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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第23話 頼み

 「わー!これ美味しいわー!」
 「当~然!シロ兄が作ってるんだから美味しいのは当たり前だよ!」
 「ホントだ、けど僕あんまり釣り上げてないから、ちょっと後ろめたさがあるな・・・」

 士郎は戻って来てから動きづらかった。

 「自分で釣った魚と言う意識もあって、格別だな」
 「確かにうめぇ、前々から思ってたが、衛宮先輩、これでやっていけるんじゃねぇか?」
 「しかもこのレベルをただで食えるなんて、我らの島津寮の専属料理人に任命したいぜ!」

 自分を見る視線が消えたからと言って完全に安心しきった訳では無かったので、川岸に残っていた冬馬達4人が無事なので安心した士郎は、調理を再開させた。

 「焼き加減が絶妙です!私、衛宮先輩に弟子入りしたくなってきました」
 『コイツなんて大吟醸に合いそうで、オラ失禁レベルだぜ』
 「確かに士郎さんの焼き加減はなかなか真似できないからな。練習用に何か燃やせるもんとかないか?――――例えば馬肉とか」
 「ハゲにしては中々いい提案じゃないか!まゆまゆ、松風の尻尾千切ってくれないか?馬のテール肉とか美味いかもしれないしな」
 『ガタガタブルブルガタガタブルブル・・・』
 「松風を食べるのは勘弁してくださーい!」

 けれどそこから問題だった――――いや、川岸に戻る時もそして今も。

 「この串焼きも美味いな。――――だから京も自分の食事に集中したらどうだ?」
 「大丈夫大丈夫、だからはい、あ~~~ん♡」
 「食べさせてくれようとするのは友達(・・)!として感謝するが、かけたその赤いのを退けろ!」
 「え?いるでしょ?」
 「いらねぇよ!しかもそれ、七味じゃなくて一味だろ!しかもちらっと小さな文字で、オリジナルブレンドとか記載されてたじゃねぇかよ!!」
 「でしたら私の方は如何――――」
 「お前は自分の食事に集中しろ。そして太腿を撫でるな!」

 父親であるフランクの言葉に従っているのか、好奇心を抑えられないのか、士郎はあれからずっとクリスに一挙手一投足までも観察され続けていた。

 「真のサムライになるには料理も熟さなければならないのかー。成程なー」
 「・・・・・・・・・」
 「しか、も・・・・・・う~~~ん!最高だー!――――ただ料理を熟すだけでは無く、此処までの味に到達できなければ真のサムライとは認められないのか。登竜門と言う奴だな、流石は黄金の国・ジパング!自分の認識は如何やら甘かったようだな~」
 「・・・・・・・・・」
 「つまりサムライとは、非日常に対処できる力と、日常を充実させうるスキルの両方を獲得した者のみが名乗ることが許される称号なのか」
 「・・・・・・・・・」

 先程からこの調子である。
 仕方がないので、まず誤解から解く事を始めようと行動に移す。

 「いや、サムライはそんなものでは・・・・・・」
 「な、なんと、まさか衛宮先輩のあれほどの御業を以てしても、届いていないの云うのですか?サムライ道は何とも険しい」
 「いや、そもそも俺の技術は大したものでは・・・」
 「そして何所までも謙虚さを忘れずに、自らを律し続ける強靭な精神!衛宮先輩、自分はますます感服しました!」

 クリスの誤解を解こうとすると、彼女は人の話を聞かずに暴走するので、士郎は相応に苦労した。


 -Interlude-


 皆で昼食の片づけをした物を、最後に士郎が車の中へ運び入れていた。
 そこで、背後から百代が迫って来た。

 「何でそんな真剣な顔してるんだ?」
 「お前は背中に目でもついてるのか?」
 「そう言うのはある程度、気配で判るもんだろ」

 そこで改めて士郎が振り向くと、察した通りに百代は真剣な表情をしていた。
 それを士郎は軽い疑問に囚われる。
 百代が今現在のバカンスを楽しんでいたのは把握していたので、なぜ今このタイミングでそんな顔をするのかは心当たりが無かったと言う理由だった。

 「それで?皆の所では無く、俺が1人になった所を狙ったにはそれ相応の訳があるんだろ?」
 「ああ。だがその前に再確認したい。だから・・・。―――――私と手合わせしてくれ!」

 何時もの巫山戯半分や我儘ぶりなど露程も見せない真剣な目つきだった。
 つまり私欲や戦闘衝動によるモノでは無いのだろうと、士郎は察した。
 礼を失しない相手には相応の対応を取り、本気には本気で返す士郎の答えは決まっている。

 「分かった。けど、皆を巻き込むわけにもいかないからな。少し離れた所でやるぞ」

 百代は士郎の承諾と提案に異論をはさまずに、大人しく付いて行く。

 「あれ?モモ先輩?」
 「ん?士郎さん?」

 皆のいる川岸に戻ってきた士郎達に対して、何時の間に居なくなっていたモモ先輩が何故2人一緒に居たのか、何故2人とも真剣な目つきなのかと、疑問が次々に上がっって来ていた。
 因みに、士郎が後片付けをするモノだから、キャップは士郎との競争が実現できずに腐りながらやっていると、かなりの大物を釣り上げてから「これ、売り物になるんじゃね?」と、声を掛ける間もなく風の様に居なくなっていた。
 その風間ファミリー(マイナス)1人と葵ファミリー+αの面々から離れた地点に来た2人は、少し距離を離して対峙する。

 「よし、やる――――」
 「待った」
 「な、何だよ?」
 「その前にやる事がある」

 それは士郎が先ほど車の中から取り出した、色の付いた石の形をしたお守りの様なモノだった。
 これは魔術礼装では無く、気を込める事により防音や防振、そして衝撃などを軽減させる結界を張ることができるモノだ。
 四つで一組になっている為、一つでも足らなければ効果が無くなる。
 そして魔術の様な認識阻害などは出来ないと言うのも特徴の一つだ。
 これはスカサハが作成したモノでは無く、勿論士郎でもない。
 雷画だ。バーサーカー襲来の次の日の調査後、無暗に人前では使えない魔術や魔術礼装では勝手が悪いだろうと、雷画から予備も含めて三組ほど譲り得たモノだった。
 それをまさか数日中に使う羽目になった予想以上の速さに、内心で思わず苦笑しながら自分と百代を囲う様に四方に設置する。

 「よし、準備は完了だ」
 「これで思い切りやれるって事か?」
 「あくまでも、防音に防振と衝撃の軽減だけだ。だから加減を怠ると地形が変わるから気を付けろよ?」

 士郎の言葉に百代は軽くふて腐れる。
 その百代の反応に、士郎は仕方がない奴だと溜息をつく。
 この手合いの申し込みをした理由は未だ解らないが、あの時の顔は本物だった。
 ――――本物だったが、戦闘衝動と我欲の根本となる(さが)を消せる訳では無いので、この様に反応するのだ。
 とは言え、今は彼女の我欲を満たす為では無く、理由不明な手合わせをする事だ。

 「理解出来たなら何時でもいいぞ?」
 「かかって来いってか?なら遠慮なく――――川神流、無双正拳突き!」
 「フッ!」

 百代の正面からの主砲に対し、士郎も正面から迎撃する様に正拳突きを繰り出す。

 「っ!」
 「フンっ」

 お互いに力をセーブしているので拮抗する。
 と言うか士郎は、百代の拳に込められている気+地力を見極めて分析した威力と、ほぼ同等の力を出して迎撃しているのだけだった。
 そうとは知らない百代ではあるが、真正面からの対応が嬉しくなり、即座に再び距離を詰めて正拳を突き出す。
 それを士郎は、今度は無駄なく紙一重で躱しつつ顎を狙って拳を振り上げるが、もう片方の掌で防がれる。
 しかしその反撃自体が囮だったようで、空を切った正拳突きの腕と防御に回した掌を掴んで放り投げる。
 さらに放り投げるだけで終わらずに、宙に投げ出された百代の両足をすかさず掴んで、さらに距離を開ける様に投げ飛ばす。
 士郎としては、何となしに懐に入れないようにしている。
 今はまだ接近戦でも上だが、極力自分の得意とする距離を相手に押し付けた方が良いと言う癖の様なモノだった。
 そんな士郎の事情も何のその、徐々に気分を増していく百代は大技を繰り出す。

 「川神流――――富士砕――――!?」
 「俺は良くても流石にそれは地形変えるだろ?」

 対する士郎は、躱すのではなく前進して来た。
 このまま行けば直撃になるが、力をセーブしているとはいえ、これに耐えられるのかと百代は驚きつつも技の発動を止めない。

 「――――きー・・・!?」

 技は当たったが、士郎に当たると同時に姿は掻き消え、直撃したのは気を込められた石だった。

 (残ずぉおおおお!?」
 「フッ!」

 囮を使う場合は大抵は後ろに回り込まれているので、すかさず背後へと裏拳をかまそうとした百代だったが、既に士郎に首根っこを掴まれていて、技が石に当たった反動も利用した上で空中に投げ出された。
 その勢いたるや、徹甲作用による投擲を使われているので、百代はものすごい速度に加えてあまりの衝撃に身動きが取れないまま、かなり上まで打ち上げられた。

 「ハハッ!」

 打ち上げられた当人である百代は楽しそうに笑う。
 まだ数手程だけで此処まで自分を楽しませてくれる戦いに、気分が高揚して行き、自然に今何故こうして手合わせしているかを忘れて仕舞うほどだった。
 そんな百代の楽しそうな顔を見て、自分はやり過ぎたと自責するとともに嫌な予感に襲われる。

 「・・・・・・まさか」

 そして嫌な予感は当たる。
 百代は落下しながらも、明らかに派手で火力の高い大技を繰り出す体勢と気を練り込んでいた。

 「アイツ後で説教だ」

 そんな事を言いながら、もしもの時のために太い木の枝などを使った急ごしらえの弓を取り出すのだった。


 -Interlude-


 「シロ兄、如何して戦いなんて始めたんだろ?」
 「モモ先輩が無理矢理誘ったとか?」

 士郎と百代の突然の行動に、一同は驚くばかりだった。
 そして準の言葉に何となくそんな気がした大和が謝罪する。

 「うちの姉さんが、すまない」
 「でしたら今度、七浜までデートでもど――――」
 「謝るがそれを受ける気は無い!」
 「頑なですね」

 話を断られても怪しい笑みを止めない冬馬を無視する事にした大和だったが、皆と同様に士郎に遅れて百代が何をしようとしているかに気付く。

 「まさか姉さん・・・・」
 「此処川神じゃなくて箱根だよ?不味くない?」

 そんな大和達の心配など知らずに、百代の掌から気が練り込まれたビームが放たれる。

 「川神流――――星殺しぃいいいい!!」

 百代の星殺しのターゲットは当然士郎だ。
 その士郎は、避けるそぶりも見せずに急ごしらえの弓を引き絞る。
 そして放つ。
 放たれた矢は、この技の荒くなっている部分である中心よりもやや上側に吸い込まれるように衝突した途端、星殺しは霧散して、当然急ごしらえの弓矢も空しく千切り砕けた。

 「ハハハっ!凄いな、衛宮!」
 「・・・・・・」

 百代はこの結果にさらに嬉しそうに笑う。
 それに対して士郎はしかめっ面だ。
 反省の色はまるでなしの百代に、溜息をついてからこの手合いを止める言葉を吐く。

 「それで?再確認とやらはもう済んだのか?」
 「ん?・・・・・・・・・・・・・・・あっ!あ、ああ、済んだ!」
 (忘れていたな)

 それも含めて必ず説教をすると決めた士郎は、取りあえずその決意を置いておいて話を進める。

 「ならもういいだろう?如何いう理由で俺に手合いを頼んだんだ?」
 「言う前にワンコも同席させないと話にならないから、ちょっと待っててくれ。ワンコ!ちょっと来てくれーーーー!!」

 呼び出される一子は、首を傾げながら応えて来た。

 「どうしたの、お姉様?」
 「本当はもう少し先に話す気だったんだが、急遽こんなバカンス中に悪いが、言っておかなきゃならない事があるんだ」
 「な、何を・・・?」

 義理の姉である百代の普段なかなか見えない真剣な顔と言葉に、一子は思わず後ずさる。
 そんな2人を間近で見続ける士郎は、その空気を察して京極の方見る。
 士郎からの視線に直に気づいた京極は、口の動かし方で士郎の言いたい事を理解して行動に移す。

 『皆、暫く武神たちを見るな』
 『!』

 京極の言霊の強制力により、皆気になっていた百代たちへの気持ちも無意識的に抑制されながら視線を外した。
 こんな事をしなくても大丈夫だと思われるが、あくまでもメインは風間ファミリー内の問題なので、自分達も聞く権利はあると反論される可能性を考慮した結果、言霊を使ったのだ。
 勿論、京極自身も視線を外している。
 本音は観察を続けたかったが、無欲すぎる友人たる士郎からの滅多にない願いを無視する程、京極は野暮では無かった。
 そんな気遣いなども知らない川神姉妹だが、姉である百代の口から遂にその言葉が放たれる。

 「ワンコ――――いや、川神一子。今のままでは(・・・・・・)お前は師範代になれない」
 「・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 一子は、今自分が何を言われたのか理解できなくなって、呆ける。
 しかしそれも一瞬の事、直に意識を戻して百代に訴える。

 「な、何でそんな事!その前に、そう言うのは試験があるんじゃないのお姉様!?試されても居ないのに、そんな事言われて納得できないッ!!」
 「解ってる。こんなこといきなり言われて気が動転してると思うが、まずは聞いてくれ。――――今の川神院のやり方に従ったままじゃ、お前の武は川神院師範代補佐なら兎も角、師範代には届かないんだよ。クリとの戦い方も含めて、今日までお前を見て来て結論がこれなんだ」
 「だ、だからって!!」

 目尻に涙をため込んで食い下がる一子。
 だが百代は動じずに冷静に応対する。

 「待て、ワンコ。先に今のままでは(・・・・・・)って、言っただろ?」
 「ほえ?」
 「急に不安になる事を言って悪かったが、私に打開策があるんだ。それが衛宮だ」
 「え?え?」
 「・・・・・・そう言う事か」

 空気を読んで先程から黙って同席していた士郎が漸く口を開く。
 しかし泣きそうになっていた一子は、未だに目尻に涙を溜めながらも虚を突かれたような顔をしている。
 その2人の顔を見る百代が説明する。

 「ああ、そうだ。――――ワンコ、さっきの私と衛宮の戦いで何か感想は無いか?」
 「か、感想?とにかく凄かったとしか・・・」
 「私が言いたいのは技では無く衛宮の動きとかだ。自分で言うのもアレだが、さっきの私は基本衛宮に動きを読まれて翻弄されていたんだよ。そ・れ・に!」
 「おい」

 話の途中で百代は、士郎の腕に向かって気を込めた正拳で殴って来た。

 「大河さんの言う通り、耐久力については壁越えでもトップクラスだろう。今の一撃、私が喰らえば瞬間回復を使わないといけないほどの威力なんだぞ?」
 「それを何となしに攻撃するとは、覚悟はいいんだろうな、川神?痛くないワケじゃないんだぞ」

 士郎の冷ややかな目力に百代は慌てる。

 「わ、悪かったからすごんで来ないでくれッ!――――兎も角、動きの読み方や立ち位置の取り方から他の事まで、衛宮の教えを受ければお前の師範代への道が開ける鍵になると私は思ってるんだ」
 「衛宮先輩の・・・。――――で、でも、そうしたらあたし、川神院から追い出されちゃうの?」
 「そんな事あるわけないだろ!お前は何時までも私の大事な義妹(いもうと)だ!」
 「お姉様!」

 川神姉妹は大げさに抱きしめ合う。
 それを士郎が悪いと思いながらも水を差す。

 「いいところで何だがな、俺への弟子入りと言う事なら・・・・・悪いが断らせてもらう」
 「えぇええ!?」
 「なっ!ど、如何いう事だ!?」

 川神姉妹は士郎の答えに驚き動転する。
 百代としては士郎の事を少なからず知っていから、引き受けてくれるものだと確信していたので余計にだった。
 そんな2人に対して、士郎は両手を前に突き出して落ち着いてくれと促す。

 「話には続きがあるから聞いてくれ」
 「はい・・・」
 「ちゃんとした理由なんだろうな?」
 「当然だ。――――まず、俺から助言できるポイントも確かに幾つかあるが、一子は薙刀使いだろ?オレも確かに薙刀も扱えるし、まだ一子よりは薙刀もうまく扱えると言う自負位はあるが、俺は達人でもなんでもない。だから一子を薙刀で川神院師範代まで導くには限度があるから、安易に引き受けられないんだ」
 「と言うかお前、薙刀使えるのか?」

 士郎の説明の一部に百代が喰いつく。

 「知らないのに任せようとしたのか?」
 「う゛」
 「まぁ、いい。話を戻すが、その代わり、薙刀使いでは無いが同じ長物である槍の達人に頼んで弟子入りを頼む事なら出来るぞ?ただし、これは一子自身にも問題がある」
 「あ、あたし?」

 士郎は、漸く涙を抑え終えた一子の両肩をしっかり掴んで問う。

 「あの人は多分、魔がさした程度などのたった一言の弱音も許さないだろう。恐らくたった一回程度でも言うと破門を受ける可能性が高い。そして何よりも非常にスパルタだ。そこで質問だ――――一子、お前の目指す道は決して平坦じゃない上、届かない可能性も十分ある。それでもお前はこれまで通り――――いや、これまでとは比べ物にならないほどの努力をしなければならないが、弱音を吐かない覚悟はあるか?諦めない決意はあるか?」

 士郎の真っすぐな真剣な問いに対して一子は、一切目を逸らさず口にする。

 「あたし、諦めたくない。頑張るから、頑張る事だけが多分あたしに出来る事だから、如何かお願いします!!」

 その声音には懇願も含まれていたが、真剣さが多分を占めていた事も解った。

 「そこまで言うなら紹介する。だからそうだな・・・・・・休み明けの放課後にでも衛宮邸(うち)に来てくれ」
 「はい!」
 「ちょっと待て、衛宮の家にそんな人いたか?」
 「川神が今日まで会わなかっただけで、実際に家にいるのさ。――――よし、後は俺からの前もっての助言だが、基礎練は今まででいいが一つだけ指摘させてもらうぞ?」
 「何でしょう?」

 師範代への道筋が見えた事もあって、一子は明るい顔で問い返す。

 「京から聞いているが、一子は授業を聞かないで寝てる事が多いらしいな?」
 「え?あっ、はい」
 「なら、休み明けからはちゃんと寝てないで受けろ」

 明るくなった一子の顔に、やや暗い影が落ちる。

 「えぇえええ!?で、でも、基礎練を毎日これからも続けると、眠たくなっちゃうんですけど」
 「これも京から聞いた話だが、それはルー先生からの基礎鍛錬のメニュー以上を勝手に熟してるからだろう?限界を無理矢理超える根性論ですら限界はあるんだ。一子のそれは、正直ほとんど意味の無いモノで自己満足にしかならないぞ?」
 「で、でもでも、あたし馬鹿だし・・・」

 余程勉強が嫌いなのか、何かにつけて言い訳して逃げようとする一子に士郎は溜息をつきながら告げる。

 「言っておくがこれも鍛錬の一つだぞ?」
 「え?」
 「川神、今まで一子に本能で戦えとか要らんアドバイスなんかしなかったか?」
 「したけど?」
 「それはハッキリ言って一子には合わないアドバイスだな」
 「何でだ!」

 今までの自分を知っているワケでもないのにと言う反感を持つ百代。
 それに対して士郎は肩を竦めながら、やれやれと呆れるポーズをする。

 「本能や直感を頼りにしていいのは、あくまでも才能に恵まれた者達のみの特権だ。だからな一子、本当に強くなりたければ本能頼りの戦いなど忘れろ。自分が馬鹿だと言う自覚があるなら勉強しろ。無い頭で考えるなと言われるなら、その勉強を元に考える力を身に付けろ。そして敵の動きを観察しつつ、勝利をもぎ取るのが才能の無い者に唯一許された道なんだ。此処まで聞いて、(なお)も勉強が嫌だと(のたま)うなら俺はお前を見限る」
 「衛宮!」
 「当たり前だぞ、川神!お前と違って一子はそう言う道を走り続けないと師範代なんて夢のまた夢なんだからな。努力し続けても報われるとは限らないのが現実だが、結局諦めて努力も放棄した奴の頭上に全うな未来なんて築けるわけないんだからな」

 何所までも真剣に対して真剣で答える。
 それが士郎のやり方だ。

 「・・・・・・わかりました。それで本当に夢への道が切り開けるなら、あたし頑張ります!」
 「よし、なら明日から早速だな」
 「・・・・・・・・・・・・へ?明日はまだ連休中なんですけど?」

 士郎の言葉に困惑する一子。
 しかし士郎は構わず続ける。

 「明日葵ファミリー+α(俺達)はホテル内で勉強するからな。一緒にやれとまでは行かないが、まず今の一子がどれくらいの学力を持ってるからテストをする。それで今後の一子の勉強ペースと計画も立てられると言うモノだな」
 「ガタガタブルブルガタガタブルブル」

 決意の顔からまた一転、震えあがる一子。
 これこそ本能と言うモノだろう。
 今まで大和からの勉強を教わる前は、いつもこんな感じだったのだから。
 それでも一応話が纏まったと解釈したのか、百代はおずおずとした感じで士郎に近づく。

 「それでな、あの、衛宮、時々でいいから私との稽古も、その・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 百代の態度に今日、何度目かの溜息を吐く。
 それでも一応、百代に対しては思う所もあった。
 バーサーカー襲来時も、さっきの手合いの時も、欲求不満からの衝動故なのだと理解もしていた。
 そしてこれからもある程度満たせていないと、またも自分からガイアの使徒に突っ込んで行きそうだなとも考えていた。
 故に――――。

 「――――分かった。真剣勝負は兎も角、組手稽古なら付き合ってやる」
 「ホ、ホントか!?」
 「ただし条件が二つある」
 「じょ、条件・・・?」

 士郎からの次の言葉に身構える百代。
 それは恐怖か興味か判別つかないモノだ。

 「一つは朝の掃除だ。完璧を求める気は無いが手を抜くな。今までの川神の掃除は何所かしら手を抜いていると一目でわかったぞ?これからは一切の手抜きは許さない」
 「・・・・・・分かった」

 百代としては手を抜いていた気は無かったが、もしかすれば無意識的に手を抜いていた可能性もあると感じて、不承不承ながら頷いた。

 「そしてもう一つは精神鍛錬だ。座禅を組み、気を静めて意識を自分の奥底へ埋没させる。――――川神院の山籠もり中の大地との対話をさせる精神鍛錬よりも期待効果は落ちるが、これを毎日のようにやるとやらないでは全然違ってくるからな。これを毎日やる事」
 「その程度で良いのか?」
 「程度と言っても、これも手抜きは許さないぞ?これを毎日していくことが当たり前(・・・)になるまで、誰かの監視の下で行う事だ。勿論、私情を抜きに出来る人の下でだ」
 「わかった!」

 その程度朝飯前だと言わんばかりに、これからの士郎との組手稽古に期待を膨らませているのか、実に嬉しそうに笑っていた。
 しかし笑えるのも此処まで。
 何故ならば――――。

 「さて、なら今度は俺からの話があるんだがな、か・わ・か・み!」
 「ん?」
 「俺と手合わせをする前に言ったこと覚えてるか?」
 「手合せする前?・・・・・・・・・何かあったか?」

 如何やら本気で忘れているようで、真面目に思い出そうと唸る。

 「忘れているなら思い出させてやる。地形を変える技を使うなって言ったよな?」
 「え、あっ!」
 「思い出したか。まず始めに百歩譲って富士砕きはいいとしよう。だが最後に放ったあのビームは如何いう事だ?」
 「ガクガクブルブルガクガクブルブル」

 士郎は満面の笑顔と共に、過去最高の威圧感で彼女にプレッシャーをかける。
 そして当の百代は、先程テストと言うキーワードを出した途端に、恐怖に震えあがった一子と同じような反応――――否、彼女以上に顔を青ざめて行き冷や汗が止まらなくなっていた。
 しかしそれでも何とか抗おうと、百代はいい訳を口にする。

 「け、けけけ、けど、お前が消し去ったんだからいいじゃない―――――――ヒッ!?」

 士郎からのプレッシャーが増したからなのか、百代は自分でも今まで有ったかどうか怪しい程の悲鳴を口から漏らした。

 「消し去ったからよかったか!だがな川神、最近ニュースでよく見るある国がミサイルを発射して国際会議の場でも批判が殺到したのと同じで、当たらなければ結果オーライには成らないんだぞ?」
 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――――」
 「自分の過失を認めるのは良い事だがな、川神。お前のこれからの為にも、一度ちゃんと言い聞かせないといけないな」

 つまり説教タイムと言う事だ。
 今このテンション状態の士郎に説教を喰らえば、どれだけ恐ろしい目に遭うかは想像するのは難しくなかった。
 故に百代は最愛の義妹たる一子に懇願する。

 (助けてくれ、ワンコーーー!)

 あくまでも声に出さないアイコンタクトではあるが、如何やら一子は百代からの懇願を上手く受け取れたようで、士郎に頼み込む。

 「あ、あの!衛宮先ぱ――――」
 「如何したんだ一子?」

 士郎が今纏っている剣呑な気配に、一子は耐え切れずに後ずさりをしながら口にする。

 「あ、あたし、皆の所に戻ってますね!」
 (ごめんなさいお姉様!如何か、如何か強く生きて下さい!!)

 一子は百代に一礼してから、その場から駆ける。
 背後からの縋る視線に後ろめたさを感じながら、謝りながら皆の下へ帰って行った。
 それを見送るしかなかった百代は――――。

 「ワンコーーーーーーー!!?」

 絶望の慟哭を叫ぶしかなかった。
 しかも士郎に首根っこを掴まれたまま引きずられてだった。
 それから暫くして士郎と共に返ってきた百代は、死んだ魚の目をしていたとか。
 そして意見の対立からか、クリスと大和が闘気をむき出しにしていた。
 これによって、風間ファミリーの明日の予定の最低半分ほどは、恐らくこの2人の決闘に費やされる事に成るだろう。 
 

 
後書き
 久々に一万字超えちゃいました。 
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