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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~ 戦争回避成功ルート

作者:sorano
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第22話

~カレイジャス・ブリーフィングルーム~



「―――待たせたわね。さっきパパからの通信で新たな情報が入ったわ。内戦終結を望むユーゲント皇帝達にとってもそうだけど、正規軍にとってもとんでもない朗報よ?」

「え…………」

「……一体どういう内容なのでしょうか?」

意味ありげに笑みを浮かべるレンの言葉を聞いたアルフィン皇女は呆け、クレア大尉は真剣な表情で尋ねた。

「オルディス制圧から約2時間後にオルディス奪還の為にオルディス近郊に現れたオーレリア将軍率いるラマール領邦軍がメンフィル軍に戦う事なく”降伏”したとの事よ♪」

「な――――――」

「何だと!?」

「あのオーレリア将軍が剣を交える事無く”降伏”したのですか…!?」

「ほええええええ~~っ!?ど、どどどどど、どうやってあの”黄金の羅刹”を降伏させたの~~~!?」

レンの口から語られた驚愕の事実にユーゲント三世は絶句し、トヴァルとラウラは信じられない表情をし、ミリアムは混乱した様子で声を上げた。



「……その情報は本当なのでしょうか?私はかつてオーレリアにアルゼイドの剣を師事した事がありますが……あの者は例え劣勢であろうとも戦を諦めるような性格ではありませんが……」

「うふふ、”黄金の羅刹”率いるラマール領邦軍の部隊はユーディットって言う人の説得によって、降伏したとの事よ♪」

驚きの表情をしているアルゼイド子爵にレンは説明し

「ユーディット……?一体誰の事ですか?」

「ユーディット嬢というのはカイエン公のご息女にしてカイエン公爵家の長女に当たる方だ。確か”才媛”として社交界でも有名な存在で、カイエン公爵自身も自慢していた方だ。」

不思議そうな表情で質問するガイウスにユーシスは静かな表情で答え

「ええっ!?カ、カイエン公爵の娘!?」

「何で内戦の主犯の娘がオーレリア将軍を降伏させたんだ!?」

ユーシスの話を聞いたアリサとマキアスは信じられない表情で声を上げた。



「彼女の事は私の耳にも入っている……彼女と彼女の妹、キュア嬢は内戦を起こす事に反対し、内戦勃発後は自らの私財をなげうってまで民達に支援物資を送っているとの事だ。」

「そんな方があのカイエン公のご息女なのですか……」

「とてもあのカイエン公の娘とは思えないわね。」

オリヴァルト皇子の説明を聞いたリィンとサラ教官は驚きの表情で呟き

「で、でもどうしてそのカイエン公のご息女の方が領邦軍を降伏させたのでしょう?」

「確かカイエン公爵の家族も拘束したって言っていたよね?」

セレーネは戸惑いの表情で呟き、フィーは真剣な表情でレンを見つめて尋ねた。



「彼女と彼女の妹キュア嬢に関しましては情状酌量の余地もある事に加えて”戦争回避条約”にも当てはまらない為、危害を加えるつもりはなかったのですが……レン姫、一体どういう事でしょうか?」

フィーの質問に答えたシグルーンは不思議そうな表情でレンを見つめ

「パパの話によるとカイエン公爵家の存続とカイエン公夫人の助命、後はこれ以上犠牲者を出さない為に自らオーレリア将軍達の説得を申し出たそうよ。」

「あのユーディットさんが…………」

「オーレリア将軍達の為にも彼女は自ら降伏を促す交渉役を申し出たのですね……」

「……ユーディット嬢の噂は私も耳にした事はありますが、噂以上の方ですな。」

「社交界で会った時から素晴らしい淑女であると感じていましたが、私達の想像以上の方ですね……」

「……うむ。”鳶が鷹を産む”とはこの事であろうな。」

レンの説明を聞いたアルフィン皇女は目を丸くし、セドリック皇太子は複雑そうな表情をし、レーグニッツ知事は驚きの表情で呟き、プリシラ皇妃の言葉にユーゲント三世は静かな表情で頷いた。



「にしても一体どんな弁論であの”黄金の羅刹”達を降伏させたんだ?」

「うふふ、パパから一連の流れを聞いたけどそのユーディットって人、オルディスを制圧したヒーニアスお兄様達にオルディスに住んでいる領邦軍の家族を拘束して人質にするように提案したそうよ?」

トヴァルの疑問にレンは不敵な笑みを浮かべて答え

「な―――――」

「何ですって!?」

「りょ、領邦軍の家族を人質にするって……!」

「そ、そんな……あのユーディットさんがそんな事を提案するなんて……」

「……そうかしら?リィンとエリスを人質にしたカイエン公の娘らしいやり方だと思うわよ。」

「セリーヌ!」

レンの話を聞いたユーゲント三世は絶句し、サラ教官は厳しい表情で声をあげ、アリサとアルフィン皇女は信じられない表情をし、セリーヌの指摘を聞いたエマは声を上げた。



「まさかヒーニアス殿下達はその案を実行したんですか!?」

「ええ♪弁論だけで降伏する様子を見せなかったから人質を見せて、後ついでに戦艦の部隊を上空に待機させて、人質を見せた後に領邦軍の頭上に戦艦の部隊を見せたらオーレリア将軍は悔しそうな様子で声を上げた後無念そうな様子で降伏を指示したそうよ♪」

「……なるほどね。人質を見せた上、空からの砲撃準備がある事を思い知らされたら例え人質を無視しても自分達は”犬死”するとわかっていたから、”黄金の羅刹”も無念の降伏をしたんだ。」

「うわ~……そんなえげつないやり方、ボク達でもしないよ。」

「……………………」

血相を変えたリィンの問いかけに笑顔で答えたレンの話を聞いたフィーは厳しい表情をし、ミリアムは呆けた表情で呟き、アルゼイド子爵は重々しい様子を纏って黙り込んでいた。



「そ、そんな……罪もない民達を人質に取るなんて、余りにも卑劣ではありませんか!?」

セドリック皇太子は怒りの表情で反論したが

「クスクス、さっきも言ったように民達を人質に取る事を提案したのはユーディット・カイエンよ。それにそのお蔭でオーレリア将軍達は戦死せずにすんだのだから、結果的にユーディット・カイエンはオーレリア将軍達を救ったし、ユーディット・カイエンはこれ以上犠牲者を出さない為にも心を鬼にして、その提案をしたと言っていたとの事よ。」

「それは………」

「………………」

「……念の為に聞いておくけどオーレリア将軍達が降伏した後は、人質達は解放してくれたんだよね?」

レンの指摘を聞くと黙り込み、ユーゲント三世は目を伏せて黙り込み、オリヴァルト皇子は真剣な表情で尋ねた。



「ええ、人質達は当然解放したわよ。ああそうそう。ちなみにユーディット・カイエンはクロスベルや戦争回避条約の件を知った際、新たな”祖国”であるクロスベルに忠誠を誓って、妹と一緒に働くつもりだって言っていたそうよ?」

「ええっ!?ど、どうして彼女達が……!?」

「……恐らくはカイエン公爵家を存続させる為かと思われます。」

「……………」

「あらあらまぁまぁ……フフッ、ちゃんと自分達の立場がわかって行動している事に加えて優秀で従順な人達は私も好きだし、そんな人達は勿論重用するつもりよ?将来が楽しみな人達が来てくれて、私達も助かるわ♪」

ルイーネを見つめて言ったレンの話を聞いて驚いているプリシラ皇妃にラウラは説明し、ユーシスは複雑そうな表情で黙り込み、、ルイーネは微笑み

「それとカイエン公爵家を存続させる事を含めた自分の”希望”を叶える為にヴァイスお兄さんとの交渉を求めていて、ヒーニアスお兄様がその嘆願に応えたとの事よ♪」

「え”。よ、よりにもよってヴァイス様にですか…………?」

「た、確かに状況を考えるとその選択が一番正しいかと思われるのですが……」

「うふふ、その時どんな展開になるのか、お姉さん、もうわかっちゃったわ♪」

(お父様ですとそのユーディットという方に自分の”女”になる事とかを冗談抜きで条件に出しそうですわ……)

レンの説明を聞き、ヴァイスの性格を考え、まだ見ぬユーディットがどのような事になるのか既に察したマルギレッタとリ・アネスは表情を引き攣らせ、ルイーネは微笑み、メサイアは疲れた表情をしていた。



「さ・ら・に♪”結社”も”貴族連合”と手を切って、今回の内戦から手を引いたそうよ♪」

「な――――――」

「ええっ!?」

「何ですって!?」

「ほええええええ~~っ!?あの”結社”が逃げたの!?」

「ね、姉さん達が”貴族連合”と手を切ったというのは本当なのでしょうか!?」

笑顔を浮かべるレンの口から語られた驚愕の事実を聞いたオリヴァルト皇子は絶句し、エリオットとサラ教官、ミリアムは驚きの表情で声をあげ、エマは信じられない表情で尋ねた。



「ええ。ラマール領邦軍に紛れ込んでいるメンフィルの諜報員の報告では今回のメンフィルの襲撃によって受けた大損害をカイエン公から責められて、それが切っ掛けで口論になってカイエン公と仲違いしてね。更にユーゲント皇帝達がオリヴァルト皇子達に奪還された事や”黄金の羅刹”が降伏した件を知るとその場で”結社”は”貴族連合”と手を切る事を宣言して転移魔術で去ったそうよ?」

「おいおいおい……!”結社”まで手を引くとか、一体どうなっているんだ!?”リベールの異変”の件を考えると、連中はどんな事があっても”計画”とやらの成就を重視しているんだぞ!?」

「……恐らくは今の貴族連合の状況ではその”計画”の成就すらも不可能であると判断したのかと思われますわ。加えて”リベールの異変”の時と違い、”計画”の途中であるにも関わらず既に”結社”の被害は甚大な事になっています。”執行者”―――それも”結社最強”と恐れられている”劫炎”の死亡という損失は”結社”にとって相当な痛手です。これ以上貴族連合に協力すれば、自分達の命も危険と判断しての事かもしれませんわね。」

「…………引っ掻き回すだけ引っ掻き回しておいて、自分達が不利になったら後始末もしないで逃げ去るなんて、ヴィータらしいわね。」

「この内戦でもう姉さんと会えないのかしら……?」

レンの説明を聞いて信じられない思いでいるトヴァルにシャロンは静かな表情で説明し、セリーヌは呆れた表情で呟き、エマは複雑そうな表情をしていた。



「ちょ、ちょっと待ってください!クロチルダさんが”貴族連合”と手を切ったという事はまさかクロウもですか!?」

「あ…………」

「そう言えばクロチルダさんはクロウさんを導いた”魔女”ですものね……」

リィンの質問を聞いたアリサは不安そうな表情をし、セレーネは辛そうな表情で呟き

「ええ。”蒼の深淵”の転移魔術によってその場から消えたとの事よ。ちなみに自分の手で内戦を終結させたいみたいな発言をしていたそうだけど、”蒼の深淵”に諭されて断腸の思いで”貴族連合”から手を切る事を決めたらしいわよ?」

「そんな……!あの時俺の前で口にした”勝負”も逃げたら、俺との”約束”すらも果たせないぞ、クロウ…………ッ!」

「リィンさん……」

「兄様……」

「フン……自分達の状況が不利になったからと言って尻尾を巻いて逃げるとは。まさか奴がそんな情けない男だったとはな。」

「”貴族連合”の状況を考えれば、先輩の判断も当然と言えば当然だが……」

「クロウ君…………」

「クロウはこれからどうするつもりなんだろう……?」

レンの説明を聞いて唇を噛みしめているリィンをアルフィン皇女とエリスは心配そうな表情で見つめ、ユーシスとマキアスはそれぞれ複雑そうな表情をし、トワとジョルジュはそれぞれ辛そうな表情をしていた。



「”帝国解放戦線”のリーダーである”C”が”貴族連合”と手を切ったという事は、まさか”帝国解放戦線”の幹部やメンバーたちもでしょうか?」

「さあ?その場にいたのは”C”だけだったそうだから、それについてはわからないわ。ただ”結社”の”幻焔計画”の件を考えると”蒼の騎神”は何らかの形で”灰の騎神”との勝負を仕掛けて来ると思うから、”蒼の騎神”についてはあまり楽観視しない方がいいと思うわよ。」

「え……………」

「何故そこでヴァリマールとオルディーネが出て来るのでしょうか?」

クレア大尉の質問に答えたレンの話を聞いたリィンは呆け、ガイウスは不思議そうな表情で尋ねた。

「”結社”によるエレボニアでの幻焔計画”の真の目的とは”蒼の騎神”と”灰の騎神”の勝負の舞台を整え、その勝敗を見届ける事だとの事です。」

「ええっ!?」

「意味不明だし。」

「……相変わらず何を考えているか、わからないわね……」

「ふむ……ヴァリマールとオルディーネの勝負を見届ける事が”結社”にとって一体何の意味があるというのだ……?」

「一体何を考えてそんな事をするのかしら、ヴィータは。」

シグルーンの説明を聞いたセドリック皇太子は驚き、フィーとサラ教官は呆れた表情をし、ラウラとセリーヌはその場で考え込み

「で、でもその話が本当だったら、いつか必ずクロウが私達の前に現れるって事よね……!」

「はい……恐らく姉さんもその時に……」

「あ…………」

アリサとエマの話を聞いたリィンは明るい表情をした。



「うふふ、敵対関係であるとは言え、かつての仲間との勝負ができる事に嬉しがっているなんて、若いわね♪」

「……私も彼らの気持ちは何となくですが理解できます。」

「フフ、リ・アネスは”騎士”だから、そう言った約束事を大切にしているものね。」

リィン達の様子を見守っていたルイーネは微笑み、リ・アネスの言葉を聞いたマルギレッタは微笑んでいた。


「うふふ、今の話も含めてこれでわかったでしょう?”貴族連合”は既に”追い詰められている立場”である事を。”貴族連合”でまだ残っている厄介な存在は”黒旋風”だけど、所詮はたった一人の将の上”総参謀”であったルーファス・アルバレアや”黄金の羅刹”と比べれば脅威度は下がるわ。これなら内戦当初から不利な状況であり続けた正規軍でも勝てるでしょう?……というかもしこれで勝てなかったら、メンフィルが現れるまで”大陸最強”の名を冠していた帝国正規軍の練度を本気で疑うわよ。」

「それはそうなのですが………………」

「……ま、確かに”殲滅天使”の言っている事は正論だね。」

「そだね~。”黒旋風”が強いのは確かだけど、あの二人と比べたらそんなに怖くないよね~。」

レンの話を聞いたクレア大尉は複雑そうな表情で言葉を濁し、フィーとミリアムはそれぞれ静かな表情で呟いた。



「さてと。色々と話が逸れてしまったけど現時点での”戦争回避条約”の実行はどうするつもりなのかしら?」

「…………私とプリシラがメンフィルの保護を受け入れる事を実行する。」

「陛下……」

「………………」

「あなた……あなたがそう決めたのならば、私もそれに従います。」

レンの問いに答えたユーゲント三世の答えを聞いたレーグニッツ知事は複雑そうな表情をし、アルゼイド子爵は目を伏せ、プリシラ皇妃は静かな表情で頷き

「…………でしたらレン姫。俺も俺自身の事を示した”妥協案”を実行しますので、エレボニアがメンフィルに対して”誠意”を示したという事で、”戦争回避条約”の条約内容の一部を緩和して頂けないでしょうか?―――お願いします!」

「ユーシス…………」

レンに申し出るユーシスをラウラは心配そうな表情で見つめた。



「”妥協案”なのに緩和を頼むなんてずうずうしいわねぇ……ま、ユーシスお兄さんの言っている事も一理あるし、一応聞いてからどうするか考えるわ。それで?どの条約内容を緩和して欲しいのかしら?」

ユーシスの申し出に呆れていたレンだったがすぐに気を取り直してユーシスを見つめた。

「”戦争回避条約”の”第一項”に記されてあるカイエン公達の引き渡しがありますが……”蒼の深淵”の引き渡しができなかった際、その件については見逃すという事にして頂けないでしょうか?」

「え……ね、姉さんをですか!?一体何故……」

ユーシスの話を聞いたエマは驚き

「……先程のレン姫の情報通りならば”蒼の深淵”は今後内戦に一切関わらず、他国に潜伏していると思われます。それを考えれば現状エレボニアが彼女を拘束してメンフィルに引き渡す事はほぼ”不可能”と言っても過言ではありません。」

「あ…………」

そしてクレア大尉の推測を聞くと呆けた後複雑そうな表情をした。



「……………ま、対価としては妥当な所ね。―――いいわ。その件については後でパパやシルヴァンお兄様達に説明して、説得してあげる。メンフィル現皇帝シルヴァン・マーシルンの名代メンフィル皇女レン・H・マーシルンの名の元にユーシス・アルバレアが自身に課せられた”妥協案”を呑む代わりに、エレボニアによる”蒼の深淵”ヴィータ・クロチルダの引き渡しが不可能だった場合、その件についてはメンフィルは責めない事をこの場で確約します。――――ここまで言えば満足かしら?」

「ありがとうございます……!レン姫の寛大なお心に心から感謝致します……!」

「でしたらレン姫!わたくしもユーシスさん同様わたくしの事を示した”妥協案”を実行しますので、”戦争回避条約”の条約内容の緩和をお願いします!」

「ア、アルフィン!?」

「姫様……」

ユーシスがレンに感謝の言葉を述べるとアルフィン皇女が申し出、アルフィン皇女の申し出を聞いたセドリック皇太子は驚き、エリスは心配そうな表情をした。



「うふふ、まさかアルフィン皇女も申し出るなんてね。それでアルフィン皇女は何が望みなのかしら?」

「その……可能ならば”第2項”によってメンフィルにエレボニアの領地を贈与する事になっていますが………少しでも構いませんので、緩和――――エレボニアがメンフィルに贈与する予定であった領地を返還してください……!」

「ハア……さすがにそれだと対価になっていないわよ?”救済条約”によって既に4つの条約内容が消滅して、更に一つの条約内容が緩和される事が決まっているのだから。」

アルフィン皇女の嘆願を聞いたレンは呆れた表情で溜息を吐いた後指摘した。

「―――でしたら”救済条約”によって消滅する条約内容の一つを放棄し、更に”救済条約”の条約内容の一つも放棄しますわ!それならば対価になるかと思いますわ!」

「ええっ!?」

「ア、アルフィン!?一体何を……!」

「”救済条約”によって消滅する条約内容を放棄して更に”救済条約”の内容も放棄するって……!」

「”戦争回避条約”の第3、4、9、10項のどれかを実行するという事になる上、”救済条約”の条約内容のどれかも消滅するという事だろうね……」

アルフィン皇女の話を聞いたセドリック皇太子とプリシラ皇妃は驚き、トワは表情を青褪めさせ、ジョルジュは重々しい様子を纏って呟いた。



「うふふ、”そう来る”とはね。少しは交渉事に関してわかってきたじゃない♪それで”救済条約”で消滅するはずだった戦争回避条約のどれを実行して、”救済条約”のどれを消滅させるのかしら?」

「まず”戦争回避条約”の件ですが、”第9項”を実行致しますわ!」

「”第9項”というと……エレボニアが”帝国”の名を捨てる件か。アルフィン、理由を聞いてもいいかい?」

「”帝国”の名を捨てるだけでエレボニアの領地が返還されるのであれば、安いものだと思っています。それに今回の内戦とメンフィル、クロスベルとの戦争によって衰退する事が決定し、挙句の果てには”ハーメルの悲劇”を隠蔽していた事……これらの件を考えればエレボニアにもはや”帝国”を名乗る資格等ありませんわ。」

オリヴァルト皇子の問いかけにアルフィン皇女は静かな表情で答え

「アルフィン…………」

「殿下…………」

「「………………」

アルフィン皇女の答えを聞いたセドリック皇太子とレーグニッツ知事は複雑そうな表情をし、アルゼイド子爵とユーゲント三世は目を伏せて黙り込んでいた。



「娘があんな事を言っているけど、父親であり、この場で決定権がある肝心の皇帝の意見はどうなのかしらねぇ?」

レンは意味ありげに笑みを浮かべてユーゲント三世を見つめ

「あ…………」

レンの問いかけを聞いたアルフィン皇女は辛そうな表情でユーゲント三世を見つめた。

「……アルフィンの言う通りだ。ただ”帝国”の名を捨てるだけで、少しでも領地が戻ってくるのであればこちらも望む所。それに”ハーメルの悲劇”を隠蔽した責任も取る必要がある。―――よく決心し、私より早くそれを口にしてくれた、アルフィン。」

「少し見ない内に成長しましたね……」

「お父様……お母様………」

ユーゲント三世とプリシラ皇妃に微笑まれたアルフィン皇女は目を丸くし

「…………―――それで?更に”救済条約”の内容も一つ放棄するって言っていたけど、どれを放棄するのかしら?」

真剣な表情でアルフィン皇女を見つめていたレンは話を続けて問いかけた。



「それはリィンさんとわたくしの間に産まれた子供の”皇位継承権”を”アルノール家”が望まない限り、存在しないとされる件ですわ!」

「で、殿下!?一体何を………!?」

アルフィン皇女の申し出を聞いたリィンは驚き

「……リィンさんは将来はシュバルツァー家の跡を継ぎ、クロイツェン州を治める方。―――つまり広い意味で言えばメンフィル帝国の役人です。その役人の子供が他国の”皇位継承権”を持っている事は、メンフィルにとっても”利”となると思いますわ。」

「へえ…………中々目の付け所がいいわね。―――でもそれがエレボニアにとってとんでもない爆弾に発展する可能性がある事は理解しているのかしら?」

アルフィン皇女の答えを聞いたレンは感心した後、不敵な笑みを浮かべて問いかけた。



「ば、爆弾に発展する可能性ってどういう事ですか!?」

「アルフィン殿下はエレボニアの皇族なのですから、その子供に皇位継承権はあって当然だと思うのですが……」

レンの問いかけを聞いたアリサは血相を変え、エリオットは不安そうな表情をし

「……”皇位継承者”争いが起きる可能性がある事をレン姫は指摘しているのだと思いますわ。」

「その通りよ。しかもリィンお兄さんはエレボニアにとって”英雄”になる可能性が非常に高い上アルフィン皇女と共に内戦終結に向けて活動するのだから、下手したらセドリック皇太子より二人の子供か、アルフィン皇女が次の皇帝になるべきだっていう声が出て来る可能性があると思うわよ?」

「それは…………」

「………………」

「……あくまで可能性の話です。それにセドリック殿下もアルフィン殿下と共にこの”紅き翼”で活動するのですから、そのような事になる発展する可能性は低いと思われます。」

「確かにそうですな……”帝国の至宝”と称えられているお二人が活動なさるのですから、知名度は対等です。」

セレーネの推測に頷いたレンの話を聞いたラウラは複雑そうな表情で辛そうな表情で黙り込んでいるセドリック皇太子を見つめ、静かな表情で語ったアルゼイド子爵の言葉にレーグニッツ知事は頷いた。



「―――アルフィンの言っていた通り”救済条約”の二人の子供の”皇位継承権”を放棄する件も放棄する。」

「お父様…………!」

「本当にいいのかしら?今じゃなくても、将来セドリック皇太子の子孫とアルフィン皇女の子孫もそうだけど、ひょっとしたらオリヴァルト皇子の子孫もそれぞれ皇位継承争いをして、”獅子戦役”や今みたいに内戦に発展する可能性だってあるわよ。」

ユーゲント三世の決定にアルフィン皇女が明るい表情をしている中、レンは真剣な表情で問いかけた。

「何度も言っているように”庶子”である私に皇位継承権はない。だから私の子孫が皇位継承争いに加わる事は絶対にない。」

「……それを決めるのは私ではなく、その時代の者達。それにもし皇位継承争いによって内戦に発展したとしても、アルフィンの子孫を有しているメンフィルが早期に収めるのではないか?」

「………うふふ、その時はその時で対応を考えるとだけ言っておくわ。――――ただ言っておくけど、緩和するとしてもラマール州とノルティア州の一部については緩和されないわよ。ラマール州とノルティア州の一部についてはクロスベルに贈与する事になっているし。」

オリヴァルト皇子の後に答えたユーゲント三世に問いかけられたレンは意味ありげな笑みを浮かべた後話を続けた。



「ちなみにノルティア州の一部についてですが、”ルーレ”を含めた”ラインフォルトグループ”の大きな工場がある領地になっていますわ。」

「狙いは”ラインフォルトグループ”ですか………」

「そりゃ”ラインフォルトグループ”が納める税収もそうだけど、兵器を含めた鉄鋼業の生産力とか新興の国であるクロスベルからしたら絶対手に入れたいよね~。」

「………………」

「アリサさん……」

ルイーネの話を聞いたクレア大尉は厳しい表情をし、ミリアムの推測を聞いて複雑そうな表情をしているアリサをエマは心配そうな表情で見つめた。



「……しかしそうなるとクロイツェン州も返還する気がないんじゃねぇのか?リィンをクロイツェン州の統括領主にするつもりだしな。」

「残りはサザーランド州の一部という事になってしまいますが……」

トヴァルの話を聞いてある事に気付いたエリスは複雑そうな表情をし

「それを決めるのはパパ達よ。さすがに領地の返還となると、レンでは判断しきれないから、その件については一端”保留”という事にして後で知らせて、その時に誓約書にサインをするかどうか判断してもらう事にするわ。」

「あ、ありがとうございます……!」

レンの答えを聞いたアルフィン皇女は明るい表情で頭を下げた。



「……内戦やメンフィルとの外交問題とは若干外れる形になるけど、例の”教団”の件はその娘に教えた方がいいんじゃないかしら?その娘にとっても他人事じゃないから、何らかの便宜を量ってくれるかもしれないわよ。」

「あ……っ!」

「そう言えばその件もあったね。」

セリーヌの指摘を聞いたエリオットは声をあげ、フィーは真剣な表情で呟いた。

「……”教団”?レンが関係しているって事はまさか”D∴G教団”の事?なに?もしかしてクロスベルの時みたいにエレボニアにも”D∴G教団”の生き残りがまだいたのかしら?」

「――いや、正確に言えば”生き残り”ではない。実は―――――」

眉を顰めて首を傾げるレンの問いかけに対し、オリヴァルト皇子はカレル離宮で会ったヨアヒムの亡霊の事を説明した。 
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