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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第二十話 戦場で敵艦を撃破することだけが武勲ではないのです。

 
前書き
 より効率よく、より要領よく、はどこの職場でも理想とするところ!!もっともそれを良しとしない人も多いですが。 

 
帝国歴483年2月13日――。

 ヘルクスハイマー家とシャフハウゼン家の決闘事件に巻き込まれ、ベーネミュンデ侯爵夫人から放たれた刺客を撃退したラインハルトは、少佐に昇進していた。
 別に表立って戦功があったわけではない。にもかかわらず、彼が少佐に昇進したのはグリューネワルト伯爵夫人の弟だからという噂がまた各所で広がり始めた。

 だが、事実は少々異なる。

 ラインハルトは大尉として軍務省に内勤していた際に、新しい決済システム及び検索システムを考案し、これが画期的だとして、軍務省内で採用されたのである。信じがたいことであるが、それまではすべて案件は書面で決裁を受けていた。PCやポータブル端末があったのにもかかわらずである。

 書類にすれば証拠には残るが、年度ごとに廃棄をしなくてはならないし、検索するのにも手間がかかる。重要案件で有れば書面決済はむしろ有効な方法なのであるが、簡易な案件までも書類にするのは非効率であるし、この戦時下に置いて紙も必要な物資の一つであったのであるが、無駄遣いの温床となっていた。

 そこでラインハルトは決済の基準を見直し、数段階の新たな基準を設け、軍務省全部署の決裁案件を総洗いし、簡易レベルの物については、電子決済を採用すること、検索システムを設置することを提案したのである。
 さらに保管されている簿書についても、きちんきちんと種類や重要度ごとにその保存期間を設定し、不要なものについてはシュレッダー処分にし、再生紙として利用することで資源の効率化を図るべし、と提案したのである。

 これで将官たちはいちいち案件をひっくり返して確認する手間も省け、部下たちは書面の作成の手間も省け、保存簿書を廃棄する係もそれまでの膨大雑多な無秩序の書類の山から逃れられることができ、要するにいたるところでこのシステムの評判は良かった。トップであるマインホフ元帥の耳にまでも入ったくらいである。

 そのマインホフ元帥は、軍務省から退省し、週2回の楽しみであるランディール邸での夕食をとるためにやってきて、このことをアレーナに話した。もちろん誰がやったとは言わなかったが、話のタネにちょうどいいと思ったのである。これを聞いたアレーナはすぐにラインハルトのことだとピンときたし、何も教えてもいないのにそんなシステムをすぐ構築してしまう手腕に驚嘆していたが、それをおくびにも出さず、ただ元帥閣下に頭をもたせ掛けて、甘え声でこういった。

「すごぉい!その人天才ですよね!で、おじいさま、その人昇進しないんですか~?」
「ううむ、戦場で武勲を建てたわけではないでなぁ」

 マインホフ元帥は、困惑顔の渋い顔である。

「ええ!?でもでも、せっかくシステムを構築したのに、かわいそうですよぉ。ね?もしここで昇進させてあげれば、他の戦場で手柄を立てたくてもたてられない内勤軍人さんたちも『俺も昇進できるんじゃね!?』ってな感じで、一層内務に精出すと思うんです。そうすれば効率がアップアップ!!だと思いません?」

 マインホフ元帥は、ハタと膝を打った。

「おぉなるほどのう!!流石はアレーナじゃ。まさに目からうろこじゃのう!!よし、早速部下たちに相談して事を進めるとしよう」

 マインホフ元帥は「流石おじいさま、すごぉい!やるぅ!!」という大姪の褒め言葉をもらい、デレデレになりながら、ランディール侯爵邸を後にして、いそいそと軍務省に引っ返したのである。

 というわけで、ラインハルトは陰でこっそり尽力したアレーナのおかげで昇進することになったのだが、本人はそんなことは夢にも知らなかった。

 ラインハルトは少佐に昇進の後、駆逐艦エルムラントⅡの艦長を命ぜられることとなったのであった。




帝国歴483年3月19日――。
イゼルローン要塞 

 イルーナ、ティアナ、フィオーナの三人がイルーナの自室で高速通信でアレーナと極秘通信をしていた。この端末は完全にランディール侯爵家専用の通信回線の上、暗号化された高速通信なので、傍受される危険性はなかった。

『・・と、いうわけでね、ラインハルトは原作通り、コルネリアス・ルッツの助けを借りて、決闘者を撃退したってわけ。それでもって軍務省のシステムを改革して少佐に昇進したわよ』
「そんなの当り前じゃない。あ、前半の部分よ。後半は確かにびっくりだけれど。でも、それをわざわざ報告しに来たの?」
『ティアナ違うわよ。それに+アルファもう一つ。あのベーネミュンデ侯爵夫人は、死んだわよ』
『えええええええええ!?!?・・・モガッ!!』

 フィオーナの口を二人がかりで押さえつけた。「ん~~ん~~~!!」と手足をばたつかせるフィオーナに、

「声が大きい!!・・・・で、何なの?嘘でしょ?原作だとベーネミュンデ侯爵夫人はラインハルトの元帥就任後に自裁を命じられるんだから」
『ティアナそれがねぇ。ちょっと私が細工したのよね。後々ああいうのに出張ってこられると面倒くさいじゃないの。だからグレーザー医師ともども、決闘者を指し向けたのはベーネミュンデ侯爵夫人であって、その狙いは実はリッテンハイム侯爵だってことにしておいたの。でっち上げよ』

 イルーナはフィオーナから手を離してさっと立ち上がった。

「アレーナ!!」

 イルーナの表情が変わる。怒った時ほどの教官ほど恐ろしいものはいないとティアナ、フィオーナの二人は身に染みて知っていた。

『・・・・ってのは冗談。まだ生きてるわよ』

 3人は一斉にと息を吐いた。またアレーナの「しれっと冗談ここでぶち込む!?」が始まったのかと思ったからだ。前世でも散々それに苦労させられた3人だった。

『いくらなんでも私はそんなことしないわ。ごめんね~フィオーナ。ちょっと驚かせただけなのよね』
「ああ、もう!!心臓に悪いですよ!」

 しれっというアレーナにフィオーナがほっと胸をなでおろしている。

「あんた、私たちが、こんな前線で、苦労しているってのに、冗談・・・!?」

 ティアナが一語一語刻み付けるように画面に向かって言う。

「それ、顔だけにしてくんない?このアラサー――」
『ちょっと誰がアラサーだって!?』

 たいていの悪口はしれっとスルーパスするアレーナがなぜか「アラサー」に反応することはよく知れ渡っている。前世でアレーナ・フォン・ランディールが初めて公国からイルーナたちの国にやってきたとき、その美貌から10代後半と言われ、大歓迎されていたものだが、実際は27歳だったと聞かされ、ショックで寝込んだファンも大勢いたのである。

『今だって顔かわってないし!!しかも私まだ20歳だし!!』
「あ~はいはい、わかりましたから~」

 ティアナが適当に相槌を打つ。

「ティアナいい加減にしなさい。アレーナもよ。それで、本題は?報告は本当にそれだけなの?」
『あぁ、話がそれたか。ゴホン!!』

 アレーナは整った顔立ちを引き締めた。こうしてみると冷厳さえ備えて見える貴族らしい顔立ちである。

『グリンメルスハウゼン子爵から受け継いだ私の情報網だと、自由惑星同盟が原作通り大規模な艦隊を派遣することになったそうよ。到着は5月頃、そしてラインハルトも少佐としてイゼルローン要塞にとんぼ返りするらしいのね。それが3週間後だって』
「じゃあ原作通りに、第五次イゼルローン要塞攻防戦が始まるのですね?」

 と、フィオーナ。

『それがどうもおかしいのよ。情報によれば、同盟軍が派遣する艦隊総数は66000隻だっていうから。それに、最高評議会のメンバーや統合作戦本部長までやってくるらしいのよ。同盟じゃ盛んに宣伝されているわ』

 3人は顔を見合わせた。

「原作では、確か51400隻だったから、約一個艦隊分戦力が多いわ。しかも評議会や統合作戦本部まで出てくるとはどういうことなのかしら・・・・」

 イルーナが顎に手を当てて考え込んだ。

「こちらの艦隊総数は原作通り13000隻。まともに戦えば、絶対にこちらが不利よね」

 と、ティアナ。

『そう思ったから、グリンメルスハウゼン子爵と一緒にマインホフおじいさまにお願いして【自由惑星同盟軍大規模攻勢近シ】って教えて、増援艦隊の派遣の手を打ったの。帝国の情報部でもこのことはキャッチしているみたいね。どうやらフェザーンが教えたみたい。まぁ、教えるも何もダダ漏れだから意味ないけれど。それで、ラインハルトはその増援艦隊の一員として赴任してくるはずよ』
「その増援部隊の指揮官は誰?規模はどうなのかしら?」

 イルーナが尋ねる。

『帝国軍正規艦隊司令官ハンス・ディートリッヒ・フォン・ゼークト大将指揮下の一個艦隊15600隻よ。本当はもっともっと大兵力を、もっとまともな指揮官を派遣したかったんだけれど・・・』

 ゼークト大将は、今のイゼルローン要塞艦隊司令官であるヴァルテンベルク大将の次に、イゼルローン要塞駐留艦隊司令官になる人物である。原作では最後はイゼルローン要塞をヤン・ウェンリー艦隊に攻略された際に、武人の矜持を貫き、トールハンマーで旗艦ごと爆殺された人物として描かれているが、この世界ではどうなのだろうか。

「例のイゼルローン要塞に駐留艦隊司令官になる人か。残念ね、ミュッケンベルガーだったらよかったのに」

 ティアナが残念がった。そのミュッケンベルガーは女性士官学校副校長を今も務めているが、今年の4月から異動して、宇宙艦隊副司令長官として辣腕を振るうことになっている。ここ数年でだいぶ理解が進んだらしく、女性士官の登用に積極的になってきたということだ。

『ちょっと間に合わないわね。ごめんね。力になれなくて』

 すまなそうなアレーナにイルーナは微笑んだ。

「あなたは精一杯やってくれたわ。ありがとう。後はこちらで引き受けるから」
『ありがとうね。まぁ、そういうわけだから、警戒よろしくね』
「わかったわ。ありがとう」

 通信は切れた。

「ティアナ、フィオーナ」

 一転、表情を引き締めたイルーナが二人に話しかける。知らず知らずのうちに二人は前世の時と同様姿勢を正していた。

『はい』

 これは予想以上の展開になるかもしれないわ、とイルーナは前置きして、

「あなたたちは幸い私の艦の副長兼操舵主任と砲術長。1隻の駆逐艦ではあるけれど、3人がこうしてそろったのだから、なんとかこの状況を3人で打破しましょう」

 イルーナ・フォン・ヴァンクラフトは例のベードライ基地で、ラインハルトとキルヒアイスが去った後に部隊指揮官として赴任、反乱軍基地を撃滅した功績などによって、この年少佐に昇進し、駆逐艦リューベック・ツヴァイの艦長に就任していた。
 このリューベック・ツヴァイ、珍しく女性士官が半分を占めるというまさに「女が指揮する艦」として注目を集めていた。もっともその半分は厳しい禁止規定にも関わらず侮蔑の入った視線であったことは事実である。女性士官学校が誕生して数年、前線に来る女性士官も増えつつあったが、まだまだ実情としては根強い差別があったのである。
 それでもイルーナ・フォン・ヴァンクラフト他、優秀な女性士官は早くも少佐に昇進していた。通常の帝国軍人と比べても早い速度だが、これにはマインホフ元帥ら推進派の「女性登用の風潮を基礎づくる」という信念のもと、少し緩やかな昇進人事が秘密裏に行われていたためである。もっとも元帥の動機としては孫同然のベタかわいがりにかわいがっているアレーナの願いをかなえてやりたいという思いがあったからである。「将来の宇宙艦隊司令長官はアレーナ」というマインホフ元帥の勝手きわまる動機からなのだが。

 推進派は将来的には女性の将官登用に踏み切るつもりでおり、その準備を着々と進めていたのである。


帝国歴483年4月24日――。
駆逐艦エルムラントⅡ
■ ラインハルト・フォン・ミューゼル少佐
 駆逐艦とはいえ、ようやく一艦の艦長になったか、これで俺も自分の船を指揮することができる身分にはなったというわけだ。
 だが、就任当初は「青二才」の俺たちへの風当たりは強かった。特に古参兵士や下士官はそうだ。だが、俺は頓着しない。なぜなら指揮官として使えるかどうか、それは実戦で証明して見せなくては意味がないからだ。もっとも、平素において数人ばかりたたきのめしてやったがな。キルヒアイスが副長としてそばにいてくれてよかった。
 出立前、アレーナ姉上と会う機会があった。相変わらず宮殿内を飛び回っている。だが、姉上をそばで見守っていてくれるので、俺としては心強い。ヴェストパーレ男爵夫人、シャフハウゼン子爵夫人、アレーナ姉上、この3人がいてくれるからこそ、姉上はあの忌々しい宮殿内で何とかやっていられるのだ。

 待っていてください姉上、必ず俺がお救いします。

 そのアレーナ姉上から、そのうち一個艦隊司令官として前線に出るなどと言われた時は驚いたが、あれもアレーナ姉上流の冗談の一つなのだとわかっている。
 この艦に、イルーナ姉上、アレーナ姉上、そしてフロイレイン・フィオーナやフロイレイン・ティアナがいないのは残念でならない。女性だと皆はさげすむが、何が女性だ。そんなものは関係がない。指揮官としてあの人たちは充分すぎるほど能力を持っている。そして何よりも、俺の大望を理解して、それに協力しようとしてくれている。
 だが、だからこそ俺は自分を律し、厳しくしていかねばならないのだ。あの人たちなしでも、俺が最後まで自分の道を歩んでいけるようにならなくてはならない。
 何はともあれ、まずは状況把握だ。先日のルッツ少佐同様、願わくば、俺の麾下に招くに足る逸材にお目にかかりたいものだ。

■ ジークフリード・キルヒアイス中尉
 ラインハルト様が考え事をしておられる。きっと要塞についてから、また新たな人材収拾をなさろうとしているのだろう。だが、それをおくびにも出さないところはさすがはラインハルト様だ。私たちはまだ一介の駆逐艦乗りにしかすぎないのだから、あまり目立つ行動をするのは控えた方がいい。
 出立前にアレーナさんとアンネローゼ様に会う機会があった。アンネローゼ様があの苦しい生活の中でも笑うようになっていたのは、イルーナさん、アレーナさん、ヴェストパーレ男爵夫人、シャフハウゼン子爵夫人のおかげだと思っている。本当にありがたい。1日でも早くアンネローゼ様を、ラインハルト様と共にお救いし、そして宇宙に平和をもたらすように頑張らなくては。


 一方――。
自由惑星同盟軍艦隊は首都星ハイネセンを3月27日に出立し、途中途中で補給を重ねながら、4月半ばにイゼルローン回廊前面に到達していた。
 この時、第八艦隊は一足先に「哨戒部隊」として出撃しており、イゼルローン回廊付近で本隊と合流することになっていたのだった。これもまたブラッドレー大将とシトレ大将の中では織り込み済みの事であり、今後起こるイゼルローン要塞攻略作戦に必要不可欠な処置だったのである。
 
 

 
後書き
 次からは第五次イゼルローン攻防戦なのです。この戦いで笑うのは一体誰でしょう? 
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