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象牙

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1部分:第一章


第一章

                         象牙
 未来の話だ。文明は発達していた。それに伴い科学技術もだ。
 その技術は生物学にも及んでいた。動物、とりわけ家畜の品種改良はさらに進み肉も卵もミルクもさらに多く、しかも良質のものが手に入るようになった。
 人はそれを文明の勝利と喜んだ。そしてその中で繁栄を謳歌していた。
 繁栄すれば贅沢を求めるようになる。人の習性が辿り着かせることの一つだ。人々は華やかなもので自分達や家を飾るようになった。そしてだ。
 その中には宝石もあった。やはりこれも科学技術の発展で人口にしろ多くの宝石が手に入るようになった。しかしであった。
 宝石にも色々とある。中には象牙もある。その象牙はだ。
 象の牙だ。つまり象から手に入れる。しかしであった。
 ここで所謂動物愛護団体や環境保護団体がだ。言い出したのである。
「象を殺すな!」
「絶滅しそうなんだぞ!」
「生物の環境を守れ!」
 この時代でも彼等は健在だった。しかもこの主張は正論だった。
「象牙なんかいらない!」
「象を守れ!」
「虐殺を許すな!」
 過激であるが確かに象もまた生きており自分達の欲望で殺すというのはよくないことだった。これはかなり大きな論争になった。 
 しかしである。象牙愛好家達にとっては迷惑な話だった。彼等の多くは資産家である。その力を使おうとしたが無駄だった。
 密漁をすれば厳しく監視をしている保護団体に本気で攻撃された。何とそれにより実際に殺される者がいるから驚きだ。
 尚且つ保護団体は政治力を使って圧力をかける。資産家達にとってはマスコミやネットまで敵に回して散々な状況になった。
 だがそれでもだ。彼等は諦めない。それでだった。
「何とか手に入れられないか」
「象牙をだ」
「どうしても手に入れたい」
 こうある場所で密談していた。
「シベリアでマンモスでも発掘するか?」
「もう掘り尽くしたぞ」
「既にな」
 マンモスの牙はもう駄目だった。そしてだ。
「こうなったら象を家畜にしてそこから取るか?」
「ああ、いいな」
「それはな」
 これについてはまずはよしとなった。ところが。
「しかしそれでも象を殺すな」
「象牙を取るからにはな」
「そうなるな」
 このことも話された。
「そうなったら結局動物保護団体が騒ぐぞ」
「殺すからか」
「それでか」
「それでだ」
 まさにそれによってだった。
「結局同じか?」
「そうなるか?」
「家畜にしても」
「やっぱりそうなるか」
 彼等は項垂れることになった。家畜にしても殺すのならやはり問題になる。実際この時代では牛や豚を人間が食べる為に家畜として飼い殺すのはどうかという議論も起こっていた。食べるという人が生きる為の行為についてもこうだ。それでは嗜好品を手に入れる為に象を殺すならば。最早論外だった。
「じゃあどうする?」
「打つ手なしか?」
「もう象牙を諦めるか?」
 こんなことが話されだした。
「象牙がなくても生きてられる」
「だからな」
「諦めるか」
「仕方ないか」
 諦めかけた。しかしここでだ。
 ハインツ=プライ博士がいた。生物学の権威である。その彼がだ。こんなことを言い出したのである。
「つまり象牙を象を殺さずに手に入れられて」
 まずはそこから話す。
「そして何度も手に入れられたらどうでしょうか」
「それだと流石に誰からも文句は出ないでしょうね」
「そうでしょうな」
 これについては誰もそうだと言った。
「しかしそれはどうやって?」
「どうやってできるのですか?」
「考えがあります」
 博士はこう述べた。
 
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