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英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)

作者:sorano
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外伝~帝都への帰還~後篇

~グランセル城・客室~



「……ふう。さすが女王陛下ご自身が紅茶がお好きなだけはありますな。香り、温度、味わい……どれをとっても申し分ない。フフ、私はコーヒー党ですがこれなら毎日飲みたいくらいです。」

「……その意見には同意するがそろそろ本題に入って頂こうか。話しと言うのは一体何かな?」

紅茶を飲み、一息ついている宰相にオリビエは真剣な表情で尋ねた。オリビエの疑問に宰相は口元に笑みを浮かべて話し始めた。

「フフ……どうやらリベールでの滞在は殿下にとってこの上なく有意義なものだったようですな。」

「……なに…………」

「以前お会いした時もたいそう柔軟で聡明な方だという印象を受けたものですが………今の殿下はそれに加えて芯の強さも兼ね備えておいでだ。さぞ陛下もお喜びになるでしょう。」

「フッ、そういう貴方こそ相変わらずの豪胆ぶりだね。いや、以前会った時よりもさらに圧倒的なオーラを感じるよ。さしずめ併呑(へいどん)した領土の広さだけの怨念をまとっているといった所かな。」

宰相の賞賛に対し、オリビエは口もとに笑みを浮かべて宰相を賞賛した後、笑顔で皮肉を言った。

「フフ、これは手厳しい。ですが、できれば併呑ではなく併合と仰って欲しい所ですな。かの”百日戦役”以来、帝国軍が侵略行為に及んだことはただの一度たりとも無いのですから。」

「確かにその通りだ。――――あくまで名目上はね。」

「………ほう。」

オリビエの意味深な言葉を聞いた宰相は若干驚いた表情をして、オリビエを見た。



「併合された小国や自治州はどこも幾つかの問題を抱えていた。そしてその問題が深刻化して猟兵団などが入り込んで来た所で、極度に治安が悪化……困窮した現地政府の要請を受けて帝国軍が介入し、そのままウヤムヤの流れで併合が決定される。そのプロセスは全て共通している。」

「ふむ、確かにそのような共通性があるのは確かですな。ですがそれも、激動の時代が生み出した必然でありましょう。帝国軍はあくまで帝国のため、周辺地域の安定を実現するべく然るべき対応をしているだけですよ。」

「それは非常に結構なことだ。だが………それにしては情報局の人間が周辺地域に赴きすぎているのは気になるな。しかも、抱えていた問題が深刻化するよりも以前からだ。」

宰相の話を聞いたオリビエは笑顔で意味深な言葉を問いかけた。

「フフ、そのような情報をどの筋から入手されたのかはあえて問いますまい。全ては危機管理の思想によるもの。だからこそ我が軍はこれまで幾つもの有事を治めることが出来たのです。」

「周辺地域の怨嗟とテロという危険と引き換えにね。正直、貴方がこうして単身リベールを訪れたというのがいささか信じられない気分さ。今のエレボニアにおいて恐らく、一番テロの対象として狙われている人間だろうからね。……それも”大陸最強”の武人にして王の中の王―――”英雄王”リウイ皇帝陛下がいるとわかっていてまで。」

「フフ、恐れ入ります。ですが、どうかご心配なく。優秀なスタッフのおかげでテロへの対策は万全でしてね。それに私自身噂の”覇王”をこの目でしかと焼き付けておきたかったのですよ。フフ、噂通り……いや、それ以上にすざましい”覇気”を感じる方でしたよ。確かリウイ陛下は不老不死との情報も入っております。あのような”王”に永遠に見守られているメンフィルが羨ましい限りですな。」

オリビエの言葉を聞いた宰相は口元に笑みを浮かべて答えた。

「(……さすがの”鉄血宰相”もかの”覇王”の”覇気”には圧されたか。)優秀なスタッフ………たとえばあのレクター君か。」

「フフ、変わり者ではありますがなかなか使える男でして。今回のスケジュール調整からテロ対策まで段取ってくれました。おかげで、このあと安心してクロスベルに向かう事ができます。」

「な………!?」

宰相の話を聞いたオリビエは信じられない表情で声を大きく上げた。

「クロスベルの政府代表と極秘の会議を行う予定でしてね。最近、共和国の資本が流れ込んで対抗勢力に押され気味なのだとか。一度、行ってみたい場所でしたのでこれを機会に訪れてみようかと。」

「ば、馬鹿な………今のクロスベルは各国の勢力が入り乱れた状況だ!緩衝地帯であるのをいいことにテロ組織や犯罪組織などの温床になっているとも聞く………そんな場所に非公式とはいえ、帝国宰相が乗り込むだと……!?」

「それを言うなら殿下。あなたとて同じことでしょう。メンフィル軍に包囲され、”覇王”を始めとしたメンフィルの武将達が揃っていた状況にも関わらず、戦になる事を防ぎ、そしてかの浮遊都市に乗り込み、視察という大任を果たされて地上に戻られた。フフ、それと比べればたかがクロスベル訪問ごとき、子供の遣いと同じ事。」

「………………………」

不敵な笑みを浮かべて語る宰相をオリビエは真剣な表情で見つめていた。



「今、本国で殿下はちょっとした英雄扱いですよ。その殿下が”白き翼”と名高い”アルセイユ”に乗船し、そして”英雄王”と名高いリウイ陛下を初のご招待をして帝都に凱旋する。”帝国時報社”を始めとする各方面への連絡もぬかりはない……まさに殿下が見込まれた通り、華々しいご帰還となるでしょうな。それに報告を聞く所、リウイ陛下と”聖皇妃”と称されるイリーナ皇妃との結婚式が行われる異世界――メンフィルの本国の王城での式の際の”演奏役”という光栄な形で招待されていると聞きます。カルバードに関しては誰も招待されておらず、我が国に到っても皇帝陛下を始めとした他の皇族達も招待されていないにも関わらず、殿下だけが招待をされる………フフ、さすがにこの私も予想できない事でしたよ。」

「…………っ……………」

宰相の話を聞いたオリビエは顔を歪めて、宰相を睨んだ。

「フフ、どうかこの機会を最大限に活かしてご自分の足場を固めるがよろしい。殿下、私はあなたに大いに期待しているのですよ。」

宰相が不敵な笑みを浮かべてオリビエを見つめているその頃、空中庭園でレクターは一人で静かに外の景色を見つめていた。



~グランセル城・空中庭園~



「…………………」

「ピューイ!」

その時、ジークが空から飛んできて、レクターの前のテラスにとまった。

「ピュイ!」

「よ、久しぶり。変わってないね、お前。」

嬉しそうな表情をしているジークにレクターは親しげに話しかけた。

「ピュイピュピュイ。ピューイ、ピュイピュイ。」

「なるほど………色々とあったみたいだなァ。ま、主人共々元気そうで何よりだぜ。」

「ピュイ♪」

自分の話を聞いて頷いたレクターを見たジークが嬉しそうな表情で鳴いたその時

「……先輩。」

クローゼがレクター達に近づいて来た。

「これはクローディア殿下。ご機嫌うるわしゅう。勝手かとは思ったのですが、見学させていただいておりました。いや、それにしても本当に素晴らしい眺めですね。」

「先輩………どういう事なんですか?どうして先輩が………オズボーン宰相の元でこんな事をしているのですか?」

「はて………何のことやら自分にはさっぱり。どなたかと勘違いされていらっしゃるのでは?」

不安げな表情で尋ねてきたクローゼにレクターは不思議そうな表情で尋ねたが

「レクター・アランドール………2年前までジェニス王立学園に在籍していた、前生徒会長………先輩、あなたの事ですよね。」

クローゼは真剣な表情レクターを見て言った。

「いえ、実は私の名前はレク・タ~ランドールと申しまして。ですから多分それは別人でしょう。どうか私のことは、レクとでもタ~ランドールとでもお呼びください。」

クローゼの真剣な表情に対して、レクターは大真面目で答えた後、陽気な様子で言ったが

「っ………ふざけないで下さい、先輩っ!あんな風に、突然退学届を出して何も言わずに居なくなるなんて………!レオ先輩やルーシー先輩、それにジルやハンス君たちがどれだけ心配したと思っているんです!」

クローゼは怒りの表情で声を荒げて言った。

「……………………」

「あの冷静なレオ先輩が怒鳴り声を上げていました!ルーシー先輩は『レクターらしい』って苦笑しながら泣きそうな顔で!ジルやハンス君、それにもちろん私だって………!なのに………この城に私がいると知って、

姿を現しておきながらなぜ誤魔化そうとするんですか!?」

「………くくっ……………わはははははははははははっ!」

怒りの表情で語るクローゼを見たレクターは口元に笑みを浮かべた後、大声で笑い始めた。

「レクター先輩………!」

「悪い悪い、そう怖い顔をするなって。しかし、お前さん。相変わらずアタマが固いねぇ。王太女になってもクソ真面目なところは全然変わってないみたいだなァ。」

自分を睨むクローゼにレクターは苦笑しながら答え、そして懐かしそうな表情でクローゼを見た。

「あ………」

レクターの答えを聞いたクローゼは自分が知るレクターとようやく話せる事に嬉しそうな表情をした。

「でもまあ、安心したぜ。お前のことだから王太女なんかになったりしたら身動き取れなくなるかと思ったが………噂で聞いた限りじゃ、何とかやってるみたいじゃないの?オレが学園を辞めてからいい出会いがあったみたいだな。」

「先輩………はい、おかげさまで。フフ……知っていますか?ミントちゃんとツーヤちゃん………今では私に負けないぐらいの立派な貴族なんですよ?」

「ああ、あの孤児院のチビッ娘達か………それにしても驚いたね~……たった2年であそこまで”色々”と成長した上、今では2人ともメンフィルの貴族……それも皇族に連なる貴族の当主だ。しかもミントはリベールの”英雄”の一人であり、同じくリベールの”英雄”……”剣聖”の娘にしてかの”風の剣聖”の次いでS級正遊撃士に近いと言われるA級正遊撃士――”ブレイサーロード”………”エステル・ファラ・サウリン・ブライト”侯爵の娘にして、遊撃士協会でも優秀な正遊撃士の一人にして若きC級正遊撃士……B級への昇格も近いと聞く。ツーヤはあの”姫君の中の姫君(プリンセスオブプリンセス)”の護衛騎士にして唯一人の世話役………大出世じゃねえか。院長や他のチビッ子達もさぞ驚いているんじゃないか?」

「フフ、そうかもしれませんね。……先輩は私が変わったと思っていますが私が変われたとしたら、その最初のきっかけをくれたのはレクター先輩、あなたです。あんな風に突然いなくなるから満足にお礼も言えませんでしたけど………私はずっと……先輩に感謝していました。」

「ほう、そりゃ光栄だ。お礼にキスでもしてくれるか?」

微笑んで語るクローゼにレクターは興味ありげな視線でクローゼを見て尋ねた。

「しません。尊敬はしてますけど恋愛感情はありませんので。」

「そりゃ残念。後輩がこんな綺麗になって少しドキドキしてたんだが………どうやらオレの一人相撲だったみだいだなァ。」

「ふふ、また心にもない事を。先輩の方こそ………信じられないくらいきちんとした格好をなさっていますね。いつもヨレヨレの制服をだらしなく着ていた先輩が………」

レクターの答えを聞いたクローゼは苦笑した後、レクターを見つめて言った。

「バカモノ、あれはファッションだ。あの適度にルーズでファジーな着こなしは厳密な計算による演出でだな………」

「………今となってはその言葉も真実に思えます。学園生活を思うがまま謳歌し、あちこち楽しくかき回しながらも先輩は賢者のように理知的でした。その理由の一端が今日………ようやく垣間見えた気がします。」

「………………」

クローゼの話を聞いたレクターは何も語らず、真剣な表情で見つめていた。

「改めてお聞きしますが………先輩、どうしてオズボーン宰相の元へ?学園を退学してから……一体、何があったのですか?



クローゼがレクターに問いかけたその頃、オリビエは宰相の言葉に真剣な表情で答え始めた。

~グランセル城・客室~



「………期待している、か。はは………それま全く予想外の言葉だな。私はてっきり、貴方がわざわざ釘を刺しに来たと思ったのだが。」

「まさか………どうしてそのような事を?私と殿下はそもそも同じ立場にあるというのに。」

「なに………」

自分の言葉を聞いて心外そうな表情をした後、口元に笑みを浮かべて語った宰相の言葉を聞いたオリビエは驚いた。

「……殿下。あなたはエレボニアという旧い帝国を憎んでいるはずだ。数多の貴族によって支配され、愚にも付かない因習としがらみにがんじがらめになった旧い体制を。そうではありませんか?」

「……………………………」

宰相に問いかけられたオリビエは何も答えず、目を細めて宰相を見つめていた。

「”鉄血宰相”などと大仰に呼ばれているようですが………帝国における私の立場はまだまだ決定的ではありません。帝都での支持者は多いとはいえ、いまだ諸侯の影響が強い地方での支持までは集めきれていない。帝国軍への影響力は認めますがそれでも7割程度………残りは諸侯の支配下にあり、それに彼らの私設軍が加わったら立場は完全に逆転するでしょう。フフ……その点を考えれば、殿下は私より上でしょう。なんせ”大陸最強”と名高いメンフィル兵達を私兵として従えている”ファラ・サウリン”卿達と親しく、さらには次期女帝であられるリフィア殿下や”覇王”――リウイ陛下達とも親しいのですから。」

「………先ほどカシウス准将が仰ったようにファラ・サウリン卿とルーハンス卿が軍を動かすのは民の為。そこをはき違えないでもらおう。それにリフィア殿下達とも親しいと言ったが、殿下達にとって私はせいぜい”友人の知り合い”といった所だろう。」

「これは失礼……………話を戻しますが私もいまだ帝国における主導権を巡って戦いの最中にあるのですよ。」

「だからこそ鉄道網を全土に敷き、帝国全土に風穴を開け………領土を拡張することで新たなる発言権を得るか………」

宰相の言葉を聞いたオリビエは静かな表情で語った。

「フフ、やはり貴方は私の一番の理解者のようだ。改めて――私に協力なさい、殿下。貴方が協力してくれれば私の改革も勢いづくでしょう。腐敗した貴族勢力も互いに結託する暇もないまま崩壊へと導かれる………―――それは貴方がもっとも望んでいる事のはずだ。」

「………………宰相。一つだけ聞かせてもらおう。”結社”とはどのような関係だ?」

宰相の誘いにオリビエは答えず、真剣な表情で尋ねた。



「フフ、何を仰っているのかいささかわかりかねますが………ただ、改革のためならば利用できる要素は全て利用する………それが私の政治理念ですよ。」

「……なるほど。確かに我々は気が合いそうだ。しかしだからこそ………その申し出は断らせてもらおう。」

「ほう………?」

オリビエの答えを聞いた宰相は驚いた表情でオリビエを見つめた。

「確かに私は、腐敗した貴族勢力をあまり好きにはなれない………いや、貴方の言う通り憎んでいると言ってもいいだろう。だが……それ以上に貴方のやり方が恐いのだよ。かの”覇王”より……ね。」

「……………………………」

「貴方のやり方はおそらく、ある種の幻想を作り上げることで国家全体を熱狂に巻き込むことだ。……それこそ常に戦場の前線に立ち、兵達を熱狂へと導く”覇王”のように。……その熱狂の中において確かに旧勢力は打倒されるだろう。だが………一度回り始めた歯車がもはや止まることはありえない。全てを巻き込みながら………際限なく成長を続けていくだろう。”覇王”はそれがわかっていて、”百日戦役”後は静かに世界を見守りながらも、世界をゆっくりと成長へと導いているのだろう。………宰相。貴方は覇王と違い、それがわかっていないように見える……本当にわかっているのか?」

「ハハ、もちろんですとも。―――まさにそれこそが私の改革の第一段階なのですから。」

オリビエに問いかけられた宰相は豪快に笑った後、不敵な笑みを浮かべて答えた。

「…………っ………」

「その先は殿下………貴方が私に協力する気になったらお教えするといたしましょう。まずは納得のゆくまでご自分の足場を固めるがよろしい。………もっともそのためには貴方が嫌っている貴族勢力すらも手懐ける必要があるでしょうがね。」

「フッ………何もかもお見通しという事か。」

宰相の言葉を聞いたオリビエが口元に笑みを浮かべたその時、正午を表す鐘の音が聞こえてきた。

「正午の鐘………そろそろ船が到着しますか。」

そして宰相はソファーから立ち上がってオリビエを見つめ

「―――それでは殿下。私めはこれで失礼いたします。二週間後………また帝都でお会いしましょう。」

別れの言葉を告げた後、部屋を退出した。



「……………………」

宰相が退出する様子をオリビエは黙って見つめていた。そしてそこにミュラーが入出してきて、オリビエに近づいて話しかけた。

「話しは終わったようだな。……どうした?随分と疲れた顔をして。」

「いや、なに………改めて―――自分が喧嘩を売った相手の怪物ぶりを思い知らされただけさ。」

ミュラーの疑問に対しオリビエは疲れた表情で答えた後、苦笑した。



~同時刻・空中庭園~



「おっと………そろそろ船が来る頃合いか。それじゃオレはこれで失礼させてもらうぜ。」

一方その頃、クローゼの問いにレクターがは答えず、鐘の音を聞いて答えた。

「えっ………」

「じゃあな、ジーク。今度は帝国産のサラミでもお土産に持って来てやるよ。」

「ピュイ♪」

「ま、待ってください!また………何も明かさずに居なくなってしまうんですか!?」

自分の答えに返さず呑気にジークに別れを告げているレクターにクローゼは不安そうな表情で尋ねたその時

「そうだ、クローゼ。お前、ひょっとして好きな男が出来たんじゃないか?」

「えっ………」

レクターはいきなり話を変えて来て、クローゼは驚いた。

「おっと、図星だったか。いや~、いいねぇ。初恋っていうのは。胸キュンドキドキ、甘酸っぱいって感じだろ?」

「も、もう………ふざけないでください!……………」

からかう表情のレクターにクローゼは怒った後、顔を赤らめて考え込み、やがて口を開いた。

「………ええ。好きな男の子が出来ました。この前、ちょうどこの場所でフラれてしまいましたけど。」

「って、マジかよ!?さすがにそんな偶然はオレも予想してなかったぜ!?」

クローゼの答えを聞いたレクターは驚いた表情で答えた。

「ふふ、怪しいですね。先輩は本当に……何でもお見通しなんですから。」

「ま、このオレ様も万能じゃないってことさ。だからこそ世の中は面白い。」

そしてレクターはクローゼに近づいて、クローゼの頭を優しく撫でた。



「あ………」

「………よかったな、クローゼ。恋の痛みを知ってこそ女は一人前ってもんだ。また一歩、なりたい自分に近づけたんじゃないのか?」

「……先輩……………………………先輩の方は……どうですか?なりたい自分に……近づこうとしていますか?あの宰相殿の元にいることで……」

「………………別にオレはなりたい自分なんて無いからな。ただ面白そうって理由だけであのオッサンに付いてるだけさ。王立学園に入る前からな。」

「えっ…………」

自分の言葉を聞いて驚いているクローゼをレクターは横切って、クローゼに背を向けたまま語り始めた。

「……皇子も結構やるけどあの化物みたいなオヤジにはまだまだ及ばないね。ま、せいぜい気を付けるように言っときな。踊り疲れた所を、怪物に呑み込まれないようにってな。……それと”覇王”達の手を離すんじゃねえぞ。少なくとも奴等を味方にしている限り、リベールはあのオッサンに対抗……いや、逆にあのオッサンを呑み込む事だって可能だろうしな。」

そしてレクターはその場を手を振りながら去った。

「……レクター先輩………」

レクターが去る様子をクローゼは不安げな表情で見つめていた。



~1時間後・グランセル国際空港~



その後、宰相はレクターを伴って、アルセイユの傍にいるオリビエ達に会釈をした後、定期船に乗り込んだ。そして定期船は飛び立った。

「あ、あれが”鉄血宰相”、ギリアス・オズボーン殿ですか………」

「専用艇くらい持ってるでしょうにわざわざ民間の船を使うなんて………噂には聞いていたけど相当、とんでもない相手みたいね。」

その様子を見ていたユリアは驚いた表情で呟き、シェラザードは呆れた後真剣な表情で呟いた。

「フフ……なかなかスリルがある相手だよ。それよりもシェラ君。わざわざ見送り、済まなかったね。」

シェラザードの言葉を聞いたオリビエは口もとに笑みを浮かべた後、シェラザードを見た。

「ふふ、ちょうど仕事で王都に用事があったついでよ。……その様子じゃ当分、会えなくなりそうな雰囲気だしね。」

「フッ、ボクの夢はあくまシェラ君みたいな美女と一緒に気ままな日々を送る事なんだがねぇ。」

「はいはい。ま、早くそんな身分になれるようせいぜい頑張りなさいな。そういえば、あの宰相の側にいた若いのは何者なの?妙に隙のない足運びだったけど……」

オリビエの言葉を聞いて呆れた表情で答えたシェラザードは気を取り直して、真剣な表情で尋ねた。

「ほう……わかるか、シェラザード。」

シェラザードの言葉を聞いたカシウスは感心した様子でシェラザードを見た。

「ええ、それはもう。ここしばらく格上の相手ばかりとやり合っていましたから。……それに時間のある時にカーリアン様達やあの”剣帝”に相手をしてもらっていますから。」

「フッ。戦うごとに成長していくお前を見て、鍛えがいがあると奴等も喜んでいたぞ。」

「フフ、それは光栄ですね。」

リウイの言葉を聞いたシェラザードは苦笑しながら言った。そしてシェラザードの疑問にオリビエは静かな表情で答えた。

「……レクター・アランドール。帝国政府から出向していた書記官さ。どうやら今回の宰相の訪問は全て彼が段取りを行ったようだね。何者かは知らないが………相当、優秀な参謀役なのだろう。」

「……オリヴァルト殿下。実はわたくし………あの方のことを知っているのです。」

「え………!?」

「あら………」

「それは……本当かい?」

クローゼの言葉を聞いたユリアとシェラザードは驚き、オリビエは驚いた表情で尋ねた。

「はい…………」

そしてクローゼはレクターが王立学園の前生徒会長を務めていたクローゼの先輩であったこと………そして一昨年の学園祭の後、退学届けを出して学園を去ったことを説明した。



「………なんと………」

「も、もしやそれは………」

クローゼの話を聞いたミュラーとユリアは驚き、オリビエが真剣な表情で答えた。

「………”鉄血宰相”に連なる者がボクよりも前にリベールを訪れていた。つまりそれは、宰相独自の情報網が既にリベールに構築されていた可能性を示唆している………」

「ふむ………その可能性は高そうですな。情報部のクーデターから今回の”輝く環”の異変まで………その一部始終を把握されていてもおかしくはないでしょう。」

「……もしかすれば俺達の事を調べていた可能性もありそうだな………」

オリビエの話を聞いたカシウスとリウイは真剣な表情で頷いた。

「……………………」

「本当、とんでもないわね………」

オリビエは何も語らず考え込み、シェラザードは疲れた表情で溜息を吐いた。

「………先ほど、先輩から殿下への伝言を承りました。『踊り疲れた所を、怪物に呑み込まれないように気を付けろ』そして私には『”覇王”達の手を離すな。少なくとも彼らが味方である限り、リベールはあの怪物に対抗……いえ、逆に呑み込む事も可能だ』と。」

「……そこまで実力差があるとわかっていて、なおも俺達に食い下がろうとする………一体、何を考えている………?」

「…………っ…………」

「やれやれ……痛い所を突いて来るね。フフ、何だか別の快感に目覚めてしまいそうだよ。」

クローゼのレクターからの伝言を聞いたリウイは真剣な表情で呟き、ミュラーは小さく呻き、オリビエは溜息を吐いた後、酔いしれた表情になったが

「だが………やられっぱなしは正直、あまり趣味じゃないかな。」

静かに目を伏せて口元に笑みを浮かべて呟いた。

「え………」

オリビエの言葉を聞いたクローゼは驚いた。そしてオリビエはユリアとリウイを見てある事を言った。

「―――ユリア大尉、リウイ陛下。出航したら一つ、お願いがあるんだが………」



~半刻後・リベール領空~



「オリヴァルト皇子………フフ、悪くない仕上がりだ。どのように動いてくれてもそれはそれで使いようがある。」

定期船に乗った宰相は甲板でレクターを伴って、不敵な笑みを浮かべていた。

「………アンタにとっては全ての要素は”駒”だからな。あの皇子も、このオレもそして”身喰らう蛇”とやらも。例外はあの”魔王”ぐらいか。」

「そう、そして私自身もだ。帝国という巨大な盤上を舞台にした魂が震えるような激動の遊戯………そしてそれをかき乱す異世界の来訪者達…………お前も、それを見たいがために私に付いて来ているのだろう?」

「ま、否定はしないけどな。……でもこの駒は、いつ裏切るかわからないぜ?」

宰相に問いかけられたレクターは頷いた後、不敵な笑みを浮かべた。

「それならそれで構わんよ。私がその可能性を考えていないとでも思ったか?」

「フン、言ってみただけさ。ところで………他の『子供たち』はどうよ?」

「フフ、どの子も順調のようだ。この分では、皇子の頑張りも無駄に終わる可能性もあるだろう。やれやれ……少し手を抜いてあげるとしようか。」

「ケッ………悪趣味なオヤジだな。………!………なあ宰相閣下。あんまり侮らない方がいいかもしれないぜ……?」

不敵な笑みを浮かべている宰相の言葉を聞いたレクターは舌打ちをした後、ある事に気付いてその方向に振り向いて呟いた。

「なに………」

レクターの言葉を聞いた宰相は驚いた後、レクターが見つめている方向に身体を向けて見た。すると甲板にミュラーを伴っているオリビエを乗せた”アルセイユ”とその真横を飛んでいる”モルテニア”が宰相達が乗っている定期船に並んだ!



「なっ………!?」

それを見た宰相は驚いた!

「ふっ………」

そしてオリビエはバラの花束を出して、宰相達の頭上に投げ、そしてそれを銃で撃った!するとバラの花束は花びらとなって、宰相達の周りを舞った!

「………これは………」

「バラの花…………みたいだな。」

自分達の周りに舞い散る薔薇の花びらに宰相とレクターは呆けた。さらにモルテニアの砲口の1ヵ所から一つの砲弾が宰相達の真上に放たれた!

「フフ…………」

その砲弾をオリビエがSクラフト――エーテルバレットを放って、砲弾に命中させた!すると砲弾は爆発し、大きな花火が宰相達の頭上で炸裂した!その時、定期船からアナウンスが入った。



―――皆様、右舷に現れましたのはご存じリベール王家の高速巡洋艦、”アルセイユ”。そしてその隣はメンフィル王家の大型高速飛行艦、”モルテニア”でございます。本日、エレボニア帝国のオリヴァルト皇子殿下を乗せし、”モルテニア”内にいらっしゃるリウイ陛下と共にこれより帝都へ向かうそうですが………その皇子殿下から乗客の皆様に向けてメッセージを賜っております。『今日、この日に出会えた幸運を女神達に感謝する。あなた方の旅に美しきバラと花火、女神達の祝福を。そしてくれぐれも気を付けて故郷にお戻りになって欲しい。』――以上です。――



そしてオリビエは髪をかき上げた!するとアルセイユとモルテニアは定期船から離れて行った。

「………………………」

「アホだ……オレよりもアホがいる…………」

その様子を宰相は黙って見つめ、レクターは呆けた表情で呟いた。

「………ククク………ハハハハハハハッ!」

一方黙り込んでいた宰相は口元に笑みを浮かべた後、大声で笑い

「いいだろう、放蕩皇子!この”鉄血宰相”にどこまで喰い下がれるか………せいぜいお手並みを拝見させてもらうとしようぞ!……そして”覇王”!貴殿の挑発………この”鉄血宰相”、喜んで受けて立とうぞ!」



好戦的な笑みを浮かべて、アルセイユとモルテニアが去った方向を見つめていた………









 
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