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魔界転生(幕末編)

作者:焼肉定食
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第54話 天草四朗という者

「先生、わしは、歴史というもんに疎いきに、ご教授願いたいぜよ」
 龍馬もまた良順と同じ恰好で良順に尋ねた。
「私は医者だ。そんなに詳しく知っているわけではない。が、知っている限りのことは教えることはできるだろう」
 良順はにこりと微笑んだ。
「日本という国は本当に美しい国だとは思わんかね、坂本君」
 良順は丁寧に手入れされている庭を見つめて言った。
「そうですね」
 龍馬も庭を見つめた。
「日本には四季があり、それは風情がある。が、そういう自然もあるときは人間に牙を剥く時がある」
 庭を見つめていた時の顔とは別人のように良順は険しい目つきで龍馬をみつめた。
「それがどういうものか、わかるかね?」
 良順が何を言いたいのかわからず、龍馬は頬を小さく掻いた。
「そうですねぇ。地震、山の噴火、大雨、寒波、日照り」
 龍馬は思いつく限りの天災を述べて言った。
「そのとおりだ。そのような天災により、農民は泣かされつづけた。そして、重い年貢の取り立てに苦しめられてきた」
 良順の言葉に龍馬は頷いた。
「時は、徳川家光公の時代。九州。島原で一揆が勃発した。それは全国に飛び火して最大のものとなったらしい。それこそが、後々にいわれる島原の乱というものだ」
 良順はゆっくりとした口調で語りだした。
「ですが、先生。それと、天草四朗とどういう関係があるんかの?」
 龍馬は、じれたように良順に言った。
「その乱の首謀者が、天草四朗なんだよ」
「なんじゃと!!」
 良順の言葉に龍馬は絶句した。そんなことなどお構いなしに良順は言葉をつなげた。
「もともと、島原はキリシタン大名・有馬晴信様が統治していたところだった。ゆえにキリスト教信仰は盛んだった。が、君も知ってはいるとおもうが、秀吉公の時代からキリシタンは弾圧を受けていた。そして、有馬氏が転封され、代わりに来た松倉氏になると弾圧のほかに年貢の取り立てもひどいものなって行った。干ばつによる不作、徳川への面目、城の改築。そのために財政は圧迫し、米の取れない農家は自分の娘さえ借金にとられる始末。我慢の限界は大きな怒りとなってあふれ出した。それが島原で起きた一揆の簡単な経緯だ」
 良順は腕を組んでため息を一つついた。
「いつの時代も農民は、虐げられるものだと思わんかね、坂本君」
 良順の言葉に龍馬はただ頷くだけだった。
「ところで、先生。なんで天草が担ぎ出され、死んだ者をいかえらせることができるんですろ?わしは、そこが不思議ぜよ」
 龍馬は腕を組んでうなった。
「実はな、坂本君。天草四朗を担ぎ出した人物は農民たちではないのだという説があるんだよ」
 良順は意味ありげに微笑んだ。
「実は首謀者は、天草四朗ではなく、公家の近衛卿ともう一人、森宗意軒という謎の人物がかかわっているというのだ。もともと、島原周辺は有馬氏の前は小西行長様が統治していた場所だ。そして、その小西様もまたキリシタン大名の一人だ。ということは、いかに島原がキリスト教に深くかかわっているのかわかるだろう」
 龍馬は良順の言っていることに腕を組み頷いていた。
「そして、この森宗意軒という人物は小西氏に仕えしものなんだよ。小西氏は関が原で敗れ、切腹という事態にはなったが、森は生き残り、諸外国を回ったらしい。そして、有馬氏に仕え、有馬氏が転封したのち、再び姿を消した。おそらく、その死人の生き返りの術は森が開発したものだろう。いまだに、私は信じてはいないがね」
 良順は鼻で笑った。
「では、天草は森と近衛卿に利用されたということかの?先生は、天草なら、死人を生き返られるやもというたぜよ」
「確かに言った。それはな、坂本君、天草には妙なような伝説があるんだよ」
 良順はにこりと微笑んだ。
「ポルトガル宣教師が自国に帰る前にゼウス、つまり、キリスト教の神が島原に転生するという言い伝えがあってな。それが、天草四朗だというんだから、驚きじゃないか。それに、四朗は死にかけた動物や病に伏していた子供を手をかざしただけで直してしまい、鳥は囀り、病院は歓喜の声をあげたというんだから、伝説にもなろう」
「なるほど、先生が言ったことがわかる気がするぜよ。いわば、そういう術ができるなら、死人さえ蘇らせることができるといいことですろ?」
 龍馬は頷きながらいった。
 「その通りだよ、坂本君。だが、それはあくまでも伝説であって本当かどうかはわからない。しかし、近衛卿と森は、それを利用して幕府転覆を狙った。公家も森も徳川に恨みがあったからな」
「しかし、先生。天草が再び徳川転覆を狙ったとしても、もはや徳川は沈んちゅう。本末転倒じゃなかろうが?」
 龍馬は首をひねった。
「さてな、私は天草四朗をみているわけではないんだが、なんとも言えないな。ところで、坂本君。君はここに何をしにきたのかね?私の講釈を聞きに来たわけだけはあるまいに」
 良順は声を上げて笑った。
「あぁ、そのことなんですが、この娘をここに連れて行けっていう命を受けて来たんですが、ここには誰がいるんぜよ?」
 龍馬は後ろに控えている娘を指さし答えた。
「坂本君、君、ここに誰がいるか本当にしらんのかね?」
 良順は勝の使いと言っていた龍馬を疑いの目で見つめた。
「え、ええ、まぁ」
 龍馬は困ったように後頭部を掻いた。
「ここには、新選組の沖田総司君が療養している」
(なるほど、そういうことか)
 龍馬は、良順の言葉に少し驚いたが、すぐににやりと微笑んだ。そして、その時、沖田の名前を聞いた時、今まで反応がなかった娘がぴくりと動いたのを龍馬は見逃さなかった。
「先生。先生はその術がみたいといいましたろ?」
 龍馬はにやりと微笑んだ。
「まぁ、そんなことができるのなら見てみたいものだがね」
 良順はあきれるように首を左右に振った。
「もしかすると、見れるやもしれんぜよ。ですが、先生はまだ幕府の御殿医ですろ?ここから早く出て行ったほうがいいぜよ」
「何故かね?沖田君は私の患者だ。患者を置いて出ていくわけにはいかんだろう?」
 良順は強い口調で言った。
「実は、わしは勝先生の使いでもなんでもないぜよ。武市半平太の命でここにきたんですき」
「き、君は・・・」
 龍馬の言葉に良順は絶句した。
「ですけ、先生。先生は、この場を去ったほうが身のためぜよ。彼らの企みを察する事が先生のお話で参考になりました」
 龍馬は良順に深く頭を下げた。
「ちょっと待て、坂本君。彼らに企みといっても徳川はすでに死に体だ。一体、彼らは何を一体何をたくらんでいるというんだ?」
 良順も話が少し飲み込んできていた。そして、とてつもないことを想像して身が震えた。
「そいえば、先生。沖田君は元気なんですやろ?」
 龍馬は良順の問いを気にすることなく、沖田の居場所を聞いた。
「坂本君、残念ならが沖田君も最早死に体だ。ここに来たときは、もはや肺病が進行していた」
 良順は眼を伏せた。
「そうですか。先生、沖田君に会ってもいいかの?」
「そうだな、会ってやってくれ」
 良順は少し考えて龍馬に言った。そして、良順、龍馬、連れてきた女の順で沖田の療養している部屋と向かって歩き出した。
 
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