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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)

作者:sorano
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第154話

9月25日―――



~第三学生寮~



特別実習日の朝、A班、B班共に玄関に集合していた。

「―――8時20分。まだ来ていないのはエリオットと先輩だけか。」

「エリオットさん達と一緒に相談していたアムドシアスは真夜中に私が眠っている間に戻ってきたようですが……」

周囲を見回してその場にいない人物をマキアスとプリネはそれぞれ確認し

「ふふ、昨日は遅くまで出し物の企画を練っていたようだからな。」

「ああ、ステージの方向性はだいたい固まったんだけど……曲と演出については3人共拘りがあるみたいでさ。」

苦笑するガイウスの言葉にリィンは疲れた表情で頷き

「アムドシアスって、音楽に関しては滅茶苦茶うるさいもんね。」

(当然だ!”ロックミュージック”は個人的には好みではないが、それでも”ディル=リフィーナ”の今では誰にも伝えられておらぬ(いにしえ)より伝わりし音楽!絶対に妥協は許さん!)

「アハハ……」

「フフ、でもそれだけ熱心になってくれるのですから、きっといいステージになりますよ。」

エヴリーヌの言葉を聞いたアムドシアスは力強く答え、ツーヤは苦笑し、セレーネは微笑んだ。



「あはは、なかなか楽しそうなステージになりそうだねー。」

「ふう、エリオットとアムドシアスはともかくクロウの方は気になるわね……」

「まあ、それについてはまずはお任せするとして……」

「それにしても昨日の夜はいささか驚かされたな……教官があんな事を言い出すとは。」

「ああ、そうだな……」

ラウラの言葉に頷いたリィンは仲間達と共に前日の夕食時の出来事を思い出した。



前日、夕食時―――



「―――そうそう、明日は出発前に士官学院に寄ってもらうわ。朝9時にグラウンド集合。A班、B班共に遅れないように。」



~現在~



「サラが唐突なのはいつものことだけど。」

「まったく……一体どういうつもりだ?西部にある”オルディス”など列車だと8時間はかかるだろう。」

前日の出来事を思い出したフィーとユーシスは呆れ

「ええ、到着する頃には日が暮れてしまいそうですね。」

「あまり出発時間が伸びてしまうと、今日中にオルディスに到着できるかどうか怪しいですね……」

「うん、ルーレだって5時間以上はかかるんだし。どちらも始発列車に乗っていてもいいくらいなんだけど……―――シャロン。思わせぶりに控えてるけど、何か事情でも知ってるわけ?ルーレが実習先になるならまた先回りするんでしょうけど。」

エマとプリネと共に考え込んでいたアリサは食堂の出入り口の前で控えているシャロンを睨んで問いかけた。



「ふふっ、滅相もありません。あくまで皆様のお見送りをさせて頂いているだけですわ♪」

笑顔で答えたシャロンの答えを聞いたリィン達は冷や汗をかき、アリサはジト目になり

(ぜったい先回りしそう。)

(ああ、それに事情の方も知っていそうだけど……)

フィーの推測にリィンは頷き

(あはは、ゴハンも美味しいしすっごいメイドさんだよねー。)

(ええ……わたくし、シャロンさんやエリゼお姉様のような凄い有能なメイドの方、初めて見ましたわ。)

ミリアムの感想にセレーネは静かな表情で頷いた。



「ゴメン……!ちょっと寝坊しちゃった!」

「おー、おはようさん!」

その時エリオットとクロウがリィン達に近づいてきた。



「おはよう、二人とも。」

「これで全員揃ったな。」

「はあはあ……9時にグラウンドに集合だっけ?」

「何のつもりか知らんがまだ余裕はありそうだな。」

「うむ、A班B班とも、改めて出発するとしよう。お互い、出発前の最終準備もあるだろうしな。」

「そだね。」

「ふふっ、くれぐれもお気をつけていってらっしゃいませ。」

その後準備を終えたリィン達はグラウンドに向かった。



~グラウンド~



「―――来たわね。」

「―――8:50分。ちょうどいい時間だな。」

「サラ教官、レオンハルト教官。もう来てたんですか―――」

サラ教官とレーヴェに話しかけられたリィン達は二人の傍にいるシャロンに気付き

「ちょ、シャロン!?」

「さ、さっきまで寮にいたはずじゃ……!?」

「一体いつの間に先回りを……」

「油断も隙もありませんね……」

シャロンに気付いたアリサは驚き、マキアスは疲れた表情をし、セレーネは目を丸くし、ツーヤは苦笑していた。



「実はサラ様とレーヴェ様に呼んで頂いておりまして。皆様をお見送りした後、こちらに伺った次第ですわ。」

「やっぱり先回りしてた。」

「あはは、シャロンさんらしいというか……」

「さすがはラインフォルト家のスーパーメイドってヤツだな。」

シャロンの話を聞いてリィン達と共に冷や汗をかいたフィーはジト目で呟き、エリオットは苦笑し、クロウは笑顔でシャロンを見つめた。



「ま、個人的にはご遠慮願いたいんだけどね~。一応、A班の”案内役”だから仕方なくってところかな。」

「ふふっ、恐れ入ります。」

「……A班の案内役?」

「そ、それって……」

サラ教官の言葉が気になったリィンは首を傾げ、ある事を察したアリサはシャロンを睨んだ。



「あ、もう来てたんですね。」

「おや、シャロン殿?」

「あれれ、なんで来てるのー?」

「さっきまで寮にいたのに、いつの間に先回りしたの?もしかして転移魔術を使えるの?」

「エ、エヴリーヌお姉様……さすがにそれはないかと。」

「フン、つくづく驚かせてくれるメイドだ。」

「ふふっ、恐縮です。」

するとその時B班のメンバーがグラウンドに来た。



「A班、B班揃ったわね。09:00ちょうど―――ジャストタイミングじゃない。」

「ああ……――来るぞ。」

「へ……」

サラ教官とレーヴェの言葉にアリサが呆けたその時、空から何かの駆動音が聞こえて来た。

「この音は………」

「風を切る音……いや。」

音を聞いたリィンとガイウスは考え込み

「飛行船の音だね。」

「な、なんだって?」

フィーの答えを聞いたマキアスは驚いた後仲間達と共に空を見上げると驚くべき光景があった。



「あ!」

「あ、あれは……?」

「おいおい……なんだぁ、ありゃあ!?」

「―――来たわね。」

驚くべき光景―――アルセイユ号の姿に似た深紅の飛行艇がグラウンドの上空に現れた!



「……………………」

「な、な、な……」

「なんだこれはあああっ!?」

飛行艇を見たリィンは呆け、アリサは口をパクパクさせ、マキアスは信じられない表情で声を上げた!



「あはははっ、カッコイーっ!」

「あら?あの飛行船の形、どこかで見たような……?」

「なにあれ。もしかして”影の国”のどっかにあった”アルセイユ”とか?」

「エ、エヴリーヌさん。さすがにそれはありえませんよ。」

「フフ……―――話には聞いていたけど、ようやく完成したようね……」

深紅の飛行艇を見たミリアムは興奮し、ある事に気付いたセレーネとエヴリーヌは首を傾げ、エヴリーヌの言葉を聞いたツーヤは冷や汗をかいて苦笑し、プリネは微笑みながら飛行艇を見つめ

「紅い飛行船……いったいどこの……」

「正規の飛行艦……にしては武装が少ない?」

エマとフィーは考え込んだ。



「しかし……このシルエットは最近どこかで……」

「そうだ……!”リベールの白き翼”!あれに似てない!?」

ラウラの言葉を聞いたエリオットはある事に気付いて声を上げた。



「”アルセイユ号”……!」

「い、言われてみれば……!」

「”リベール王国”の高速巡洋艦……」

「オリヴァルト皇子がリベールから帝都に凱旋した時、乗っていたという船だな。」

そして滞空し続ける飛行船を見てある事を察したリィン達は石化したかのように固まり

「えっと、まさか……!?」

「こ、このままグラウンドに着陸するつもりなんですか!?」

我に返ったエリオットとマキアスは慌てた様子で声を上げた。



「ええ、もちろん。」

「全長75アージュ……一応、何とかギリギリ着陸できる広さですわ。」

「フッ、その大きさにしたのは偶然か、わざとかは”奴”次第だがな。」

リィン達の反応を面白そうに見ていたサラ教官達は着陸に邪魔にならない位置に移動した。

「はー、ムチャしやがんな。」

サラ教官達の話を聞いたクロウは呆け

「……ていうか何でしれっとサイズとか把握してるのよ!?」

シャロンが飛行艇のサイズを把握している事に気付いたアリサはシャロンを睨んで指摘した。その後飛行艇はグラウンドに着陸した。



「おーっ、スッゴイね!」

「綺麗な船……ですね。」

「本当に……紅い”アルセイユ”だね。」

「エレボニアの紋章……帝国の船であることは間違いなさそうだが。」

深紅の飛行船の着陸にリィン達が驚いたり興奮しているその時

「―――やあ諸君♪10日ぶりになるかな?」

聞き覚えのある声が聞こえた後、なんとブリッジにオリヴァルト皇子とミュラー少佐、そしてレンが姿を現した!


「オリヴァルト殿下……!」

「レン!?貴女まで……!」

「それにヴァンダール家の……」

オリヴァルト皇子達の登場にリィン、プリネ、ラウラは驚き

「また会えたな、諸君。」

「うふふ、お久しぶりね、Ⅶ組の皆さん♪初めましての人達もいるようだけど♪」

驚いているリィン達にミュラー少佐とレンはそれぞれ声をかけた。



「ハッハッハッ。反応は上々のようだね。うんうん、これなら帝都市民へのお披露目も成功間違いなしだろう。」

「うふふ、相変わらず派手な事が好きよねえ、オリビエお兄さんは。」

満足げに笑うオリヴァルト皇子をレンは小悪魔な笑みを浮かべて見つめた。



「し、市民へのお披露目……?」

「あはは……もう何が何だか……」

オリヴァルト皇子の話を聞いたマキアスは戸惑い、エリオットは苦笑した。



「今回、自分はもちろん皇子とレン姫も脇役にすぎない。主役はあくまでこの艦とこちらの方になる。」

「???」

「こちらの方……?」

ミュラー少佐の話を聞いたフィーとエマが首を傾げたその時

「―――久しいな。”Ⅶ組”の諸君。初めての者も多そうだが。」

聞き覚えのある男性の声が聞こえた。



「あ……」

「そ、その声は……!」

声を聞いたリィンとラウラが驚いたその時、なんとトヴァルと共に艦長の帽子を被ったアルゼイド子爵がブリッジに現れた!



「”光の剣匠”……」

「父上っ!?」

「ラウラのお父さん?」

「そちらの方が……」

「かの”剣聖”と並ぶと言われる武人ですね。」

アルゼイド子爵の登場にリィンは呆け、ラウラは声を上げて驚き、フィーやアリサ、プリネは興味ありげな表情でアルゼイド子爵を見つめた。



「トヴァル殿もご一緒か。」

「はは、お互い凄い状況で再会したもんだな。」

「どうしてそこに……そ、その帽子は一体!?」

ラウラは混乱した様子でアルゼイド子爵が頭に被っている帽子に注目した。



「―――紹介しよう。今後、本艦を指揮していただくヴィクター・S・アルゼイド艦長だ。」

「……!」

「あ……」

「まさか”光の剣匠”が艦長を務める事になるなんて……」

「フッ、”アルセイユ”すらかすむほどの存在感だな。」

ミュラー少佐の話を聞いたラウラは驚き、リィンは呆け、ツーヤは苦笑し、レーヴェは静かな笑みを浮かべ

「あはは、そう来たかー。」

ミリアムは口元に笑みを浮かべて意味ありげな表情でアルゼイド子爵を見つめ

「フフ、まあ詳しい経緯は後ほど説明させてもらおう。」

アルゼイド子爵―――カレイジャスの艦長、アルゼイド艦長は口元に笑みを浮かべて答えた。



「な、なんだこれは!?……………」

するとその時男子の声が聞こえた後グラウンドにトワとアンゼリカ、ジョルジュと共にやってきたパトリックが飛行艇を見つめて口をパクパクさせた。

「わああっ、綺麗な飛行船!」

「やれやれ。これは大したものだね。」

「凄いな……聞いていたスペック以上にとんでもない性能みたいだ。」

トワは興奮し、アンゼリカは感心し、ジョルジュは驚きの表情で飛行艇を見つめていた。するとその時ヴァンダイク学院長が近づいてきた。



「学院長……」

「あの、これって……」

「ふふ、驚くのも無理はない。理事長の提案で今回は特別な計らいとなってな。その艦で、それぞれの実習地まで君達を送ってくれるそうだ。」

「ええっ!?」

「ヒュウ、マジかよ!?」

「まあ……!それじゃあわたくし達、あの綺麗な船に乗れるのですね……!」

「やったね。移動が楽になるね。」

ヴァンダイク学院長の話を聞いたマキアスは驚き、クロウは興奮し、セレーネとエヴリーヌは嬉しそうな表情をした。



「ふふ、あくまでお披露目の処女飛行のついでとしてね。いったん帝都に向かってからルーレに直行してくれるって。」

「フッ、相変わらず運がいいな、お前達は。」

サラ教官と共にレーヴェは静かな笑みを浮かべてリィン達を見つめた。



「はは……何というか。」

「お、驚きすぎて頭がクラクラしてきました……」

二人の話を聞いたガイウスは苦笑し、エマは呆けた表情で飛行艇を見つめた。



「―――それでは殿下。そろそろ参ると致しますか。」

「ああ、よろしくお願いする。――――ようこそ、”Ⅶ組”の諸君!アルセイユⅡ番艦―――高速巡洋艦”カレイジャス”へ!」

そして飛行艇―――カレイジャスにリィン達が乗り込むとカレイジャスは帝都ヘイムダルに向かった!





カレイジャスが飛行する様子はエレボニア帝国、メンフィル帝国領の人々が見守る中、飛行していた。



~帝都ヘイムダル・中央駅前広場~



「はは、さすがに我々の高速列車でも敵いませんね。」

「ええ、ですが我々には我々だけの強みがあります。―――例の調査の方は?」

部下達と共にカレイジャスの飛行を見守っていたクレア大尉は気を取り直して真剣な表情でもう一人の部下を見つめて問いかけ

「……やはり露骨な妨害が始まっているようです。各地でも似た状況ですが。」

「わかりました。今後はシフト13で対応。午後には現地に赴きます。」

「「イエス・マム!」」

部下の報告を聞いた後命令を出した。



~聖アストライア女学院~



「すごい、すごいわ!兄様から聞いていたけどなんて素敵な船なのかしら!」

エリスと共にカレイジャスの高速飛行を見つめていたアルフィン皇女は興奮して声を上げ

「はい……本当に。(ふふ……あの船に兄様が乗っているんですね。)」

アルフィン皇女の言葉に頷いたエリスは微笑みを浮かべて既に目で確認するのが難しいくらい距離を離したカレイジャスを見つめていた。



~バルフレイム宮・バルコニー~



「うわあああっ……!あれが”カレイジャス”!兄上が着工した船ですか……!」

バルコニーでカレイジャスの飛行を見守っていたセドリック皇子は興奮のあまり声を上げ

「ふふっ、本当に素敵ですね。オリヴァルト殿下も随分と苦労されていたみたいですし。」

「フ……」

セドリック皇子の背後にいたドレスを身に纏い、頭にティアラを乗せた女性の言葉を聞いた外套を纏った男性は口元に笑みを浮かべ

「……混迷の地に新たな風を巻き起こすか。―――我が息子の器量、改めて見せてもらおうか。」

やがて男性は気を取り直すと真剣な表情で呟いた。



~宰相執務室~



「……………」

「ハハ、あれから2年近くか。あの放蕩皇子、まさかここまで漕ぎ着けてくるとはなァ。しかもリベールの技術協力に加えてメンフィルの魔導技術まで搭載した”アルセイユⅡ番艦”とは……先月の通商会議で追い詰めたアンタへの追撃のつもりなんじゃないか?」

オズボーン宰相と共にカレイジャスの飛行を見守っていたレクターは苦笑しながらオズボーン宰相を見つめ

「フフ……確かにな。」

オズボーン宰相は2年前の出来事を思い出した。



「フフ、まさかここまで私を追い詰めるとはな……士官学院といい、”六銃士”といい、なかなか愉しませてくれる。―――正念場だ、オリヴァルト皇子。既に”遊戯盤”の準備は整った。ここからどう攻めてくるか、楽しみにしているぞ―――」

そしてオズボーン宰相は不敵な笑みを浮かべて呟いた。



その後帝都ヘイムダルを一周したカレイジャスはルーレに向かい始めた。





 
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