| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

西瓜

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

5部分:第五章


第五章

「それは本当のことか」
「ですから自衛隊はそういう兵器は扱っていませんよ」
「では押し売りするだけだ」
「それでも受け取らないそうです」
 流石に防衛省としてはそんなとんでもないバイオ兵器を受け取るつもりはなかった。
「絶対にだとか」
「やれやれ、相変わらず腑抜けじゃな」
「当たり前ですよ。あんなとんでもない兵器誰も受け取りませんよ」
「左様か」
「ですから研究を中止してその内容を全て破棄しろと」
「けしからん」
 それを聞いた博士の言葉である。
「そんなことはせん」
「ではどうされるのですか?」
「この西瓜達を日本中にばらまく」
 そうするというのである。
「偉大な研究を破棄する位ならそうしれやるわ」
「ヤケクソですか?」
「違うな、嫌がらせじゃ」
 さらにタチが悪かった。伊達にマッドサイエンティストではない。
「私の偉大な研究を中止せよと戯言を言う防衛省に対してのな」
「この場合は防衛省が正しいとは思いませんか?」
「思わん」
 きっぱりと答える博士だった。
「全くな」
「全くですか」
「何故なら」
 そしてここでこう言うのである。
「私がこの世の法律だからだ」
「日本国憲法は無視するんですか?」
「そんなものは何の役にも立たん。平和憲法は幻想に過ぎん」
 極めて強引に政治論まで展開する。
「だからじゃ」
「あの西瓜達を日本中にですか」
「拡げる。ではな」
 こうしてその西瓜兵器を日本中にばら撒く。日本は忽ちのうちに大混乱に陥った。
 特にである。防衛省は西瓜達に包囲されてである。その総攻撃を受けていた。彼等にとってみればたまった話であった。
「何でいつもこうなるんだ」
「あの博士が絡むと」
「今度は西瓜からの攻撃か」
「無茶苦茶じゃないか」
 こう言って頭を抱える。防衛省の至る場所にへばり付いて侵入を試みる。そうして体当たりに爆発で攻撃を仕掛け迎撃に出て来たスタッフ達を種攻撃で退ける。
 そしてその西瓜達の中にである。博士もいた。
 博士は西瓜達を攻撃に向かわせながら白衣を風にたなびかせて言うのであった。
「これが私の怒りだ」
「かなり理不尽な怒りですね」
「何度も言うが私が法律だ」
 こう横にいる健次に対して返す。
「その私を怒らせたから当然の報いだ」
「それでこの兵器をどうするんですか?」
「私の思いのままの使用法を認めさせる」
 そうするというのである。
「若しまだおかしなことを言えばさらに攻めさせる」
「つまりこれは脅迫ですね」
「誰も私に逆らうことは許さん」 
 何処までも理不尽な博士である。
「さて、では認めさせるか」
 こうしてこの恐るべき西瓜兵器は自衛隊に採用された。畑に忍び込んだ敵を襲う地雷として採用されたのである。防衛省にとっては頭の痛い話であった。
 しかし話は終わりではなかった。博士はさらにであった。
「さて、今度はこれじゃ」
「パイナップルですか」
「名付けてパイナップル爆弾」
 手足と目に口があるパイナップル達が博士の足元で飛んだり跳ねたりしている。
「これを採用させる」
「させるんですね」
「これは自ら近付いて爆発する爆弾じゃ」
 それだというのである。
「さて、今度も凄いぞ」
「何か勝手に開発し続けてますよね」
「天才はその気の赴くままに開発する」
 身勝手ということである。
「だからいいのじゃ」
「また防衛省の人達が泣きますけれど」
「何、私の偉大な頭脳を認めん天罰じゃ」
 博士にとってはそういうことになる話である。
「当然の報いじゃ。認めないのなら認めさせるまでだ」
「そうなんですね、本当に」
 もう健次に言うべき言葉はなかった。博士はそのパイナップル達を見て不気味に笑っている。騒動は終わらないのであった。


西瓜   完


               2010・1・23
 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧