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兎を追い掛けて 

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第一章

                 兎を追い掛けて
 不思議の国のアリスは当然ながらイギリスでも広く読まれている、作者がそのイギリス人であっただけに。
 それでだ、キャロル=プランタジネットは姉のメアリーに休日の三時のお茶を楽しみながらこんなことを言った。
「何かアリスの世界って不思議よね」
「何かごちゃごちゃしてるわよね」
 メアリーもこう返す。二人共見事な少し癖のあるブロンドの髪にアイスブルーに近い青の瞳を持っている。睫毛は長く眉は細い。どちらも白く透き通った肌の細面だ。小さな唇は薔薇色だ。
 ただまだ十二歳のキャロルと違い十七歳になっているメアリーは背が高くスタイルもいい。二人共ラフなジーンズにシャツだがスタイルの差は歴然としている。
 その姉がっだ、妹に言葉を返した。
「次から次に色々出て来て」
「そうよね、鏡の国の方は特に」
「あれはね」
「あれは?」
「寓話だから、風刺の」
 メアリーは冷めた口調でキャロルに話した。
「ああした作品世界なのよ」
「確か当時の我が国のよね」
「そう、風刺だから」
「ああした不思議な世界で」
「次から次に色々出て来るのよ」
「そうなのね」
「そう、まあそうした作品としてね」
 認識してというのだ。
「読むものよ」
「難しく?」
「難しく考えずによ」
「楽しく読めばいいのね」
「堅苦しく読んでも面白くないでしょ」
 ミルクティーを飲みつつだ、メアリーは自分と同じものを飲んでいるキャロルに言った。
「何も」
「まあね、疲れるだけで」
「読んで疲れるのは教科書だけでいいわ」
「堅苦しく読んで」
「一字一句頭に叩き込みながらね」
「そういうことね」
「そう、あの小説は面白く楽しんで読むべきよ」 
 不思議の国のアリス、この作品はというのだ。
「当時の我が国のこととか言葉遊びとか詩とかね、あとはね」
「後は?」
「作者さんのこととか」
「そのルイス=キャロルさんの」
「あの人絶対にロリコンだから」
 笑ってだ、メアリーはキャロルに話した。
「小さな可愛い女の子が主人公でしょ」
「アリスね」
「あの書き方読むとよ」
「キャロルさんはロリコンだったの」
「そう思うわ、だからあんたキャロルさんと会ったら注意しなさいよ」
 十二歳の時の自分そのままの妹への言葉だ。
「言い寄られるわよ」
「あのもうお亡くなりになったわよ」
「それでもよ。注意しなさいよ」
「ロリコンにはなのね」
「そう、危険な男にはね」
 笑って妹に言うイギリス、カンタベリーの休日の午後だった。その午後はミルクティーとティーセットで過ごし終える筈だった。
 しかしだ、二人が見ている家の庭にだ。
 不意にだ、シルクハットにタキシードを来て。
 左目に片眼鏡をかけた白い兎が出て来てだ、前足に懐中時計を持ちながらそのうえで走りながら言っていた。
「遅刻だ遅刻だ」
「姉さんあの兎」
 キャロルはその兎を見つつ姉に言った。
「まさかと思うけれど」
「うち映画の撮影受けてないでしょ」
 これがメアリーの返事だった。 
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