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剣士さんとドラクエⅧ

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92話 苦戦

 心臓に攻撃を食らわないこと、頭を粉砕されないようにすること!この二つだけを注意して私は攻める攻める攻める!マヒャドは何度受けても私に届かないって理解したから考慮する点はそこじゃないし!問題は、いかに「死なないか」!

 死ななかったらククールが私を何度でも回復する。それを言っちゃあ……死んでも生き返らせてくれるのは、ザオリクっていう反則みたいな蘇生魔法があるから分かってるんだけど、それだと死んでる間攻撃できないじゃないか!時間が勿体ないよね!

 悪いけど私はひたすらあいつを攻撃しなくちゃいけない。だから、隣のエルトが地面に叩きつけられてマヒャドを食らっていても、ヤンガスが瀕死に追い込まれても、その前に立ちはだかって攻撃することしか、出来ないんだ。

 右手に大剣、左手にただの剣。ただの剣って言っても、私が全力で岩とかを切り刻んでも大丈夫なぐらいは頑丈だけどね!それでこう、腹に風穴あけられながらも無視してしっかり踏み込んで攻撃攻撃!

 大剣がドルマゲスの腹部をさっきのお返しとばかりに抉り、溢れ出た形容し難い血は……既に赤じゃなくなっていて人間じゃない存在だってわかる……べちゃべちゃ地面に落ちるか、剣にべったり付いたままか、こっちの顔にかかった。気持ち悪いけど、避ける暇さえない!

 致命傷を免れないであろう強力な攻撃は剣をぶち当てて緩和し、地面に叩きつけられ体がスカラの許容を超えて軋み始め、すかさず飛んできたベホマと時間延長の為のバイキルトが私を包む。我ながら無茶苦茶な体勢から跳ね起きてドルマゲスの足を折れろとばかりに蹴りつけて、上からざっくり、脇腹を切り裂く。血が飛沫のように噴き出した。

「ピオリムッ!」

 ゼシカがその隙に唱えたのは素早さを上げる呪文。これって確か、その戦闘が終わるまで切れない呪文だよね。てことは、この間ずっと素早くいられるって訳だよね?

 傷まみれになったっていうのに、深い傷もものともしないドルマゲスは紫の翼を広げ、雨のように魔力の篭った羽根を降らす。バシッと頬が裂ける。ブンと剣を振っていくつかは切り刻み、上がった素早さでそれ以降は一枚も食らわないように避けつつも、止まらずに迫る。その胸目掛けて剣を思いっきり投げ、突き刺し、反対の腰に吊り下げているもう一本のただの剣を引き抜いた。

 エルトが光のように素早くドルマゲスの後ろに回り込んだ。私は囮だ。エルトの影に潜んでチャンスを狙っていたヤンガスもドルマゲスに近づく。ドルマゲスの目の前で大きく剣を振りかぶった私に至近距離からのかまいたちがモロに当たった。スローモーションに世界が見えるまでもなく、瞬き一つの時間のこと。

 幸い、最初に防いだ物理攻撃ほどのダメージはない。かまいたちはかまいたちだってことだろう。直撃は、不味かったものの。

 何時ぞやのサイクロンのかまいたちよりは余程痛いけど……。受けた胸元が裂け、血が噴き出し、ぎりぎり骨は繋がって残ってるけど恐らく肺が真っ二つにされたようで、込み上げる血を吐き出しつつも、父上と母上が贈ってくれたミスリル製の鎖帷子は傷一つなく、なんとか私を生かしてくれた。あぁ胸が熱い、焼けているように熱いけど、それでも剣を振り抜けば至るところの肉が、腱がぶちぶちとちぎれるのを感じるけど、私は生きている。

 生きているなら、斬れるんだから!

 エルトの雷光一閃突きが、ヤンガスの大魔神斬りがドルマゲスの背後から炸裂した。私の渾身の一撃が、会心の一撃とでも言うべき一撃が前面から襲う。その強力過ぎる一撃はまさに、ドルマゲスは……言葉の通り真っ二つにした。

 そして憎々しいことにお揃いのように真っ二つ寸前の私に一瞬遅れて回復の光が降り注ぐ。ククールに何かあったの?……違う。ドルマゲスは前衛で攻撃を受ける前提で迫ってくる私達じゃなくてゼシカに向けて最期のかまいたちを放ったんだ。

 ゼシカとて、弱くない。でもこのメンバーなら……弱いほうだろう、体力は。私の方が魔法を考慮したら耐久力はないかもしれないけど、それはそれとして。ククールの必死の回復に自らの血の海から起き上がったゼシカは、真っ二つにされてもなお邪悪な笑いを顔に宿して蠢くドルマゲスを、メラゾーマの獄炎で、燃やした。

 嗚呼。でも、これでも。まだ、油断はしちゃいけない。

 頭では理解してるのに……こんな攻撃を受けたドルマゲスが生きてるはずないって……なのに、なのに、体が回復されてもなお激痛を訴え、倒れ込みたいっていうのに、嫌な予感が止まらない……!

・・・・
・・・
・・


 ぜいぜいと、あのトウカが激しく息を切らしながらも剣を構える。槍を構え、普段の温和そうな様子はどこかにいったエルトがその隣に並び立つ。そのエルトも傷を治したはずだが激しい戦闘のせいで今にも倒れそうだった。ヤンガスが膝をつく。ゼシカはメラゾーマを放ってからなんとか立ち上がったが、俺の支えがなければ立てないかもしれない。

 その俺も、あの戦闘の羽根の雨?フェザースコール……とでも言うのか、降り注いだ羽根の雨に全身切り裂かれ、傷を治しても服はズタズタで満身創痍に見えかねない。

 後衛であり、回復役であるが故に守られた俺が一番体力が残っているというのは、彼女達の健闘のおかげだろうな……。

 激しい炎がゆっくりと鎮火していく。ゼシカが魔法の聖水を無理矢理飲み下してメラゾーマを何発も、何発も追加して放つ。繰り返し繰り返し地獄のような炎を浴びてもなお……俺達にはわかる。きっと本能でみんな分かっているだろうが、アイツが死んでないってことは、分かる。

 想像通り、あの気配は衰えることなく……人間の形も、さっきの翼を生やした姿でもなく、肥大した形容し難い姿でドルマゲス「だったもの」は炎から飛び出し、醜い奇声を上げながら一番前にいた、トウカを、食った。



 
  
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