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龍が如く‐未来想う者たち‐

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冴島 大河
第一章 刑期中の悲報
  第六話 あの人

ミレニアムタワーの前に着く頃には、既に陽は沈みかけていた。
帰宅ラッシュの時間帯。
だが賑わうはずのこの場所には、人は居なかった。
2人を除いて……。

冴島は、目の前の男と向き合っていた。
見るだけで胸糞悪くなる程の嫌悪感が、冴島に襲いかかる。
金色の髪を纏った男、宮藤。

その宮藤は、少し驚いた顔を見せていた。


「おかしいですね……何で貴方なんですか?冴島さん」


真島が来ると思っていたのか、冴島がここにいる事に驚く宮藤。
だがそれに、冴島が動じる事はなかった。


「宮藤、何でお前は駒を集めてまで7代目を目指す?」
「7代目を目指す理由、ですか……」


宮藤が空を見上げると、ポツポツと少しずつだが周りの建物に灯りがともり始める。
陽は沈み、闇が包むのも時間の問題。
それに気付き、宮藤は次に時計を眺めた。


「そろそろ出勤の時間なので、簡潔に……」


そう言ったかと思えば、突然距離を詰められ焦る冴島。
拳を振りかぶったのを目にし、慌てて横へと避ける。
空を切った宮藤の拳は、再び冴島に向けられた。


「あの人との、約束なんです。7代目になった暁には、俺を認めてくれるって……」
「あの人?」
「俺の下についてくれるなら、教えますよ。冴島さんさえ仲間になっていただけたら、百人力だ。真島さんからは、手も引きます」


ふざけんな、と怒鳴りたかった。
だが声も出せない程、呆れかえっていた。


「そんな考え方してる奴は、7代目になる器はあらへん」
「堂島大吾だって、俺には東城会を纏める器は無いと思ってますよ?現に東城会は、何度も傾きかけている」


鼻で笑う宮藤に、更に苛立ちが募る。
やはりこういう男は、心の底から苦手と感じた。
気分を害した冴島をよそに、宮藤は再び時計を見る。


「それは、全部乗り越えてきたやないか」
「全部?全部、4代目のおかげじゃないですか」


思わず、反論する口を閉ざす。
元4代目、桐生一馬の功績は確かに大きかった。
間違った方向に進もうとする大吾を正したり、助けたり。
桐生がいなければ成し得なかった事も、かなり多い。
それだけに、宮藤の言葉を全て否定する事は出来なかった。


「4代目だって人間だ。年老えば、東城会に関わることすら出来なくなる。そもそもあの人は今、堅気ですよ?」
「……俺らで、6代目を支えていくしかないやろ」
「冴島さんも真島さんも、歳考えてください。老いには勝てない、力を失う。それなら、若い奴にそろそろ譲るべきだと思うんですよ」


老いには、勝てない。
その言葉が、胸に突き刺さった。
今は振るう力はあれど、いつしかその力は失ってしまう。
自身の拳を見つめ、その考えを頭に巡らせる。


「東城会の未来を考えているなら、今6代目を引きずり下ろすべきだと俺は思いますよ」
「……無理に引きずり下ろしてまで東城会のトップになった奴がおったら、それは本当の東城会の終わりなんやろうな」
「何っ?」


拳を握り、冴島は宮藤に向き直る。
まるで餌を狩る獣の様な、恐ろしい目つきを見せた。


「東城会の未来を託せる奴は、6代目自身が決めることや。俺らがそれを、奪う権利はあらへん」


今度は、冴島が拳を振るう。
宮藤は守る素振りを見せず、逆に立ち向かってきたのだ。
交わる拳は、同時に互いの顔面を突き刺す。
しかし、威力は冴島が上だった。
宮藤の身体は吹っ飛ばされ、2回バウンドした後うつ伏せの状態で地面に倒れこむ。
顔面に食らった冴島もまた、後ろに吹き飛ばされ地に尻餅をつく。

予想外の威力だった。
奴の拳から繰り出された威力は、体格のいい冴島を吹っ飛ばす勢い。
細い体から出された拳とは、到底思えなかった。

呆然とする冴島の前で、ゆらりと宮藤は立ち上がる。
口から垂れる血を拭い、小さく笑った。


「冴島さん、貴方は本当面白い男だ……」


時計をまた確認し、首を横に振る。
その顔は、とても残念そうだった。


「残念ですが、仕事の時間なのでこれで……。先程の件、考えておいてください」


宮藤はその場を立ち去ると同時に、神室町の人々が姿を現す。
今まで殺風景だったミレニアムタワー前は、あっという間に人で埋め尽くされる。
冴島はその道の真ん中で、呆然と立ち尽くしていた。

東城会の未来、そして7代目。
大吾の口から、7代目の者の名は聞いた事はない。
果たして6代目は、バトンを託す者を決めているのか……。

今は、それだけが頭に浮かんでいた。 
 

 
後書き
次回5/13更新 
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