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黒猫が撃つ!

作者:コバトン
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六弾 風の警告と蠢く者。そして……終わらない明日を目指す者達

「風?」

聞き返すと。

「はい、風です」

レキはコクリと頷く。
その瞳は空虚で、何を考えているのかわからない。

「あー……風ってアレか? なんかのコードネームみたいな?」

「風は風です。それ以上でも、それ以下でもありません」

抑揚のない声でレキは答える。

「そっか」

「?」

俺が納得したのが不思議で仕方ない、そんな風にレキは首を傾げた。

「……何だ?」

「いえ……今まで、私が接してきた人は風のことをもっと尋ねてきたので。
……何も聞かない貴方のような人は……初めてです」

「何も聞かないのはアレだ」

「何ですか?」

「だって、面倒クセーじゃん」

人の過去とか、秘密とか。
話したがらない奴に無理矢理聞くのはなんか嫌だ!
というか、ぶっちゃけ面倒クセー。

「……変わった人ですね」

「そうか?」

レキは無表情のまま、絶対服従している白猫の腹を撫でる。
白猫はレキの手つきが心地よいのか、「フニャあー」となんだか気が抜けそうな鳴き声を出している。

「ていうか、俺としちゃ、お前が付けてるヘッドホンの方が気になるんだが」

「これですか?」

レキは白猫の腹から手を離して、両手でヘッドホンを包み込むように触れた。
白猫はレキの手が離れた事により自由の身となったが、何故か腹を上に向けたまま動かない。
というか、寧ろ。
「何、俺様の癒しタイム邪魔してんじゃー、不吉を届けるぞ! ワレェー」と言うような感じに「フシャー!」といった鳴き声をあげた。

「……音楽でも聴いてんのか?」

「音楽ではありません」

「じゃあ、何だ」

「風の音です」

レキはボソッと言うと、立ち上がり。
カチャ、と肩に狙撃銃をかけ直した。

「今日は帰ります」

「あ……そうか。気をつけてな」

「ええ。貴方も気をつけてください……闇が迫ってますので」

レキはそう一言告げると、女子寮の方に向かっていった。
レキが去った後には、取り残された俺と……一匹の白猫だけが残された。










______とあるホテルの一室。


都内にある一流ホテルの一室、それも最上階にある部屋は通常ありえない内装に変えられていた。
元々は洋室……それもロイヤルスイートルームだった部屋は和風の内装に変えられて。
壁紙は清潔感のある白一色。
壁や天井には檜や杉といった木造の柱が通され、赤カーペットがあったはずの床は全て畳が敷き詰められている。
そんないかにも純和風な一室には、黒い正服を纏った二人の男と、一人の女性が丸い木製のちゃぶ台に向かい合うようにして座っていた。

「うわぁ、一流ホテルを貸し切って内装も自由に変えるとか……さすがはセフィ姐……」

「ふふ、今に始まったことではないじゃないですか」

確かにそうかもしんねえが……と、一人納得する黒服の男。
その黒服の男が口にしたセフィ姐という名。
その名を呼ばれた女性は、ニコリと微笑み。
黒服の男の一人。
『ジェノス』に話しかける。

「『健全な魂は健全な肉体に宿る』それと同じように、場所や環境によって、人は変わります。
我がアークス流剣術は『和』の精神を理解しなければ扱うことなどできません」

彼女は淡々と語る。

「あの日から私はアークス流剣術をさらに極める為、『和』について、もう勉強しましたから。
勉強の成果があって、この部屋の『設計』から『施行』まで監督させていただきました」

彼女が言うあの日(・・・)
それはアナザーワールド……ジェノス達からしたら『元の世界』で行われた星の宿命をかけた戦い。
『星の使徒』と呼ばれた革命軍を殲滅する為の戦い。
通称『アドニア戦役』と呼ばれる戦いが起きた日だ。
『掃除屋同盟』を囮に集結した『クロノス』の精鋭部隊『クロノナンバーズ』と『星の使徒』による全面対決。
その戦いで彼女、『クロノナンバーズ、NO1(ナンバーワン)』セフィリア・アークスは『星の使徒』のリーダー。『クリード』と戦い、善戦するも『クリード』のナノマシンによる『不死』の能力と、『道』の能力により敗れてしまう。
結果、セフィリアはクリードによって処刑……される寸前。乱入してきた『黒猫』により一命を取り留めたのだが。
その際、彼女は己の力不足を痛感し、戦いを見守った後、彼女は自身を鍛え直す為、厳しい修業を積み。
アークス流剣術を極めたのだが……。

「……。(うわぁ、明らかに『努力』の方向性、間違えてるぞ、セフィ姐……だが、それがいい!)」

「……。(ふむ。なるほど。確かに何かを極める為にはその何かを理解しなければいけませんからね。
方向性はともかく、その探究心は評価しなければいけませんね)」

『努力』の方向性を見誤った彼女(セフィリア)を見ながら、『クロノナンバー』NO7(ナンバーセブン)である、『ジェノス』と。
公安0課に潜入しているNO10(ナンバーテン)、影山こと、『シャオリー』は内心の呆れを隠し、セフィリアに笑顔を向ける。
生暖かい眼差しと共に……。

「ところでシャオリー……『彼』はどうでした?」

と、そんな内心を知らないセフィリアは突然話題を変えた。
と、同時にそれまでの雰囲気が一変して、『隊長』の顔となる。

「……そうですね。よく言えばいつも通り。
悪く言えば、首輪のない猫。そのまんまでした」

シャオリーの返答に声を出さないように、しかし、彼女を知る人からすればよく解るが。
その顔には笑顔が見られた。

「……なるほど。やはり、彼はこっちに来ても彼なんですね。安心しました」

「セフィ姐……」

「セフィリアさん……」

「やはり彼とは近いうちに会わないといけませんね。
長老会の『命』というのもありますが……あの『組織』とぶつかる前に『今の彼』の力を確かめねばなりません。……託さなければいけない『物』もありますし」

「それなら俺が……」

「それには及びませんよ?
黒猫(ブラックキャット)』の相手はこの私……クロノナンバーズNO1.セフィリア・アークス自ら致します。
これは決定事項です」

「それなら僕達は……」

「貴方達は他の要監視者、『オルメス』と、『ジーセカンド』の監視と警戒。それと……」

セフィリアから下されたのはとある命令。
決定事項。
その言葉にシャオリーは素直に従い、ジェノスは複雑そうな顔をしながらも、頷く。

セフィリアが彼らに放った一言。
それは……。



『『世界』と『クロノス』を混乱させる『可能性』がある『魔女』……水無月沙耶の捕獲、逆らう場合には抹殺を許可します』







時は少し戻り、東京・武偵高女子寮の一室。


「あれ? おーい、アリアー?」

アリアの部屋に戻ると、室内(リビング)には誰もいなかった。
時計を見るとまだ9時だ。寝るのには幾ら何でも早い。
どこに行ったんだ?

「ったく、アリアの奴どこに行ったんだよ?」

冷蔵庫の中にあったロバのミルクを飲みながらアリアが戻るのを待つことにする。
人を追い出しておいていなくなるとか、戻ってきたら文句言ってやる!
しかし、このミルクはやっぱ美味えなー!
ミルクをがぶ飲みしていると、それに気づいた。
(……いやがるな。二人か。場所は……こっちか)
人の気配を感じる。それもかなりの手練れだ。人数は二人。
場所は廊下を出た先にある戸の向こう側。
(クロノスにしちゃあ、気配の消し方は下手だが、手練れには違いない。
アリアには美味いミルク飲ませてもらった恩もあるし、侵入者狩りくらいしてやるか……)
そう思ってその戸を勢いよく開けた。

「おらー! 覚悟しやがげぶぅ!」

戸を開けた瞬間、なにやら硬いものを顔面に投げられた。
これは……ドライヤーか?

「なっ……なっ、何してんのよ! この、変態ぃぃぃいいい‼︎」

そこにはガバを持った修羅……アリアと。
同じく、タオルで体を隠しながら睨みつけてきたアカリがいた。
あっ、まずい。やっちまった……。
ここは……脱衣所だったのか。

「ち、違う。これは誤解だ⁉︎」

あっ、ヤベエ。アリアの背後に鬼が見える!
鬼って、本当にいたんだな。

「問答無用……風穴祭り(フェスティバル)!」

「死んでください!」

アリアとアカリの息ピッタリな銃撃が行われた。
装飾銃(ハーディス)で銃弾を弾きながら俺は逃走をする。
向かう先はバルコニー。
そこに行けば、防弾製の物置が確かあったはず……あってくれ。

「うぉぉぉおおお‼︎」

俺はリビングの窓をぶち破ってバルコニーに出た。
そして、防弾物置に……ってない⁉︎
男子寮にはあるのに。なんでないんだよ⁉︎
いや、防弾物置はないのはまだいい。よくねえけど。
それより……なんでここにいんだよ。

「……サヤ」

リビングで寝てたはずのサヤが起きてバルコニーに立っていた。
何故か、拳銃を手に持って。

「トレイン君、私言ったッスよね? アリアちゃんに手を出したら許さないって」

おおう⁉︎ サヤの背後に幻影の猫が見える!
「フシャー!」って鳴いてる猫が見える!

「お、おう。言ってたな……」

何を怒ってるんだ?
あれか? アリアの冷蔵庫勝手に漁ったからか?

「人が寝てる隙に、覗きを行うなんて……風穴ッス!」

ちょっ、ちょっと待ってくれ!
覗きなんてしてねえー!

「あれは誤解だ!」

ドンドン!
銃声が二度鳴り。
俺の足元に向かって銃弾が飛んできた。
俺は飛び退いて躱したが……銃声は二発。
もう一発は……跳弾⁉︎
気づいたその時。
______キィンと、音が聞こえ。俺の足元、バルコニーの床で反射した銃弾が俺の肩に向かって飛んできた。
これはサヤの得意技『反射(リフレク)ショット』。
物に銃弾を当てて反射させて、死角から銃撃する跳弾技。
それをやりやがったのか。

「……っ」

回避も防御も間に合わなかった。
肩に一発貰ってしまう。
前にアリアと戦った経験から防弾製の衣類を着て来て正解だった。
まあ、防弾製の衣類を着ているからといっても、その衝撃までは完全には殺せないけどさ。
金属バットで殴られたかのような強い衝撃を受ける。

「なんで……なんで、覗いたんっスか。そんなにちっちゃい子がいいんっスか?」

「いや、覗いてねえし」

完全に誤解してるが、覗きじゃねえ。
あれは襲撃犯と勘違いしただけだ。
そのことを伝えようとした俺の背後からもの凄い殺気を出した奴が近づいてくるのが解った。
ああ、もう。今日は厄日だー。

「もう逃げられないわよ、トレイン! 風穴、風穴開けてやるー!」

「追い詰めたんだから、この変態ー! アリア先輩に二度と近づくなー!」

前門の猫、後門の猫達、挟まれた黒猫……猫ばっかだな、おい。

「風穴かぁ……そいつはごめんだね」

俺はポケットから取り出した手榴弾を投げて……ハーディスで撃ち抜く。

______ドオオオォォォン‼︎

「「きゃあ」」

アリアとアカリが吹き飛ぶのを目で見ながら俺はバルコニーから飛び降りた。

「え? ちょっと、トレイン君⁉︎
ここ、11階なんだけど」

サヤの慌てる声が聞こえたが……心配いらねえ。
かつて飛び降りた190メートルもしたルナフォートタワーの高さに比べたらマシだ。
ハーディスのワイヤーを階下のベランダとかに引っ掛けてグライダーのように滑空させながら下に降りていけばいい。クロノス時代にこんなことは何度もあったしな。
……覗きが原因でマンションから飛び降りたのは初めてだけど。
と、そんなことを考えながら俺は男子寮に戻るのだった。




翌日。俺とキンジはスヴェンとサヤに武偵高の黒い体育館に連れてこられた。
来るまでにサヤからは昨日のことでお小言を言われたり、肩を撃ったことの謝罪と心配をされた。
防弾製の衣類を着てたから怪我はしてないから、心配はいらねえのに。サヤの目には涙があった。
女の涙には弱い俺はサヤに心配いらねえ、昨日のは誤解だから、とあたふたしながら伝えたのだが。
後でスヴェンに「お前、やっぱり情けねぇな」とか言われた。どういう意味だ?
サヤはサヤで「案外チョロいっスね……心配」とか言われたし。

「さあ、着いたっス。ここが強襲科(アサルト)で、トレイン君が最初に試験を受ける学科っスよ」

……ここがサヤが所属する強襲科(アサルト)か。
って、あれ? ここの試験受けないんじゃなかったか?
俺の疑問に「お前のその身体でどこまで出来るか確認する為だ」とスヴァンは答えた。

強襲科(この学科)のことを簡単に説明すると、えっと……『拳銃、刀剣その他の武器を用いた近接格闘による強襲逮捕を行う学科』で『毎年100人中3人が亡くなる明日無き学科』とか呼ばれていたり、後は……」

サヤの説明を聞いていたその時だった。

「おーうキンジぃ! お前は絶対帰ってくると信じてたぞ! さあここで1秒でも早く死んでくれ!」

「まだ死んでなかったか夏海(なつみ)。お前こそコンマ1秒でも早く死ね」

「キンジぃー! やっと死にに帰ってきたか! お前みたいなマヌケはすぐ死ぬぞ! 武偵ってのはマヌケから死んでくもんなんだからな」

「じゃあなんでお前が生き残ってるんだよ三上(みかみ)

キンジに死ね、死ね言おうと次々に人が集まってきた。
なんだ、ここは⁉︎
死ね死ね教とかの総本山か?

「あー……今ので解ったと思うっスけど。ここでは挨拶代わりに死ね死ね言うのが当たり前なんだよ。
まあ、『郷に入りては郷に従え』……日本(この国)の諺っスけど、ここに入るのなら、死ね死ね言わないと駄目っスよ?」

……マジで?
死ねを挨拶代わりにしちゃうとか……ここ、本当に学校なのか?

「強襲科の担当教師は蘭豹先生だから」

「……ああ」

思わず納得してしまう。
確かにあのヤローなら教え子に死ね、死ね言いそうだからな。
……しかし。

「……随分と軽いんだな、ここは」

「軽い?」

「死ぬってことを本当に知ってる奴らならそう簡単に言えねえだろ」

『人が死ぬ』。
その意味を、重さを真に理解出来てる奴ならきっと簡単に『死ね』なんて言えねえ。
『死』を見たことがないから、簡単に言えんだな。コイツらは。

「……それは違うっスよ。この学科に入った人達はきっと誰よりも『死』について理解出来てるよ。
『毎年3人死ぬことを知っていて、それでも所属する』……それは遊びじゃない、人の命の尊さ、重さを誰よりも知ってるから、だからきっと入ってくるんっスよ。きっと……」

まるで……そうだったらいいな、という感じでサヤは告げる。
ああ、そうか。そうだな。サヤ……お前はここにいる誰よりもそれ(・・)を知っているもんな。

「……悪い」

「いいよ。トレイン君は私の為に言ってくれたんだよね?」

全てお見通しか。
サヤには敵わねえな。

「……俺、オジャマだったな」

スヴェンが茶化すように言って、サヤが笑う。
俺はそんなサヤの笑顔を見て改めて誓う。

『今度こそ、コイツを守ってみせる』と。 
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