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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第二十一話 激闘!!第五次イゼルローン攻防戦なのです。

 
前書き
 同格の人同士が来ると、とってもやりにくいのは自明の理なのです。部下にしてみれば、それぞれ正反対のことを言う上司が2人いる気分。 

 
 帝国歴483年5月19日、ついに同盟軍遠征艦隊はイゼルローン要塞回廊にその姿を現した。

 ・・・・・と、いいたいところであるが、少々事実は異なる。というのは、イゼルローン回廊には前衛艦隊はおろか、いつも展開している警備艦隊もおらず、通信衛星だけがぽつんと数珠つなぎになってうかんでいるだけだったからである。
 というわけで、先行していた第八艦隊と合流した同盟軍は、いったん回廊出口で体制を整えたのち、その通信衛星を破壊しながら、あっさりとイゼルローン回廊に侵入することができたというわけなのである。勢い込んできていた彼らは完全に出鼻をくじかれてしまっていた。

「これはどういうことだ?!」
「帝国軍のやつら、やる気がないのか???」
「それともこれは罠なのか!!??」
「昼寝でもしてるんじゃね???」

 などという憶測が飛び交い、上層部も憶測に苦慮していた。もっともこの作戦の真の目的を韜晦しているブラッドレー大将やシトレ大将は前哨戦での小競り合いの有無など歯牙にもかけていなかったが。


 もしも同盟軍が帝国軍の実情を知っていれば、笑い出していたかもしれない。なぜならば、帝国軍が出撃してこなかったのは、罠を張っているのでも、やる気がないのでも、ましてや昼寝を決め込んでいるのでもなく、単純な仲間内でのケンカが原因だったからである。


「増援艦隊としてここに来たからには、儂が先鋒を務める!!」


 要塞内大会議室で、ゼークト大将がヴァルテンベルク大将とクライスト大将の三者会談において、そう強硬に主張していた。

「何を言うか!?勝手にノコノコと艦隊引き連れて来おってからに!!誰も卿に応援を頼んどらんわ!!駐留艦隊が先陣を切る!!卿にはイゼルローン要塞に控えていてもらうぞ!!」

 ヴァルテンベルク大将が吼えた。ゼークト大将もヴァルテンベルク大将も共に猛将の部類に入る。しかも厄介なことに功名心を立てたいという野心が充満しまくっているのである。

「皇帝陛下の勅命で有るぞ!!」

 ゼークト大将も負けずに吼える。

「皇帝陛下の勅命は、増援艦隊と協同して反徒共を蹴散らすように、であったわ!!卿に先陣を任せよとは一言たりとも聞いておらんぞッ!!だいたい卿のような、わきまえる場所を場所とも思わんイノシシ艦隊に出張って好き勝手に暴れられれば、味方は大迷惑するわ!!」
「何ッ!!??」

 ゼークト大将が立ち上がり、ヴァルテンベルク大将も負けじと立ち上がった。

「やるかッ!?」

 双方の副司令官、分艦隊司令官、幕僚たちもたちあがり、あたりは文字通り空気がび===んと張り詰め、一触即発の状態になった。

「やめんか、卿ら!!」

 クライスト大将が立ち上がる。どうも妙だとクライスト大将は思っていた。駐留艦隊司令部と要塞司令部が犬猿の中であるのは周知の上であるが、まさかここにきて駐留艦隊と増援艦隊が喧嘩をするとは思ってもみなかったし、ましてや自分が仲裁役に回ることなど想像の範囲外のことである。
 もっとも、とクライスト大将は思う。仮にゼークトが中将であり、ヴァルテンベルクの指揮下に入るようであれば、こんな騒ぎにはならなかったかもしれない。同格の者が同じ現場にいるということほど始末に負えないものはないとクライストはあきれ返っていた。
 皮肉にも、それはクライストとヴァルテンベルクとの関係においても言えることであったが。

「ここは両卿ともに出撃するというのはどうかな?」

 クライスト大将の提案に、ゼークト大将が「何をバカなことを言うか!?」と一蹴した。

「どちらも出撃できるほど回廊の出口付近は広くはないわ!!」
「であれば、回廊出口付近に敢えて出撃する必要はあるまい。どうせここで待っていれば反乱軍共はノコノコやってきおるのだ。イゼルローン要塞正面に双頭のごとく展開すれば、卿らそれぞれの艦隊は存分に腕を振るえるではないか」
「なるほど!!クライスト大将、卿の言うことはもっともだ!!」

 ヴァルテンベルク大将が珍しくもろ手をあげて賛同する。ゼークト大将もみすみすヴァルテンベルク大将に先陣を切らせるよりは、とクライスト大将の意見に賛同した。
 
 ほっとした空気が双方の幕僚たちの間に流れた。

 こういうわけで、イゼルローン回廊出口付近にはそれこそネズミ一匹たりとも潜んでいなかったのであった。


 イゼルローン回廊に侵入した同盟軍総数は、66000隻と、これまで過去4度にわたる襲来とは倍以上の規模であり、同盟軍側の並々ならぬ気概を示すかのようだった。

 これに対して、通信衛星の破壊状況から事前情報を得た要塞司令官クライスト大将、駐留艦隊司令官ヴァルテンベルク大将、そして増援艦隊の司令官ゼークト大将は、前回までの作戦と同様、要塞周辺にそれぞれの艦隊を双頭展開し、トールハンマーの射程内に敵を引き入れる作戦をとることとした。
 帝国軍艦隊の総数28600隻、同盟軍艦隊の総数66000隻。数の上では帝国軍側に圧倒的に不利であったが、帝国軍の強みは、そのイゼルローン要塞の持つ火力、特にトールハンマーであった。

「全艦隊、出撃せよ!!」

 クライスト大将が司令官席で叫んだ。


 駐留艦隊旗艦ヴァルテミス――。

 ヴァルテンベルク大将はゼークト大将との間のいさかいが一応は収まると、今度は要塞司令官であるクライスト大将のことをディスりだした。

「フン、クライストめ。要塞艦隊を自分の使い捨ての手駒か何かと勘違いしておるのではないか。忌々しい」

 吐き捨てるようにつぶやいたヴァルテンベルク大将に応える者はいない。まったくいつものことだと、旗艦にいる全員が思っていることだったからだ。

「全艦隊、出撃せよ」
「閣下、陣形はいかようにとられますか?」

 参謀長が問いかける。

「陣形は凸形陣形、反乱軍に対して攻勢をかけるべし。我が帝国には退却という文字は、擬態を除いてないのだからな。それに今回はゼークトのやつに負けるわけにはいかん!!!」
「お待ち下さい」

 赤い長い髪をした女性士官が進み出た。これをイルーナたちが見たらなんと言っただろう。何故なら彼女もまた転生者であった。イルーナたちとは、互いによく知っている間柄だったからだ。

「レイン・フェリル大尉、何か?」
「艦隊を半リング状、つまりC陣形に編成し、トールハンマーの射角内を開けておくべきでしょう。ゼークト大将閣下の艦隊と協力し、リング陣形を作るのです」
「バカなことを。それではこちらの火力が落ちてしまう」
「混戦状態になって、反乱軍に要塞に肉薄されたら、どうされますか?」

 このことはレイン・フェリルだけではなく、イルーナ・フォン・ヴァンクラフト、ラインハルト・フォン・ミューゼルなど、一部の士官からかねて疑問の声が司令部に届いていた事項だった。だが、司令部は「反乱軍にそんな勇気があるか!」と一蹴し、意見を採用してこなかったのである。

「想像するもバカバカしい」
「過去4度にわたって同じ失敗を繰り返してきた反乱軍です。さすがに五度目はないかと思いますが」
「ええい、うるさいわ!!女だからと話を聞いておけば図に乗りおって!!もういいから、その辺に立っておれ!!」

 ヴァルテンベルク大将もまた、頑迷な軍人の一人だった。レイン・フェリルは無表情で敬礼したが、内心は大きく傷ついてと息を吐いていた。

(こんな時にイルーナさん、フィオーナさんたちと一緒だったら・・・・!!)


 一方の同盟軍側でも、さすがにトールハンマーの火力を過去4度にわたって味わってきたため、その対策には慎重になっていた。

旗艦アイアース大会議室――。

「偵察艦の報告では、やはり帝国軍はトールハンマーの射程に誘い込むべく。2個艦隊をそれぞれ凸陣形にし、攻撃の体勢を取りながら進んできます。その総数約28000隻!!」

 その報告を聞きながら、シャロンは内心で計算を立てていた。

(原作よりも艦隊総数は増えているけれど、之と言って特別な陣形で進んできているわけではない。さらにこの原作ではラインハルト・フォン・ミューゼルはこの時点では少佐。帝国データベースにアクセスして将官人事を当たったけれど、私の知る転生者はいなかったし、特筆すべき人物もいない。となると、おそらく増援艦隊を派遣したのは帝都オーディンにいる転生者の誰か。けれど、軍に対しては直接的な指揮権は持たない。ならば・・・)

 シャロンの口元に微笑がうかんだ。

(単に艦隊総数が増えただけ。それはこちらも同じことなのだから、条件としては変わらないわ。統合作戦本部長に上申した私の作戦立案書どおりに行けば、要塞を制圧できるはずよ)

 もっとも、とシャロンは思う。もしも要塞を制圧してしまえば、あの大規模な帝国領侵攻作戦が始まってしまう可能性が大だった。そうなればアムリッツア星域で大敗を喫し、同盟の国力は一気に減衰してしまう。そのため、シャロン個人としては今回は要塞制圧を望んではいない。ただ、自分の先見性を上層部に知ってもらい、さらなる昇進の糧にしたいと思っていただけだった。
 この点では「負けることを前提とする」ブラッドレー大将、シトレ大将と考え方は同じで有ろう。もっとも両者の思惑は、「負ける」というその一点につき同じであるだけで、後はだいぶ違うのであったが。

「諸君も承知の通り、イゼルローン要塞にはトールハンマーという巨砲がある。これをいかに無力化するかだが・・・・」

 ロボスに代わって会議を仕切るシドニー・シトレ大将は周りを見まわした。

「かねてからの作戦通りに、並行追撃によって要塞に肉薄する。つまり、意図的に混戦状態を作り出すことで、帝国軍にトールハンマーを撃たせないようにするのだ」

 おおというどよめきが会議室内に満ちる。

「なるほど!」
「これはいけるかもしれんぞ」
「そうなれば――」
「我々の手で初めてイゼルローン要塞を陥落させられる!」

 どよめきの中、冷静にそれらを見守っていたのは、ほかならぬシトレとブラッドレー、そしてヤン・ウェンリーとシャロンの4人だけだった。


 イゼルローン要塞内艦隊ドック――。

 駐留艦隊と増援艦隊の全軍に出撃指令が下っていた。この出撃指令のタイミング自体は良好なものであった。イゼルローン要塞と同盟軍艦隊との距離から逆算すると、今出撃して陣形を整えた直後に、同盟軍艦隊がやってくるという流れになるからだ。その辺りの呼吸は上級将官たちはよく心得ていると言ってもいい。

 だが、あくまでもイゼルローン要塞付近で戦闘をするということに関しては、少なからず異論があった。

 せっかく回廊内部にいるのであるから、まずは回廊出口付近にて敵に痛撃を与え、此方の士気を上げるのが得策ではないか。それに反乱軍がいつまでもトールハンマーにすりつぶされにノコノコとやってくるものか。そう思っている者の一人がティアナだった。

「くだらない!」

 移動床に乗って艦に向かいながらティアナが両拳を打ち付けていた。

「もし、私に一個艦隊を率いさせてくれるのなら、絶対に反乱軍を完膚なきまでにたたいて見せたのに!!」
「まぁまぁ。そう怒らないで」

 フィオーナが宥めた。

「相変わらずの古い作戦に引っかからない方がおかしいというのが、わからないのかしら!?」
「それがわからない人が多すぎるから、私たちがこうして転生者としてここにきているのよ」

 やや前に立っていたイルーナが二人を振り返りながら言った。

「ラインハルトが元帥になれば、あなたたちは嫌でも一個艦隊司令官として戦場に立つ時が来るわ」
「教官はどうなさるおつもりなのですか?」

 フィオーナが不思議そうに尋ねた。

「戦場での駆け引きはあなたたちに任せるわ。私はアレーナと一緒に政治・謀略面からあの人を支えると決めているの」
「ええ?!まさかオーベルシュタイン的な立ち位置ですか!?」
「オーベルシュタインは登用するけれど、ラインハルトの下には就かせないわ。私が直接部下にします。あの人はとても有能だけれど、ラインハルトにマイナスを与えることもある。そのことは原作においても描かれていたもの。だから私が手綱を取るの」
「ねぇ、オーベルシュタインって、教官に黙って手綱を取られそうな人に見える?」

 ティアナが小声でフィオーナに話しかけた。

「ううん、そうは見えないけれど・・・・。でも、教官だって前世じゃオーベルシュタイン並に駆け引きをやってたもの。だからきっと大丈夫なんだって思う」
「二人とも聞こえているわよ。さぁ、そろそろ到着。気を引き締めてかかりましょう」
『はい!』

 二人がうなずいたとき、ちょうど艦のそばに来た。3人は急いで艦の搭乗口に乗り込んだ。


 その姿を遠く後ろで見ていたラインハルトが見つけて声を上げた。

「ん?あれは・・・・。なんだ、こんなところにいたのか。イルーナ姉上たち」
「ラインハルト様同様、どうやら駆逐艦の艦長のようですね。階級が少佐でしたから」
「少佐か。さすがはイルーナ姉上だな」
「この戦いが終わったら、会いに行ってみますか。ずいぶん久しぶりなような気がします」
「そうだな、そうしよう。それにしても・・・・」

 ラインハルトはやや後方に立っている数人の人間をちらと見た。彼らは監視と称してラインハルトの艦に同乗するつもりなのだ。

「クルムバッハ少佐か。俺は人の趣味についてどうこう言うつもりはないが、なんだあのおしろいは、なんだあの赤い口紅は。あれはオカマか?キルヒアイス」
「さぁ、わたくしには・・・・」
「あんな趣味を許しておくほど、憲兵隊は風紀が乱れているということなのか?まったく、度し難いことだな」
「ラインハルト様!!」
「わかっている。だが油断は禁物だぞ、キルヒアイス。奴にはあきらかに殺気がある。ベーネミュンデ侯爵夫人め、ベードライでヘルダー大佐がやられたことを知って手を引けばいいものを」
「ですが、この戦場でラインハルト様を襲うということはしないでしょう」
「そう願いたいな。前はともかく、後ろからも狙われたら、戦闘指揮に集中できないからな」

 ちょうどエルムラントⅡのところにまできたので、二人はそのまま乗り込んだ。

イゼルローン要塞表面流体金属から続々と艦隊が抜錨し、イゼルローン回廊に向けて、出撃していった。リューベック・ツヴァイもエルムラントⅡもその中に混じって出撃し、前線に向けて航行している。

「今回の戦いでは、せめて巡航艦を仕留めたいものね~」

 ティアナが腕を撫しながらつぶやく。

「あまり過度な期待をかけない方がいいわよ。これだけの大艦隊の戦いだもの。まずは生き残ることを主眼にしなくちゃね」
「大丈夫よ。私の操艦とフィオの砲撃の腕前、そしてイルーナ教官の判断力があれば、同盟軍は敵ではないわ」
「しっ!」

 フィオーナがそっと指に手を当てた。ここには他の士官、下士官、兵もいるのだから。

「味方第一陣、敵と接触します!!」

 オペレーターが報告した直後、無数の光点が明滅した。お互いの主砲が斉射され、お互いの艦が爆沈して宇宙に光の玉を出現させ始めたのである。

「艦長!!」
「ティアナに任せるわ。操艦自由、ただし無茶はしない事」

 イルーナは司令席に座ったまま、うなずいて見せた。他の艦橋要員も何も言わない。これまで散々ティアナの操艦技術の腕前を見て知っているからだ。

「了解。機関最大!!最大戦速!!」

 一瞬で加速したリューベック・ツヴァイはみるみる僚艦を引き離し、第一陣に混じって敵に突撃していった。

「2時方向俯角34度及び4時方向仰角40度に敵駆逐艦!!」

 索敵主任が叫んだ。

「フィオ!!」
「まずは天頂の敵を狙います。下方の敵には機雷・主砲を投下してけん制」
「了解。機雷、投下!」

 機雷が投下され、さらにフィオーナが放った主砲が敵をけん制する。敵が大きく体勢を崩したすきに、リューベック・ツヴァイは急速上昇し、上方からの敵の砲撃を交わして、側面についた。

「主砲、斉射!!」

 リューベック・ツヴァイが放った主砲は敵の機関部に正確に命中して爆発した。続く敵の斉射を見事にかわしたリューベック・ツヴァイは急反転して、下方にいる敵に上方から襲い掛かった。

「ファイエル!」

 イルーナが指令した。宇宙を切り裂いてとんだビーム砲は敵駆逐艦を貫いて爆発四散させた。


「ほう、やるものだな」


 ラインハルトは艦橋にあって、リューベック・ツヴァイの奮闘ぶりを見ていた。
 こちらは既に駆逐艦3隻、巡航艦1隻を撃沈していた。艦の操縦士や砲術士の腕前はラインハルトの猛訓練ぶりによって格段に上昇していたが、何よりもラインハルトの的確な戦術ぶりによって戦果が上がっていた。

「見事だ。よくやったな」

 敵艦が撃沈されるたびに、ラインハルトは部下たちを賞賛した。当初ラインハルトとキルヒアイスを「青二才」と侮っていた古参下士官、兵たちも、彼らの的確な指揮ぶりと、勇猛果敢かつ冷静な態度に、徐々に態度を軟化させていた。

 ラインハルトの眼にはスクリーンに移る敵味方のおおよその状況と、目の前の戦況が映っている。徐々にではあるが、ある動きのような物が現れ始めていた。大地震の前の初期微動のようなものである。それをラインハルトは天性の勘ですばやく感じ取っていた。

「キルヒアイス。そろそろ潮時か」
「は。そのようです。もうすぐ退却命令が来るでしょう」
「・・・・・・」

 ラインハルトは敵の布陣を眺めていた。敵艦隊に対し、距離を詰めてきているが、どうもその動きは鈍い。過去の戦場記録をラインハルトはあさっており、その際の各艦隊の配置、移動速度、戦況を頭に入れていた。それからすると、今の反乱軍の足並みは思ったほど早くはない。それにいらだったこちらの前衛艦隊は、弾雨を犯して前進し、何とか躍起になって引きずり込もうとしている。

「反乱軍はおそらく急進して並行追撃に入る体制をとるだろう。再度司令部に連絡。『反乱軍ハ我ガ艦隊後尾ニ喰ライツキ、並行追撃ニ移ル兆シアリ』と」
「ミューゼル少佐、たかが一駆逐艦艦長ながら、司令部に意見具申するとは、無礼であろう」

 クルムバッハ少佐が言う。

「少佐。士官たる者は常に全体の戦局を考え行動すべきだと私は思っている。もし反乱軍の追撃をうければ、わが方はトールハンマーを使用できずに、敵の侵入を許す形となる。そうなれば犠牲は増すばかりだ。それでいいのか?」
「そのようなことは司令部で判断する」
「最終的な判断はそうだろうが、現場からの情報は与えてしかるべきだと思う。少佐、あなたは戦場にいらっしゃったことが、どうやらあまりないようですね、常に後方の安全な場所に会って指揮をする立場の肝の小さな人間の言葉だ」
「小僧、貴様!!」

 クルムバッハ少佐が腰から銃を抜いて立ち上がりかけた時、素早くキルヒアイスが銃をつきつけていた。

「艦内での発砲は慎まれますようにお願いします。今は戦闘中ですので」
「くっ・・・・!!」

 クルムバッハ少佐が赤い唇を悔しげにゆがめながら座り込む。その様子を兵たちは面白そうに見ていた。ラインハルトは何事もなかったかのように通信主任に話しかけた。

「通信主任、司令部に連絡。先ほどの情報を伝えてくれ」
「はっ!」


 一方のリューベック・ツヴァイでも後退運動に入っていた。

「敵は例の並行追撃に移行するつもりよ。いち早く前線から後退。ただしさりげなく。敵前逃亡とみられることのないように」
「艦長。どのみちエネルギーの補給に迫られています。いったんイゼルローン要塞に帰投するように、許可申請してみてはどうでしょうか?」

 フィオーナが提案した。

「そうね。そして通信主任、再度イゼルローン要塞司令部及び艦隊司令部に連絡。『反乱軍ハ我ガ艦隊後尾ニ喰ライツキ、並行追撃ニ移ル兆シアリ』と。ただし、補給帰投の申請許可が下りてからよ」

 偶然だが、ラインハルトの放った電文と全く同じことだった。

「はっ!」

 通信主任が補給帰投の申請を送り、許可されると、艦長の言葉を電文化して放った。


 イゼルローン要塞司令部及び艦隊司令部では、この両者からの通信を受け取ったが、それは全く考慮されなかった。ここまで度々連絡があっても無視をするというのはおかしなことだと思うかもしれないが、「たかが一駆逐艦の艦長ごときが何様のつもりだ!!バカ野郎が!!」という空気が双方の司令部を包んでおり、感情的になってしまっていたこと、さらに目の前の戦闘指揮に忙殺されて気が立っていたことが原因だった。
 ただ、ゼークト大将の方はラインハルトからの連絡を受け、いったんは後退をやめて奮戦しようとしたものの、ヴァルテンベルク艦隊が一方的にす~~っと引き揚げてしまい、孤立してしまう状況に陥ってしまったので、やむなく彼も引き上げを指令していた。
 結果、双方は警告を無視して艦隊に要塞に引き上げるように指令することとなり、これが後々の大苦戦を生むこととなる。
 
 

 
後書き
 ケンカするほど仲がいい、はこの場合には当てはまらないのかも。。 
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