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青砥縞花紅彩画

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3部分:新清水の場その三


新清水の場その三

赤星「浪人か。わしと同じか」
頼母「待て、その声は」
赤星「(こちらもその声に気付き)むっ」
頼母「十三郎ではないのか」
赤星「その声は」
頼母「(編み笠を脱いで顔を見せる)わしじゃ」
赤星「叔父上、どうしてここに」
頼母「うむ、実はちょっと用事があっての」
赤星「用事」
頼母「ぞうじゃ、それにしてもよいところで会うた。その用事を手伝って欲しいのじゃがよいか」
赤星「他ならぬ叔父上の頼みなら」
頼母「よし、では言おう。実はわしは今信田様の後後室を御守りしておるのじゃ」
赤星「生きておられたのですか」
頼母「うむ。この前偶然巡り会うた。幸運なことじゃった」
赤星「それは何より」
頼母「ところが御苦労がたたったのか今病に臥せておられるのじゃ。かなり重い病でのう」
赤星「大丈夫でございますか」(心配そうに尋ねる)
頼母「(渋い顔をして首を横に振りながら)難しいの。日に日にやつれていっておられる。わしも貧しい中で何とかいたしておるのじゃが」
赤星「左様ですか」
頼母「薬があれば御命は救われるのじゃがな。如何せん金がない」
赤星「どれだけ必要なのですか」
頼母「かなりの額じゃ」
赤星「どの程度で」
頼母「百両程じゃ。今のわしにはとても。それを何とか工面してもらいたいのじゃ」
赤星「拙者の力を」
頼母「うむ、そなたの剣はかなりの技じゃ。それで悪党でも懲らしめてその報酬でも手に入れてもらいたいのじゃ」
赤星「拙者の力を」
頼母「うむ、そなたの剣はかなりの技じゃ。それで悪党でも懲らしめてその報酬でも手に入れられぬか。丁度今この辺りで日本駄右衛門という盗賊が暴れておるが」
赤星「日本駄右衛門ですか」
頼母「うむ、お主ならあ奴を成敗することもできるのではないか」
赤星「そうしたいのはやまやまですが(残念そうに首を振って答える)」
頼母「無理か」
赤星「はい、日本駄右衛門は盗賊ながらその名を天下に知られた男、その剣もかなりのものと聞いております」
頼母「それ程凄いのか」
赤星「伝え聞くところによるとこれまで多くの捕り方に囲まれたことが幾度もありましたがその度にその剣で逃げおおせているとのことです」
頼母「それは凄いのう」
赤星「そしてその下には忠信利平という者もおりますがこの男もかなりの腕前と聞いておりまする」
頼母「まだおるのか」
赤星「はい、しかもその手下は一千余り、とても拙者一人で太刀打ちできるものではございません」
頼母「そうか、では仕方ないな」
赤星「他の方法しかないでしょう」
頼母「ではどうしたらよいか」
赤星「他にないわけではないですぞ」
頼母「というと」
赤星「はい、何しろ今まで色々と歩いてきましたから。心当たりがないわけでもありません」
頼母「(それを聞いて急に顔が明るくなる)それはまことか」
赤星「はい、嘘ではありませぬ」
頼母「では頼めるか、そなただけが頼りじゃ」
赤星「お任せください(胸を叩くがやや軽い)」
頼母「では頼むぞ。わしはわしで動く故な」
赤星「はい」
 こうして二人は別れる。頼母は舞台から消え赤星だけになる。
赤星「さて、問題はこれからじゃ。受けたもののやはり百両ともなるとどうしたものか」
(首を捻って考える)
赤星「やはり日本駄右衛門を倒すしかないかのう。まともに刀を交えて勝てる相手とは思えぬがそれしかあるまい」
赤星「(ここでハッとする)待てよ」(右手に顔を向ける)
赤星「そうじゃ、ここは寺じゃった。とりあえずは神頼みといこう」(そして右手に向かう)
赤星「参拝してみよう、そうすれば御加護が得られるかも知れん」
 そして赤星は消える。入れ替わりに千寿姫と侍女達が左手から出て来る。
侍女「姫様、元気になられましたか」
千寿「(微かに微笑みながら頷いて)はい」
千寿「ようやく落ち着いてきました」
侍女「それは何より。皆心配しておりました故」
千寿「心配をかけました」
侍女「いえいえ、姫様が元気になられて何よりです。ところで」
千寿「はい」
侍女「香合はお持ちですね」
千寿「ええ、ここに(手に持つ箱を見せる)」
侍女「それならばよろしいです。近頃この辺りを荒らす盗人共が出ておりますから」
千寿「盗人」
侍女「はい、日本駄右衛門とその一党です。千人余りの大盗賊だそうです。あの者達が何処にいるかわかりませんから御気をつけ下さい」
千寿「わかりました」
侍女「それでは辺りを御覧下さい。素晴らしい眺めでしょう」
千寿「そうですね、まるで鎌倉が全て見渡せるようです」
侍女「金沢の能見堂、そして入海。そちらが」
千寿「江の島の弁天様ですね。あそこが八幡様」
侍女「左様です、よく御存知ですね」
千寿「話に聞いておりましたから。それにしても何と美しい」
 二人は次第に右手に寄る。そして左手から二人の若い男が出て来る。
 
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