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先輩

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第一章

                 先輩
 城戸潤は正義感は強いがかなり無鉄砲だ。
 それでだ、刑事としてだ。
 すぐに飛び出る、それこそ周りが止めても。
 上司の刈田祐作警部はいつも彼の空いている席を見て呆れるばかりだった。
「またか」
「はい、またです」
「また飛び出て行きました」
 周りも呆れた顔で警部に答える。
「もう話を聞いてです」
「いても立ってもいられず」
「飛んで行きました」
「車をかっ飛ばして」
「現場にだな、全く」
 警部は苦い顔でだ、自分の席に向かいつつ言った。その四角く皺の多い初老の男の顔が呆れ果てたものになっている。
「今朝怒ったばかりだがな」
「落ち着けってですね」
「チームワークを大事にしろって」
「それでこれか」
「話を聞いても」
 刑事の一人がこう言った。
「忘れるんですよ」
「その時になったらだな」
「はい、瞬時に」
 まさにというのだ。
「忘れてそして」
「飛び出るんだな」
「まるでミサイルみたいに」
「本当にミサイルだな」
 警部もその刑事の言葉に頷く。
「現場に飛んで行ってな」
「悪い奴を捕まえに行く」
「しかも狙った獲物は逃がさない」
「本当にミサイルですね」
「サイドワインダーだな」
 警jは戦闘機に搭載されている熱に反応するミサイルを出した。自衛隊でも使っているかなり有名なミサイルだ。
「まさにな」
「ですね、あいつは」
「蛇じゃないけれどな」
 サイドワインダーはヨコバイガラガラヘビのことだ、横に這って動くのでこの名前が付いたアメリカの砂漠地帯にいる蛇だ。
「あいつは」
「蛇じゃないですね」
「ミサイルだな」
「そっちですね」
「あれで性格はあっさりしているからな」
「瞬間湯沸かし器なんですよ」
 彼、潤はというのだ。
「まさに」
「そうだな、とにかくあいつが行ったからにはね」
 それならとだ、警部はここでこう言った。
「横溝に連絡するか」
「横溝巡査部長にですか」
「ああ、俺から連絡する」
 ポケットから携帯を取り出しての言葉だ。
「あいつ今外だな」
「はい、見回りに行ってます」
「すぐに連絡だ、あいつをフォロー出来るのはな」
「横溝しかいないですね」
「そうだ、だからな」
 それでと言ってだ、そのうえでだった。
 警部はその彼に連絡した。その頃駅前の繁華街でだった。
 酔っ払い達が喧嘩をしていたがだ、そこにだった。
 若く長身の髪を短く刈った二十歳位のスーツの上にトレンチコートを羽織っている青年が飛び込んで来てだ、酔っ払い達に言った。
「おい、止めろ」
「何だよ御前」
「邪魔するなよ」
「邪魔するんじゃない、止めてるんだ」
 青年は彼等の間に入って言った。瞳の部分が多い黒い目で唇もしっかりとしている。 
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