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世界最年少のプロゲーマーが女性の世界に

作者:友人K
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1話

 
 ―――IS、インフィニット・ストラトスによって構築された世界は真っ当な感性を持っているなら極めて特殊な世界だと言えるだろう。

 ―――男の立場を擁護するつもりはないが、少なくとも女尊男卑という世界というのもまた真っ当な世界からかけ離れていると言えるだろう。

 ―――そういう意味ではe-Sportsの世界というのはある種、極めて分かりやすく真っ当な世界であろう。

 ―――もう少し踏み込んだ話をすれば、強ければ何をしてもいいわけではないが、プレイヤーの持つ強さが評価にダイレクトに直結する。

 ―――そこには性別、国籍、人種、宗教、年齢など問題にもならない。第一集団、トップを走り続けている人間たちは全員何もかもがバラバラで、年齢に至っては下は10代、上は50代を超えている。性別も男だけ、女だけ、などではなく、双方にトッププレイヤーが存在する。

 ―――そんな人間たちだからこそ、そんな人間たちがその世界を愛しているからこそ、今の女尊男卑を受け入れるつもりはないだろうし、e-Sportsの世界に持ち込ませないだろう。

 ―――現に女性トッププレイヤーの1人はISにおける適正が極めて高く、各国から高待遇で勧誘されたが彼女は全て断っている。

 ―――そんな彼女がいるからこそ、下の女性プレイヤーたちを統率できているし維持できている面も存在するのは事実だろう。

 ―――ある意味の男女平等がそこに存在する。

 ―――同時にこの世界に生きている人間たちは、今の女尊男卑に極めて敏感か、それとも極めて鈍感かの二極化さている。

 ―――不幸なことに月夜 鬼一というトッププレイヤーはその女尊男卑に対して敏感、いや、人の視線に対して極めて敏感なのだ。

     ―――とあるゲーム雑誌のあるプレイヤーの特集から一部抜粋―――

―――――――――

 ―――……分かっていたけど、これは応えるな。

 モノレールに揺すられながら僕はそんなことを考えていた。
 今日はIS学園に初登校の日。初登校の日に遅刻するよりも余裕を持って登校した方が、万が一遅刻して悪目立ちするよりマシだと考えていた。

 しかし、

 ―――……アヤネさん、どうやら貴女の予想以上の場所みたいです。

 先日、別れの言葉を交わしたチームメイトの顔を思い出す。最近のことなのにやけに昔のように感じられる。

 僕自身がかなり特殊な立ち位置の人間だから分かりにくいが今の状況はかなり、傍から見たら異様な光景ではないだろうか? なんせ、僕以外の乗客が全員女性なのだから。そしてその全員から視線を向けられている。それもそのほとんどが好意的なものではない。
 何度も何度も向けられたことのある視線だから嫌でも理解してしまう。

 不安、不満、焦燥、困惑、緊張、嫌悪、軽蔑、嫉妬、怒り、憎悪。

 ここまでくると逆に笑いたくなってくる。人としてまともと言えばまともだけど、感情のベクトルが全部、負の方向にあるというのはそれだけ僕という存在が歓迎されていないということを確認させてくれた。
 一部はそうではない視線があるみたいだが、それを上回るものがあるのだからそれを理解する余裕がない。

 そもそも。

 他人にこんなみっともない視線を向ける暇や余裕があるのなら自分のために時間を使った方が建設的だろうにな。

 登校初日から遅刻なんていうのも流石にイメージが悪いから、早めにモノレールに乗ったのが逆に仇になったか。

 クソ、こんなことなら休日の内にIS学園内の寮にさっさと入ればよかった。保護という名目で研究所にいたのは間違いなくプラスだったけど、これは予想外だった。

 この程度の視線に晒されること、多少は精神的にクルものがあるがそれ自体は別にどうだっていい。今更同年代の視線に振り回されるほどヤワでもないから。だけど、うざったいことこの上ない。

 ―――せっかく初めての『満員電車』というものを味わっていたのに、これはないな。台無し。

 まあ、電車ではなくモノレールだからちょっと違うと思うがそんな大差ないだろう。

 いつだって未知の経験には胸が踊る。良い物だろうが悪いものだろうが。

 知識として満員電車のことは知っていた。日本では決して珍しくない光景なんだろうが人によっては嫌なものというのも聞いている。

 法や倫理に触れるようなものでなければ1度くらいは経験してみたかった。他人に押しつぶされそうになる所謂すし詰めというのも体験してみたかった。

 このモノレールは乗客数に対して明らかに席の数が足りていない。そのせいか生徒同士の肩が接触するほど詰めて乗車している。
 だから本来僕もそれの一部になっているはずだったのだが。

 視線だけならともかく、これはちょっと極端すぎるような気がするな。

 内心苦笑。

 そう、僕から1メートル以上距離を空けていることだ。
 もちろん、僕の両隣は空席のまま。
 距離は空けているが視線は僕に向けられたままであり複数の声が聞こえる。
 確認するまでもなく僕のことを話しているんだろう。

 20000人を超える大観衆の視線の前に立ったことがあるが、その時でもこんな気持ちにはならなかった。
 いや、あの時は高揚感しかなかったけど。今は不快感が先行している。

 しかし、よくもまぁ初対面の人間に対してこんな視線を向けたりすることができるな。いや、違うか。
 誰にも聞こえないほどの小さな声で愚痴る。

 ―――彼女たちは男性である僕をある意味では人として見ていないからか。

 女尊男卑についてはニュースで見たり知人から聞いたことはあったが、自分がこうまで露骨にその対象になるとは思わなかった。e-Sportsでは無かった分、彼女たちの視線は不快感を催すものだ。

 対戦相手を負かした時はこういった視線を受けることもあったが、あれは相応な理由が存在するから納得が出来る。だけど、この視線は僕が『男』なだけで向けられている。

 そのあまりと言えばあまりな事実に心の中でため息を零す。性別が壁になったり『差別』に繋がる世界にいたわけでない以上、ただただ不快でしかない。

 『女性』にしか反応しない世界最強の兵器IS『インフィニット・ストラトス』。現存の、従来の兵器の存在を否定しかねないほどのぶっちぎりの性能を証明されて以来、戦争の抑止力の要として運用が始まった。

 いち個人としては笑い種でしかない。

 元々は宇宙空間での活動、運用を前提にして設計開発されたマルチフォームスーツ、だったか。開発当初は微塵も評価されなかったという。

 そして発表の1ヶ月後、開発者である篠ノ之 束が引き起こした『白騎士事件』。概要は確か、こんなものだったか。
 母国の日本を射程圏内に存在する全軍事基地の設備がハッキングされ2000発以上のミサイルが日本に発射された。
 しかし白銀のIS、通称『白騎士』。その白騎士とやらの手によって全てのミサイルが落とされ、その後白騎士を捕獲するために送り出した大部隊、戦闘機200機以上、巡洋艦7隻、空母5隻、監視衛星8基、その悉くを無力化。 

 これだけでも目眩がするほどのことだが、しかしこんなことよりも遥かに驚く事実が存在する。

 つまり、『1人の人命を奪わなかった』ことだ。

 素人でも少し考えれば、特に軍人などの本職ならばこれがどれだけ異常なことが分かるはずだ。
 素人からすれば無力化と聞いて3つ思いつく。
 完全な破壊か。戦闘続行不可能なレベルでの破壊、つまりは武装のみの破壊。そして機動に関する破壊か、機動や武器をコントロールする機器の破壊。そんなところか。

 馬鹿か。

 個人で動かす戦闘機にしても、多数の人間で運用する巡洋艦や空母を無力化するならばどの手段を用いても人的被害を避けることは出来ない。場所によっては2次被害だってありうるだろう。

 しかし現実として人的被害は出ていない。

 ここまでだけでも気になる点は多いが、その中でも極めつけの疑問が沸く。

 つまり、最初から人が乗っていなかったのではないか? ということだ。ハッキングと合わせて考えればこれは壮絶な自作自演にも見えなくもない。

 そこまで考えて思考を止める。

 所詮は素人の考え。もしかしたら全く違う答えがあるのかもしれない。

 まあ、答えはどうあれ1個だけハッキリしている。

 このISを生み出した篠ノ之 束はとてつもない阿呆だということだ。

 女性にしか乗れない、とか、間接的にとはいえISで人生が少なからず変わった身というのを差し引けば、ISそのものは発展性のある素晴らしい道具に思える。元は宇宙での行動を主としているならなおさらだ。単独で大気圏離脱やその後の活動も視野に入れていたのであれば賞賛に値する。

 なればこそ、彼女はその方面での証明をするべきであった。

 何をトチ狂ったのかよりにもよって軍事的な手段でその有効性を示してしまったのは愚行でしかない。

 そりゃ、こんなことをしてしまえば宇宙空間での利用としたマルチフォームスーツよりも軍事利用のパワードスーツとしての評価が上がるだろう。

 とどめに開発者である篠ノ之 束から「ISを倒せるのはISだけである」なんて間抜けな発言もある。

 もし彼女が最初からパワードスーツとしての評価を求めているのであれば、マルチフォームスーツというお題目を上げる必要はない。『白騎士事件』だけでケリがつく。となると宇宙空間での活動を主としていたのは多分間違いない。

 いや、こんなことを考えても詮無きことかな。

 真実はどうあれ、今ある現実に向き合うのが建設的だ。

 色々と腹ただしいことはあるが、ひとまず置いておこう。多少は気も紛れた。

 視線を外からモノレール内に戻す。

 鬱陶しい視線の数々。そのことに再びテンションが下がる。 

 ―――まぁ、数日で慣れるだろう。

 自分を納得させるように呟く。モノレールの走行音で周りには聞こえない。

 そもそも僕はこんな視線のことを気にしている場合ではない。

 引退することにはなったがそれでもプロとしての矜持は忘れたことはないし、忘れることはない。

 僕がヘマすればe-Sportsの評価にも繋がりかねない状態である以上、それ相応の気概を持ってISに向き合うつもりだ。

 男である僕がISで成果を出すということはこのうざったい視線が更に増えたり、もっと悪辣な視線になるかもしれないが、僕が様々な形で成果を出すことに成功すればこの視線も最終的には減ることになるだろう。

 最終的には減ることになるだろうが、それでも今が改善されるわけではない。

 それまでこのうざったい視線が続くと考えただけで、当分憂鬱だな。

―――――――――

 無事、IS学園に到着した僕は地図片手に学園内を歩き回り自分の教室を目指した。
 周りの女生徒たちは自身の友人、もしくは同性という気楽さもあって複数人で道を確認しながら教室を目指す。人数が多い分情報が立体化するため僕のように1人で動くよりかはマシだろう。
 歩いている時もずっと周りから視線が飛んできたが、途中からどうでも良くなり足早に教室を目指した。

 かなりの余裕を持って出発したにもかかわらず、教室に到着したのはHR開始の10分前だった。

 1人で動き回って迷子になるのもマズイので生徒たちの流れに乗っかって歩いていたのだが、初めて見る色んな物に色々目移りしてしまっていた。
 結果、間抜けな話ではあるが気づいた時には周りには誰もおらず、迷子になったと気づいた僕は近くにいた清掃員のお爺さんに道を聞いてなんとか到着した。

 自分の迂闊さと無駄な疲労に頭痛を感じる。

 ―――……帰りたい。今すぐゲーセンに帰って全力で対戦したい。

 まだ何も始まっていないのにも関わらず、僕は現実逃避を始めるほどに疲れていた。

 教室に入るとまた複数の視線が飛んでくるが、多少慣れたのかそこまで気にならない。

 視線を巡らせると僕と同じ動物園のパンダを見つけたので近づく。

「どうも初めまして、1人目の男性操縦者さん。僕は2人目の男性操縦者の月夜 鬼一(つきよの きいち)です。これからよろしくお願いします」

 ニュースや新聞で何度も見たことのある顔色の悪い年上の男性に自己紹介をし、手袋を外して右手を差し出す。
 視線を下に向けていた彼は顔を起こして、僕の顔を見ると弾けたように席から立ち上がり、右手を力強く握った。

「あ、あぁ! こちらこそよろしく頼む、俺は織斑 一夏だ! 一夏って呼んでくれ。そっちはえーと、なんて呼べばいいんだ?」

 自分の仲間がいたのが嬉しかったのか、顔色は回復し声も明るい。

「じゃあ僕の方が年下ですし、一夏さんと呼ばせていただきます。僕のことはお好きなようにどうぞ」

「なら鬼一で呼ばせてもらうよ」

 よほどこの空間に精神を削られていたのか、こんな単純なやりとりにも楽しそうに返す。
 それも当然。僕だって動物園の珍獣のような扱いだったのだから、気持ちは痛いほどわかる。いや、僕の方が扱い的には悪かったか。

「なぁ、鬼一って、あの月夜 鬼一で、いいんだよな?」

「こんな珍しい名前が他にもいるなら逆に紹介して欲しいくらいですけど、僕はアークキャッツ所属の元プロゲーマーの月夜 鬼一です」

「すげぇ! 俺、国別対抗戦とか、あのワールドリーグ決勝戦をネットで見てたんだよ。本当に胸が熱くなったよ! めちゃくちゃカッコよかった!」

 かれこれ約3年プロゲーマーだったが、自分を知ってくれている人がいるのは嬉しいことだ。

 興奮しているのか、身振り手振りでその凄さを少しでも表現しようとする一夏さん。
 良かった。自分のプレイで人を熱くさせることが出来たのであればプロゲーマー冥利に尽きる。それだけでも身体を張った甲斐があるな。

 っと、自分が興奮していることに恥ずかしくなったのか、咳を数回してごまかすようにして話題を変えた。

「な、なぁ鬼一ってISについてどれくらい知ってる? 俺、ほとんどISについて分からないんだ」

 たった2人の男性として気になるんだろう。小声で一夏さんは顔を寄せながらそんなことを聞いてきた。

「一応IS学園で配布されてる、電話帳くらいの厚さのある教科書の内容は全部頭に入れてあります。あと、それ以外でしたら各国のISの代表や代表候補生の情報とか、専門的な話しでしたらPICやカスタムウイングの最新レポートなんかも目を通しました」

 その言葉に、うげっ、という擬音が聞こえてきそうな顔をした一夏さんは、そのまま気まずそうに手を合わせてお願いする。

「お願いだ鬼一。俺、ISに関しては素人同然なんだ。鬼一がよければ教えてくれないか?」

 手を合わせたまま一夏さんは小声だが、必死そうにお願いしてきた。
 正直自分のことで手一杯であまり人に時間を割いている余裕はないのだが、無下に断るのも良くないだろう。

「僕も自分の勉強やトレーニングがあるので、あまり時間がないのですが空いてる時間でよろしければある程度教えることできますよ」

 その言葉に救われたように顔を上げた一夏さんの表情は嬉しそうだった。

「た、助かる! ありがとう鬼一!」

 一夏さんからお礼を言われたタイミングでチャイムが鳴ったので2人とも席に戻る。
 自分が席に着くとほぼ同じタイミングで、緑色の髪の毛が特徴的な女性が教室に入ってきた。

 教壇の前に立つと自己紹介を始める。
 彼女はこのクラスの副担任で名前は山田 真耶というらしい。
 身長が他の女性よりも低く、更にサイズの合っていない大きな服を着ているからか余計に小さく見える。

「それでは皆さん、1年間よろしくお願いしますね」

「よろしくお願いします、山田先生」

 変な緊張感に包まれる教室内だったが、そんなことは気にせずに席から立ち上がり頭を下げる。
 クラスメイトの視線が僕に集まる。が、僕の行動を見た一夏さんも立ち上がり慌てて頭を下げた。

 2人しか反応がなかったからか、山田先生も驚きながら返事をする。

「は、はい! よろしくお願いしますね」

 そのまま僕と一夏さんは席に着く。これからISを含め様々なことを教えてもらう、人生の先達に対して反応を返さないというのはどうだろう?
 自分たちは教えてもらうのが当然だと考えているのだろうか?

 そんな疑問、違和感のようなものが胸に残った。

「じゃあ、皆さん自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」

 そんな言葉を耳にしながら横目で僕の左前にいる一夏さんを見る。
 横顔からしかわからないが、話していた時の明るい表情ではなく先ほどの状態のようだ。
 一夏さんの席が最前列、しかも真ん中だからかクラスメイトと先生の視線を一番引きつけている。
 これだけの視線、しかも僕以外は異性からの視線だからか随分余裕がなさそうだ。
 僕自身にも視線は集まっているが、僕の席は廊下側でしかも後ろだ。
 後ろである分視線が少ないので、先ほどのモノレールに比べれば遥かに余裕がある。
 視線を前に戻しクラスメイトの自己紹介を眺める。

 朝から変に疲れてしまったせいか、正直あんまり頭にクラスメイトの顔と名前が入ってこない。

 ―――……あとでクラスメイトの名前と顔を覚えなそう。

 順番に進んでいく自己紹介。
 一夏さんの順番がやってきたが、顔が青いままではあったがそれでも無難な自己紹介をして、質問される前に素早く席に戻っていく。
 なんだ、さっきの様子だと自己紹介が上手く出来ないかもしれないと思ったけど、見た目よりも気持ちは楽なのかもしれない。

 自分の番が回ってきたのか山田先生から名前を呼ばれ、席から立ち上がり前に出る。

 ―――おぉ、これはまた。

 さっきまではそこまで気にならなかったが、前に出るとクラスメイトの視線が全員分突き刺さる。
 モノレール同様。今まで体感してきた視線とは大分種類が違う。疲労のせいなのか逆に楽しくなってくる。
 心の中で笑いながら、自己紹介を始めた。

「皆さん初めまして。2人目の男性操縦者の月夜 鬼一です。ここに来るまではプロゲーマー、という仕事をしていました。
 僕は皆さんよりも年下なので気軽に声をかけてもらえると嬉しいです。これからよろしくお願いします」

 リラックス、とまでは言えないが普通な自己紹介が出来た。変に受けを取りに行く必要もないだろう。自分のジョークのセンスのなさはチームメイトからお墨付きだ。
 戻る前にクラス全体に視線を走らせ、質問もなさそうなので席に戻る。
 いや、戻ろうとした。 クラスメイトの一人が手を上げて、僕に質問を投げかけてきた。

「あの、月夜くんって、TVとかに出たことあったりする?」

 その質問がどんな意味があるのかいまいち分からなかったけど素直に答える。

「何度か出たことあります」

 今のプロゲーマーは頻繁にテレビに取り上げられる、という程でもないが偶に特集を組まれて出演することもあるし、一部の大きい大会なんかも放映されているので自分の姿が映ったことがあるのは一度や二度ではない。

「じゃ、じゃあ、このまえテレビでやってたゲームのワールドリーグに出てたのも、月夜くん、なの?」

「この前テレビやネットで放映されたワールドリーグに出ていたのは僕です」

 そう答えると一部がざわつきはじめるけど、まだ自己紹介を終えていない人たちがいるので質問を打ち切るように席に戻る。

 そのままぼんやりと他の人の自己紹介を眺めた。

 全員の自己紹介を終わったところで教室の扉が開けられ1人の女性が入ってくる。それは僕でも知っている有名人だった。

「あ、織斑先生。もう会議は終えられたのですか?」

「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

 ―――織斑 千冬。第1回IS世界大会モンドクロッソ総合優勝、格闘部門優勝者。

 誰もが憧れる世界最強のIS操縦者。周りからは敬意を持ってブリュンヒルデと呼ばれている。

「い、いえ、副担任ですから、これくらいはしないと」

 今は第一線を退き、IS学園の教師になっているのは電話した時に知っていたが実際に見るのは初めてだ。
 退いたと言ってもその強さは折り紙つきというのは誰もが知っている。
 思わず心が踊ってしまう。

 理由は決してミーハーなものではなく。

 身近に最強と呼ばれるほど強い人が居ることにだ。

 ISという機械の着地点を考えると不謹慎かもしれなかったが、それを上回る嬉しさがあった。
 世界最強と言われている人と戦う機会があるかもしれない、それを考えるとワクワクする。

「諸君、私が織斑 千冬だ。君たち新人を1年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。
 出来ないものには出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠15歳を16歳までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

 とんでもない暴力発言にしか聞こえない。でもISの素人を僅か1年である程度の実力を、そしてISを使う重さを芯まで理解させると、僕はそう聞こえた。
 思わず背筋が伸びる。ピリッ、とした緊張感が自分の中に走った。

 だが周りはその言葉の重さを理解していないのか、教室内からは黄色い声援が上がる。

「キャ―――! 千冬様、本物の千冬様よ!」

「私、お姉さまに憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」

「あの千冬様にご指導頂けるなんて嬉しいです!」

「私、お姉さまの為なら死ねます!」

 突然の有名人の登場に完成を上げる女生徒たちを、織斑先生は顔をしかめてうるさそうに呟く。

「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」

 心底うざったそうにしている織斑先生。どうやら本心から言っているみたいだ。

 騒いでいるクラスメイトを冷めた目で見ながら僕は。

 ―――この人たち、なんでここにいるんだろう?

 そんな素朴な疑問を持った。 
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