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青砥縞花紅彩画

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30部分:極楽寺山門の場その三


極楽寺山門の場その三

弁天「これでよし。手前は地獄に落ちやがれ(そして悪次郎を前に蹴る。悪次郎は前に転がり落ちて消えていく)」
弁天「手間かけさせやがてって。さて盗人に高い場所は相応しいと言えどここに留まるわけにゃあいかねえ。帰らせてもらうか」
 だがここで下から掛焔硝と共に太鼓の音が。
弁天「むっ」
 下から捕り手達がわらわらと出て来る。
捕一「弁天小僧、神妙にいたせ」
捕ニ「もう逃げられはせんぞ」
 彼等はさす股や棒を持って現われる。そして弁天を取り囲む。
弁天「させるかい」
 それでも弁天は負けない。彼等を相手に五分以上に渡り合う。だがここで香合を落としてしまう。
弁天「しまった」
捕一「今だっ」
 それを素早く拾い取り下に放り投げる。これを見た弁天は観念しだす。
弁天「おのれ」
捕一「どうするつもりだ」
捕ニ「まだやるか」
弁天「こうなっちゃあ致し方ねえ。故主の姫様をかどわかした罪滅ぼしにやっと手に入れた香合を滑川に落とされたとあっちゃあもう観念するしかねえ。地獄の閻魔様にこの弁天小僧菊之助の名前、とくと覚えてもらうとするか」
 そう言うと刀を取り直す。
弁天「見やれい、これが白浪の最後よ」
 立ち腹を切る。これで場は止まる。弁天はその姿勢のまま見得を切っている。ここで暗転。本来ならばがんどう返しが望ましい。
 極楽寺山門の場。日本駄右衛門がまるで石川五右衛門の様な格好で悠然と辺りを眺めている。
日本「ほうほう、来たか」
 彼は辺りを満足そうに見ている。
日本「このわしを捕らえようとは殊勝なこと。だがそうそう上手くはいくかな」
 ここで左右からそれぞれ手下が出て来る。関戸の吾介と岩淵の三次である。
日本「おお、わざわざここに来てくれたのか」
関戸「へい、頭が気になりやして」
三次「お助けに参りました」
日本「有り難いがこの程度ではわしは捕らえられぬぞ。わしを捕らえようと思えばそれこそ一万は必要じゃ(そう豪語して大いに笑う)」
関戸「いえ、そうはさせませぬぞ」
日本「何!?」
三次「頭、お覚悟」
 左右から捕らえようとする。だが彼はそれを見事に切り倒す。
日本「どうやら裏切ったようじゃが残念であったな。わしを相手にするのは力不足じゃな。冥土の土産にわしの剣捌きを持って行くがいい」
関戸「どうせ弁天様の後追いになりやすがね」
日本「どういう意味じゃ」
三次「この屋根上で立ち腹切ったんでさあ、あれが冥土の一番乗り」
日本「何と。弁天がか」
関戸「じゃあ頭」
三次「あの世で御会いいたしやしょう」
 こうして二人は息絶える。駄右衛門話を聞き思い入れあって。
日本「二十五の暁を待たずして散ったというのか。何ということじゃ」
 だがここで左手から悠然と青砥藤綱がやって来る。彼は大紋に立烏帽子、中啓という立派な出で立ち。
日本「むっ、これはまさか」
青砥「左様、それがしが青砥藤綱である。知っていような」
 その後ろには捕り手達が大勢いる。彼が統領であるのは言うまでもない。
青砥「日本駄右衛門よ」
日本「はい」
青砥「弁天小僧は生きておるぞ」
日本「まことでござるか」
青砥「立ち腹を切った時に捕らえしが他の三人により救い出された。傷は浅く逃げて行ったわ」
日本「左様であったか。それはよきかな」
青砥「そして香合は拙者が預かった。千寿姫も助けておる」
日本「何と。生きておったか」
青砥「川に飛び込みしが運良く救い出されたのじゃ。そして信田の家の疑いも晴れた。何れ復権されるであろう」
日本「何ということじゃ。よいことづくめではないか」
青砥「しかしお主をここで見逃すわけにはいかぬ。覚悟はよいか」
日本「いや、それは適いませぬぞ」
青砥「何故じゃ」
日本「この五人男、捕まる時と死ぬ時は同じと誓っております故。申し訳ござらぬがここは退かせて頂きましょう」
青砥「さすればどうするか。この捕り手の中を」
日本「あいや、心配ござらぬ。ほれこの通り」
 舞台が煙に包まれる。そしてそれが消えた時には駄右衛門の姿は消えている。
日本「(声だけ)さすればこれにて御免。また御会いしましょうぞ」
青砥「むっ、何処へ行くか」
日本「稲瀬川におりまする。さすればそこで」
青砥「捕らえてしんぜよう」
日本「では拙者は逃げるまで。よろしいか」
青砥「望むところ。それでは」
日本「また御会いいたそう」
青砥「むむむ」
 駄右衛門の気配が消えていくのを感じている。彼はそれを感じいたしかたなく左手を眺める。
青砥「稲瀬川で五人を捕らえようぞ」
一同「はっ」
 青砥を中心に見得を切る。ここで拍子木、そして幕。
 
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