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ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~

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フェアリィ・ダンス編
  第37話目覚めぬ家族

 
前書き
フェアリィ・ダンス編、始動 

 
竜side

2025年1月19日

オレの名前はライリュウーーーいや、神鳴竜。それがオレの、本当の名前。去年の11月7日、オレはSAOの世界を、あの世界で一緒に戦ってきた仲間達の助けもあり、クリアする事が出来た。いざ目を開いたら身体がとても重く、自分が一瞬老人に見えるほど衰弱しているのがよく分かった。二年という時間をその時、初めて長く感じた。
オレと同じくSAOから生還した者達ーーーSAO生還者(サバイバー)達は施設に入院し、約二ヶ月間のリハビリを終え、数人ではあるが自分の家に帰る事が出来た。特にオレは左腕の再生も行っていたため、二ヶ月で帰宅出来たのがラッキーだった状態だった。
オレの自宅は東京のかなり端の地域、埼玉県のすぐ近くだ。

「竜ー、これ運ぶの手伝ってくんない?」

「身体ガタガタの息子にナニ持たせる気だ・・・キングサイズのベッド、ふざけんなアホ親父」

今身体ガタガタのオレにキングサイズのベッドを運ばせようとしたこのメガネをかけた男、神鳴辰馬(かみなりたつま)。オレの父親だ。昔からいい加減でだらしなく、すぐオレや兄の龍星に泣きついてくる。龍星が中学を卒業してすぐにイギリスに留学したのは恐らくこのオッサンの頼みの綱をオレ一人に絞って、自分には滅多に頼み事をさせないようにするためだったんだろう。全く、自分の息子と娘が二年間常に喉元に刃物を突き付けられてるような状況だったのに、戻って来たらコレだ。これだけは言わせてもらう、自分で運べ。

「りゅーちゃん、リンゴあるけど剥こうか?」

「いや、そのまま貰う。ありがとう母さん」

今オレの事を「りゅーちゃん」と呼んだのはオレの母親、神鳴ミク。ミクがカタカナ変換なのは漢字にすると「未来」になるので、区別するためにカタカナ変換にしている。穏やかで優しく、家族みんなを平等に愛してくれる、謂わば母親の鑑である。一応、オレも未来も龍星もしっかり愛してくれるがーーー

「ママー!僕にもリンゴちょーだぁい!」

「OKパパァ!はい、あ~ん!」

「う~ん!罪深いほどに贅沢な一品だぁ~!ママからの愛の味がするよ~~!」

「もうパパったら~~♪」

見て分かる通り、両親は超の付くレベルのバカップルである。これでも一応結婚して20年近く経つのにこのアツアツっぷり、恋はいつでもハリケーンならぬ愛はいつまでもボルケーノである。オレがSAOでキリトやアスナさんのアツアツっぷりに嫉妬などの感情を覚えなかったのは、身内にそれ以上のアツアツバカップルがいるからであろう。そうだーーー

「父さん、オレもやるよ」

「お!?竜もくれるの?ありがとー、パパは世界一の幸せ者だよ・・・はい、あ~ん♪」

「ほいパス」

突然だが、ここでオレの今の身体能力について教えよう。オレはSAOに入る前に通り魔事件(SAOにいる間に犯人は捕まったらしい)に遭遇し、左腕を見事に持ってかれた。それでSAOにいる間に龍星が開発した新薬で左腕が再生され、今では隻腕ではなくなっている。ここで一つ問題なのが、オレの左腕に投与された新薬には過度のドーピング作用があり、とてつもない馬鹿力になるという事。その効果は、今「あ~ん」と口を大きく開いている気持ち悪いメガネのオッサンに投げ渡したリンゴがーーー

ベチャッ

「おわあぁぁぁぁぁ!?リンゴが空中でリンゴのすりおろしになったーーー!!」

「まあ!パパの顔がリンゴまみれに!!」

ドーピングなんてレベルじゃねぇだろ。左手で投げ渡したリンゴが空気摩擦で赤い皮がなくなり、あっという間にすりおろしになったぞ。
これが新薬の最大の副作用、投げた物が原形をとどめる事が出来ないレベルのドーピング。実は歩行のリハビリの最中に鉄製の手すりを握り潰してしまった事もあった。でもこれは力の制御を覚えれば日常生活に悪い影響はないらしい。後々ゆっくり覚えればいいが、少し心配だなぁーーー

「ん?そういえば父さん一昨日タンスに何か入れてたよな?アレなんなんだ?」

「えっ!?ああ、アレは・・・アハハハ・・・」

ーーーやけに怪しいな。あの時やたら挙動不審だったし、母さんに見つかるとヤバイ物っていうよりオレに見つかるとヤバイ物って感じだった。しかも少し大きめの包みだったしーーー

「・・・何か隠してんだろ?」

「まあ・・・ゲーム?・・・っスかね?ちょっわかんないっスけど・・・ま・・・まぁ・・・細かい事は?良んじゃない?的な?」

「そっ・・・そーそー!ゲームよきっと・・・人には絶対出来ない事が出来て・・・あっ違う出来ない事じゃない!人には出来ない事が出来るなんて私知らないから!」

「相変わらず嘘ヘタだなオイ。何隠してんだ?」

『あー!あー!りゅーちゃんタンマ!!』

昔からオレの両親は嘘が超ヘタクソだ。全く知らない人でもここまでの態度を見せられたら一発で嘘だと見破れるだろう。さーて、オレに内緒で何をしてたんだ?
オレは例のタンスを開き、中を漁り始めた。その中に大きな包みがあった。これだな、父さんが隠してた物は。その包みのセロテープを剥がし、包装紙を開くとーーー謎のリング状の物体があった。名前はーーー

「《アミュスフィア》?」

全く聞いた事がない名前だった。こんな物を父さんと母さんが揃って隠す必要があるのか、この《アミュスフィア》すら知らないオレには分からない。何でか「今度こそ安全」ってのも書いてあるしーーー他にも小さな包みがあるな。その包装紙も開いてみたら、確かにゲームらしき物のパッケージもあった。それの名前はーーー《ALfheimonlne》?

「なんだよコレ?」

「・・・VRMMORPG、《アルヴヘイム・オンライン》。それを機動するためのデバイス、《アミュスフィア》だ」

「V・・・!?まだVRMMOなんてあったのか!?」

「だからりゅーちゃんに隠してたのよ・・・」

なるほど、そりゃオレに見つかりたくない訳だ。現にオレはVRMMOにーーー《ソードアート・オンライン》にいたんだから。
《アルヴヘイム・オンライン》ーーー北欧神話をモチーフにしたゲーム。それを遊ぶために作られたのがこの《アミュスフィア》。あのイカれた世界をまた作り出したのはーーー《レクトプログレス》?よくもまあこんな物作ってくれたなーーー

「二人が隠してた理由がよく分かった。遊びたくて買ったんなら好きにすればいい・・・」

「竜?お前どこ行くんだ?」

「見舞いだよ。その後墓参り」

「・・・いってらっしゃい」

オレはあの世界はもう見たくねぇ。だからあの《アミュスフィア》と《アルヴヘイム・オンライン》ーーー通称《ALO》を父さんに押し付けて出掛けに行く。今日はまだいってないからなーーー




******




実を言うと、SAOから全員が生還出来た訳じゃない。ゲームクリアの後、入院中だったSAOプレイヤーのほとんどが目を覚ましたーーーそう、()()()()が。実は現実に戻れていないプレイヤーがいる。その人数、約300人。その中には、アスナさんがーーー本名、結城明日奈さんもいる。オレがSAOで出会った戦友も、未だ現実に意識を覚醒しない。その300人の中にはーーー

「よう、来たぜ・・・ったく。ただ寝てりゃ可愛い妹なんだけどな・・・ホントにそうだぜ?未来」

未来でさえも現実世界に戻って来なかった。SAO事件は、まだ終わってはいなかったーーー

「・・・本当に全員ログアウトしたのかよ?茅場」

世間では、今なお行方不明の茅場晶彦による陰謀だと騒がれている。最後は敵として戦ったオレとしては少なくともーーー茅場晶彦は約束を破る人間ではなかった。あいつはあの時、自分を倒せば全プレイヤーをログアウトさせると言っていた。そしてオレは茅場に勝利し、今この現実世界に生きている。約束を守るつもりがなかったのなら、今もオレ達はSAOにいるはずだ。ごく一部のプレイヤーを残して世界を崩壊させるなんてーーーどうしてもあいつがそんな事をするとは思えない。

「未来お前・・・なんでそんなに肌キレーなんだよ?オレなんてじーさんみたいになってたぜ?・・・「女だから」とか言わせねーぜ」

なんでだろうーーーすごく、すごく虚しい。目の前に妹がいるのに、会話を交わせない。どんなに喋っても返事は来ない。オレが一方的に喋ってるだけ。兄妹の会話ってーーーこんなにおかしな絵面だったか?

「・・・今日はもう行くな。また来るよ、約束・・・約束するから」

オレは一方的に約束して、今日はこれで病院を出る事にする。約束はーーー守れるかどうか自信ない。だって、あいつの、未来のこの姿をずっと見なければならないと思うと辛くて、辛くて堪らないんだーーー




******




オレは未来の見舞いの後、とある墓地に足を運んだ。ここにはアイツが、オレの大事な奴が眠ってるから。

「よう、また来たぜ。未来は・・・相変わらずだよ。分かんなくてもいいよ。その方が・・・お前らが傷つかないで済むからさ、亜利沙」

河村家之墓ーーーここにはオレの友達、河村亜利沙が眠っている。オレは御線香に火を着けて、手向けの花を飾る。SAOで亜利沙達が死んでから、一年と半年が経つ。最後に会話を交わしたのは、オレが一回茅場に負けて、どっかおかしなでみんな揃ってオレの背中を押してくれたんだっけーーー

「本当に・・・あれは、お前らだったのか?」

口に出してから、自分が嫌になったーーー墓を相手に、何を聞いてるんだ、オレは。

「もしかして・・・神鳴竜くんですか?」

「ん?」

突然後ろからオレの名を呼ぶ声が掛けられた。振り返ってみるとそこにはーーーピシッとしたスーツに身を纏い、メガネをかけた青年がいた。見たところーーー20代後半ってところかな?

「ええ、神鳴竜は・・・オレの名前です」

「やはりそうか!君があの《二人の英雄》の一人、ライリュウくんか!」

「え、えぇ・・・」

この男、なんでオレがライリュウって呼ばれてた事を知ってるんだ?SAOにいたのか?それに、オレの事を《二人の英雄》だとかなんとかーーー

「あの、一応SAOでの名前で呼ぶのは、現実(リアル)ではタブーでして・・・それに貴方は?」

「あぁ、そうでしたね。ご無礼をお許しください。私は須郷伸之、総合電子機器メーカー《レクト》のフルダイブ技術研究部門の主任研究員をしております」

「《レクト》!?」

総合電子機器メーカー「レクト」、それって確か《アミュスフィア》や《ALO》を作ったーーーそんな人がオレになんの用だ?

「あの・・・《二人の英雄》ってなんですか?それに、貴方は亜利沙さんの・・・ご親戚の方か何かで?」

「いえ、私は河村家の方とはなんの接点もありません。私の部下が神鳴くんに会ってみたいと申していまして。《二人の英雄》というのは、神鳴くんともう一人、キリトくんのコンビをそう呼んでいる方が大勢いるんです」

亜利沙の親戚じゃないのか。自分の部下がオレに会いたいからって言ってるけどーーーその部下の人どこだよ。この須郷って人だけじゃねぇか。《二人の英雄》ってのも大袈裟だな。オレは美味しいトコ勝手に持ってっただけ。英雄になりたかった訳じゃない。

「須郷主任!遅れて申し訳ありません!」

「ん?部下ってもしかしてこの人ですか?」

「えぇ、彼女は橘雪乃。有能な部下ではあるのですが、うっかり屋なのがたまに傷でして・・・」

今日は突然な事が多いな。今オレ達の下に軽く駆けてきたこの長い茶髪をサイドアップにした女性、橘雪乃(たちばなゆきの)。見た目は、そうだなーーー19歳から21歳くらいか?やけに若いな。新人の人なのか?どうやら須郷さんの言う通り、うっかり屋さんみたいだな。

「橘くん、彼が・・・」

「神鳴竜さんですね?お会い出来て感激です!お墓参りのお邪魔をしてしまって申し訳ありません」

「あ、はい・・・大丈夫です。そろそろ別の友達の所に行こうと思っていたところだったんで・・・」

この橘さんという人に握手を迫られたから、オレは彼女の手を握る。正直言うと、今日はここまでにして家に帰るつもりだった。これ以上墓参りを続けてると、本気でどうにかなっちまいそうだったからーーー

「須郷主任、そろそろ・・・」

「あぁ、そうだね。これ以上神鳴くんのお邪魔をしてはいけない。もうそろそろ明日奈の所へ・・・」

「え?明日奈さんって、もしかして結城明日奈さん?」

「えぇ、その通りです」

この二人ーーーアスナさんの知り合いなのか?確か聞いた話だと、《レクト》のCEOのご令嬢らしいけど。一部門の主任が呼び捨て出来るような人じゃないだろ、アスナさんはーーー

「実は私・・・明日奈と結婚する事になりまして。来週の26日、今彼女が入院している病室で式を挙げるんです」

「・・・は?」

今、なんて言った?アスナさんと須郷さんがーーー結婚する?確かにいつ目覚めるか分からない状況だけど、いくらなんでもーーー

「須郷さん、アスナさんにはキリト・・・桐ヶ谷和人っていう恋人が・・・」

「えぇ、存じております・・・

























存じておりますが、それがどうかしましたか?」

「・・・え?」

コイツ、急に人が変わったみたいにーーーそうか、やっと分かった。コイツの本性ーーー

「アンタ、アスナさんの昏睡状態を利用するつもりか?」

「利用?これは正統な権利なんだよ。僕は明日奈の父、結城彰三氏の腹心の息子でね。昔から家族同然に可愛がってもらっていたよ」

その家族同然に可愛がられてた男がこれか、アスナさんの親父さんも見る目がないんだな。多分見てるのは技術面だけ、人間面は見てないんだろうな。それでその正統な権利を持つのがーーーこのクズ野郎って事か。

「神鳴くん、SAOを開発した「アーガス」がその後どうなったか知っているかい?」

「・・・解散したそうだな」

《ナーヴギア》および《ソードアート・オンライン》の開発費に加えて、SAO事件の保障で莫大な負債を抱えた事で「アーガス社」は消滅。そしてーーー

「SAOサーバーの維持を委託されたのが、結城彰三氏がCEOを勤める総合電子機器メーカー・・・「レクト」だ」

それに加えて、須郷はフルダイブ技術研究部門に属している。つまりーーー

「明日奈の命は、この僕が維持していると言っていい。それと同時に・・・」

須郷はアスナさんの命を握っている。それだけじゃなく、須郷は顔をオレの耳に近づけ、そっと、こう耳打ちしたーーー

「未だ覚醒していないSAO未生還者、そしてその中の一人・・・君の妹さんの命も僕が維持している」

「ッ!?」

未来の命をどうしようか、須郷はそれを好きに出来る立場にいる。

「先ほど言った通り、式は1月26日、明日奈の病室で行う。大安吉日でないのが残念だが、友引だから君やキリトくんにも招待状を送ってやるよ」

色々ありすぎて、そんな情報どうでもよく聞こえちまうよ。そう言って須郷はこの墓地を後にする。

「・・・待てよ、橘さん」

オレは須郷の後を追おうと歩き出した橘さんを呼び止める。この人、どうしてあんな奴にーーー

「私には私の目的があります。それを果たすためには恐らく、いえ、きっと・・・」

彼女はオレが考えていた事を読んでいたかのように答え、オレに何かを差し出した。それはーーー

「メモリーカード?」

「それでは、またお会いする時まで・・・」

彼女もそれだけ言い残し、須郷を追って歩き出した。
須郷伸之、橘雪乃、望まぬ結婚をさせられるアスナさんと、それを知る事になるかもしれないキリト、目覚めぬ未来、そして渡されたメモリーカード。オレにーーー

「オレにどうしろってんだよ・・・」




2025年1月20日

今朝、オレのパソコンにメールが届いた。差出人はオレと同じSAO生還者(サバイバー)、エギル。そのメールには一枚の写真データが添付されていた。それは、金色の大きな鳥籠。その中にはーーー

「アスナさん・・・?」

彼女にそっくりな女性が入ってーーー閉じ込められていた。
 
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