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魔界転生(幕末編)

作者:焼肉定食
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第52話 龍馬と瑞山

「西郷さんは、いるかね?」

 坂本龍馬が西郷を訪ねて江戸薩摩藩邸に現れたのは、江戸城無血開城交渉の1回目が終了した翌日だった。
 その訪問に驚いたは、大久保利通だった。なぜなら、龍馬暗殺を企てた説にはいくつもある。
 西郷と岩倉による謀略説、はたまた土佐藩・容堂によるもの。または、徳川家臣による暗殺などなど様々である。が、大久保による謀略説も飛び交っていた。ましてや、今では、死んだはずの武市半平太が参謀だというのだから、驚かないわけがなかった。
(坂本龍馬、何をしにここへやってきたのだ)
 とりあえず、大久保は藩邸内に入れることにした。何故なら、大事な交渉が控えているというのに、武市の他に坂本まで薩摩藩とかかわりがあるとなれば、一大事になると判断したからだった。
 龍馬は、6畳程度の客室に通され、西郷を待った。
「りっぱな、庭ぜよ」
 龍馬は襖をあけ、庭を眺め、風を肌で感じた。
(一度、死んだ体にもこんな風を感じるとはのぉ)
 龍馬は目を閉じ、にこりと微笑んだ。
「きさんが、何故ここにやってきた」
 怒りを込めた声が耳に刺さり、龍馬はゆっくりと目を開けた。
「おぉ、武市さ、久しぶりぜよ」
 怒りに震える武市に龍馬はにこりと微笑んだ。
(ちゃちゃっちゃ、まさか武市さもおったとわのぉ)
 龍馬は、心の中で頭をかいた。
「貴様、いままでどこにいた?何をしていた?」
 武市は矢次はやに龍馬に質問を投げかけた。
「まぁまぁ、落ち着くぜよ、武市さ。ここに座っとせ」
(こやつはいつもそうだ)
 龍馬の昔から変わらない飄々とした様子に武市は苛立ちながらも龍馬の正面に座って龍馬を見つめた。
「きさん、何用でここに来た?」
  武市は龍馬を睨みつけて問いかけた。
「うーん、そうじゃのぉ。わしゃ、一度、長崎に戻ろうとおもってのぉ。西郷さんに挨拶に来たという訳じゃ」
 龍馬は頭を掻きながらはにかむように答えた。
「な、なんだと!!馬鹿な!!」
 武市は怒りに震え、立ち上がった。
「きさん、蘇らせてやった恩を忘れたか!!転生後、四朗殿の制止も聞かず、行く方を晦ました挙句に今度は、長崎に戻るだと!!きさんの目的はなんぜよ」
  龍馬は、怒りでわなわなと震える武市を見つめた。
「まぁまぁ、武市さ、そう興奮すんなや。わしは、おまんらがやろうとしてることに興味はないぜよ。口もださんきに」
「馬鹿め、それでわしが納得すると思っているのか?」
 武市は龍馬を見下ろして言った。
「あぁ、わかったぜよ。では、どうすればいいんかい?」
 龍馬は一つため息をついて言った。
「おまんには、一人の女を連れて千駄ヶ谷に行ってもらう」
 武市はにやりと不気味に笑った。
「千駄ヶ谷?千駄ヶ谷に何があるぜよ?しかも、その女とはいったい誰ぜよ」
 龍馬は、訳がわからず首をひねった。
「その女はかつて医者の娘だったものよ。そして、千駄ヶ谷にはある男がいる。後は、行けばわかる。嫌とは言わせんぞ、龍馬」
 武市はギロリと龍馬を睨みつけた。
「わかった、わかったぜよ、武市さ。行くきに、そんな怖い顔せんでも」
 龍馬は苦笑いを浮かべた。
「わかればよし。わしは、こう見えても忙しいきに、もう、行くが、龍馬、恩を忘れるなよ」
 武市は龍馬を見下ろし睨みつけた。
「ところで、武市さ。その手はどうしたん?」
 龍馬は武市の手を指さして微笑んだ。
(しまった!!)
 武市は怒りのあまり手を隠すのを忘れてしまっていた。
「お、おまんには関係のないことだ」
 武市は指が無くなっている手を素早く着物の中へ隠した。
(なるほど、そういうことか)
 龍馬は素早く察した。
 それは、武市は自らの指を媒体として、岡田以蔵、高杉晋作そして自らを蘇らせたのだと。そして、自分が知らない後二人までも蘇られようと画策していることもすべて察することができた。
「わしの手の事などどうでもよい。わかったな、龍馬。しかと、申しつけたぞ」
 武市は大股で歩きだし、部屋を出て行った。
(はぁ、武市さが、いるとは、面倒な事ぜよ。じゃけ、武市さ、そろそろ舞台から降りる時期になって来てるぜよ)
 龍馬はくすりと笑った。
 
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