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英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第一章~特務支援課~ 第1話

――――『特務支援課』。上層部の腐敗によって市民達の信頼を無くしつつあるクロスベル警察が市民達の信頼を取り戻す為に……そして権力には囚われない事から市民達に信頼されている遊撃士協会の人気を取る為に設立した『市民の安全を第一に考え、様々な要望に応える部署』。”特務支援課”に配属された人員は課長であるセルゲイ・ロウ警部を除いて全員若い新人ばかりの上、治安維持と自治州法の選守を基本理念としている警察内部ではそう言った行為は快く思われない為、設立当初から様々な影口が叩かれて先行きが不安な部署であるが、”特務支援課”に配属された新人たちは様々な”壁”にぶつかりながらも自分達が担当した事件を協力して解決し続けていた。



七耀歴1204年 3月13日――――



”影の国”から帰還し、クロスベル警察に就職したロイド・バニングスもまた”特務支援課”に配属され、新人たちの中で唯一”捜査官”の資格を持っている事から”特務支援課”のリーダーに抜擢されたロイドは自分と共に特務支援課に配属された新人の一人でありクロスベル警備隊出身でスタンハルバードを軽々と使いこなす大柄の赤毛の青年―――ランディ・オルランドと共に警察内部の応援要請の仕事を終え、”特務支援課”の分室にして自分達の寝床がある雑居ビルに帰って来た。



~特務支援課~



「ただいま。」

「帰ったぜ~。」

「あら、お帰りなさい。」

ビルに入った二人が帰宅の際にする言葉を口にするとテーブルで昼食の準備をしていた気品を漂わせるパールグレイの娘―――”特務支援課”のサブリーダーでもあるエリィ・マクダエルが二人に声をかけた。

「なんだ。エリィ達の方が先だったか。」

「ふふ、本部での簡単な書類整理の手伝いだけだから。それでティオちゃんとランチの用意をしていたの。」

「おっ、俺達の分もあるのか?」

「ええ……簡単なパスタとサラダで良ければですが。」

エリィの話を聞いて既に昼食の準備がされている事を悟ったランディの疑問に黒衣の少女――――エプスタイン財団から出向した財団が開発した”魔導杖(オーバルスタッフ)”のテスト要員でもあるティオ・プラトーが答えた。

「十分さ。ありがたく御馳走になるよ。」

「ふふ、それじゃあ二人とも手を洗ってきてね。」

その後ロイド達は昼食を取りながら雑談を始めた。



「そう言えば……ロイドさんたちの方は交通整理の手伝い、どうでした?」

「ああ、結構面倒だったかな。違法駐車してる導力車を力任せで壁際まで移動させたんだ。」

「歓楽街が多かったな。ちょうど公演前だから盛り上がっているみたいだったぜ。」

「そう言えば……来月いよいよ公開されるのね。劇団”アルカンシェル”の新作が。」

ランディの話を聞いて国際的にも有名なクロスベルの劇団―――”アルカンシェル”の新作の公開の時が近い事にエリィは気づいた。

「『金の太陽 銀の月』だな。俺もチケット取りたかったんだがあいにく来月分が全部完売でよ~。再来月の公演のB席がやっと取れたくらいだったぜ。」

「”アルカンシェル”というのはそこまでの人気なんですか……確かに看板スターのイリア・プラティエといえば超が付く程の有名人ですけど。」

人気の劇団の新作のチケットがすぐに取れなかった上席もあまりいい場所じゃない事にランディが残念がっている中、ランディの説明を聞いたティオは”アルカンシェル”の人気の高さに目を丸くした。



「そういえば、アルカンシェルの演目は見た事があるけど……イリア・プラティエの舞台は俺も見た事がないんだよな。」

「やれやれ、不憫な事だねぇ。―――この世には2種類の人間がいる。イリア・プラティエの舞台を見た者とそうでない者だ――――byランディ・オルランド。」

ロイドの話を聞いたランディは溜息を吐いた後自慢げに語った。

「そんな大げさな……」

「ふふ、でも確かに凄いわよ。何て言うか……一度、演技を目にしてしまったら魂が鷲掴みにされてしまうような……この世に”天才”がいるとすれば彼女は間違いなくその一人でしょうね。」

「へえ………(”天才”か………ハハ、あの二人を思い出すな。)」

エリィの話を聞いたロイドは”影の国”で出会った奇妙な関係であった幼い双子の姉妹を思い出した。



「……少し興味が出てきました。しかし、最近回ってくる仕事が妙に多いとは思いましたが……それも原因の一つでしょうか?」

「まあ、クロスベルの創立記念祭とアルカンシェルの新作のお披露目が丁度重なってしまったから……例年よりも警察の業務が忙しくなっているんでしょうね。」

「ま、こっちに回ってくるのはもっぱら雑用ばっかりだけどなァ。」

「まあまあ。それでも一番最初よりは責任のある仕事も来ているしさ。クロスベルタイムズでも皮肉っぽくは書かれなくなったし。」

愚痴を言うランディを苦笑しながら諫めの言葉を送ったロイドは当時の自分達と今の自分達の状況を比べた。

「……それでも、いまだに遊撃士とは比較されていますが。特に、あのエステルさんたちと………」

しかしジト目になったティオの指摘を聞いたロイドはランディやエリィと共に冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「はあ……そうなんだよな。あっちは二人だけなのに何であそこまで活躍できるんだ?」

「他の遊撃士と連携しているから効率的に動けているのかも……私達は4人だけど他の課のバックアップはないし……」

「いや、見た所鍵はあのヨシュアって野郎だな。突っ走りがちなエステルちゃんを実に効率的にフォローしてるぜ。戦闘にしても仕事全般にしても息の合い方が尋常じゃねえ。加えて、踏んだ場数の多さだろうな。」

「ということは、わたしたちもまだまだという事ですか……」

ランディの推測を聞いたティオが溜息を吐いたその時その場は沈黙に包まれた。

「ま、まあ……俺達だって十分成長してるさ。この前から、頼りになる助っ人も来てくれていることだし―――……そういや、ツァイトは?」

「今日は見てないわね……昨日は屋上で一日中、日向ぼっこをしてたみたいだけど。」

「魔獣との戦闘になった時に助けてくれるのはいいんだが……いったい、普段は何してんだか。」

仲間達に慰めの言葉をかけたロイドはかつて関わった事件で危ない所を助けてもらい、以後”特務支援課”に居座って”警察犬”として力を貸し続けている狼―――ツァイトがビル内にいない事に気づき、エリィも不思議そうな表情をし、ランディは溜息を吐いた後苦笑した。



「……彼は誇り高いですから。わたしたち人間の決めたルールに縛ろうとしても無意味かと……」

「いや、警察犬として登録してる以上最低限のルールは守って欲しいんだが。しかし最初は、周辺の住民に怖がられるかと思ったけど……」

「まさか車の事故から子供を救っちまうなんてなぁ。」

ティオの推測に呆れた表情で指摘したロイドはランディと共にツァイトがお手柄をたてた事件を思い出した。

「ハンドルを切り損ねてフェンスにぶつかった運搬車……最初、何の音かと思ったわね。」

「それで慌てて外に出たら轢かれそうになってたリュウをツァイトが颯爽と助けてるし……」

「いや、あのアリオスのオッサンと良い勝負の活躍だったんじゃねぇか?」

「……ですね。」

ツァイトの活躍に関して冗談交じりで呟いたランディの意見にティオは静かな表情で頷いた。



「ふふ……あれ以来西通りの人に特に人気ね。リュウ君たちもすごく懐いているみたいだし。」

「はは、そうだな。ま、あんまりツァイトの人気に頼るわけにはいかないし……俺達は俺達で頑張るとするか。」

「……賛成です。」

「そんじゃあ午後からは支援要請を片付けるとすっか。」

「おう、ちょうど昼食が終わったみたいだな。」

昼食を終えたロイド達が端末に来ている”支援要請”を確認しようとしたその時、特務支援課の課長であるセルゲイがビルに入って来た。



「課長。本部での仕事はもう終わったのですか?」

「いや、まだ途中だ。そろそろ追加の人員が来る頃だから一旦中断してこっちに戻って来たところだ。」

「へ……」

「”追加の人員”って……」

「もしかしてこの”特務支援課”に新たに配属される事になった方がいるのですか?」

自分の疑問に答えたセルゲイの話を聞いたロイドは呆け、エリィと共に目を丸くしたティオはセルゲイに訊ねた。

「ああ。―――喜べ、新人共。今回来る追加の人員は配属期間は短いがあの”風の剣聖”とも見劣りしないベテランだから、そいつの配属期間の間にそいつから色々学ぶといい。」

「ええっ!?」

「あのアリオスのオッサンとも見劣りしないベテランって……一体どんな奴なんッスか?」

「もしかして捜査一課の誰かですか?」

口元に笑みを浮かべて答えたセルゲイの話を聞いたエリィは驚き、ランディは信じられない表情をし、ロイドが目を丸くして訊ねたその時

「うふふ、アリオスおじさんと同レベルに見られているなんて、警察内でもレンは結構高評価されているようね♪」

レンがビルに入って来た!



「え…………こ、子供??」

「まさか貴女が”追加の人員”なんですか?」

レンの登場に一瞬呆けたエリィは戸惑い、ティオは不思議そうな表情で訊ね

「レン!?君までクロスベルに来ていたのか………!」

「何だ、知り合いなのか?」

驚きの表情でレンを見つめるロイドにセルゲイは目を丸くして訊ねた。

「え、ええ………―――!そう言えば以前ウルスラ間道でエステル達と再会した時、『近い内にとんでもない助っ人が特務支援課に来る』って言っていたけど……まさか君が追加の人員なのか!?」

「クスクス、鈍感なロイドお兄さんでもそのくらいの事にはさすがに気づくわね♪――――遊撃士協会ロレント支部所属A級正遊撃士レン・ブライトよ。短期間だけど今日から遊撃士の仕事はお休みして”特務支援課”に配属になったからよろしくね♪」

驚いている様子のロイドの確認の言葉にレンは微笑みながら答えた後自分の事を知らないエリィ達に自己紹介をした。



「遊撃士だぁっ!?オイオイオイ……!何で俺達の商売敵が俺達の所で働くんだよ!?」

「しかもA級正遊撃士と言う事はあのアリオスさんと同じランクと言う事になりますね……」

「ちょ、ちょっと待って!レンちゃん、だったわよね?貴女、今年でいくつになるのかしら?確か遊撃士に就けるのは16歳からのはずだけど……」

レンの自己紹介を聞いて驚いたランディは疲れた表情で指摘し、ティオは目を丸くし、エリィは声をあげて制止した後信じられない表情でレンを見つめた。

「やん♪レディに年齢を聞くのはご法度よ、お姉さん♪」

「いや、見た目は子供にしか見えない君が遊撃士と知れば常識的に考えれば誰でも疑問に思う事だから。―――レンは幼い頃にあのアリオスさんと同じ”八葉一刀流”の”皆伝”を貰った事からレンの強い希望もあって、遊撃士協会が”特例扱い”で幼い頃から彼女は遊撃士として活動しているんだ。確か年齢はティオと同い年のはずだ。」

笑顔を浮かべてエリィに指摘するレンに疲れた表情で指摘したロイドはレンの事を説明した。



「ええっ!?それじゃあレンちゃんはあのアリオスさんと同じ”剣聖”の称号を持っているの!?」

「うふふ……―――”小剣聖”。アリオスおじさんと同じ”二の型”の”皆伝”をユンおじいさんに認められた時にその二つ名を貰ったわ。まあ、レンの場合はどちらかというともう一つの二つ名の方で有名だけどね。」

驚いている様子のエリィにレンは小悪魔な笑みを浮かべて答え

「”もう一つの二つ名”……?」

「――――”戦天使の遊撃士(エンジェリック・ブレイサー)”。それがそいつのもう一つの二つ名だ。ちなみに情報によるとそいつはアリオスクラスの剣士でありながら銃や格闘、アーツもそれらを専門とする使い手達と同等の使い手でもあるとの事だ。」

「あのアリオスのオッサンと同じクラスの剣士でありながら銃や格闘、アーツまで使いこなすとかもはやチートの域だろ……ん?”ブライト”って言えば……エステルちゃんとヨシュアのファミリーネームもそうじゃなかったか?」

不思議そうな表情をしているティオの疑問に答えたセルゲイの話を聞いたランディは疲れた表情で呟いた後ある事に気づいた。

「そう言えば……確か二人の姓は”ブライト”だったわよね……?」

「ああ。彼女は二人の妹だ。それと………以前ローゼンベルク工房で出会ったユウナの双子の姉だ。」

エリィの疑問に答えたロイドは複雑そうな表情でレンを見つめた。



「あ……!」

「そういや、あの時会った嬢ちゃんとそっくりの容姿だな……」

「と言う事はユウナさんもエステルさん達の家族なんですか?」

ロイドの話を聞いたエリィは声を上げ、ランディはレンを見つめながら以前ある事件の捜査中に出会った少女―――ユウナの容姿を思い出し、ティオは目を丸くしてレンに訊ねた。

「うふふ、それについては”ノーコメント”よ。色々と複雑な事情があるしね。レンに聞きたい事は以上でいいかしら?」

ティオの疑問に小悪魔な笑みを浮かべて答えを誤魔化したレンはロイド達を見回した。

「いや、まだ肝心な事が全然聞けていないから。―――課長、何故遊撃士の彼女が”特務支援課”に配属になったのですか?それも大陸全土に20数名しかいないA級正遊撃士がわざわざ仕事を休職して。」

「本人の強い希望によるものだ。将来を見据えて、”社会勉強”として遊撃士に似た仕事でありながら遊撃士ではないこの”特務支援課”で遊撃士では学べない事を学びたいんだとよ。」

「たったそれだけの理由でよく遊撃士協会は最高ランクであるA級正遊撃士の仕事を休職して、この部署に来ることを許可しましたね……」

ロイドの疑問に答えたセルゲイの説明を聞いたエリィは驚きの表情でレンを見つめた。



「うふふ、レンは遊撃士協会にとって”特別な存在”だからね。レンの事をよく知っているロイドお兄さんなら大体の予想はつくのじゃないかしら?」

「ハ、ハハ…………えっと……よくクロスベル警察は遊撃士の彼女が”特務支援課”に来ることを許可しましたね?遊撃士協会とよく比較されている事から遊撃士協会に対して思う所があるのに………」

意味ありげな笑みを浮かべたレンに視線を向けられたロイドは冷や汗をかいて乾いた声で笑った後セルゲイに訊ねた。

「まあ、その話が遊撃士協会から持ち掛けられた当初はそいつの事を遊撃士協会のスパイだとか色々邪推していたようだが……何故か上層部の連中の多くはその話を受け入れる事に賛成の反応でな。実際A級正遊撃士でもあるそいつが短期間とはいえ特務支援課に所属する事はクロスベル警察全体にとってもメリットはあるから、めでたく配属となったとの事だ。」

「へ~……不思議な事もあるもんッスね。」

(ま、まさかとは思うけど……上層部の人達に賄賂とかを送ったんじゃないだろうな……?)

セルゲイの説明を聞いたランディが不思議そうな表情をしている中、警察の上層部がレンが特務支援課に配属する事を賛成した理由を察したロイドは大量の冷や汗をかいて表情を引き攣らせてレンを見つめた。

「ま、そう言う訳だから2,3ヵ月の間だけになるけどこれからよろしくね、”特務支援課”の皆さん♪」

こうして……レンは”特務支援課”に配属される事になった。



その後ロイド達はレンに軽い自己紹介をした後端末に来ている”支援要請”を確認し、それらを片付ける為に”支援要請”の実行を開始した――――




 
 

 
後書き
今回の話でお気付きと思いますが零篇開始は2章からです!なお、レンはここから零篇終了までは特務支援課に所属していますので、零篇終了は閃篇の途中なので閃篇になった時も閃篇の途中からレンが加入する事になります。 
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