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青砥縞花紅彩画

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16部分:雪の下浜松屋の場その一


雪の下浜松屋の場その一

      第三幕 雪の下浜松屋の場
奥座敷の場
 呉服屋。暖簾があり中には反物や箪笥等が見える。また着物がかけられ貼り紙もある。
小僧「さあいらっしゃい、いらっしゃい」
与九「毎度ありい(客に品物を渡し金を貰う)」
 客の出入りが激しい。かなり繁盛している。そこへ店の者に化けた赤星がやって来る。
与九「おい新入り」
赤星「はい」
与九「ちょっと店の奥まで行って来てくれ。こちらのお客様が赤い絹を探しておられてな」
赤星「赤絹ですね」
与九「そうじゃ、何処にあるかわかってるな」
赤星「勿論でございます。それでは今から」
与九「頼んだぞ」
赤星「はい」
 赤星舞台の奥に下がる。左手に消える。そしてそれを見送る客が与九に対して話しかける。
客一「またえらく男前の新入りですな」
与九「いや、そうですかな(笑いながら)」
客一「はい、こおで働かせておくのは勿体ない程何処かの役者にでもした方が」
与九「いやいや、ああ見えてもかなり利発でしてな。うちでも桐箪笥を手に入れたと大喜びなんですよ」
客一「桐箪笥ですか」
与九「(頷いて)はい」
客一「桐箪笥ならそちらは幾らでも持っておるではないですか(後ろの箪笥を指差す)」
与九「(額を自分で叩いて)いや、これは一本取られました」
客一「あはは」
 ここで新たな客が入って来る。袴を履いた日本駄右衛門が忠信利平を従えて右手から現れる。
忠信「番頭はいるか」
与九「はい、こちらに」
 忠信が前に出る。駄右衛門は後ろで悠然と構えている。
忠信「この前あつらえた五枚の小袖はどうなっておるか」
与九「(困った顔をして)小袖でございますか」
忠信「左様」
与九「染め上がりはしましたが」
忠信「では早く出せ。もう待てぬぞ」
与九「御仕立てがまだでして。もう暫くお待ち頂きたい」
忠信「(不平そうな顔をして)そう言ってもう何日経つと思うておるか」
与九「ここ数日天気もよくありませんし模様が模様であります故急には染め上がりませんでして。遅れております」
忠信「それにしてはあまりにも遅いのではないか」
与九「申し訳ありませぬ」
忠信「申し訳ありませぬとかそういうのばかりではないか。して何時出来るのじゃ」
与九「それですが」
 ここで赤星が左手から戻って来る。
与九「(赤星の顔を見て)おう、佐兵、いいところに来た(赤星の顔を見て急に元気になる)」
赤星「(事情がわからず)どうなさいましたか」
与九「ああ、この前の五枚の小袖なんじゃが」
赤星「あれでしたら夕方には出来上がりますぞ」
与九「(それを聞いて明るい顔になる)本当かい、それは」
赤星「はい、先程仕立て屋が来まして。夕方に持って来るとのことです」
与九「おお、そうであったか」
赤星「はい」
与九「ならいいんだよ。よく教えてくれた(ここで駄右衛門と忠信に顔を向ける。二人と赤星は目で何やら話をしているがそれには気付かない)」
与九「お侍様、こうしたことですので。夕方までお待ち下さい」
忠信「そうじゃのう。(駄右衛門に顔を向けて)如何なされますか」
日本「わしは構わぬが」
忠信「左様ですか。ではついでに執権様へのお進物も見ると致しますか」
日本「そうじゃな。そうするか」
忠信「ではそうなさいましょう。(与九に顔を向けて)おい」
与九「はい」
忠信「この通りじゃ。繻珍や緞子、織物が見たいのじゃが」
与九「わかりました。(赤星に顔を、向けて)佐兵衛どん」
赤星「はい」
与九「悪いが繻珍や緞子、織物を持って来てくれ」
赤星「わかりました」
与九「あと旦那様も御呼びしてくれ」
赤星「旦那様もでございますか」
与九「そうじゃ、こちらのお侍様は執権様へのお進物をご所望じゃ。失礼があってはならんからな」
赤星「(頷いて)わかりました。それでは」
与九「うん、頼んだよ」
赤星「はい」
 こうして赤星は左手に消える。駄右衛門と忠信は与九の側に来る。
日本「繁盛しておるようじゃな」
忠信「(店の中を見回して)確かに。よいものばかり揃っておるわ」
与九「(それを受けて嬉しそうに)おかげさまで。これも皆様もお引き立てのおかげでございます」
忠信「これで小袖が出来上がるのがむ少し早ければのう。言うことなしなんじゃが」
与九「あいや、これは意地のお悪い」
忠信「ははは」
 主人の幸兵衛が左手から現れる。その後ろには赤星が色々持って来て現われる。
 
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