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青砥縞花紅彩画

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28部分:極楽寺山門の場その一


極楽寺山門の場その一

              第五幕  極楽寺山門の場
            滑川土橋の場
 後ろは練塀、松の木が左右に並んでいる。そして左手にはよなき蕎麦屋がある。そして卵売りと蕎麦屋が話をしている。
玉子「おうい」
蕎麦「何じゃ」
玉子「最近は店を閉めるのが早くはないか」
蕎麦「そらそうじゃ。この寺にあの日本駄右衛門が隠れているというのは聞いておろう」
玉子「それはまことか」
蕎麦「おう、だからわしも用心しておるのじゃ。何でも最近この辺りには駄右衛門の手の者がうろうろしているそうじゃからな」
玉子「というとあの五人男か」
蕎麦「その通り、しかも五人全員揃っておるそうじゃ」
玉子「それは難儀じゃのう。頭分ばかりではないか」
蕎麦「じゃから最近は店を閉めるのを早くしておるのじゃ。わかったか」
玉子「そうか、そういうことなら仕方がないのう。では後で一杯貰うぞ」
蕎麦「楽しみにしておれ」
 そして卵売りは右手に消える。入れ替わりに左手から弁天小僧が姿を現わす。浪人風の服である。
弁天「親父」
蕎麦「へい」
弁天「悪いが一杯くれ」
蕎麦「あいよ」
 暫くして蕎麦が運ばれて来る。これは本物が望ましい。弁天は腰かけてそれを威勢よく食う。ここに南郷が右手からやって来る。
南郷「おう、おめえか」
弁天「兄貴、久し振りだな」
南郷「そうだな。この辺りにいるとは聞いていたがまさかここでばったりと出会うとはな」
弁天「頭がいるって聞いたんでな。ところであとの二人はどうしている」
南郷「赤星の奴には昨日会った。若い侍に化けて隠れているよ」
弁天「そうか。忠信はどうしてるんだい」
南郷「赤星の奴の話だとあいつもこの辺りにちゃんといるそうだ。俺とは連絡はとれねえが赤星とはちゃんととれているらしい」
弁天「そうかい、じゃあ心配はねえな」
南郷「そういうことだな」
弁天「それを聞いて安心したぜ。兄貴も一杯どうだい?」
南郷「悪くはねえな。じゃあ俺ももらおうか」
弁天「じゃあそうしよう。おい親父」
蕎麦「へい」
 左手から出て来る。何かしていたようである。
弁天「もう一杯くれよ」
蕎麦「わかりました」
 程無くして蕎麦がもう一杯運ばれて来る。南郷はそれを受けて弁天と同じように腰かけて食べはじめる。弁天よりも粗野な感じである。
南郷「おお、うめえな」
弁天「だろう、最近ここをいつも贔屓にしてるんだ」
南郷「それはいいがあれは見つかったか」
弁天「あれか」
南郷「どうだい、手懸かりでもあったか」
弁天「(首を横に振って)いいや」
南郷「そうか、そっちもか」
弁天「何も見つかりゃしねえ。あの野郎、まさか俺達の留守の間に持ち逃げしやがるとはな」
南郷「狼の悪次郎、名前も顔も覚えているな」
弁天「当たり前だろうが、忘れるわけがねえ」
南郷「噂によるとあいつは言いつけまでしたそうだぜ」
弁天「本当か!?」
南郷「ああ、それで今奉行所も動いているらしい。注意しろよ」
弁天「おう、わかった。じゃあここにも長居は無用だな」
南郷「そうだな、そうしようぜ」
 二人はすぐに蕎麦を食べ終える。丼と勘定を置き右手に去ろうとする。ここに右手から狼の悪次郎がやって来る。
弁天「何っ」
南郷「おい、まずは隠れようぜ」
弁天「ああ」
 そして二人は後ろの松の木に隠れる。そして悪次郎を見やる。
次郎「さてさて、この香合、一体何処で売ろうか。これまた思わぬ宝じゃわい」
弁天「あの野郎、何言ってやがる」
南郷「許しちゃおけねえな」
 二人は悪次郎の後ろに回り込もうとする。彼はそれに気付かない。
次郎「娑婆に出たら何をしようか。まあとりあえずは一杯しゃれこむとしよう」
 蕎麦屋に行こうとする。だがここで二人が声をかける。
二人「おい」
次郎「(青い顔で振り向いて)その声は」
弁天「まさか俺達の顔を忘れたわけじゃねえだろうな」
南郷「どのみち忘れたなんて言わせねえぞ」
次郎「な、何でここに」
弁天「俺がここの蕎麦屋を贔屓にしていたのが運の尽きだったな」
南郷「それで俺もここを通り掛かったんだ」
次郎「くっ・・・・・・」
弁天「さて、覚悟はいいな。さっさと香合出しやがれ」
南郷「手前が持ってるのはわかってるんだ」
次郎「ちっ、こうなったら(切羽詰って小刀を抜く。しかし二人はそれを見ても余裕である)」
弁天「ほお、光物を出すか」
南郷「じゃあ俺達も出すとしようぜ」
弁天「おう」
 二人は刀を出す。悪次郎はそれを見てさらに青い顔になる。
 
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