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奇奇怪怪

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5部分:第五章


第五章

 あのいつものニュースキャスターが絶叫していた。その文章は。
「我が国を害せんとする狼の如き美帝に対して」
 美帝とはアメリカのことである。向こうの言葉ではそうなるのだ。
「我が偉大なり共和国解放軍は」
「何か凄い大袈裟な言葉だな」
「いつも通りね」
 おじさんとおばさんはまたテレビを観ている。下宿の学生達も横浜ベイスターズが負けるのを見る様に実に素っ気無い顔で見ている。
「本当に」
「全く」
「大いなる無慈悲をもってこれに天誅を下すだろう!」
「相変わらず汚い文章だな」
「本当にね」
「一体誰が文章書いてるんだ?」
「さあ。あの将軍様じゃないの?」
 外れていても一向に気にしていない言い方だった。
「まあ誰でもいいしな」
「そうね、はっきり言ってね」
「やっぱりミサイル撃ったの」
 夏希もそのニュースキャスターの絶叫を聞いていた。
「それでこのおばさん出てるのね」
「ああ、そうなんだよ」
「それで米寄越せって言ってるから」
「そんなの自分が悪いんじゃない」
 実に率直に言う夏希だった。
「っていうかミサイル撃ってほしくなかったらお米寄越せって?」
「そういうことだね」
「いつもの言葉だと」
「お米なんて一切あげる必要ないわよ」
 夏希は極めて素っ気無く言いながらこの日も冷蔵庫を開けていた。そうしてそこから今日は野菜ジュースを出してコップに入れて飲むのであった。
「そんなのはね」
「そうそう、その通り」
「あげても貰ってやるって態度だし」
 人間として考えると最低の人間である。
「それでまた悪事を企むし」
「そもそもあそこの悪政の結果だし」
 その悪政を行っているのが誰かも言うまでもない。
「一人だけ贅沢をしてるんだからね」
「援助する必要はないわよ」
「その通りよね、全く」
 夏希はそれを言いながらジュースを飲み干した。そのうえで飲み終わったコップを軽く洗った。そのうえでまた言うのであった。
「けれど」
「けれど?」
「どうしたの?」
「はっきり言ってどんな馬鹿なことをしてもおかしくない国だし」
 その国のことがさらに話されていく。
「核とか撃つって言いそうね」
「いつも言ってないかい?」
「それも」
「実験して核持ってるっていうのはいつもよね」
 それがあの国の実情である。少なくとも我が国とは全く違う。悪い意味でだ。
「それを撃ったりしないわよね」
「持ってるのか?」
「本当に」
「さあ。持ってないんじゃないの?」
 この辺りは誰も確証を持っていない。ただし何度も持った、とは言っている。
「実際のところは」
「嘘ばかり言う国だからな」
「というか嘘しか言わないし」
 大嘘吐きでもあるのだ。何しろ国名自体が大嘘である。間違っても『民主主義人民共和国』ではないのはそれこそグルになっている人間以外は言わないことだ。
「だからなあ」
「実際どうなのかしら」
「今度は核ミサイル撃ったりしてね」
 こんな風にも思うのだった。
「日本にでも」
「それも何回も言ってないか?」
「聞き飽きたわよ」
「そうだけれどね」
 実際にそうだから余計にややこしいのである。
 
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