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少女の黒歴史を乱すは人外(ブルーチェ)

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第二十五話:対決・紅の姫騎士(下)

 
前書き
上下に分けた後編の方です。 

 
 
 
「はあああぁぁぁっ!!」

 担ぐような構えに移行してから間髪置かず、一蹴りでマリスとの間合いを五メートル近くまで詰めて来る。

 更に一瞬の間隙を置いて前傾姿勢から跳躍し、消えたのかと見紛うスピードで剣の届く範囲まで接近。
 その手に宝剣を携え、マリスを袈裟掛けに真っ二つにせんと力を込める。


「我が輝きを目に映し、喰らいたまえ……この覚悟の剣をッ!!」


 過剰なまでの自身が齎す小細工なしの一撃を、この決闘でなお爽やかさを感じさせる交渉を上げ、剣が振り下ろされた。


「……!」


 マリスは紙一重で回避し、敢えて己が突っ込んでいく。
 左ストレートをロザリンドの顔目掛けて繰り出すも、悠々回避されて追撃が襲いかかってくる―――


「……ほっ」
「む!?」


 ―――が、事前にバネ状にして待機させていた【鋼糸鏖陣(スティール ゴルゴン)】を伸ばして、飛び上がりでの回避と同時にスピンキックを叩き込む。


「おっと!!」


 笑みは崩さずに仰け反りながら刃を振うロザリンドへ、マリスは二股に分けた【鋼糸鏖陣】の片方を彼女へ向けて振いつつ、後ろへ伸ばしたもう片方を地面に引っ掛け弾かれたような勢いで退避した。


「ほう、随分戦い方が上手くなったものだね!」
「……麟斗に鍛えて貰った」
「なるほど、あの灰色髪の彼か……思わぬ伏兵がいたモノだ」


 評価されている事、そして今回ばかりは様がないと突っぱねられなかった事は嬉しいが……しかしそんなものでは内に湧きあがる悔しさは打ち消せない。
 ……本当なら()()()()()()()()後頭部をぶん殴ってやりたい所だ。
 ―――否、雪辱を晴らす為に、真正面から拳を叩き込んでやりたいと心から思う。

 されどそんな事をすれば全てが水の泡で、何より俺自身も大事な役割がある。
 元より感情だけで飛び出す気など、今限定ではあるが……更々ない。


「だが所詮は付け焼刃……荒が多い様だね!」
「……!」


 恐るべきスピードで肉薄してきたロザリンドに不意を打たれたか、マリスは咄嗟に【鋼糸鏖陣】をしならせ大剣の一撃を防ごうとする。
 しかし初の太刀で後方へ退けられ、マリスの身体を断たんと二の太刀が降り注ぐ。


「……まだまだ……!」


 ロザリンドの力も恐ろしいが、マリスも中々の物。
 弾かれた事にあえて逆らわずその方向に伸ばし続け、幾重にも枝分かれさせた瞬間……細い一本で僅かながらに刃の軌道を変え、脚技を組み合わせて剣の腹部分ギリギリを蹴る。

 それでもまだ勢いは足らず―――しかし剣が返される前に、瞬時にワイヤーを巻き取るかにように太い一本を頼りに跳び退る。

 更に抜け目なく、網目状にした極細の【鋼糸鏖陣】を置いておく徹底ぶりを見せつけた。


「ちょこざいな!!」


 だがそれもロザリンドのパワーの前では数秒持たない。
 すぐにそれらを断ち切って、幾分か離れた筈の距離を即座に詰めて来る。

 そのまま上段に剣を構え、より高々掲げて柄を力強く握る。


「ハハハハハ! 引導を渡してくれる!!」


 いっそ変わらぬ爽やかさを感じさせる声音から、更に一瞬の間隙を置いて前傾姿勢から跳躍し、消えたのかと見紛うスピードで剣の届く範囲まで接近。

 清々しいまでの小細工なしで、正面上空からロザリンドは豪快に剣を振り下ろす。


 刃が、歯が、鎧がきらりと陽光を反射して光り、



「……嫌」


 直後に地面が、爆発。


「のおおぉぉぉっっ!?」


 笑顔のまま更に宙高く吹き飛んで、ギャグ漫画見たく頭から地面に埋まった。
 自身も、胆力も、一撃も、全てがたった一発の爆破によってある意味木端微塵に消えた。


「さ、殺戮の天使! 何だ……何だ今のは!?」


 甲冑を着ているとは思えない―――とはいっても籠手と脚と首元ぐらいしか“鎧”と呼べる部分は無いが、それでも其れなりに重いだろう装備にもかかわらず、トンボ切って軽く跳び上がりロザリンドは目を白黒させながら立ち尽くす。


「……知らない」
「とぼけるな! あれは君の【漆黒爆弾(ナパーム デス)】だろう!? と言うかそれ以外に考えられない!」
「……なら聞かないでくれたまえ?」
「ボクの真似をしないでくれたまえ、キャラが被る!! と言うか何故に疑問形なのだ!?」


 ロザリンドがどうでもいい事で怒り、()は心底阿保なのかと思ってしまう……半面、『作戦通り』だと心の内で歓迎していた。


「だが、あの黒い球体など影も形もなかった筈……」


 其処でハッとなるロザリンド。
 どうもバトルに関しては根っからの馬鹿でもなければ、勘が悪い訳でもないらしく、自分で気が付いたらしい。

 その視線は、地面の方を向いている。


「……そう、埋めておいた」


 マリスの言う通り、この天王山ハイキング場には無数の穴が掘られ、土被りの蓋などでカモフラージュされたその中には【漆黒爆弾】が入れられている。
 その穴がここら一体にビッシリある訳だ。

 昨日今日と此処を訪れていたのは、事前のこの準備をする為だ。
 体術だけじゃあ無く、例え卑怯でもここまでしなければ、スペックの差を覆しようがないからな。
 当然体術の鍛えも無ければ、今見たく誘導する事も出来なかっただろうが……。
 

「埋めた……ど、何処に!?」
「……そこに」


 マリスが指差した先―――ロザリンドの足元が、またも爆発して土を巻き上げた。


「ほわああぁぁぁあぁぁあ!?」


 宛らジャグ漫画の如く間抜けに吹き飛びながら墜落し、またも爆発した中空高々打ち上げられ、地面に落ちたと思いきや再び爆発。
 一瞬の間を置いてすぐまた爆破が襲いかかり、何とか着地しようとまだまだ続くと【漆黒爆弾】が炸裂しつづける。


「……九連鎖成功」
「神聖な決闘をゲーム感覚でしないでくれたまえ!!」


 最早全身煤まみれなロザリンドが、見当違いにも感じる場所を指摘し、怒声を上げて抗議する。
 ……まだ怒りが足りないな。


「しかしこんなもの……空から攻めればどうという事は―――」
「……逃げるの?」
「い、いや逃げる訳じゃないぞ!?」
「……逃げるんだ? ……勝てそうにないから、実力差があるのに格好悪くても、安全策を取るんだ」
「~~~~~っ!!」


 逃げた逃げたと相手に馬鹿にされたまま勝つのは相に合わないんだろう。
 ロザリンドは慌てて翼を引っ込めた。


「嫌な奴だな君は!!」
「……褒め言葉」
「ぐぐぐぅ~~……ッ!!」


 単細胞なのは見立て通りだったらしく、面白い様に頭の血を上げてくれる。


「よかろう! ボクは此処から動かない!! 寧ろ真っ向勝負こそボクの真価が発揮される時なのだからね!!」


 言いながらロザリンドは魔力を集中し―――竜氏が吹きだる程に片目を金色に輝かせた。
 これこそ【剣聖の領域(アウェイクン ワン)】に入った証拠……此処から、属性攻撃が開始されるのだ。


「本気を出したこのボクと正面対決を望むとは……その心意気こそ見事だが、愚かだと言わざるをえまい! 我が研ぎ澄まされし騎士たる一刀を喰らい、後悔を刻みつけたまえ!」


 ロザリンドはそう言い放ち、垂直に体験を構える。


「“我が宝剣 力に満ちよ 宿せ燎火”―――――我が右手に【ミカエルの剣】!!!」


 猛火を帯びた刀身が派手な音を立てて振り切られ、封印から解き放たれた炎龍が這うようにかっ飛びマリスへ襲い来る。
 その一撃はある字の心情を反映させたが如く、実に実直かつ一直線な軌道を描いて突き進む。

 離れていて尚感じる熱量は、膨大なエネルギーを内包した証なのか……。


「その身に焼き付けたまえ殺戮の天使! 我が渾身の一撃を!」


 ロザリンドの浮かべる勝利を確信した笑みが、その威力を如実に伝えて来る。
 その暴意に対し、マリスは―――


「……無理」


 実に冷静に、【漆黒爆弾】で対処した。


「あ」


 次々に誘爆し地から派手に吹きあがる爆炎が、ロザリンドの炎龍を何でも無いかの様に打ち消してしまった。
 ムトゥーヨガー堂で行ったモノと原理は同じで、しかし今回は地面に埋めてある為ぶつける必要がなく、以前よりも楽に対処できたようだ。

 というか、無効化の対処策がある技を、何で繰り出したのかアイツは……。


「……これは一昨日の応用……覚えてない? 頭、悪いの?」
「う、五月蠅い! 失敬だぞ君!」


 もはや颯爽と振舞う事も忘れたか、ロザリンドは顔を真っ赤にして食ってかかり始めた。


「それに卑怯だぞ、卑怯! 先に罠を仕掛けておくなんて!」
「……宮本武蔵を気取っただけ?」
「武蔵だって爆弾は仕掛けなかったぞ! ……というかだから何で疑問形なんだ!?」
「……フフフフフ」


 無表情で口すら動かさず、声だけで笑うという気様な真似を披露して見せるマリス。
 ぶっちゃけキモイが……卑怯がどうだという言葉は受け流せたらしく、ロザリンドは別の事で文句を言い始める。


「きき、君! もしかしなくてもボクの事を馬鹿にしているだろう!?」
「……え? 今気が付いた?」
「~~~っ!! 分かっているのかっ!? このボクを愚弄するなんて万死に値する行為だぞ!!」
「……ふぅ~ん、へぇ~」
「い、言った傍から……! !? い、いや落ち着け、待て待てコレは罠だ、頭に血を登らせてボクを貶めようと―――」
「……玉子って素敵な名前。……ほら、返事して? た・ま・こ・ちゃぁ~~~ん」
「もう許さねぇぇぇえええええぇぇぇ!!!」


 激昂すると同時、ロザリンドの右籠手が内側からはじけ飛んだ。
 それは第二の封印が解けた証であり―――右手の甲薔薇型の傷が刻まれ、鮮血を滴らせる。

 この程度で【剣魔の領域(アウェイクン ツー)】まで発動させるとは……煽られ体勢がまるでない奴だ。


「謝ったって許してやらないからなぁぁああっ!!!」


 【皇帝の紅薔薇園(インフィニティ ローズ)】の発現により、辺り一帯が薔薇で真っ赤に埋め尽くされる。
 つい先ほどまで存在していた、長閑で閑散とした原っぱの面影など、もう欠片も見当たらない。
 花をつく他者にとっては良く香る高貴な匂いが、俺にとっては酷く鼻が曲がるとも感じられる臭いが、何の嫌がらせなのか()()()()()()()()()
 何千何万と咲き誇る薔薇が一斉にマリスへと殺到し、有る花は身体を撃たんと、またある花は彼女の身を縛せんと、次から次へ波状的に攻撃を仕掛けてきた。

 マリスも負けじと、己から地から放つ【漆黒爆弾】で焼き払い炭と化させ、大蛇の如くうねり暴れる【鋼糸鏖陣】で中空へと花々を斬り飛ばして行く。
 ……だが、物量が違い過ぎる。
 最初こそ対応できていても、消滅させた時よりも更に桁を増して跳び込んでくる紅薔薇に、徐々に徐々に押されていく。
 増殖する紅色は全く止まらない。

 それは奇しくも初日に闘った時と、居る場所以外全く同じ光景を作り出していた。


「無駄だ! 無駄無駄! 【皇帝の紅薔薇園】が発動してしまった以上、何人足りともこの咲き誇る薔薇達から逃れる事など出来はしないっ! 君の敗因はたった一つ……このボクを怒らせた事だ!!」


 美しさなどそれこそ欠片も無くなった、正に必死に必死を重ねた表情で、ロザリンドは強引なまでに勝ち誇る。


 ああ、漸く廻って来たな……またとない『チャンス』が……!


「―――っ!」


 俺は無言で()()()()()()から跳び出した。

 穴を掘ったのは何も、【漆黒爆弾】を隠す為だけじゃあ無い。
 それだけでは純然たる実力差を覆すは全く足らない。(いず)れ今の様な袋小路に陥っただろうことは、幾ら闘いに縁がない現代人である俺とて理解できる。
 では、それを“更に覆す”には如何したら良いのか?

 ……答えは当然、更に『卑怯を重ねる』事だ。

 【皇帝の紅薔薇園】の弱点は以前も聞いた通り二つあり、一つは強制的に【天使の羽衣】が解除されてしまう点。
 そしてもう一つはオートで攻撃できる半面、『敵と認識した物しか攻撃できない』と言う点だ。
 目の前に敵を捉えさえすれば終わりなき波状攻撃を仕掛けられるのが【皇帝の紅薔薇園】の利点だが、裏を返してしまえばそれ以外の対象へは無防備な状態を晒す事に他ならない。

 オマケに腕力と言った攻撃方面なら兎も角、単純な防御力では俺たち普通の人間と差が其処まで開いておらず、つまり後頭部を思い切りぶっ叩けば昏倒させられる可能性は “大”。
 幾つもの能力を持ち合わせているだろう主人公とも渡り合えるラスボスの弱点は……盲点だったか敵とも認識できない “普通の人間” だった。


 まずはマリスが序盤普通に戦い、油断したその時を狙って誘導し【漆黒爆弾】の罠。
 更に煽ってロザリンドを憤慨させ、【剣魔の領域】を無理矢理発動させる。
 ……そして、最後は俺が後頭部に決める。
 コレが、俺の思いつく限り最優の策だと言わざるを得ない。
 寧ろ常識無視の人外にこの策で対抗できるのだから、ある意味で幸運だったとも言えるだろう。


「潰えよ殺戮の天使! 貴様の墓標は此処となるのだ!!」


 興奮し過ぎて全く周りが見えていない、そんな今こそ最大の好機。
 オモチャの潜望鏡を地に置き、手に持ったスコップを振り上げ、速すぎず遅すぎず、不必要に音を立てず出来る限り気配を殺し、彼女の背後へ忍び寄っていく。

 気付いてくれるなと願いながらスコップを振り上げ―――脳天目掛けて振り下ろす……!!

 果たして―――――


「っはっ!!」
「あがぁぁっ!?」
「!」


 俺の一撃は、ロザリンドの頭を強かに打ちすえた。

 コレで行ける、後はフン縛るだけだ……!
 ―――()()()の敗因はたった一つ……怒りで我を忘れ、予想外に鑑みず切り札を暴発させた事だ!


「マリス!」
「……了解」


 俺の叫びに合わせ、マリスが【鋼糸鏖陣】を伸ばして捕えるだけ―――



「っ……かあぁっ!!」
「「!?」」


 なに……!?
 衝撃で頭がはっきりしない筈なのに……【鋼糸鏖陣】を振り払って、しかも普通に立っているだと!?


「ふぅ……危なかった。そうだったね、君はそういう男だった、忘れていたよ。流石に窮地に立たされ掛けたと言わざるを得ないね」
「……お前、どうやって……!」
「何、簡単な事だよ。恥ずかしながら、気配はまるでなかったよ? でも―――殺戮の天使の瞳に君が()()()いたのさ。ギリギリで【天使の羽衣】も間に合った」


 しまった……!?
 
 俺は内心で驚愕し、且つ己の容姿を恨んだ。
 よりにもよってロザリンドよりも背が高いという事が、此処に来て重大過ぎるネックとなってしまったのだ。
 彼女の周りには、紅い光の結晶が既に降り注いでいる。
 それは人知を越えた異質な力……ダメージなど、無いに等しくて当たり前。

 更に俺は愚かな事に、此処でもう一つ“間違い”を犯していた。

 木村玉子(ロザリンド)は己の纏った『紅薔薇の剣姫』の概念にこの上なく忠実であり、弱者を傷つける事を嫌うという、設定通りの振る舞いをしている。
 ……だが、逆に言えば何処までを『傷付ける』とするのか、何処にラインが引いていあるのかはロザリンドの匙加減次第なのであり―――――


「ぃやあぁぁぁっ!!」
「う、おぉぉぉっ!?」


 不確かに希望にすがり立ち尽くしてしまっていた俺は、彼女の投げ技を馬鹿正直に受けてマリスに激突し、重なり合うようにして諸共に叩きつけられる。

 ……なけなしの頭脳で必死に作戦は、たった一つの杜撰(ずさん)な力技で、見るも無残につぶれてしまった。


「所詮、小賢しき邪道では王道たるこのボクを超える事など出来ないのさ」


 起き上る暇もなく目の前に剣を突きつけられ……二人纏めて貫ける状況を前に、必然的に身動きを封じられる。
 歯を食いしばる俺の下で、マリスが何処か愁いを帯びた声音で呟いた。


「……参った」
「敗北と言うのは受け入れ難い物だ……それを認められるとは、並ならぬ勇気を持っているね」
「そんな下らない事で褒めるんじゃねぇ……!」
「フフ、良い目をしているじゃないか」


 幾ら睨みつけようとも、生殺与奪の権利を握られている手前、簡単に受け流される。
 彼女からすれば、涼風にも等しいのだろう。

 それが、異常なまでに悔しい……!


「ところで、妹君は如何しているのかな? 姿は見えない様だが」
「……誰がこんな所まで連れて来るか。攫う気だったなら諦めな」
「ふむ、どうやら誤解されている様だね……ボクは別に、いたいけな少女を拐そうとしている訳じゃない」
「此方に来いなどと抜かしやがったお前に、誤解もクソもあるものかよ」
「それは昨日のボクの言い方も悪かったと反省している、君の意見を跳ね除け過ぎた事もね。……僕が彼女に関わろうとしているのは、ノートに願いを書き込んで欲しいからなんだ」


 正直これは予想していた。まあ予想するも何も、ノートと楓子をセットで奪おうとしている事前提で此方は闘っているんだ。
 大方更なる力……追加能力が欲しいのだ。能力がある程度固定されている今のままでは、恐らく満足できないんだろうからな。

 が……そんな事、幾らなんでも許す気はねえ。
 だから、此方がどれだけ絶体絶命だといえども―――


「聞けねえな、そんなもの」
「そう邪険にせずに。大それたことじゃないんだ」
「……ならここで言ってみろ。内容によっては、頼む機会を設けても良いが?」


 無論、俺にそんな気などない。
 そもそもマリスで試した結果から、ノートに書きたした所でロザリンドは何の変化も起きない事は確定だ。
 何より……悔しさと相手方の態度に触発され、俺は吐き捨てるように呟いた。


「う、うむぅ……」


 案の定、とでも言うべきか?
 ロザリンドはそれまでの勢いをなくし、口を噤んでしまう。


「やはり何か企んでやがるか」
「た、企んでなどいない!」
「なら言えよ」
「…………ぅ、ゃ……その……」


 剣を突き付けつつ身体を捩らせるという、前代未聞の器用な珍技を披露する彼女は微妙にキモかった。
 だがそれ以前に、様子が変だ……一体何故?


「き、聞いても笑わないと約束するのなら……教えても……」
「……分かった、笑わない。だから言ってみろ」
「う……うおっほん! ……よしなら答えてしんぜよう」


 もうキャラがブレブレだ。
 口調が変わるぐらい、曰く言いにくい事なのか。

 何度も何度も咳ばらいをし、コロコロ表情を変えながら、漸く決心が付いたか―――ロザリンドは大きく吸い込んだ息と釣り合わない、小さな声で“願い”を口にした。


「……………………………ボクの胸を、小さくして欲しいんだ」
「はぁ?」
「だ、だから胸を小さくして欲しいんだ!! ボクはスマートな女性こそ格好いいと思うんだが、み、見ての通り此処だけ、えっと……バイン――イン……なんだ。だ、だから此処を小さくして欲しい! 君の妹君とは趣味が合いそうだけれど、この一点だけはどうしても相入れそうにないんだ!!」


 ハッキリ言ってやろう―――《この上なく、くだらねぇ》
 必死扱いて作戦ねって、闘って悔しがって、 その結果がコレなのか?
 恐ろしいまでにくだららない。くだらねぇにも程がある。……滑稽過ぎて喜劇にもならん。


「……そんなもんなら、俺が一緒に頼んでやってもいいが……」
「ほ、本当かい!?」
「ただ留意しとけ。設定を書き加えたり書きなおした所で、もう概念が固定されているのかお前らの設定は何も変わらない。納得いかないなら書き換えさせたって良い。それで不可能なら諦めもつくだろう?」
「そ、そうなのか……」


 激しく落胆するロザリンド。……そんなに嫌なのか、その胸が。


「まぁ、外見にコンプレックスがある奴なんざまだまだ居るんだ。現に俺とて髪の毛が灰色で困ってるからな」
「特別で羨ましいと、ボクは思うけど」
「……兎に角。コンプレックスが有ろうと自分を磨くのも、タダ設定に乗っかるだけより格好良いと思うがな?」
「おぉ……君は良い事を言うね」


 何だか微妙に分かりあえたらしい。……いや、真実がどうかは知らんが。
 しかし、これはチャンスだな。


「……ロザリンド。提案なんだが、敵対する気が無いなら矛を収めてくれないか?」
「ボクとて悪事など働く気はない。他の堕天使達がどの様な黒い欲望を妹君に叩きつけるのか不安で……寧ろ保護しようと思っていた位だ」


 娘奪われる父親(ひぐま)や、トバッチリを受ける俺としてはたまったものじゃあないがな。
 されど、これはいい流れだ。


「なら共闘しないか? 楓子を守るために」
「それはボクとて望むところさ」


 内心、俺はガッツポーズをとった。

 メープルを除けば最強の力を持つロザリンドが此方に加われば……当然その時の流れもあるだろうが、これからの闘いが一気に楽になる筈だ。
 【A.N.G】を全て捕えるのも、一気に負担が軽くなる。

 希望が見えてきた。



「ただし、殺戮の天使は此処で斃させてもらう」


 否……すぐに、打ち砕かれてしまった。


「何故……!」
「僕が幽霊として彷徨っていた頃、死神共がどれ程狡猾な手段を用いて、容赦なく幽霊たちをあの世へ送っていたかをボクは知っている。不倶戴天の敵と言っても過言ではなく、一番信用の置けない相手はコイツらに他ならない……故に、後顧の憂いを断つ」


 その言葉を聞いた途端だった。

 ―――ロザリンドへ抱く悔しさ以外の、別の感情が俺の中に湧き上がって来た。
 今まで他人へはさして抱く筈も無かったその感情が、滾々と俺の中に生まれ続ける。


「何、案ずることはない。ボクが代わりに妹君を守って見せよう。他の連中が悪事を働くというのならば討ちもしよう。この最強たるボクがね……だから殺戮の天使の上からどきたまえ」
「……斬る気か?」
「無論」


 俺は反論しようとするも声が出ない。
 膨れ上がってくる“感情”で自然と歯を食いしばってしまい、全く声が出せない。


「討伐される事も、別段案じなくていい。他の幽霊達と違い彼女は死神、その肉体も仮初の物。故に此処で断ち切ろうとも元の死神に戻るだけさ。酷い事は何もない」
「何だと!?」


 今度は声が出る。
 激しくたぎる感情―――他人へ向けた、他人の為の “感情” を大量に含み、叫びが飛び出た。

 損得勘定だけで言うのならば、マリスを見捨てた方がそりゃあ良いだろう。
 最弱設定且つ【俺嫁力】も活かせない今の彼女を置いておくよりは、ロザリンドを護衛とし闘った方がよほど合理的だ。
 だが……これはそんな単純な理屈じゃあねえ。

 酷くないだと?
 食事の美味しさを何よりも好ましく思ったマリスが、人の温かみをこの上なく喜んだマリスが、それに触れられなくなる事が “酷くない” だと……!?

 意図せず強い思いが籠もる俺の声、その音量にロザリンドは僅かにたじろいたが、されどそれ以上動じる事も無く剣を構え続ける。


「これも大義の為、正義の為だ。諦めたまえ」


 決してどくものかとロザリンドを睨みつけ続けて居た。

 ……その時。


「……麟斗、剣姫に従った方が良い」


 俺の下から、マリスのそんなつぶやきが聞こえた。
 その有り得ない言葉に、一瞬自分の耳を疑う。

 だがそれも束の間……瞬時に理解出来てしまう。
 叫ぶのを済んで出堪え、俺は勤めて声音を押さえて言葉を紡ぐ。


「馬鹿言うんじゃあねえ……お前には逃げた連中を、成仏させる役目があるだろうが」
「……力は及ばない、作戦は無い、【俺嫁力】も元から使えない……この状況で私が助かる確率は、0。だから、大人しく従った方が良い」


 マリスはとぼけた所がある。だが、決して馬鹿じゃあ無い。
 恐らく彼女もまた、ロザリンドの提案が合理的だと分かっているからこそ、淡々とそう告げて来た。


「……今まで、協力してくれてありがとう。短い間だった、でも……とても、とても楽しかった」
「……!」


 マリスはそう言い―――笑って見せる。
 鬼瓦でなければ頬を引っ張られて作られたものでもない、花のほころぶような笑み。

 今の今まで無表情だった奴が……笑ったのだ。
 俺が受けた衝撃は、筆舌に尽くしがたかった。


「……現世で会えるのは、コレでもう最後」


 何も言えず呆然とする俺に、マリスは無造作に顔を近付けて来る。
 ゆっくりと、元からない俺とマリスの距離が縮まる。

 刹那にも、永遠にも思える時間の中……彼女の唇が、俺の唇と重なった。


「……だから、出会った記念が欲しい」


 唇を放した彼女は、悪戯っぽい笑みを浮かべてそう呟いた。


「……これは、クセになる」


 余りに柔らかくほんのり甘い香りのするソレは、俺の中にあった感情を押しとどめてはくれない。
 寧ろ燃料をくべたが如く……もっと猛れと燃え上がらせる。

 無言で俯く俺を尻眼に、マリスは立ち上がりロザリンドの前に佇んだ。
 ものも言わず此方に背を向けているのに、静かに目を閉じたのがわかる。


「は、破廉恥な事をしたのは目に余るが……良かろう、その潔さをくんでやる」


 【天使の羽衣】を纏わぬマリスに、依然として赤い光を纏うままのロザリンドが剣を振り上げ、真正面から立ち割らんとしている。

「殺戮の天使よ」


 その光景に―――俺の中に生まれた感情が―――


「覚悟ぉっ!」


 ―――『怒り』が―――――


「ふざけるなあああぁぁっ!!!」


 抑えきれず、爆発した。


「はばっ!?」


 利かない、などとは分かっている。
 俺など碌に相手にされない事も、重々理解している。

 それでも―――見逃せなかった。止まっている事は、出来なかった。


「り、麟斗君!? 君は何を―――」
「ぜあぁっ!」
「うぉわあっ!?」


 ロザリンドの言葉など耳に入れない。元より入れる気もない。
 拳を振い、只当てる事を考える。


「……麟斗……何、で?」


 ああ、何でだろうな。
 下手を打てば厄介な方向へ話が転がるのに、何故だか止まれなかった。
 ……いや、何故だかじゃあない、答えは分かっている。
 マリスは初めて、“俺”を“俺”として見てくれた人物だったからだ。

 前世だってそうだった。
 冷たくとも家族や友達間に愛情がない訳ではない……そんなものは詭弁でしかない。
 冷たいという時点で、最低限の接点しかない時点で、愛情などとうの昔に捨てられている。
 何故そうなっていたのか、俺には思い出せない。
 思い出せない……が、その冷たさに慣れてしまい、それもまた『温かい』のだと誤認してしまっていた事は、確かだった。
 本当は温かみを、知らず知らずの内に欲していたのに。

 今世でも最悪だった。
 温かみこそあれど振り切れ過ぎていて、しかもその実己の欲求を俺にぶつけてくる者ばかり。
 やれ自分の言う事を聞け聞かねば殴ると脅し、やれ実験台だ憂さ晴らしだと執拗に絡み、やれラブコメして来いやれ男なんだからと苦心ばかり乗せてきて、やれ嘘を吐くな隠し事するなと余計なルールを強制し、やれ自分の兄はツンデレなのだ本当はこうなのだと曲解を押し付ける
 結果―――“俺”を見てくれている者は、皆無だといっても良かった。
 温かいだけでは駄目なのだと知った時にはもう遅過ぎた。

 だが、マリスは違う。
 家族の話で曲解をのせられようとも、最後はオレの意見を聞き入れてくれた。
 訳の分からない言葉で誤魔化すのではなく、実直に感情を伝え、本心をぶつけてきてくれた。
 無表情でボソボソ喋っていても、決してあらぬ方向を見やりながら自分本位だけでは喋らなかった。
 ……ただ真正面から、俺を見てくれた存在なのだ。
 冷たさから温かみに飢えていた、理不尽から理解に飢えていた俺には、大切な存在なのだ。


 何より、人と触れあう事が素晴らしいのだと、美味しいという意味はとても素晴らしいのだと、情念込めて語ったその想いを、俺は見捨てる事が出来ない……!


「マリス! お前は如何したい!」
「…………! ……麟、斗?」
「お前は本当に消えたいのか!? 此処に居たくないのか……死神に還って見守るだけで本当に、本当に良いんだな!?」


 この世界に生まれ落ちてから、この方一切出さなかった感情をたっぷりこめた言葉で、拳を振いながらマリスに問う。

 やがて、小さく……しかし確かな答えが返って来た。


「……良く、無い……」
「……」
「……京平と、楓子と話したい……優子のご飯を食べたい…………麟斗と、一緒に居たい……!」
「……そうか」


 一瞬間だけ、俺は動きを止める。
 吊られてマリスの方へ跳びかかって行きそうになるロザリンドを、俺は火事場の馬鹿力で強引の留め、お返しだと投げとばした。


「ぶはっ……り、麟斗君!? 何故立ちはだかるんだ!?」


 俺はロザリンドの言葉を受け、すぐには追撃せず立ち止まる。

 口を開けば、息を其処まですっていないのに、響き渡る様な声が自然と出て来る。


「弱い奴を見殺しにして、自分と言う強い奴に乗り換えろ、相手は悪人だし酷くない、何よりそれが当たり前だから…………か」
「……り、麟斗く―――」
「当たり前な訳、ねえだろうが!!」


 一度為、更に吐き出す。


「今此処にマリスは生きている! 一つの命として、人として生きている!! それを見殺しにして乗り換えろだと? ……お前は目的の為なら上を全部彼方へ放り捨てる悪党か何かか!?」


 マリスの視線を背に受け、俺はなおも叫び続ける。


「……俺はマリスと組む。お前とは、組む気がしねえ」
「な……そいつは殺戮の天使だぞ? 人を、幽霊達を貶める死神だぞ! 彼女よりボクの方が信頼できないというのかっ!?」
「嬉しそうに飯を食って、他者に抱きつき気持ちよさげに目を細めて、相手を尊重し真正面から見てくれる……そんな人と、初対面の奴を目的の為なら殺しても酷いとすら思わねえ、外見だけ小奇麗で中の無いがらんどうの―――どっちが信頼に足るかは言わずもがなだろうが」


 言い終えると共に、俺は今一番の感情をこめてロザリンドを睨み付ける。
 ロザリンドは声を詰まらせ、僅かに一歩引く。


「お前は何なんだロザリンド……いや、木村玉子」
「貴様、その名前は―――」
「正義だの騎士道だのと謳って重視しなくても良い設定(なかみ)を敢えて演じておきながら……いざ局面に立ち会えばまどろっこしいからと、理解するのが難しいからと繋がりを悟らず一切合財断つか?」
「ち、違う! 正しいのはボクで―――」
「ロザリンドを選んだ理由は何だ? 外見が何であれ、力を得て蘇る事が出来れば良かっただけかお前は!? 演じたのはただ外っ面に酔いたかっただけか!?」
「こっ、このボクを侮辱する―――」
「三下役者が!! 物語の騎士に憧れたならそれを貫け! 格好良い自分が好きなら押し通しやがれ! ……願いすら切り捨て弱者相手に己が持論を突き付けて、更に有無を言わせないのが―――己が絶対的に正しいとするのがお前の騎士道か!? そんな格好悪いものにお前は憧れたのか!?」
「もういい! もう分かった!」


 ロザリンドは多く大きく頭を横へ振り、舌戦はたくさんだとばかりに剣を振り上げた。


「君は今、その死神と無関係ではなくなった、その勇気に敬意を―――」
「口で己の正しさを証明できなければ、其処らの悪人同然に力技か? そんなものが騎士道で、お前の正義か木村玉子!」
「黙れえええぇぇぇぇぇええええええええぇぇえェェっ!!!」


 恐らくマリスを切ろうとした時点で、既にこいつの精神は張り詰めていたんだろう。
 正義だなんだと己に言い聞かせ、絶対的善は己なのだと強く思いながら。
 加えて己の逆鱗に二度も触れる俺の言葉だ……別に意図した訳じゃあ無い、自然と口を吐いて出てしまっていただけだ。
 ……言いたいことは言った。全て叩きつけた。
 少しだけだが、満足している。

 大きく叫びながら剣を振るおうとするロザリンドを、俺は真正面から見つめている。
 速く、強く、何より重い、人類の繰り出せる限界を超えた斬撃。
 避ける事など困難で……しかし当然、マトモに食らってやる気はない。一か八かで防御して、反撃をぶちこむ為に。
 マリスも恐らく、手を貸してくれる。


「……っ!」


 両手を構え、しかと剣を見据え―――――瞬間、身体が後ろに引っ張られる。

 よろめきながらも見つめる俺の視線の先には……マリスがいた。


「……麟斗、逃げて」
「何故……っ!?」
「……私は殺戮の天使じゃない……麟斗に、死んでほしくない」
「殺戮の天使如きが、悪辣なる死神が聖者を装うか!! そんなぁ……そんな猿芝居にぃ、騙される者かアアァァッ!!」


 負の感情が限界まで振り切ったロザリンドは、無慈悲なまでに剣を振り下ろす。
 俺の視界に捉えられた光景が、ひどく緩慢に流れて行く。

 止めろ……。
 何で、そう犠牲になる方を選ぼうとする?
 上手くいく保証無かった、でもお前が援護してくれればグッと確率は上がった。
 ―――現にそっちの方が合理的だったはずだ!

 なのに何故俺だけを庇おうとする……何故命を絶たれようとする!?


「やめろっ……!!」


 こんな時に役に立たない自分の身を、俺は憤激しかねないまでに恨んだ。
 【天使の羽衣】越しに殴れるからなんだ? 身体能力が高いからなんだ? 肝心な時に役に立たないなら会ってないも同然だろうが……!!


「ッ……マリス!」


 一緒に帰りたい……!
 飯の味が不味くたっていい、大食いし過ぎて転がってもいい……マリスに鍋を味わってほしい、彼女に団欒をもっと感じて欲しい。
 家族への不信が限界まで募り、もう俺が心から深く抱く事の出来ない感情を……しかしマリスはまだ確り受け止める事が出来る―――だからこそ共に生きて帰りたい……!!


「く……おおぉぉぉおっ!!」


 俺の中に……居るんだろ、“あの日” 全てが変わった原因が!
 なら力を貸しやがれ! 中途半端ににじみ出たまま燻ぶっているんじゃあねえ!!

 今だけでいい!
 ロザリンドに一発叩き込む力を―――吹き飛ばせるだけの力をよこせ!!
 よこしやがれ!!


「……っ!!」


 ありったけの激情(いかり)を込めて、藁にもすがる思いで俺はただ願う。








 ――――突然だった。

 何故だろうか……身体には何の変化もないというのに、スローモーションで流れる景色も俺の走る速度も変わらないのに……奇妙な感覚が俺の『中』を突きぬけて行く。

 更に、口が勝手に動き始める。
 全く意味がない筈なのに、声が勝手に飛び出て来る。


Viņa ir cilvēks, izmitināšana vardarbīgu karalis(己の躰は帝王の宿し身、重圧なる陸の暴獣、それを受け止め芯に置く)

 何故それを知っているのか、

Karalis ir dvēsele, kas ir šajā kontinentā, imperators zemes ir uz ķermeņa, karalis kalnu nozīmē(その御魂には大陸の帝を、その身体には大地の皇を、その理には大山の王を)

 何故に今、ソレを口にするのか、

Heavy uz vienīgo caurules, un neticami grūti, lielāks nekā jebkas(只管に鈍く重く、堅甲持ちてただ硬く、また捉えられぬまでに巨大)

 知らぬ間に飛び出てくる言葉はしかし、確かな力を感じさせて、

Jūsu ķermenis, jo šī iestāde, lēns par stulbu Heavy, lai aizsargātu, lai iznīcinātu(我が身、己が身、愚劣なるほど鈍重であるからこそ……ただ守護を、そして破壊を)


 その『力ある』、知らぬ筈の言語が口からただ紡がれ、されど言葉の“意味”が俺の心に確と伝わる。

 そして……最後の一文を、より“力”を込めて、強く吐き出し――――


「“iemiesojums(顕現せよ)”―――
       
 【Saspiešanas tērauda ilknis(潰鋼の獸牙)】!!!」


 左腕に現れた【牙】が、ロザリンドの剣を真っ向受け止めた。
 
 

 
後書き
次回、漸く麟斗の力のお披露目です。 
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