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我が子

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5部分:第五章


第五章

「それでなのよ」
「そうだったの」
「さあ、それじゃあ」
 有人が皿を出してきた。用意するのは彼の仕事らしい。
「今日は楽しくやろう。何なら泊まっていってもいいよ」
「有り難う、義兄さん」
「何か凄く悪いです」
「気にしないでいいのよ」
 良美もまた二人に言ってきた。
「そういうことはね。お互い様だから」
「そうは言っても。何か泊めてもらうのは俺達ばかりだし」
「何を言ってるんだ、妹夫婦じゃないか」
 有人は笑って二人に言う。丁度ここでテレビのアニメで大きな笑い声が起こった。今風の薄く画面が大きいワイド型のテレビである。
「堅苦しいことは言いっこなしだ。じゃあ皆で楽しくやろう」
「はい、どうぞ」
 ここで良美が白く丸い皿に入った白い食べ物を持って来た。それは。
「ペンネのグラタン・・・・・・じゃないわね」
「違いますよね」
「流石ね」
 二人の言葉を聞いてすぐにそれを認めてきた。
「違うわよ」
「これラザニア?」
「そう見えるんですけれど」
「一見しただけでわかるなんてね。見事なものね」
「そんなのすぐにわかるわよ」
「ペンネとかマカロニだったらどうしても外に出て来ますから」
 見ればその白いチーズの世界には突き出たものがない。二人はそこを見て言っているのである。
「それがないからね」
「だからわかりました」
「御名答。これはラザニアよ」
 良美は笑ってこう言うのだった。
「今回はちょっと趣向を変えてみたのよ」
「そうだったんですか」
「やっぱりラザニアですね」
「ラザニア好きだったわよね」
 二人に対して問う。
「確か」
「ええ、勿論」
「パスタはどれも好きです」
 二人はにこりと笑ってその問いに答えた。
「自分で作ることもあるしね」
「俺も」
「そうだったわね。じゃあ喜んで食べて」
 こうして食べることを薦める。まずは平和なスタートだった。
 京介は酒に刺身、それにラザニアを楽しんでいた。ふとここで良美が彼に声をかけてきた。
「それで京介君」
「はい」
 京介もすぐに彼女に応える。彼女の横には二人の子供達が並んで座っている。流石にこの二人は酒は飲んでいなかった。歩美と同じグレープフルーツジュースを飲んでいる。
「何ですか?」
「名前決まった?」
「名前って?」
「だから名前よ」
 それを京介に対して尋ねるのだった。
「もう決めたの、それ」
「んっ!?」
 その言葉を聞いた時に。京介の様子が一変した。
「そうだよ、それだよ」
 いきなり立ち上がっての言葉だった。
「それだよ、ずっと考えていたんだよ」
「考えていたって!?」
「そうだよ、それなんだよ」
 横で何だこいつはと言わんばかりの目で見てきている歩美に対して答える。
「俺ずっと考えていたんだよ、それをな」
「ああ、それだったのね」
 喧嘩の前に何を考えていたのか尋ねたのを覚えている。それがどうしてか今までわからなかったがそれがやっとわかった。わかってまずは納得した顔で頷くのだった。
「それで考えていたの」
「ああ、思い出したんだよ」
 京介は歩美に対して答える。
「それであれこれ悩んでいたんだよ」
「そういえばまだ名前決めていなかったわね」
 歩美もそれに気付く。
「何だかんだで」
「喧嘩ばかりしてるからそうなるのよ」
 ここで良美の剣呑な言葉が炸裂した。しかも二人に対して。
「全く。何をやってるのよ」
「まあまあ」
 叱る彼女を有人が宥める。
「そんなに言わなくてもいいじゃない。今はお祝いの場所だし」
「そうね。それじゃあ」
 あらためて二人に顔を向けて問うてきた。
「名前、何するつもりなの?」
「あっ、ああ」
「まずは座りなさい」
 立ったままの京介に対して言う。
「立ったまま食べるつもりじゃないわよね」
「そうでした。すいません」
「まずは座ってね」
「はい」
 こうしてまずは京介を座らせた。そのうえで話を再開させる。彼等はお互いに飲み食いをしながら話すのだった。まずは良美がもう一度尋ねてきた。
「それで。名前は決めたの?」
「それがねえ」
「まだなんです」
 二人で良美に対して答えた。
「男の子ばかりだからそういう名前にはなるんだけれど」
「かえってあれこれ考えているうちにわからなくなったんです」
「あれこれってどんな名前に?」
「まず考えたのが空海と最澄なんです」
「子供二人共お坊さんね」
 すぐに京介に言葉を返す。
「学校で笑われるから止めなさいよ」
「ちぇっ、如何にも頭がよくなる名前なのにな」
「ほか見なさい」
 歩美が駄目出しされて苦い顔になる京介にクールながらそこに誇らしげなものを見せた顔で言った。そのうえで彼女は言うのだった。
「私も考えたのよね」
「どんな名前なの?」
「乳遁と我露亜」
「数学者の名前かしら」
「いい名前でしょ」
「完全に大昔の暴走族ね」
 呆れ果てた顔で妹の案に対して述べる。
「頭が悪そうで泣けてくるわ」
「あれっ、いい名前じゃない」
「日本人の名前にしなさい」
 そういうことだった。
「そんなセンスのない名前。却下よ」
「何よ、頭がよくなる名前よ」
 口を尖らせて姉に抗議する。
「それでどうして駄目なのよ」
「見ろ、言った通りだろうが」
 咎める顔で歩美を見て言う京介だった。
「だからそんな馬鹿みてえな名前止めろって言ってるだろ」
「じゃあ星矢と麟童はどうなのよ」
「翼と岬は?」
「あんた達、本気っていうか正気なの?」
 今度は漫画の名前だった。良美はそれを聞いてさらに呆れた。
「そんな名前つけたら一生の恥よ」
「別に天使とか悪魔じゃないからいいじゃない」
「そうだよ。そういうのはしないですよ」
「似たようなものよ。それで京介君」
「はい」
 あらためて良美に対して応える。
「今回考えていた名前は?何なの?」
「婆阿巣と婆鬼威です」
「阪神の助っ人ね」
 名前だけでわかった。
 
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