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世界最年少のプロゲーマーが女性の世界に

作者:友人K
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3話

 ―――僕にとってゲームは決して遊びじゃないし、たかがといえるものでも、適当なものでもありません。

 ―――では、どういうものなのでしょう?

 ―――僕にとってゲームはいつだって戦いでもあり自身にとって救いでした。昔も今も。そして、これからもずっと。

 ―――今回初めて月夜さんはインタビューを受けていただいたのですが、最後に1つよろしいでしょうか?

 ―――なんでしょうか?

 ―――ワールドリーグを優勝した今、今後の目標はなんでしょうか?

 ―――……そうですね、誤解を恐れずに言うと大会の優勝を目標にすることはもうありません。12歳の頃は結果が出ずしばらくの間優勝を追いかけていましたが、今は追いかけることはないです。自分にとってそこは重要ではありませんでしたから。
 だから今は、先ほど言った[ゲームはいつだって戦いであり自身にとって救い]、この言葉がいつか胸を張って世界中に言えるように―――

 ―――もっと、もっと、強くなりたいです。

              ―――ワールドリーグ決勝後 月夜 鬼一 インタビューから一部抜粋。

 「ちょっと、よろしくて?」

 「へ?」

 「はい、なんでしょうか?」

 2時間目終了後の休み時間、僕と一夏さんは雑談していた。
 2人だけの男性操縦者なので必然的に集まってお互いのことをそれぞれ話していたのだが、突然話しかけられた。
 突然話しかけられたせいか一夏さんは変な声を出し、僕は普段から色んな人に声をかけられていたので普通に反応できた。

 僕たち2人に話しかけてきた相手は美しい金髪が印象的な女生徒、イギリスの代表候補生セシリア・オルコットさんだ。透き通るような青色の瞳が釣り上がり、僕たちを映している。
 彼女はイギリスの名門貴族の生まれで、貴族オルコット家の現当主でもあるらしい。そこまで興味があるわけでもないからあんまり調べていない。
 貴族の生まれだからか1つ1つの動作に育ちの良さが伺える。

 ただ、好きにはなれないと思った。

 人を見下すような、馬鹿にするような目線。
 自分を特別だと疑わない、と雰囲気からにじみ出ている。
 お前たちは下の存在だと言わんばかりの現代の女性。

 以前、アヤネさんかISについて教えてもらったことを思い出す。

 『いい、鬼一? e-Sportsでは気にならないけど、ISのせいで女性はかなり優遇されているのよ。極端なことを言うとISを使える女性は優秀で、ISを使えない男性は奴隷以下の存在みたいなものよ。街で目を合わせただけでパシリ代わりに使われたり、気に入らないことがあれば痴漢の罪を被せられたりね』

 その時純粋な疑問からアヤネさんに、なんでアヤネさんはそれを利用しないの?って質問したことがある。
 アヤネさんは苦笑しながら。


 『うまく説明出来ないけど、ISを使って何かを成し遂げたり何かを変えて地位を得た人が偉そうにするなら納得は出来ないけど、まだ理解はできるのよ。たださ、何もしていない、何も変えていない人が成し遂げた人の後ろに隠れて利用して人の邪魔をしたり、人の人生を終わらせるなんてそんな恥知らずなことはできないよ』

 それに、と続ける。

 『私は自慢でも傲慢でもなくe-Sports、女性の数少ないトッププレイヤーなのよ? 私自身の影響力は自覚しているつもり。だから私が積極的に女尊男卑を持ち込んでしまったら、柿原さんやたくさんの人が作ってきたこの世界を歪めてしまうことになるわ。
 性別も年齢も国籍も余計なしがらみもなく、全力で熱くなれるこの業界は今の世界では本当に珍しいのよ。世間的にはしらないけど、それでも私はこの世界が素晴らしい世界だと自信を持って言えるわ。そしてそれを守るために私はプロゲーマーを続けているのよ』

 優遇される女性でありながら、それを良しとしない人の言葉を思い出した。

 そして、女性は優遇されて然るべきだと言わんばかりの態度をする人が目の前にいる。

 「ちょっとあなた、訊いていらっしゃいますの?」

 返事をしなかった一夏さんに再度声をかけるオルコットさん。

 「あ、ああ。訊いているけど……どういう要件だ?」

 一夏さんはそう返すと、オルコットさんはわざと驚いたように声を上げた。

 「まあ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

 やっぱり自分が感じたとおりの人間だった。
 確かにISを使える女性は優遇される。なぜならISは既存の兵器を上回る兵器であり、IS=強大な軍事力と言っても間違いない。
 だからIS操縦者は優遇される。そしてIS操縦者はここの2人を除けば例外なく女性だ。

 だけど、ISはそれだけでしかないだろう。

 僕は専門家でもないし、学校で学んでいたわけでもないから完璧に独学で得た知識から出した答えだから間違えているかもしれないが。
 世界に500機も存在しない。増産方法も開発者の篠ノ之 束にしか知らず、極めて限定的な状況でしか使えないこと。止めに表向きにはスポーツ用、競技で収まっているからだ。

 だが現実には優遇されている。たかがスポーツで使われる道具でしかない、数を増やすことも出来ないISが、だ。

 ISやISを使える人間が優遇されている以上、結局のところは条約など紙切れ以下のものでしかないのだろう。舞台が整えば適当な理由をつけて条約を無視して軍事兵器として運用する可能性が高い。
 正直自分でもかなり極端な考えだとは思うが、IS学園に通う生徒は将来大量殺戮者になる可能性が存在し、IS学園はそれを生み出す道具だと思っている。スポーツに収まり続けるならそうではないだろうが。

 自分がそんなモノに成り下がる可能性があると考えただけでも吐き気がする。

 果たしてその可能性を一体どれだけの人間が気づいているのだろうか? 一歩間違えたら大量殺戮者の汚名を背負わされかねないほどの力を持たされて、僕ならこんな偉そうに出来ない。
 偉そうにするのは構わないが、時として力はただの理不尽な暴力に成り下がる。
 それを気づかない人間というのはここまで醜く見えるのだろうか?

 出来ることならこれ以上関わりたくない。

 「悪いな。俺、君が誰か知らないし」

 その言葉に少し納得してしまう。
 国家代表なら国を問わず色んな媒体で姿を見せることが多いので見たことある、というのは多いだろうが、その下の代表候補生まで知っている人というのは意外と少ない。

 一夏さんの答えによほど納得がいかなかったのか、オルコットさんは目を細めて今よりも更に見下したような表情で声を出そうとするが、

 「一夏さん、彼女はイギリス代表候補生で入試主席のセシリア・オルコットさんですよ」

 いちいち見下したような話し方で話されるのはごめんなので、オルコットさんより早く一夏さんに誰だか教えてあげる。
 へー、と、いまいち理解していないような声を出す一夏さん。

 まぁ、ISのことをあまり知らない人ならピンとこないだろう。僕だってつい最近まで知らなかった。

 オルコットさんは僕に先に話されたからか、一瞬不快そうな表情を見せたが知っている人間がいたことが嬉しかったのか、笑みを浮かべながら頷いている。

 「あ、質問いいか?」

 「ふん。下々の要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

 どんな質問をするんだろう?
 この時、僕は予想の斜め上をぶっちぎる答えを聞いた。

 「代表候補生って、何?」

 「……ぷっ」

 そんな予想外の質問と、質問を聞いた瞬間のオルコットさんの顔とクラスメイトを見た僕は思わず噴き出していた。もしここに人がいなかったら声をあげて笑っていたかもしれない。

 僕の反応を見た一夏さんはのんきに「なんだよ鬼一、笑うことはないだろ」なんて言った。
 それに対して僕は「ごめんなさい、そういう意味で笑ったわけじゃありません」と返す。

 周りのクラスメイトたちはこけていたり、唖然とした表情だった。
 オルコットさんに至っては形容し難い表情だ。
 それらを見た瞬間、笑いを堪えきれなかった。

 「あ、あ、あ……」

 オルコットさんも予想外すぎる質問を受けてうまく言葉を出せないみたいだ。

 「あなたっ、本気でおっしゃってますの!?」

 怒気を表した表情で声を荒げたまま一夏さんに問いかける。
 あ、オルコットさん青筋浮かんでる。よほど頭にきたみたいだな。

 「おう。知らん」

 見えを張らない、いっそ清々しさを感じさせる一夏さん。まずい、腹筋が……っ。笑いが……。

 「………………」

 「……くっくっく」

 バッサリとオルコットさんをぶった切った一夏さんの返答で堪えきれず笑いをこぼしてしまった。
 怒りを超えて逆に冷静になったオルコットさんは、頭が痛いのかこめかみを人差し指で押さえながら何か呟いている。

 「信じられない。信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビがないのかしら……」

 オルコットさん、自分の常識と他人の常識を一緒にするのは後々諍いの元になりかねない。しかも自分の常識が通じないからと言って相手の常識を疑い馬鹿にするのは国の顔としてどうかと思う。

 それとあなたが馬鹿にしていた、

 その未開の地、極東の島国の人間が生み出した兵器があるからあなたに価値があるのでは?

 「で、代表候補生って?」

 一夏さんは周りのそんな様子に気づいていないのか、質問を続ける。
 それに答える僕。

 「うーんと、その国のIS操縦者のトップが国家代表といいます。それの候補生として数名選出されるんですよ。それが代表候補生ですね。
 オルコットさんはイギリスの次期国家代表の候補生なんです。有体に言えばエリート言えば伝わりやすいですかね?」

 わかりやすく噛み砕いて説明したおかげか一夏さんは頷きながら、なるほど、なんて神妙な声を出す。

 「そう! エリートなのですわ!」

 復活したオルコットさん、どうやらかなりイイ神経しているみたいだ。
 かなり失礼なことを考えながらオルコットさんを見る。

 細長い人差し指が一夏さんに向けられる。
 どうでもいいけど人差し指で人を指すのは、オルコットさんの中では失礼に値しないのだろうか?

 「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」

 自分を選ばれた人間と言い切るとは恐れ入る。
 そんな言葉を言い放てるほど、この人の歩いてきた道は立派なものだろうか?

 「そうか。それはラッキーだ」

 「……馬鹿にしていますの?」

 自分が予想していた返事が出てこないからか、どこか苛立ちを感じるオルコットさん。
 人を馬鹿にしているのはあんただろうが。

 「大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。男でISを操縦できると聞いていましたから。そこの男は少しはマシですが、あなたには知性を感じさせません。期待外れですわね」

 僕も一夏さんも好きで入ったわけではなく、多分、入れられた、というのが正解。
 そもそも僕たちは例外であるからこの学園に入れられたんだろう僕たち2人に関しては。

 まぁ、命の危険とかもあるのでそれの保護という意味合いもあるだろうが。

 「俺に何か期待されても困るんだが」

 「ふん。まあでも? わたくしは優秀ですから、あなた方のような人間にも優しくしてあげますわよ」

 しかし煽りスキルの高い人だ。こんなんが優しさだったらどっかのゲーセンだとリアルファイトものだ。当時は嫌だったのに今となっては懐かしさすらある。いや、だからといってリアルファイトしたいわけじゃないが。

 「ISのことでわからないことがあれば、まあ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよろしくってよ。何せわたくし、入試で唯一共感を倒したエリート中のエリートですから」

 唯一を随分強調するな。

 「入試って、あれか? ISを動かして戦うってやつ?」

 「それ以外に入試などありませんわ」

 「あれ? 俺も倒したぞ、教官」

 ……一夏さん、教官に勝ったのか。それは知らなかったな。
 僕も教官とIS、自身の専用機で戦ったが負けてしまった。
 試合時間28分45秒。エネルギー切れによる僕の敗北。

 「は……?」

 理解できていないのか、それともしたくないのか間抜けな声を出すオルコットさん。
 相当なショックだったのか、目を見開いているし僅かに唇も震えてる。

 「わ、わたくしだけと聞きましたが?」

 「女子ではってオチじゃないのか?」

 一夏さんの発言で空気にヒビが入ったような気がした。これ、無意識でやっててこの空気を感じていないなら、一夏さんも大概な神経をしているかもしれない。

 「つ、つまり、わたくしだけではないと……?」

 「いや、知らないけど」

 「あなた! あなたも教官を倒したって言うの!?」

 よほど熱くなっているのか、僕の存在を忘れて一夏さんを問いただす。
 いいや、ここで出しゃばって矛先を向けられるのも嫌だ。

 「うん、まあ。たぶん」

 「たぶん!? たぶんってどう言う意味かしら!?」

 「えーと、落ち着けよ。な?」

 「こ、これが落ち着いていられ―――」

 まだ言葉を続けようとしたオルコットさんだが、そこでチャイムが鳴った。

 「……っ! またあとで来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」

 頷く一夏さん。でも表情からは嫌だって聞こえてきそうだ。

 そのあとすぐに織斑先生と山田先生が教室に入り、授業が始まった。

 「それではこの時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する」

 1、2時間目と違って、山田先生ではなく織斑先生が教壇につく。大切な話なのか山田先生は真剣な表情でノートまで持っていた。

 「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 忘れていたものを思い出したような織斑先生。クラス対抗戦とその代表者を決めるらしい。
 うん?

 「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点でたいした差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると1年間変更はないからそのつもりで」

 ざわざわと教室内が騒がしくなるが、気になる点があったので質問する。

 「すいません、織斑先生。質問よろしいでしょうか?」

 「なんだ月夜」

 「このクラス代表者なのですが、複数立候補者が出てきた場合はどのような方法で決定するのでしょうか?」

 「方法に関しては特に決めていない。立候補者全員が納得する方法を決めてもらうつもりだ。私個人としては実際にISを用いた試合で決着をつけてもらいたいと思っている」

 「分かりました。ありがとうございます」

 ふむ、クラス代表者になる方法はまだ決まっておらず、自由なのか。
 どうせなら、織斑先生の言うIS戦で決めてくれた方が自分がどのくらいの力を持っているか分かるのに。
 仮にクラス代表になったらそれはそれで他のクラス代表とも戦えるのだから、確実に自身の成長に繋がる。

 頭の中でメリットとデメリットを考え始めていると、1人の女生徒が声を上げた。

 「はいっ。織斑くんを推薦します!」

 「では候補者は織斑一夏……他にはいないか? 自選推薦は問わないぞ」

 「お、俺!?」

 予想外だったのか勢いよく立ち上がる一夏さん。そして一斉に集まる視線。
 見たことのある視線。
 あれは無責任な期待の視線だ。

 「織斑。席に着け、邪魔だ。さて、他にはいないのか? いないなら無投票当選だぞ」

 「ちょっ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらない―――」

 「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」

 「い、いやでも―――」

 まだ反論をしている一夏さんを、女性特有の甲高い声が遮った。

 「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 手を机に叩きつけながら立ち上がったのはオルコットさんだ。
 あの様子だと、一夏さんを助けるわけではなく、むしろあれは―――。

 なぜ、女である自分ではなく、男が代表になるのかという納得できない顔だ。

 「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を1年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 やっぱりそうか。先ほどのやりとりでも彼女の考えはなんとなく読める。

 「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 そこまで言うか。逆にすごいな。
 クラスの半分が日本人、しかも教師も日本人であるにも関わらずの暴言を吐くか。
 怒りよりも先に感心が来た僕はそのまま耳を傾ける。

 「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

 まだ何も決めていないのに実力が1番あるのは自分、か。よほどの自信だな。

 「大体、文化としても更新的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で―――」

 「イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界1まずい料理で何年覇者だよ」

 我慢が出来なくなったのか一夏さんはオルコットさんに反論する。喋らせておけばどこかで黙るのに反論するなよ。余計にヒートアップするだけじゃないか。

 「なっ……!?」

 視界の片隅ではおそるおそる後ろを向く一夏さんと、顔を真っ赤にしているオルコットさんが目に入る。
 まずい、このままだと泥沼の罵り合いが待っている。
 
 2人の先生を見るが山田先生はオロオロしているばかり、織斑先生は2人のやり取りを見ているだけだ。
 クラスメイトは2人の様子に焦っているようだが、そんな暇があればさっさと止めろ。

 「はい、そこまでです。お2人共」

 小さくため息を吐きながら席を立ち上がり2人の視界に入るように間に入り止める。

 「喧嘩するのは構いませんが、今は他の皆さんの時間も使ってるんですから止めましょうよ」

 僕の言葉に一夏さんは助かった、と言わんばかりに力を抜く。どうやら口が滑って言い返してしまったみたいだ。
 そのまま目線で「悪い鬼一」と伝えてくる。
 クラスメイトたちも安堵の息が小さく溢れる。
 
 だが、オルコットさんはまだ怒りが収まらないのか、それとも僕のことなんて視界に入っていないのか言葉を続ける。

 「あっ、あっ、あなたねえ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 やばい、完全にとまらないやつだコレ。凄いめんどくさい展開が待っているのが容易に予想できる。

 「決闘ですわ!」

 再度机を叩くオルコットさん。
 あんた、今の自分理解しているのか? あんたは国の顔なんだぞ? そんなあんたが見苦しい真似をする度にクラスメイト達はイギリスの評価を下げることに気づいていないのか?

 そして女性に喧嘩を売られた一夏さんはその言葉で再度スイッチが入ったのか、

 「おう。いいぜ。四の五のいうより分かりやすい」

 完全に売り言葉に買い言葉の状態だった。
 僕が口を挟む余地はなくなり2人はヒートアップする。

 「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い―――いえ、奴隷にしますわよ」

 「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」

 「そう? なんにせよちょうどいいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」

 「ハンデはどのくらいつける?」

 「あら、早速お願いかしら?」

 「いや、俺がどのくらいハンデつければいいのかなーと」

 僕はそこで顔を右手で覆い隠す。クラスからは大きな笑いが響いた。
 一夏さん、それは完全に舐めすぎ。いくらなんでも言い過ぎ。あんた、真剣勝負の意味を本気で理解しているのか?

 「お、織斑くん、それ本気で言ってるの?」

 「男が女より強かったのって、大昔の話しだよ?」

 「織斑くんと月夜くんは、確かにISを使えるかもしれないけど、それは言い過ぎよ」

 その言葉に気勢を削がれた一夏さんは前言を撤回する。

 「……じゃあ、ハンデはいい」

 「ええ、そうでしょうそうでしょう。むしろ、わたくしがハンデをつけなくていいのか迷うくらいですわ。ふふっ、男が女より強いだなんて、日本の男子はジョークセンスがあるのね」

 オルコットさん、あんたも言い過ぎだそれは。
 そもそも勝負の場にハンデをつけるつけないという話しなんて存在しない。
 
 それは、相手を貶める行為だ。
 それは、自分を誇れない行為だ。

 先ほどの怒りは収まったのか、オルコットさんは明らかな嘲笑をその顔に浮かべていた。

 「ねー、織斑くん。今からでも遅くないよ? セシリアに言って、ハンデ付けてもらったら?」

 一夏さんの斜め後ろの女生徒が気さくに話しかけていた。しかしその表情は苦笑と失笑の混じったもの。

 「男が一度言い出したことを覆せるか。ハンデはなくていい」

 「えー? それは代表候補生を舐めすぎだよ。それとも知らないの?」

 お前たちは勝負を舐めすぎだ。あの場所はそんな軽いものじゃない。

 自信に満ちた表情のオルコットさんはそのやりとりを見ていたが、そこで初めて僕に気づき声をかけてきた。

 「あなたも頭を下げればそこのお猿さんと同じように、特別にわたくしが相手をして上げても構いませんわよ?」

 ……この時、僕は自分を抑えるので精一杯だった。

 ―――勝負を侮辱している馬鹿たちに。

 ―――勝負を軽くしている愚か者たちに。

 ―――勝負から尊厳を無くす人たちに。

 手を握り締め、腹の底から湧き上がる激情を抑えるのに必死だった。

 俯いて声を出さない僕に、オルコットさんは何も気づいていないのか続ける。

 「このわたくしセシリア・オルコットが『たかがゲーマー』であるあなたに声をかけているのだから返事をするのが礼ではなくって?」

―――――――――

「ふざけるなよあんたら」

 教室内に小さかったがはっきりと声が響き渡る。自分でも驚く程低い声が漏れたことに内心困惑。
 鬼一の声が教室の喧騒をピタリと沈めた。
 周りのクラスメイトやセシリアもあっけにとられたようにしている。

 俺の視線の先には、先ほどまで冷静だった鬼一が感情をあらわにしていた。その感情は怒り。
 肩は震え、瞳からは光はなくなり、激情渦巻く暗い炎が宿っていた。

 傍から見ても鬼一は感情を押し殺しながら、僅かに震える声で周りにつぶやいた。

「男だから? 女だから? 勝負の場に性別なんて関係ない。お前たちの言っていることは真剣勝負に身を焼いている人たちを馬鹿にする行為だ。
 ハンデ? ハンデというものは勝負においては相手を貶める行為で自分を誇れなくする行為なんだ。女が勝つ? 土俵が同じなのに絶対なんてものは存在しない。なにも、勝負というものを、なにも理解していないのに勝負に侮辱を、そして軽くするんじゃ、ない!」
 
 話している途中から少しずつ声が大きくなり、最後には大声だった。
 きっとそれはプロゲーマーとして生きてきた人間の悲痛な叫びだった。
 ゲームはまだ受け入れられていない部分も多い。
 昔よりは受け入れられているだろうが、それでも周りでは「たかが遊び」「無意味な行為」「くだらないもの」という声を聞く。
 鬼一は当然、ゲームがそう言われていることも知っているはずだ。
 鬼一は子供だから大人たちからそう言われることも多かったと思う。
 今の声で分かった。鬼一はだからこそゲームに、遊びなんかではなく、誰よりも真摯に1つの勝負として真剣に向き合ってきたんだって。

 鬼一の声にみんな圧倒されなにもできないでいる。
 鬼一は乱れた呼吸を整えながら話しを続ける。

「なにが、たかがゲームだって? あんたのいう、そのたかがゲームは僕にとってはいつだって戦いで勝負だったし、決して適当なものじゃなかった。
 そして僕と同じようにゲームに燃やし尽くすような情熱と、途方もない努力でゲームに尽くす人だってたくさんいる。あんたたちに理解できるか?、
 あの世界では性別も年齢も、国籍なんかも関係なく誰もが熱くなり、誰もが真剣に取り組むだけの価値があるんだって胸を張ってた。そして勝負の場で相手を尊敬し自分の為に相手を倒そうとした。あんたたちには死んでも理解できないだろうが、女尊男卑というくだらない世界に染まらない為に力を尽くす女性のトッププロゲーマーだっている。その人はISの適正がA+だった。その人はISよりもゲームが大切だと言い切った」

 その言葉は衝撃だった。ISを使える女性が女尊男卑を嫌い、女尊男卑を下らないと思ってそんな世界にならないように、力を振るう人がいるんだということに驚いた。
 そして、鬼一の言葉にはクラスメイトの誰よりも熱があった。

「織斑先生、僕も立候補します。クラス代表に。今の言葉だけは絶対に認めるわけにはいかない。今の流れなら方法はISを用いた試合形式がいいでしょう。分からせてやる」

 そう言った鬼一は席に戻る。

 ぱんっと手を打って千冬姉が話を締める。

「さて、話はまとまったな。それでは勝負は1週間後の月曜。放課後、第3アリーナで行う。織斑と月夜、そしてオルコットはそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」
 
 

 
後書き
 ハーメルン時代から読んでる方はもしかしたら気付いているかもしれませんが、鬼一くんは細かい部分で変化、というよりも自分の考えを表面化させてあります。その分前よりも感じ方は変わるかもしれませんね。前より辛辣、毒舌、悪辣になっているかもしれません。 
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