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家庭教師

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3部分:第三章


第三章

「野暮ったいし地味だし」
「同じような意味じゃないのか?」
 クラスメイトは彼の言葉に突っ込みを入れた。
「それって」
「そうか?それに愛想もないし」
「成程な」
 義光の言葉を聞いて納得した顔で頷く。
「無愛想か」
「表情が変わるとことはあまり見たことがないな」
 憮然として述べる。
「少なくとも俺はな」
「出す宿題とかかなり多いんだってな」
「それはどうでもいい」
「どうでもいいのか、それは」
「俺はな。だってな」
 そうしてまた言うのだった。
「勉強になるからな。合格する為の」
「その為には平気か」
「何だってしてやるさ」
 また言葉が強くなった。
「あの娘と一緒の大学に行く為にはな」
「何でも我慢してか」
「そういうことさ。それで今日も先生来るんだ」
「毎日来ることになったんだってな」
 これも義光から聞いている。やはり嫌そうな顔の彼から。
「そういえば」
「ああそうさ」
 彼もそれを認める。
「幾らでもやるさ」
「それも後一月だな」
 期日はそれだけだった。泣いても笑ってもそれだけだ。
「最後までやれよ」
「ああ」
 クラスでそんな話をしていた。下校の時には帰る途中でその想い人の後姿を見ていた。そうして意を決した顔で家まで帰る。ところがそれを後ろから見る影があるのには気付いていなかった。

 入試まであと五日になった。先生は今日も授業をしていた。それが終わり宿題を出した時だった。
「ねえ」
 不意に彼に声をかけてきた。
「何ですか?」
「この前言ったことだけれど」
「入試のコツでしたっけ」
「いえ、違うわ」
 それはすぐに否定された。
「ほら、合格したらよ」
「ああ、あれですか」
 言われてやっと気付いた。合格したらいいことがあるとかそういう話だ。
「思い出しました」
「あくまで合格したらだけれど」
 先生はそう前置きしてまた言ってきた。
「いいことがあるのは覚えていておいてね」
「はあ」
 先生の言葉に一応は頷いた。
「わかりました」
「言いたいのはそれだけ」
 それだけ言うとすぐ席を立った。
「それじゃあね」
「わかりました。それじゃあ」
 先生の挨拶に応えた。
「また明日」
「はい」
 こうしてこの日の授業も終わり次の日も終わった。試験も無事終わり遂に合格発表の日となったのであった。
 義光は一人で合格発表の場に行くつもりだった。だが何故か先生も一緒について来たのであった。
「一人でいいですよ」
 嫌な顔になりそうなので必死で隠して言う。
「一人で行けますし」
「いいから」
 それでも先生は彼の言葉を聞き入れずに述べるのだった。
「一緒にね」
「どうしてもですか?」
「ええ、どうしても」
 やはり聞き入れようとしない。先生はかなり強引に義光の後をついて来た。そうして遂に合格発表の場まで来たのであった。そこは志望校の入り口であった。
 そこには既に多くの学生が集まっていた。貼り出された合格者の番号一覧を見てそれぞれ一喜一憂している。こうした場では常であるが喜んでいる顔もあれば落ち込んでいる顔もある。義光はそんな顔を見ても何とも思わなかった。
「自信あるのね」
「当然です」
 先生にきっぱりと答えてみせた。
「勉強してきましたし試験自体もできましたから」
「そうなの」
「そうです。だから」
「じゃあ見るといいわ」
 先生は掲示板を指差して言った。
「きっとあるから」
「当然ですよ」
 何も動じることなく掲示板の前に行く。そうして受けた学部のところを見ると。彼は当然といったような顔で言うのであった。
「ありました」
「よかったわね」
「はい、後は」
「それね」
 残る話は一つだけであった。
「彼女は」
「えっ!?」
 義光は今の先生の言葉にギョッとした顔になった。なってしまった。
「何でそれを」
「今自分で言ったじゃない」
「しまった」
 失言であった。余計なことを言ってしまったと後悔する。しかしもう後悔してもどうしようもない。言ってしまったことは二度と戻りはしないのだから。
 
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