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英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)

作者:sorano
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第80話

~グロリアス・監禁室~



(”結社”に入ればヨシュアと再会できる……。確かにその可能性はかなり高いのかもしれない……。それに、何も本当に仲間になる必要はないよね……?仲間になったフリをして内情を探ってもいいんだし……。あたしの演技力じゃ厳しいけど、ここに閉じ込められるよりは……。………………………………)

部屋で一人悩んでいたエステルは椅子から立ち上がり、窓から外を眺めた。

(でも……何だか違う気がする……。それは……あたしのやり方じゃない。)

「……邪魔するぞ。」

エステルが考え込んでいたその時、ノックの音がした後、レーヴェが部屋に入って来た。

「あ……。………………………………」

「フ……そう警戒するな。先ほどのような考えなしの行動をしない限り、お前に危害が及ぶことはない。」

「悪かったわね、考えなしで。なによ、あんたたち、どこかに出かけるんじゃないの。」

不敵な笑みを浮かべたレーヴェの言葉を聞いたエステルはジト目で睨んで尋ねた。

「俺はただの留守番だ。出かけるのは教授と他の”執行者”達になる。」

「……一体、何をするつもり?」

「それが知りたければ教授の誘いに応じたらどうだ?一通りの情報が分かるだろう。」

「………………………………」

「フフ……。答えは出ているが迷いがあるといったところか?」

「!!!」

レーヴェに問いかけられたエステルは驚いた。

「俺個人の意見としては、お前は到底”結社”に向いているとは思えない。能力的にも、性格的にもな。」

「うぐっ……。そうはっきり言われるとけっこう傷付くんですけど……」

「まあ、能力については可能性は秘めているだろう。だが、性格に関しては……”結社”と関わるにはお前の闇はあまりに小さすぎる。」

「闇……」

レーヴェのある言葉を聞いたエステルは呆けた。



「”結社”に属する者はみな、何らかの闇を背負っている。俺、教授、他の執行者……。そして無論、ヨシュアもな。」

「………………………………。ねえ”剣帝”……。あなたとヨシュアって一体、どういう関係なの?」

「………………………………」

エステルに尋ねられたレーヴェは黙り込み、エステルを見た。

「ヨシュアはずっとロランス少尉のことを気にしてた。顔は分からないのに誰だか知っているみたいで……。それでいて正体を知ろうと必死になっていた気がする。」

「フッ……無理もない。あいつは記憶の一部を教授によって封じられていた。”結社”の手を離れた瞬間から具体的な情報が思い出せなくなるよう暗示をかけられていたはずだ。自分が”結社”でどんなことをしていたか覚えていても関係者の名前は思い出せない……。そんなジレンマがあっただろう。」

「あ……」

「幼い頃の記憶も同じ。恐らく、カリンは覚えていても俺の記憶は曖昧になっていたはずだ。」

「そっか……それで……。って、『カリン』ってどこかで聞いたことがあるわね?」

「………………………………」

レーヴェから出たある名前が気になったエステルが呟いた言葉を聞いたレーヴェは黙った後、窓に近づき、外を見ながら話し始めた。

「―――カリン・アストレイ。俺の幼なじみでヨシュアの実の姉だ。10年前に亡くなった。」

「!!!」

「お前の持つハーモニカは元々はカリンの物だった。それを形見としてヨシュアが受け取り……それをお前が受け取ったわけだ。」

「ヨシュア……お姉さんがいたんだ……。………………………………。あの……どうして……カリンさんは……お姉さんは亡くなったの?」

「……それを知ったらお前は真っ白のままで居られなくなる。ヨシュアや俺たちの居る闇の領域を覗き込むことになる。その覚悟はあるか?」

エステルに尋ねられたレーヴェは静かに問いかけた。

「………………………………。……うん、教えて。覚悟があるかどうかはちょっと分からないけど……。あたしは……ヨシュアの辿ってきた軌跡をどうしても知っておきたい。その気持ちは本当だから。」

「……いいだろう」

そしてレーヴェは自分とヨシュア、そしてカリンの過去を話し始めた。



「あれは10年前……俺たちのいたハーメル村がまだ地図にあった頃のことだ。ハーメルは小さな村でな……。子どもが少なかったこともあって俺たちはいつも一緒に過ごしていた。俺はいずれ遊撃士になることを夢見てヒマを見つけては剣の練習をし……それをカリンと小さなヨシュアが眺めているのが日課になっていた。」



――それはどこにでもある小さな村の平和な光景―――



「……練習が終わった後、俺とヨシュアは、カリンの奏でるハーモニカの旋律に耳を傾けた。カリンは何でも吹けたが、俺たちの一番のお気に入りは一昔前に流行った『星の在り処』だった。そんな日がいつまでも続く……そう俺たちは信じて疑わなかった。」



―――青年達は小さな平和がずっと続いて行くと、信じ続けた………しかし―――



「村が襲われたのは、そんなある日のことだった。王国製の導力銃を携えた黒装束の一団……。彼らは村を包囲した上で住民たちをなぶり殺しにしていった。ただ一人の例外もなく、年寄りから赤子に至るまで。一息で殺された者はまだ幸せだったかもしれない。……女たちの運命はさらに悲惨だった。」



――――平和だった村は現世の地獄と化した……男は殺され………生きていた女は犯され、そして殺されて行った――――



「俺たちは―――その地獄の中を必死に逃げた。家族とみんなの断末魔を聞きながら『逃げろ!』という声に押されてただひたすらに村外れを目指した。そして、村外れに出たところで俺は追っ手を攪乱(かくらん)することにした。すぐに追いつくと言い聞かせてカリンとヨシュアを先に行かせた。」



―――青年は女性と少年を逃がす為、一人戦い続けた。女性達が逃げ切ると信じて……―――



「だが……襲撃者たちは想像以上に用意周到だった。逃げた村人を始末する者を待機させていた。」



―――青年が追いついたその時―――



「俺が追い付いた時、その場は奇妙に静かだった。喉を撃ち抜かれた男の死体……。銃を握って呆然とするヨシュア……。肩から背中を切り裂かれながらヨシュアを抱き締めるカリン……。カリンは……まだ辛うじて息が残っていた。」



―――青年は血相を変えて女性に駆け寄り、声をかけた。すると女性は瀕死の傷を負っているにも関わらず、穏やかで満ち足りた笑顔を浮かべ、青年を見つめた―――



「なぜかカリンは……穏やかで満ち足りた表情を浮かべていた。愛用のハーモニカをヨシュアに託し、ヨシュアのことを俺に頼んで……。そして―――静かに逝った。」





「………………………………。……なん……で……。どうして……そんな事が……」

レーヴェの話を聞き終えたエステルは信じられない表情で呟いた。

「帝国軍がリベールに侵攻したのはその直後のことだ。王国製の導力銃を携えた襲撃者によって起こされた国境付近での惨劇……。それは侵略戦争を始めるにはあまりにも格好の口実だった。」

「……そんな……。本当にリベールの兵隊が……?」

レーヴェの話を聞いたエステルは信じられない表情で尋ねた。

「軍に保護された俺たちは最初そのように聞かされていた。だが数ヶ月後……帝国軍の敗退で戦争が終わった時、俺たちはまったく別の説明を受けた。村を襲った者たちは猟兵団くずれの野盗たちだったと。そして、決して襲撃のことを口外しないように俺たちを脅して……。軍は、土砂崩れが起きたと発表し、ハーメルに至る道を完全に封鎖した。」

「ちょ、ちょっと待って!?なんでわざわざ嘘をつく必要があるわけ?それじゃあまるで……」

レーヴェの説明を聞いたエステルは血相を変えて尋ねた。

「クク……。全ては帝国内の主戦派が企てたリベールを侵略するためのシナリオだったというわけだ。戦争末期、その事が露見し、帝国政府は慌てふためいたという。当時、メンフィルが現れた影響で帝国軍はなすすべなく敗戦続きの上、そのような事実がわかってしまったら、リベール、そしてリベールと同盟を組んだメンフィルに帝国を攻める口実を与え、”エレボニア”という国が”メンフィル”という国に呑みこまれただろうからな………なりふり構わず停戦を申し出、首謀者たちを(ことごと)く処刑することで事件を無かったことにした。これが―――『ハーメルの惨劇』の真相だ。」

「………………………………」

「そんな日々の中……ヨシュアの心は完全に壊れた。姉の死、親の死、隣人の死、初めて人の命を奪ったショック、そして欺瞞に満ちた世の中……。6歳の子どもの心が壊れるには充分すぎるほどの出来事だった。」

「………………………………」

「多分、その先のことはヨシュアから聞いているだろう。心が壊れたヨシュアはハーモニカ以外に興味を無くし、次第に痩せ衰えていった。そんなヨシュアと俺の前にあのワイスマンが現れて……。俺は彼にヨシュアを預けて”身喰らう蛇”に身を投じた。そしてその2年後……。教授に調整されたヨシュアも俺と同じ道を辿ることになった。」

「………………………………」

「―――これが闇だ。エステル・ブライト。お前とヨシュアの間にどんな断絶があるのか……ようやく理解できたか?」

「………………………………。……うん。やっと、ヨシュアが居なくなった本当の理由が見えてきた気がする。」

レーヴェの話を全て聞き終えたエステルは静かに答えた。

「なに……?」

一方エステルの答えを知ったレーヴェは驚いた表情でエステルを見た。



「―――教授の誘いは今ここで断らせてもらうわ。あたしは絶対に”身喰らう蛇”には入らない。”結社”が好きか嫌いかそういうのとは関係なく……あたしがヨシュアを追い続ける限り、絶対にね。」

(エステル……!)

(エステルさん……!)

(………よく言った。それでこそ、我が”真の名”を呼ぶのを許した2人目の人間にして、誇り高き我等”炎狐”の”友”!)

(”守護天使”の名を誇りに掛けて……命尽きるその時まで”守護”しましょう………”英雄”の道へと歩む人の子よ………)

(クー!)

(…………………)

エステルの答えを知ったパズモとテトリは希望を持った表情をし、サエラブは口元に笑みを浮かべ、ニルは微笑み、クーは嬉しそうに鳴き、また腕輪を通してその様子を見ていたカファルーは黙っていたが、どこか興味深そうな雰囲気を出していた。

「………………………………フッ……おかしな娘だ。今の話を聞いて逆に迷いを吹っ切るとはな。どうやら、ただ”剣聖”の娘というわけでは無さそうだ。」

一方レーヴェは黙り込んだ後、口元に笑みを浮かべて、エステルに感心した。

「そ、そう?よく分からないけど……。そういうあなたこそ、ただヨシュアの昔の仲間ってだけじゃなかったわけね。お兄さん的な存在だったんだ。」

レーヴェの言葉を聞いたエステルは苦笑しながら、レーヴェを見て言った。

「………………………………。誤解のないように言っておくが俺があいつの兄代わりだったのは10年前までだ。今の俺にとって、あいつは排除すべき危険分子に過ぎない。」

「え……」

しかしレーヴェの答えを知ったエステルは驚いた。

「教授はヨシュアを泳がせて楽しんでいるようだが……。俺の考えは教授とは異なる。いずれ近いうちに俺自身の手で始末するつもりだ。」

「ちょ、ちょっと!どーしてそうなるのよ!?カリンさんに……ヨシュアのお姉さんに頼まれたんでしょっ!?」

「俺は俺の、選んだ道がある。その道を遮るものは如何なるものも斬ると決めた。たとえそれがカリンの願いであってもな。」

「そんな……」

レーヴェの答えを知り、エステルは悲しそうな表情をしたその時、グロリアスのどこかが開いた音がした。

「あ……」

すると赤い飛行艇が4隻、どこかに飛んでいった。

「あれって……」

「教授と他の連中だ。計画の第三段階がいよいよ実行に移される。」

「だ、第三段階って……」

「フッ……お前がそれを知る必要はない。事が成ったら、父親の元に返してやることもできるだろう。それまではせいぜいここで大人しくしているがいい。」

そしてレーヴェは部屋を出て行こうとしたが

「ちょ、ちょっと!?」

「言っておくが……逃げようなどと考えるなよ。地上8000アージュの高みだ。どこにも逃げ場などないぞ。」

呼び止めたエステルに答えたレーヴェは出て行こうとしたが



「待ちなさい!まだ、言い足りない事があるわ!」

「………なんだ?」

エステルの言葉を聞いたレーヴェは振り返ってエステルを見た。

「もし……カリンさんが生まれ変わって、今でも生きていたらどうするつもり?」

「フッ。何を馬鹿な事を…………」

エステルの言葉を聞いたレーヴェは嘲笑した。

「あたしも無茶苦茶な事を言っているかなって、自分でも思っているけど………でも!人は生まれ変わる事をあたしは知っている!」

「…………何?」

エステルの話を聞いたレーヴェは不思議そうな表情でエステルを見た。そしてエステルは自分には前世――ラピスとリンが宿っている事や”冥き途”、そして魂の転生を説明し、ロレントの事件で夢の中で彼女達と出会い、同化した事を説明した後、2人の力を解放した姿等も見せた。

「………………………」

「すぐに信じろとは言わないわ………普通なら信じられない話だし。でも、あたしは”私達”と同じように一度死んで、そして転生した人を知っている………そして………”剣帝”………貴方の話を聞いて、カリンさんの生まれ変わりかもしれない……いえ、きっとカリンさんに違いない人が思い浮かんだわ。(………だからプリネ、”星の在り処”を最初から上手に吹けて……あのハーモニカを自分の物のように扱えたのね………そりゃ、そうか。ずっと使い続けていた”自分の物”だものね………)」

エステルは心の中で納得した後、苦笑していた。

「……………………(ま………さ………か…………プリネ・K・マーシルン………お前は本当に………”カリン”なのか………?)」

エステルの話を聞いたレーヴェは信じられない表情で黙り、心の中で2度も自分を破った夕焼けのような赤い髪を腰までなびかせ、澄んだ紅い瞳を持つ優しげな少女――プリネとカリンを重ね合わせて、信じられない思いでいた。

「…………………………フッ。興味深い話を聞かせてもらった。………もう一度言っておくが、逃げようなど考えぬ事だ。」

そしてレーヴェは部屋を出て行った。



「………………………………。逃げようなどと考えるな、か。そう言われたらかえってやってみたくなるのが人情よね。幸い、教授達は出かけちゃったみたいだし……。よし……そうと決まれば!」

レーヴェが出て行った後、エステルは部屋の隅々を確認した。

(エステル、私達はいつでも行けるわよ?)

(いつでもお呼び下さい!)

(フッ………その為に我等がいるのだからな。)

(フフ……いつでも呼んでね?絶対に貴女を仲間達の元に返してみせるわ!)

(クー!)

「みんな………ありがとう!後、カファルー。勿論、貴方にも後で力を貸してもらうからね!」

パズモ達の心強い念話にエステルはお礼を言った後、腕輪を見て言った。

(グオ。)

腕輪からはカファルーの了承らしき念話が聞こえてきた。

「………………………………。タイミングが命だけど、それさえ見極められれば……。油断させるために2時間ほど大人しくして……。……うん!試してみる価値はありそうね。」

そしてエステルは懐からハーモニカを取り出した。

「……お姉さんの形見の品だったなんてね。ヨシュアのバカ……そんなもの簡単に渡さないでよ。……それと戻ったら、プリネに確認しないとね!フフ……プリネ、あたしがプリネの事を”カリン”さんである事を言い当てたら驚くかな?まあ、本当に”カリン”さんだったらの話になるけど………アハハ…………というかカリンさんに違いないわよね?廃鉱で”剣帝”と戦った時、一瞬ヨシュアと同じ黒髪と琥珀の瞳になったし………………プリネ……いえ、カリンさん。見ててね!あたしもリウイの”光”になったイリーナさんやティナさん、シルフィア様みたいに、あたしはヨシュアの”光”になってみせる!」

ハーモニカを見つめ呟いたエステルは決意の表情になった。



そしてエステルは脱出する油断を作る為、しばらくの間、部屋に待機した………………




 
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