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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)

作者:sorano
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第2話

11月30日――――



~翌朝・温泉郷ユミル・シュバルツァー男爵邸・リィンの私室~



「…………ぅ………………ここ、は…………」

「……すう、すう……」

翌朝目覚めてベッドから起き上がったリィンは声が聞こえた方向に視線を向けると机の上に乗ったセリーヌが眠っていた。



「セリーヌか……それに、やっぱりこの部屋……ベッドから立ち上がったリィンは窓を開けて自分にとって見慣れた雪景色を見つめた。

(”温泉郷ユミル”―――……また、帰ってきたんだな……少しぼんやりしているけど、じゃあ、峡谷でのことは……)

「ふみゃあ~あ……なによ、寒いわね~…………って、アンタ。目を覚ましたんだ。」

寒さで目覚めたセリーヌは既に目覚めているリィンに気付いた。



「ああ、ついさっきな。そちらも無事だったか。」

「フン、まあね。ついつい2度寝しちゃったけど。」

「あ……」

リィンがセリーヌと会話しているといつの間にかエリスが部屋に入って来ていた。



「エリス……!……その、おはよう。って、そろそろ昼になりそうだけど。」

「……っ……!」

リィンの姿を見たエリスは息を呑んだ後リィンに駆け寄ってリィンの胸に寄り添った。

「あ……」

「兄様―――目が覚めたんですね……!本当によかった……!帝都があんなことになって……兄様の行方がわからなくなって……わ、私……私……っ!」

「エリス……すまない。心配をかけてしまったな。」

「ぐすっ……いいえ、いいえ!私……信じていましたから。兄様がきっと無事でいるって。……おかえりなさい、兄様。」

「ああ、ただいま。……本当にありがとうな。」

「クスクス……朝からお熱いですわね♪」

「フフッ、わたくし、ちょっと羨ましいですわ。」

リィンとエリスが見つめ合っていると娘達の声が聞こえ、声が聞こえて来た場所にはアルフィン皇女とトヴァル、セレーネがいた。



「ひ、姫様……セレーネ……」

「おはようございます。リィンさん、エリスも。」

「よっ、お邪魔させてもらってるぜ。」

「アルフィン殿下、トヴァルさんにセレーネも。……やっぱり、夢なんかじゃないんですね。」

「もう、お兄様ったら……」

リィンの言葉にセレーネは苦笑しながらアルフィン皇女達と共にリィンに近づいた。



「ふふっ、もちろん現実ですわ。抱きしめたエリスの感触が何よりの証拠じゃありませんか?何でしたらわたくしも抱きしめてわたくしの感触も確かめますか?リィンさんでしたら、いつでも構いませんわよ♪」

「まあ………フフッ、大胆ですわね。」

「も、もう……姫様!」

「はは…………」

ウインクをした後からかいの表情で二人を見つめるアルフィン皇女の発言にセレーネは目を丸くし、エリスは頬を膨らませ、リィンは苦笑した。



「ま、目を覚まして何よりだ。どうだ、体の調子は。どこか痛むところはないか?お前さん、あれから一晩眠りっぱなしだったんだぜ。」

「ええ……とりあえず大事はないみたいです。トヴァルさん、助けていただいてありがとうございました。」

「あの(アーツ)はなかなかいいタイミングだったわね。一応、お礼を言っとくわ。」

「ハハ、どういたしまして。とにかくお嬢さんがたを泣かせずに済んでなによりさ。」

「トヴァルさん………」

「―――目を覚ましたか。」

声に気付いたその場にいる全員が振り返るとそこにはリィンとエリスの両親であるシュバルツァー男爵とルシア夫人がいた。



「父さん、母さんも……!」

「ふふ……お帰りなさい、リィン。2ヶ月ぶりですか……よく戻ってきましたね。」

「色々と聞きたい事もあるだろうがまずは軽く食事をとるといいだろう。”これから”の話は、その後だ。」

その後普段着に着替えて遅めの朝食を終えたリィンはエリス達と共にシュバルツァー男爵から状況を聞き始めた。



~広間~



「――かの”貴族連合”によって、帝都が占領されたのが1ヵ月前……今では、帝国全土の主要都市が同じように占領された状況にある。各地に配備されていた帝国正規軍も一部を除いて悉く退けられたそうだ。」

「やはり……そうでしたか。エリス、皇女殿下も。本当によくご無事でしたね。」

シュバルツァー男爵から状況を聞いて頷いたリィンは安堵の表情でエリスとアルフィン皇女を順番に見回した。



「わたくしたちも、帝都の女学院で混乱の最中にあったのですが………そんな中、トヴァルさんに連れ出してもらったんです。」

「トヴァルさんが?」

「緊急の連絡があって、急いで向かったのさ。皇女殿下とシュバルツァー家の次女を安全な場所まで護衛する―――オリヴァルト皇子からのじきじきの依頼だったからな。」

「オリヴァルト殿下の……そうだったんですか。」

トヴァルから事情を聞いたリィンは意外な人物が関わっていた事に目を丸くした。



「貴族連合の捜索をかわして帝都の外まで連れ出して頂いて―――それから10日かけて、ようやくユミルに到着したんです。」

「本当に……よく無事に辿り着いてくれました。」

「話によれば……ユーゲント皇帝陛下やセドリック皇太子は貴族連合の手に落ちたそうだ。あくまで”保護”という名目で、無事ではいらっしゃるようだが……オリヴァルト皇子についてはその後、行方がわからないらしい。」

「そんな……殿下が。……こんな状況だけに心配ですね。」

「ええ………(もしかしてあの時に来たカレイジャスに乗船していられたのかしら?)」

シュバルツァー男爵の話を聞いて重々しい様子を纏ったリィンの言葉にセレーネは静かに頷いて1ヵ月前の出来事を思い出した。



「お兄様なら……きっと大丈夫だと思います。ふふ、何といってもかの”リベールの異変”も乗り越えていらっしゃいますから。……セドリックやお父様、お母様もきっと……」

「姫様……」

「……それとな、リィン。多分、お前さんが一番気がかりなこと―――トリスタ方面の情報もある程度仕入れている。」

「教えてください……!あの後、士官学院は……みんなはどうなったんですか!?セレーネからアリサ達は脱出した事は聞いていましたが……!」

トヴァルからある言葉が出るとリィンは血相を変えて立ち上がった。



「お前さんもある程度は予想しているかもしれないが。トリスタ―――及び”トールズ士官学院”は貴族連合軍に完全に占領された。内戦が始まって間もない、ほぼ1ヵ月前のことだ。」

「…………ぁ…………」

「兄様………」

「…………」

トヴァルの話を聞いて肩を落として崩れるように椅子に座り直したリィンをエリスは心配し、セレーネは辛そうな表情で黙り込んでいた。



「やっぱり……そうだったんですね……じゃあ、学院のみんなは……?」

「……個々の安否については詳しくはわかってない。噂じゃ、占領の直前まで激しく抵抗していたそうだが……」

「……………………」

「気をしっかり持ちなさい。まだ、”そう”と決まったわけではないだろう。」

「ああ、閣下の言う通りだ。それに……未確認だが少し耳寄りな情報もある。」

「え……?」

シュバルツァー男爵の言葉に続いたトヴァルの言葉が気になったリィンは顔を上げてトヴァルを見つめた。



「実は……結構な数の学院関係者が行方不明になっているらしくてな。今も、貴族連合の連中がその足取りを追っているらしい。」

「それって……」

「アリサ達だけでなく、教官達や学院のみんなもトリスタから落ち延びたという事ですか……!?」

「確かな事は言えないがな。……っと、そうだ。とっておきの情報があったのを忘れていたぜ。――――ケルディックにある遊撃士協会支部からの情報なんだがレーグニッツ知事の息子、”西風の妖精(シルフィード)”、後はクレイグ中将の息子がケルディック地方を拠点に現在の状況を打開する為に色々と動き回っているそうだ。」

「まあ……!マキアスさんにエリオットさん、フィーさんが……!」

「マキアス達は今、ケルディックのどこにいるんですか!?」

トヴァルの情報を聞いたセレーネは明るい表情をし、リィンは血相を変えてトヴァルを見つめた。



「悪いがそこまではわかってない。まあ、ケルディックはメンフィル領だから、少なくとも現時点では安全な地帯だから安心してもいいと思うぜ。貴族連合がメンフィル帝国領にまで(いくさ)を仕掛けた話は聞いていないし、幾ら何でも国内が安定していない状態で他国―――それも”百日戦役”で大敗した相手であるメンフィル帝国に戦争を吹っ掛けるような馬鹿な真似は貴族連合もしないだろう。それにサラ達やお前さんの仲間達だって、そう簡単にくたばるような奴等じゃないだろう?」

「あ…………」

「――ま、言えてるかもね。」

「セリーヌさん……?」

セリーヌの言葉が気になったアルフィン皇女は首を傾げてセリーヌに視線を向けた。



「詳しい場所まではわからないけど……少なくとも、エマが無事であるのは確かよ。」

「わかるのか……!?」

「魔王達と契約してるアンタならわかると思うけどあの子と”使い魔”であるアタシは繋がってるわ。だからあの子に何かあったらアタシにも絶対に伝わるわ。あくまで”生きてる”ってのがわかるだけなんだけど。」

「ふ、不思議な話ですけど……」

「まあ、最悪の結果ばかり考えても仕方ないだろう。―――今は信じてみちゃどうだ?お前さんが無事だったように仲間もきっと今でも無事だってことを。」

「トヴァルさん……………………」

トヴァルの指摘を聞いたリィンは目を伏せて考え込んでいた。



「……いずれにせよ、本調子ではないのだろう。しばらくの間は、郷で養生に専念するといい。」

「折角ですから、郷のみんなに顔を見せてきたらどうですか?みんな、貴方の事をずっと心配していたのですよ。」

「……そうですね。皆さん、喜ぶと思います。その、何でしたら私も付き添わせていただきますし。」

「勿論わたくしも付き添いますわ、お兄様。」

「……ありがとうエリス、セレーネ。俺なら大丈夫だ。父さん、母さん……お言葉に甘えさせてもらいます。」

その後リィンは散歩をしながら故郷に住む人々への挨拶回りをする事にした。 
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