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異世界にて、地球兵器で戦えり

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第二十話 もう一つの帝国の姿

アカツキ帝国が用意したジャンボ機に搭乗したピニャ達ファルマート大陸組は驚きが隠せなかった。彼らからすればこんな巨大な鉄の塊が空を飛んでおり、しかも炎龍が来てもフル加速で逃げ切れる自信があると聞かされた時は、本当に度肝を抜かれた様子であった。ジャンボ機のファーストクラスで用意された機内食やデザートに加えて、ファルマート大陸出身者が飽きないように本も用意させた。一応、ファーストクラスであるため席一つ一つにテレビもついており、映画の鑑賞も可能であるが、アビス大陸とファルマート大陸は言葉が似ているため、アビス大陸の大陸語を話せば通じるのだが、ファルマート大陸出身者からすると方言を言っているように聞こえてしまう為に、そのため映画を見せてもいまいち面白みがないと判断して、そこで本を進めたのだ。

騎士団と同時に貴族や皇族でもあるピニャ達は文字を理解できる為に、ファルマート大陸で有名な本を渡されて満足そうであった。実際に初めは飛行機や機内食のサービスに驚いていたが、数時間もすれば次第に慣れてしまって暇になっていたのだ。テレビの映画も島田に教えてもらってみていて初めは物珍しさゆえに興奮したが、アビス大陸の大陸語の吹き替え版は、ピニャでも理解は出来たが、アビス大陸の言葉はピニャ達からすると方言に聞こえてしまい、面白みに欠けてしまう部分があったからだ。

これに読書好きのレレイも満足しており、ロウリィとテュカも暇を潰す意味で満足していた。日本側は、アカツキ帝国の言葉を理解できている為に、映画やアニメの鑑賞を楽しんでいた。

「凄いものだ。このように空を飛び、しかも食事や娯楽まで提供できる環境があるとはな」

「確かに大勢を乗せて飛ばせるけど欠点もある。こういったデカイ飛行機を飛ばすにも、ちゃんとした専用の道路環境をつくる事が前提でからな」

「それは理解できている。帝国でも同じような試みはあったと聞いたが、結局は失敗に終わったと聞いている。それを実用段階まで持ってきたアカツキ帝国の国家としての強大差を改めて実感してしまう」

アナは、ジャンボ機についてそう呟く。実際に帝国でも、飛行機とは違うが空から人を安全に運ぶ試みはあったようだが、人でも調教が可能な翼龍を何頭か用意して船を空から運ぶ手段は、翼龍に通常で飛ぶよりも負担がかかり、何より生き物であるため、いくら複数で運んでも人を何十人も安全に飛ばすにも無理があり、空には野生の翼龍が飛んでいる為に、その護衛となるドラゴンライダーも必要であるため、訓練費用と安全面を考えて割が合わないと判断されて白紙となったプランであった。

こうしてお互いに読書したり映画やアニメを見ながらアカツキ帝国到着まで時間を潰していく。それからしばらくしてアカツキ帝国の首都大和より比較的近い空港である伊予空港に到着した。

飛行機から降りて、空港ロビーに足を踏み入れると、そこには黒いコートを来た男性達がいた。

「自分は護衛役の黒田と申します。飛行機の長旅ご苦労様です」

黒田と名乗る中年の男性。人が良さそうに見える中年男性だが、何処か独特のきな臭い雰囲気を纏っており、油断もスキも出来ないと判断してしまう印象を与えている。

黒田を名乗る中年男性を見て島田は嫌な表情を崩そうともしなかった。

「何で黒田のおやっさんがいるんだよ」

「久しぶりの再会だってのに相変わらず変わらないな島田」

「ええ、本当に久しぶりですね」

露骨に嫌がる表情を崩そうともしない島田に、伊丹はこの人物が厄介だと理解してしまった。島田が本当に隠そうともしないで嫌な表情をするときは、本当に島田が心底嫌がっている事だと伊丹は第三偵察隊と一緒に行動して理解しているからだ。

「アナタが伊丹耀司二等陸尉ですね。噂は聞いていますよ」

「自分をですか?」

「ええ、少数で炎龍に挑んだ第三偵察隊隊長。貴方の武勇は軍でも有名ですよ」

それを聞いて伊丹は苦笑いしている。同行している栗林も富田も苦笑いだ。特に栗林は、基本的に伊丹を見下してはいないが、伊丹のオタク趣味にかんしては受け入れられずに普通に「キモオタ死ね」と思っている為に、伊丹自身の性格もあって伊丹に勇者みたいな偉大であるなど思ってもいないからだ。

そんな風に世間話を少し続けた後に国防省が用意したバスで、首都大和にある帝国ホテルに連れていく。これに対して疑問に思ったピニャが黒田に対して質問した。

「このまま元老院に行かないのか?」

「ええ、前田閣下は到着が夕方であると聞いて会談は明日にと判断しました。飛行機の長旅もありますので今日はゆっくりとお休みください。」

黒田にそう言われて納得したようにうなずく。そしてバスから見る景色にピニャは驚きが隠せなかった。

(このような強大な建物を建てる国家と戦争を始めてしまったのか、帝国は……)

バスから見るアカツキ帝国の首都大和のビル群に驚いていたのだ。そして他にもファルマート大陸組も同じようにバスの窓から見る大和の景色に驚きが隠せていなかった。

しばらくして帝国ホテルに到着して面々は、荷物等を従業員が預かり、各々の部屋に案内された。帝国ホテルは部屋は、和室と洋室の二つに分かれており、ファルマート大陸出身者のピニャ達は西洋風の文化で育った事を理解しており、政府は高ランクの洋室を用意させた。

島田や伊丹達は護衛役でもあった為に、用意された部屋はピニャやロウリィに劣るが高級ホテルである事には変わりない為に、伊丹達は「俺達もVIP待遇」と驚いた程であった。

「あ~このまま年末までいたいよ~」

「そんな無責任な……」

ここは島田と伊丹に割り当てられた部屋である。晩食の時間で食事が終わると伊丹はベットで仰向けで寝転んでそんな事を呟いていた。しかもベットにはちゃっかりと帝国ホテル・大和店にある図書室から借り出された漫画で埋まっていた。

帝国ホテルでは、漫画も含めて様々なジャンルの本が無料で借りる事が可能である。その種類は下手な本屋より豊富であり、そのため伊丹の趣味に合う漫画が沢山あった為に、現在は漫画を読みながら「休みたい」「仕事したくない」など本心を呟きながら漫画を読んでいた。


「日本と同じような漫画がアカツキ帝国にあってマジで感動ですよ」

「それを言ったら俺もだ。漫画文化祭と同じようなイベントが日本にもある事が驚きだ」

「ここまで似ていると本当に同じ民族って感じですね」

「全くだ」

お互いの文化に類似点が多い事に同意するように呟いて頷く二人であった。ちなみに漫画文化祭とは、日本でいうコミケに位置するイベントの事である。毎年夏と冬に二回ほど開催されており、特に無名なクリエイターたちの登竜門とされており、このイベントで有名となったクリエイターは、漫画家やアニメーターといった分野で有名となるとされる程であり、毎年星の数ほどの同人作家が応募に来るのだ。イベントのクリエイターに選ばれる事だけでも名誉されている。

「日本の漫画で嵌ったのは俺はめい☆コンだな」

「お、島田大尉もめい☆コンの良さが分かりますか!」

「おうよ。あの斬新な魔法少女の設定はたまらん。俺の嫁は主人公の桜木めいの妹のはづきだ!」

「俺はエミュです。あのクール系で実はタコが苦手というギャップが!」

「それを言ったら俺のはづきは……」

二人のオタクトークは続く。特に島田は本当の嫁がいるだろうと、ツッコミが満載であったが島田は気にしない。二次元と三次元は別物であると理解しているため、このような会話が続くのであった。

ーーー。

深夜二時くらいになると伊丹は既に爆睡していた。だが島田はまだ起きており、そして静かに部屋から出て行き、帝国ホテルを出ると黒田がいた。

「黒田さん。俺に何のようですか?しかも、こんな時間に俺を呼び出して」

「ここだと目立つ。近くの公園まで来い」

そう言われて島田は黒田についていく。そこは深夜の時間帯でもあり、人の気配などない静かな自然公園であった。そんな自然公園に設置されているベンチに座り、島田と黒田は話す。

「帝国と日本による首脳会議。今回の会議が決まれば帝国は、表向きだが日本とアカツキ帝国の友好国というポーズを取る」

「内心では認めてないと?」

「当たり前だろ。保護した和議派の貴族達も、日本とアカツキ帝国の武力は知っているが、内心では何を考えているのか分かったもんじゃない。実際に帝国はファルマート大陸全土を支配するだけの影響力があったのは事実だ。そんな大国のプライドを持った人間がいきなり敵国の人間に対して内心で認めると思うか?」

「現実が分かる貴族ならともかく、国粋主義者や主戦派は認めないと?」

「情報省は、そう予想している。帝国との戦争が終われば日本とアカツキ帝国で捕らえた帝国の捕虜は引き渡す事になっている。こっちは少数の捕虜だけだが、日本は大勢の捕虜を捕らえている。特に貴族出身者は多いらしい。それだけに、戦争が終わっても現政権に不満があって第二のクーデターが起きる可能性がある」

黒田から説明を受けて島田はいまだに疑問が残る。どうしてただの一介の大尉に過ぎない俺にこんな情報を教えるのかと……。

そんな島田の考えた事に対して黒田はニヤリとした表情で答える。

「特殊作戦群第三課に所属していたお前が、ただの大尉な訳あるか」

「好きで入ったわけじゃありませんよ」

特殊作戦群第三課は対テロ部隊である。表向きはテロリズムを最小限の被害で抑えるように設立された課であると世間には知られているが、裏では非公式にテロリストの重鎮や敵国の貴族や王族を拉致して、時には暗殺もする程であり、そのため特殊作戦群の中でも特に選りすぐりの精鋭が揃う事で有名であった。

黒田は特殊作戦群参三課に所属する大佐である。島田は今でこそ特殊作戦群の所属ではないが、黒田は島田が特殊作戦群第三課に所属していた時の上官であり、あらゆる暗殺や拉致といった殺しや拷問の数々を教えこまれたのである。非公式ではあるが、そのような汚れ仕事に島田は参加もしている。

「お前は偶然にもピニャ殿下と知り合うきっかけを作った。そのためこれからも護衛目的で接触する機会は増える。終戦後は、ピニャ殿下に不満を持つ反対勢力に対する対処と、自衛隊の伊丹二等陸尉に対する警戒だ。」

「伊丹二尉に?」

何でそこで伊丹が関わるのか疑問を口にする島田。

「あの男は危険すぎるからだ」

「あいつは自他共に認める趣味を優先する怠け者ですよ。」

自衛隊との交流で伊丹に対する島田の評価であった。実際に伊丹自身かたも伊丹の上司だった自衛官からも、怠け者の評価を下しているからである。

「どうして伊丹二尉が危険か?第一陣の日本国の外交官との接触での対応で、あまりにもこっちの動きを知り尽くしているように動いていたからだ。実際に外務省の人間は、こんなに早くも対応する日本の外交官に不思議に思っていた。それで調べてみたら、日本の外交官と自衛隊から派遣された武官に絡んでいたのが、伊丹二等陸尉というわけだ。」

「まさか……」

「事実だ。今回のアカツキ帝国訪問に対しても本来なら伊丹二等陸尉は同行する事はなかったが、日本の外交官が、どうしてもと伊丹二尉の同行を希望した。未だに情報省でも少ない情報源で一介の軍人が、こちらの対応に対して満点に近い対応を知る事が出来た事に不明点が多いが、この事実を知った国防省と情報省の上層部は、伊丹二尉を第一危険人物と判断した。実際に怠け者である事は俺でもわかるが、恐ろしい程の先見性がある男だ。」

「どうして俺が呼び出されたのか理解しましたよ。伊丹二尉との接触が多い俺に、伊丹二尉の先見性の秘密を暴けって事ですか?」

「ああ、こっちも出来る限りの対策は練るが、本人と警戒なく接触して情報を得るにはお前が一番だ。これからも引き続きお前の部隊は、伊丹二尉が率いる第三偵察隊と行動してもらう。お前の重要性は増した。これからは伊丹二尉は上層部にとって無視できない存在だと理解しろ」

こうして島田はアカツキ帝国の軍上層部と情報省が伊丹を警戒している事を知った。ただし、これは伊丹レポートで転生者や未来人に対する対策書で伊丹が書いた対処法を的を得ていたなど彼は知らなかった。この転生者や未来人の部分は、政府高官が厳重に秘密にしているからだ。

何故って?それは簡単だ。こんなネット小説にありきたりな設定を本気で信じて対処しているなど、政府高官は恥ずかしくて知られたくもないからだ。そんな事実を知らないアカツキ帝国政府や軍上層部は、伊丹を一見怠け者を演じているが実際は、とてつもなく切れる刀のような軍人という印象を与えた。

もし伊丹がアカツキ帝国の軍上層部や情報省の評価を聞けば「いやいや。買いかぶり過ぎ」と、答えるだろう。

こうして伊丹は、自分が知らない所で勝手に危険な相手であるという称号を頂いたのであった。 
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