しかし....。



「【...操縦者の一時気絶を確認。これより白兵戦モードに移ります。】」

「....え?」

  爆風の中からユーリの、しかし機械的な声が聞こえる。

「【SE消耗50%。内、“魄翼”展開に45%。改良を薦める。】」

「な....あ...!?」

  煙が晴れ、ユーリの姿が露わになる。
  だが、その白を基調とした機体は赤く染まり、ユーリの瞳は暗かった。
  そして、その背には赤黒い羽のように揺らめくナニカがあった。

「【対戦相手、ユリア・エーベルヴァインを確認。操縦者の記憶から印象をシミュレート....。個人的怒りにより、これより“八つ当たり”をします。】」

「な、なにを...!」

  機械的に喋るユーリ...いや、ユーリのような“ナニカ”。
  その言葉を一瞬理解できなかったユリアに、ソレは一気に接近した。

「っ...!?くっ...!」

「【遅い。】」

     ―――バチィイッ!!

  接近するソレに、ユリアは慌てて鞭を振うが、“魄翼”によってそれは弾かれた。
  そのまま、機体の手をユリアに翳し...。

「【呑み込め、ブラストファイアー。】」

  先程の砲撃よりも、一回り強力な砲撃が放たれた。

「あああああああああああ!!?」

  炎に呑まれ、叫ぶユリアを冷徹な目で見降ろすナニカ。
  もちろん、そんなユーリの変化をシュテル達が見過ごす訳もなく...。

〈ユーリ!どうしたというのだ!?しっかりせい!!〉

〈ダメです!彼女はユーリではありません!!〉

〈というかアイツにすっごい怒ってるよ!?〉

  ユーリに呼びかける三人だが、反応が返ってこない。

「【....少し、“怒り”が解消された。このまま“八つ当たり”を続行する。】」

〈ええい!いい加減にせぬか!!〉

  痺れを切らしたディアーチェが怒鳴るようにそう言う。
  そこで、ようやく反応が返ってきた。

「【...?AI達による呼びかけ...?....了解した。これより一時気絶させていた操縦者の意識を元に戻す...。】......ぇ、あれ!?」

  色が元に戻り、意識を取り戻したのか、ユーリが驚きの声を上げる。

〈ユーリ!目が覚めたか!?〉

「ディ、ディアーチェ?これは一体...?」

〈...分からぬ。〉

  ユーリにしてみれば、爆発に巻き込まれたと思ったら炎に呑まれたユリアを見下ろしている形になっているのだ。戸惑うのも仕方がない。

「(爆発を受けた瞬間、何か声が聞こえたような...?それに....。)」

  ふと、ISによって表示されてる情報に気になるモノがあった。

「(“自立白兵戦モード”....?)」

  そう、ユーリに見覚えのないシステムだった。
  尤も、その情報のすぐ横には“終了”と書かれており、終わっているのが分かる。

「(...とにかく、今は...。)」

「よく、もぉおおおおおお!!!」

「(姉様を倒す!!)」

  SEがまだ残っていたのか、鞭を振り回しユリアが襲い掛かってくる。

「エルシニアクロイツ。.....“アロンダイト”。」

「っ!?ぁああああああっ!?」

  それを、ユーリは落ち着いてエルシニアクロイツを展開し、一筋の砲撃を放つ。
  それは、ユリアのすぐそばで鞭に当たり、球状の衝撃波が炸裂した。
  ユリアは、あっさりと吹き飛ばされ、ついにSEを削りきられた。

〈勝者、ユーリ・エーベルヴァイン。〉

「...終わりましたね。」

  勝者を告げるシステムアナウンスに、ユーリがそう呟く。
  後味が悪い...と、言うより、謎が増えてしまった。
  そんな戦いの結果に、ユーリはあまり満足ではなかった。

「...とにかく、戻りましょうか。」

  ユーリはピットに戻ろうとし...気絶してなかったユリアに一度振り向く。

「...“出来損ない”に負けた者は、なんて呼ばれるのでしょうね?」

「っ....!」

「...さよならです。姉様...いえ、“ユリアさん”。」

  今までの恨みも混じっていたのか、皮肉を混ぜて、ユーリはそう言った。
  その言葉に対する反応を見る事もなく、ユーリはピットへと戻っていった。









 
 

 
後書き
鞭型の武装…“ケーニギンパイチェ”。伸縮がある程度可能な鞭で、近距離・中距離をこなせる万能武器。乱舞のように繰り出せば、攻防も備える事になる。

金色の鱗粉…ゴルト・シュメッターリングの最大火力。蝶から鱗粉が連想できたので、そんな感じの武装を付けました。名前は“華麗なる爆発(プレヒティヒ・シュプレンゲン)”。...ネーミングセンスは気にしないでください。

今回はここまでです。
次回でちょっと後日談をする予定です。 
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