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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第十一話 出る杭は打たれるのです。

 
前書き
 エル・ファシル星域を落とされた自由惑星同盟。さて次なる一手は・・・・? 

 
帝国暦479年9月4日――。
ノイエ・サンスーシ 私室
■ アレーナ・フォン・ランディール
 なめていたわ。あのチート皇女殿下があそこまで動くとは思わなかった。転生者ってバカにしていたけれど、これは本腰入れなくちゃね。でも、その方がやりごたえあるからいいか。おかげでなめてかかることのバカさ加減を重々承知できたってわけ。

 あの軍事法廷にフリードリヒ4世陛下を間に挟んで、カロリーネ皇女殿下が介入したおかげで、アルフレート坊やはそのまま幼年学校にとどまり、シュタインメッツもおとがめなし。しかも、二人ともあろうことかカロリーネ皇女殿下に謁見を許されて、ファーレンハイトとも面識フラグが立っちゃった。
幼年学校の従卒をかばい立てするなんてお優しい皇女殿下、なんて巷じゃ評判があがっちゃったわ。う~ん、これを機に皇女殿下がご改革に乗り出されると困るわね。何とかしなくちゃ。うん、今こそグリンメルスハウゼン子爵閣下の情報網と情報を活用するときかも。

 とりあえず、カロリーネ皇女殿下とアルフレート坊やはたぶんくっつくだろうと予想されるので(今のところはね、将来どうなるかわからないけれど。)監視しやすくなって好都合です。でも、これ以上勢力伸ばされる前に、ブラウンさんやリッテンさんをそそのかしてけん制しようかと思ってるわ。
 いずれにしてもイルーナと要相談ね。

 それはそれとして、私はアンネローゼさんに会ったり、そこにサビーネ・フォン・リッテンハイムを連れていったりといろいろやってます。アンネローゼさんに会うのはカロリーネ皇女殿下はそんなにうるさくは言わないの。ま、私が色々と話をしているから、スパイみたいな感覚でいるのかもしれないけれど、どっこい違うんだな。私はラインハルトのためにしか動かないんだからね。そこでマグダレーナ姉さんにも会えました。そのうちヒルダさんも紹介してもらえることになってるし。うん、順調ね。
サビーネは超いい子です。私にとてもなついてくれて、アンネローゼさんともマグダレーナ姉さんともすぐに打ち解けたわ。リップシュタット戦役で放逐させるのには惜しい子だと思ったの。しっかり教育すれば、素直な子なのでいいところまで伸びるんじゃないかしらね。

 幼年学校 自室 
■ ラインハルト・フォン・ミューゼル
 反乱軍とやらが、エル・ファシル星域で帝国軍を破った。脱出する民間船を爆装させ、殺到する帝国軍の目の前で爆破させたそうだ。反乱軍、やるではないか。1000隻程度の艦艇を失ったそうだが、もし俺がその場にいたら・・・いや、俺がその場にいても何もできないだろう。俺には力がないし、まだ経験が足りない。姉上やアレーナ姉さん、イルーナ姉さんに耳に胼胝ができるほど言われ続けてきたことだ。
 幼年学校で俺の同期であるアルフレート・ミハイル・フォン・バウムガルデンがその場にいたんだそうだ。ここ最近姿が見えないと思ったら、奴はそんなところに行っていたのか。従卒として戦場に出たのは奴だけだ。大方家柄のコネを使ったんだろう。反吐が出る。
 そして戦場で司令官に意見したのだという。バカな奴だ。目の付け所は悪くはないが、実際の艦隊運用において、敵に索敵能力があることを完全に忘れている。俺なら動きを察知されないよう、エル・ファシル星域を大きく迂回するか、若しくはあちこちに偽装の艦隊を配置しておく。それか、いっそのこと8000隻の艦隊でエル・ファシルを包囲して退去勧告を出す。今回の作戦の目的は、エル・ファシル星域の制圧と、周辺のレアメタルの採掘権の確保なのだ。それさえ達成できれば民間人の捕虜などどうでもいい。むしろ帝国の寛大さをアピールできることとなる。もっとも、腐り切った帝国が反乱軍に対し、そんなことをするとは俺には到底思えないがな。
 いずれにしても、俺には受け入れられない人種だな。もっとも今後の進み方次第で奴をどう見るかが変わるかもしれないが。



 自由惑星同盟 統合作戦本部――。
 統合作戦本部長であるダニエル・ブラッドレー大将は、この年48歳。宇宙艦隊司令長官から統合作戦部長に移ったばかりの戦場でのたたき上げの軍人である。士官学校を出ていないどころか貧窮の家庭で育ったため、正規の教育をほとんど受けていないという珍しい経歴を持つが、その才能は各艦隊司令官のみならず政財界の要人も認めていた。

「やぁ!シトレ、来たか」

 彼は大喜びで身の丈2メートルの黒人将官を招き入れた。第八艦隊司令官に就任したばかりの、シドニー・シトレ中将を自室に呼び寄せていた。
 第八艦隊は先年第四次イゼルローン要塞攻防戦に置いて、壊滅的な損害を被り、司令官は戦死、艦隊の5割が失われるという敗北を喫した。すべては第八艦隊が頑迷な司令官の指揮のためにトールハンマーの射程内にいたことが原因だったが、このため一時期は自由惑星同盟軍に避難の嵐が殺到したのである。
 当時宇宙艦隊司令長官だったブラッドレー大将は、この作戦に出征していなかったし、第八艦隊の突出など全く知らぬことであった。すべて出先司令官である宇宙艦隊副司令長官のロボス中将が指揮していたのである。そのロボスにしても第八艦隊には何度も自重せよと伝令を飛ばしていたのであるから、これはもう第八艦隊司令官の独断というほかなかった。
 だが、世間の眼はそうは見ない。あくまであのような無謀な作戦をとった責任者は宇宙艦隊司令長官だというのである。そのため、宇宙艦隊司令長官をブラッドレー大将はやめ、後任を人事局にゆだねると、自分はさっさと統合作戦本部長の席に座った。実のところ統合作戦本部長の方が実働部隊の長である宇宙艦隊司令長官よりもエライのであるが、近年は実働部隊こそが同盟を支えているのだという風潮が高まって、統合作戦本部長はその風下に置かれていると言った風であった。

「遅れて申し訳ありません。本部長閣下」
「よせ、他人行儀な。俺はお前の直属の指導教官だったが、あの当時のお前は今ほどの他人行儀ではなかったぞ」
「はっはっは。これは手厳しいですな」

 シトレは愉快そうに笑った。

「それで、小官をお呼びになったのは、いかなる理由でしょうか?」
「まぁ、かけてくれ。今コーヒーを淹れてやる」

 統合作戦本部長自らが淹れるコーヒーは、シロン産紅茶の葉と並び最上級と称されるヴァジール星産のコーヒー豆を使用し、良質の水とサイフォンにこだわったものであるが、何よりも統合作戦本部長閣下ご自身が大のコーヒー好きということもあり、豆を手ずからひき、科学実験でもするような、だが楽しそうな手つきで慎重に淹れていくコーヒーはひそかに軍内部でファンが出来上がるほどの評判だった。

「そら、熱いからな。気を付けろよ」

 シトレは恐縮してカップをとりあげ、ゆっくりと口に含ませ、その上質な香りと味を心ゆくまで堪能した。

「いやぁ、さすがは本部長閣下の手ずからお淹れになったコーヒーですな。これを味わえるだけでも、ここに来たかいがあるというものです」
「はっはっは。そう言われるのは悪くはないな。退役したら俺はコーヒー屋の親父になっているかもしれんぞ」

 どっかと本部長椅子にすわった本部長閣下はこれまたうまそうにコーヒーをすする。

「その時は小官が開店第一号の客でありたいものです」
「文句を言わずに飲んでいるのであれば、どんな客でも受け入れるぞ。まったく、コーヒーは人間の文明に寄与するところ大だ」
「ところがです、残念ながらコーヒーを好まず、紅茶が好きだという人間もおります。ちょうど小官が同盟軍士官学校の校長をやっておったころ、一人そういうのがおりましたな」
「ほう?」

 本部長閣下の手が止まった。

「コーヒーなんぞ泥水だと申します。あんなものを飲むよりも紅茶の香りを楽しんだ方がいいと」
「はっはっは!そいつはまいったな。ならばとても俺の部屋にこれまい。俺が出すものと言ったら、コーヒー以外にはないからな」

 本部長は愉快そうに笑った。

「一度そいつにうまいと言わせてみたいな。そうすりゃ俺のコーヒーの腕前もそこそこ世間様に認められるレベルになったということだろうよ」
「それは楽しみですな」
「うん、一度そいつを連れて来てくれないか?」
「閣下も遠からずお会いになれます」

 シトレの言葉に本部長閣下は目をぱちくりさせる。

「うん?どういうことだ?まさかもう来ているというのか?」
「いや、違います。例のエル・ファシル星域の会戦において、民間人300万人を見事脱出させた男です」
「ヤン・ウェンリーか!?おお、なるほどな!!確かにそいつはお前の生徒だった。そうかアイツがな」

 本部長閣下は感慨深そうにうなずいている。

「ならば楽しみにしているぞ。帰国したら真っ先に俺の部屋によこすように言ってくれ」

 そういうと、本部長閣下はニヤリとした。この閣下、人によってはダニエルスペシャルエディションとかいうとんでもなく濃いコーヒーを出すことでも有名である。その結果、本部長の部屋から退出した際、胃もたれを訴えて病院に直行する輩が続出したそうである。決して本部長閣下から何か難題をふきかけられたということではないそうだが。ヤン・ウェンリーがどうかその被害者にならないよう、シトレとしては祈るほかなかった。

「さて、シトレ」

 本部長は真顔になった。

「お前を呼んだ理由、想像はつくか?」
「先ほどの話のからみですかな。エル・ファシル星域の失陥、そしてレアメタルの採掘場の失陥は我が同盟にとって小さな損失ではありませんからな」
「そうだ。だが、それだけが理由ではない」

 シトレの尋ねる様な眼差しに、本部長閣下はすばりと言った。

「フェザーンだ」
「フェザーンですと?」
「そうだ。実はな、レアメタルの採掘場にはフェザーンの多額の資本投下があった。それをむざむざと帝国に奪われたことで、フェザーン側は平たく言えばご立腹なのだ。今後我が同盟の国債の買い付けを制限、資本の投下の縮小など、要するに資金援助の凍結をほのめかしている」
「なるほど」

 自由惑星同盟の内部に流入するフェザーンの資本は相当なものであり、これに染まっていない大企業はないとも言われている。なにしろ国家の歳入の20パーセント超をフェザーンの国債買い上げによる金が占めているのだ。それはまだ表向きの事で、非公式な間接的な援助を含めると、同盟の歳入の半分を超える資金源がフェザーンから流れてきていると言われている。年々増加する軍事費もこのフェザーン資本で保たれていると言っても過言ではない。
 その影響は政財界にまで及び、フェザーンの金を懐につかまされていない政治家はいないとまで一時期は言われたほどであった。

「なるほど」

 シトレはもう一度そういい、やおらコーヒーを飲み干し、カップを置くと、ゆっくりと言った。

「つまりは、小官にエル・ファシル星域の奪還をせよと、おっしゃるのですな?」
「流石はシトレだな。そういうことだ」
「ですが閣下、小官の第八艦隊は数の上でこそ14000隻でありますが、何分編成をし直したばかりであり、小官自身も赴任してまだ数か月にしかなりません。いわゆる新兵ばかりの艦隊。それを動かして攻略の途に就かせるなど、少々危なくはありませんか?」
「そうか、お前にはできないか」
「いや、やれと言われれば死力を尽くします。ですが、小官とて万能ではありませんからな。不成功に終わった場合の対策も講じておかれた方がよろしいと考えた次第です」
「その点は心配しなくともいい。俺の方で考えてある。そして宇宙艦隊司令長官とも協議済みだ。ところでな、今度の宇宙艦隊司令長官の人事、ありゃ失敗だぞ。ロボスの奴は40越えてからボケてきたな。まだ46だが往年の精細さには欠ける。あれは何か?帝国の女スパイに性病でも移されたか?奴は昔から女には弱かったからな。おれはいっそお前に宇宙艦隊司令長官になってほしかったと思ってる」
「閣下。そのようなことをおっしゃられますな」

 これにはシトレも苦笑いするほかない。

「宇宙艦隊司令長官がご承知で有ればいいでしょう。それに、小官には宇宙艦隊司令長官の大役は荷が重すぎます。現状でも十分です。では、早速司令部に戻り奪還作戦を協議いたします。作戦案ができ次第閣下のもとにお持ちしますが、よろしいですか?」
「いや、それは駄目だ」
「といいますと?」
「今回の作戦は、秘密裏に行ってもらう必要がある。情報漏えいの危険性が大だ。フェザーンの奴ら、エル・ファシル星域の資本投下を回収しようと、今度は帝国に接近しているという情報がある。これ以上戦乱がそこで続けば、せっかく投じた開発プラントもめちゃくちゃになってしまうからな。そうなる前に事前に情報を与え、帝国に与することで自分たちの利益を守ろうというんだろう」
「フェザーンの常套手段ですな。蝙蝠として鳥と獣の間で羽ばたいている。時には獣、時には鳥と主張し、双方に着いたり離れたりというところでしょう」

 本部長はため息をついたが、どこか達観している風もあった。

「フェザーンのツラの皮の厚さは俺たちの何十倍もあるからな」
「同盟も似たような物でしょう。時々小官は今の同盟はいったい何なのかと思うときがあります」
「おっと、それ以上は言うなよ」

 本部長は手でシトレを制した。

「シトレ。そういう事情だ。すまないがお前に頼むしかない。何とかできるか?」
「わかりました。それでは表向き、わが艦隊は遠洋航海訓練に出たということにしておいていただきたい。ですが、後始末の方は大丈夫なのでしょうな?」
「むろんだ。あぁ、そうだ。お前に一人副官を付けようと思う」
「ほう?」
「今すぐに紹介したいが、いいか?」 

 シトレがうなずくと、本部長はすぐにインターフォン端末に向かって声をかけた。

「入っていいぞ」

 本部長の声に応じて入ってきたのは、ブロンドがかった金髪を綺麗に項のあたりで留めている、赤い眼鏡をかけた若い女性だった。スーツを着たら一流の弁護士のようだとシトレは思った。整った顔立ちだが、整いすぎているというきらいもあるかもしれない。口元に優美な微笑を浮かべているが、シトレはふとその微笑の影に得体のしれないものを感じた。

「大尉は優秀だぞ。18歳で大尉だからな」
「ほう?それは・・・・」

 それは実力なのか、それともコネクションがあったのか、いずれにしても士官学校の卒業生が18歳なのだ。その時点で大尉だとするといったいどういうことなのだろうか。まさか新兵からの叩き上げなのか。いや、そういう風には見えないのだが。
 色々とシトレが測り兼ねていると、大尉が近づいて敬礼してきた。

「シャロン・イーリス大尉と申します。シトレ閣下」

 シトレは立ち上がった。

「よろしく頼む」
 
 シトレはそう言いながら、ふと思った。今まで聞いたことがない士官だが、いったいどこの出身なのか、と。
 
 

 
後書き
 本部長が交代してから、コーヒー党の割合は紅茶党の2倍以上になったとか。 
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