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緋弾のアリア-諧調の担い手-

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after days
  第三話

 
前書き

ここは後で短編はさみます。 

 


時夜side
《自宅・外門》
AM:5時24分


「…それじゃあ、行ってくるね。お母さん?」


初夏前とは言え、朝靄が掛かった若干冷たさの残る気温の時間帯。
トレーニングウェアに身を包み、入念に準備運動をする。そうして、身体の不備を隅々まで確かめる。

…うん、不備はない。五体満足と言えるだろう。
そうして、背後へと振り返りそう告げた。

その背後に佇立するのは、自身にとってのもっとも身近な存在の一人。
時夜を見る、その顔色は未だに配そうな面持ちをしている。母親である倉橋時深の姿があった。


「…はい、ちゃんと気を付けて、無理はしないで下さいね」

「解ってるってば、心配症だなぁ」


“あの一件”以来、母の過保護には更なる拍車が掛かってしまった。正直言うと、少し煩わしい。
…まぁ、その事に関しては俺の心の弱さが原因であった為に、強くは言えないが。

……けれど、それだけ愛されているのだと実感する出来る。


『大丈夫ですよ時深、何かありましたら私が何とかしますので。時夜には絶対に指一本触れさせませんよ』


そう、俺の胸元に下げられた水晶が頼もしく女性の声を発する。
“機械水晶”イリス。俺がお父さんに貰った高性能な自我を持ったAIユニットだ。

基本的には俺の戦闘の補助が主な仕事だ。教育面や私生活でも活躍してくれているが。
今現在は、俺の存在マナと同期しての介護補助が仕事だ。

…まぁ、俺は病人ではないのだけど。周囲の人間は俺を未だに病人扱いする。

偶にイリスとは口煩くて喧嘩する事もあるけれど、それでも良好な関係を築けている。
……というか、こいつなら先の言葉を本当に実行しそうで怖い所だ。

まぁ、数日間昏睡状態に陥っていて、漸く外界に出る許可が出たのだ。
眠っていた間に鈍ってしまった身体を動かしたくてしょうがない。

ここ一週間程ずっと自宅の中で生活していて、一歩も外に出る事がなかった。
まぁ亮や文、ライカ達が来てくれていたから暇にはならなかったけれど。

幼稚園には来週の月曜日から再び通う事になっている。
あまり接点のない子らも心配していると、訪ねて来たクラスの先生が言っていた。


「じゃあ、行ってくる」


そう告げ、小走りに家の立派な和風造りの正門へと向かおうとしたが―――
それを止める様に、一報の声が耳に届いた。


「―――パパ!」


俺の事をそう呼ぶ、幼い少女の声が背後から聞こえてきた。
未だに、その呼び方には慣れない。その声は…ここ数日、新しく家族となった少女だ。


「……ソフィア?」


振り返ると、眠り眼を擦る碧銀色の髪をした同い年位の少女が家の玄関口に立っていた。
そのまま、トテトテ…と危なっかしい足取りで俺の元にまでくる。


「…パパ、どこか行っちゃうの?」


可愛らしく小首を傾げて、その表情を寂し気に染める。


「ああ、ちょっと走りに行ってくるよ」

「パパが行くなら、私も行きたい!」


そう口にして、少女の頭を優しく撫でる。

流石に、身体も精神も幼いソフィアを外に出す事は躊躇われる。
今の俺の身体は衰えているし、もし何かがあった時にソフィアを守れる自信はない。


「…ん~、待っててくれるか?リアも…お母さんもいるだろう?」

「ソフィア、あまり主様を困らせてはいけませんよ?」


家から同じく碧銀色の鮮やかな髪をした少女が現れる。
永遠神剣第一位“諧調”の化身であるヴィクトリアだ。

我が子を諭す様にリアは屈み、指を立ててソフィアに告げる。


「…帰ってきたら、一緒に遊んであげるからさ?なっ、約束だ」

「……うん、約束する」


指きりする様に小指を出して、彼女の小指に自身の小指を絡めさせる。
そうして、約束の指きりをする。


「よし、約束だ。リア、お母さん、ソフィアの事よろしくね」

「はい、任せて下さい主様。」

「時夜も、本当に気を付けて行って来て下さいね」

「うん、じゃあ行ってくるよ」


そうして、皆に手を振りながら俺は今度こそ家を後にした。







1







「―――…ハァハァ」


家の近隣に存在する自然公園のランニングコース10kmを完走して、俺は再び公園に戻ってきた。
……コースの途中程から、解っていた。明らか様に劣化している。

額に掻いた汗を拭い、荒い呼吸を続ける。
やはり、身体が鈍っている。何処となく身体が重く、膝が軽く笑っている。

衰える前ならば、軽く汗を掻く程度だったが今はご覧のあり様だ。
従来ならば、これにダッシュ50本の追加コースだが、今日はこれまでにしようか。否、もう無理だ。

やはり最初にイリスの言った通りに今日は、ジョギングコース5kmにしておけば良かったかな。
と、そう今更ながらに思う。…きっと明日は筋肉痛だ。


『時夜、大丈夫ですか?』

「……はぁ、ああ…大丈夫だよ」


大分呼吸も安定してきて、会話をするだけの気力も戻ってきた。
そのまま木陰に腰を下ろし、イリスとの会話に興じる。

頬を撫でる風が気持いい。適度に身体の熱を奪ってクールダウンさせてくれる。


『…やはり、5kmにしておいた方が良かったのでは?』

「…ん~、かもな。けど、早く万全に身体を整えたいしな。」

無理はしないと言った手前、これ以上の身体作りは無理だろう
基本的には身体が資本だ、身体を壊しては元も子もない。

イリスにも止められそうだし、徐々に、身体を再び慣らしていこうか。
俺は思考して木陰に、そのまま寝転がる。


『こら、時夜。行儀悪いですよ』


等と、イリスの嗜める様な声が聞こえてくるが、聞こえない。うん、きっと幻聴だろう。
気持ちいいし、少しの間、横になろう。


「―――主様」

「…んっ?」


少しの間まどろんでいると、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
主様と人を呼ぶ奴を俺は一人しか知らない。それにそう呼ばれる人間もだ。

不意に、後頭部を包む柔らかくて暖かな感触を感じた。

瞳を開くと、視界を碧銀色の艶やかな髪が流れていく。
視線を真上に向けると、反対向きのリアの端正な顔が映し出された。


「……リア?」

「起こしてしまいましたか?」

「いや、大丈夫だよ……おっと」

そう言い、リアの膝から起き上がる。やはり、少し身体がダルいかな。
同時に、碧銀色の髪をした幼い少女が俺に抱き着いてきた。

バランスを崩しそうになり、再びリアの膝に逆戻りしそうになる。だが、しっかりと抱き留める。


「パパ!」

「…ソフィアも来たのか」

まぁ、一人で外に出す事は危ないからしたくはなかったが、リアが一緒なら大丈夫だろう。


「主様、喉は乾いていませんか?」

「まぁ、多少は乾いてるかな」


水分補給をする間もなく、寝っ転がっていたからな。少しの喉の渇きがある。


「では、こちらを」

リアが水筒より、カップに冷た目の緑茶を注ぐ。俺はそれを受け取り、ほぼ一気に飲み干す。
…うん、喉の渇きも潤った。

「うん、美味しい」


もう一杯おかわりをする。そうして、一息吐く。


「ありがとう、リア。そういや、イリス。今何時?」


だいぶ外の時間も明るくなり、公園に疎らであった人も幾分か増えた。


「今現在の時刻は6時34分です」

「そろそろ朝食の時間か」

「ええ、ですから迎えに来たんです」

「パパ、私もお腹減った!」

「そうだな、俺もお腹減ったよ」


そんな無邪気なソフィアを愛おしく思う。そうして少女と手を繋ぐ。
そうして皆で他愛も無い会話に興じながら、俺達は帰路へと着いた。







2








「そういや、時夜。もうすぐ三連休だよな?」

「…まぁ、そうだね。幼稚園に数日行ったらまたすぐ休みだ」


朝の食事の時間、不意にお父さんがそう口にした
…うん、このなめこの味噌汁美味しいな。


「休みで、知り合いの所に行くんだがお前も来るか?向こうにお前と同じ位の子と、お前の従兄弟に当たる兄弟がいるんだが」


俺に、従兄弟がいたのか。正直、興味はあるな。
俺はこの世界に転生してからは出雲と東京しか行った事がない。

他の場所にも少なからずの興味がある。


「…静かな所なら行く」

「なら、決まりだな。あそこは静かでいい所だ」

「…結局何処に行くの?」

「んっ、青森にある星伽神社って所だよ」


んっ?星伽神社?思わず、我が耳を疑う。

あれ、それって原作のヒロインの一人のお家じゃなかったっけ?
それに、入る事の出来るのは星伽と関係のある遠山の家系だけじゃなかったか?

疑問は尽きない。そして、そこで俺は出会う。
“緋弾のアリア”という世界において、主人公と言ってもいい少年と。そして一人の“少女”と。


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