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深海棲艦の発生と艦娘の出自記録

作者:null*
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乙姫に関する記録

 
前書き
調査報告─1935年2月4日
調査員にもたらされた情報により陸で人と共に生活する水鬼の情報がもたらされました。


報告によれば対象は陸上で生活を行い、地元住民との友好的な関係を築いています。
食事や睡眠など人間となんら変わりない行動をとっていました。
水鬼と同様の兵器の所持はしていませんでした。

回収作戦─1935年2月6日
第3機動隊により回収作戦が実行されました。
※作戦に関する詳しい内容は文書■■■■■■ー■■■■■ー■■(検閲および削除)を参照して下さい。

地元住民による抵抗により少数の軽症者が出ましたが対象が自らこちら側に出向いた為、回収作成は成功しました。

情報管理部メモ
※この対象を以降"乙姫"と識別呼称。彼女の本名は記録から削除してください。
 

 
調査報告─1935年2月4日
調査員にもたらされた情報により陸で人と共に生活する水鬼の情報がもたらされました。


報告によれば対象は陸上で生活を行い、地元住民との友好的な関係を築いています。
食事や睡眠など人間となんら変わりない行動をとっていました。
水鬼と同様の兵器の所持はしていませんでした。

回収作戦─1935年2月6日
第3機動隊により回収作戦が実行されました。
※作戦に関する詳しい内容は文書■■■■■■ー■■■■■ー■■(検閲および削除)を参照して下さい。

地元住民による抵抗により少数の軽症者が出ましたが対象が自らこちら側に出向いた為、回収作成は成功しました。

情報管理部メモ
※この対象を以降"乙姫"と識別呼称。彼女の本名は記録から削除してください。


乙姫に関する記録


乙姫の所在情報と監視体制について
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最終更新:1955年■月■日


破かれ挟み込まれたメモ

乙姫の所在情報と監視体制に関する情報は最上級機密に繰り上げられました。
以降、これらに関する情報が記録された文書および音声はすべて破棄、もしくは検閲されます。
情報の開示は厳しく制限され、適切ではない者の情報閲覧が確認された場合は逮捕、拘束および尋問されます。

閲覧対象者へ
最上級隠蔽規定では対処不可能な情報漏洩が確認された場合は"姫攫い"が実行されます。







乙姫の概要
識別名"乙姫"は20代前半の女性に見えます。普段の姿は色白の肌に肩甲骨まで伸びる黒髪と灰色の虹彩と黒い瞳孔を持ち、右肩側の首根に長さ5cmの切り傷があります。
体格は中肉中背で身長は165cm、体重は54kgです。ある程度の日本語に加えて未知の言語を喋ります。

乙姫は非常に友好的な態度で敵対的な行動は見せていません。
しかし、心理評価は成されていないので注意を怠るべきではありません。
警戒行動と監視体制は常に最高水準を維持すべきです。

乙姫についてはいくつかの注目すべき点があります。
一つは彼女の身体障害についてです。
心因性の歩行障害を患っており、筋力や骨密度に異常はありませんが常人と同様の歩行が非常に困難なようです。
直立や歩く事自体は可能ですが、後者はかなり遅くまた本人にとっては苦痛に感じるようです。
現在、主な移動は車椅子で担っています。

二つ目の点として体色が変わる現象が見てとれます。
その姿は昨今目撃されるいくつかの水鬼と同様に真っ白な肌と髪、赤い目になります。(以後、これを"活性化"と呼称)
乙姫が水鬼として報告されたのはこの特性が原因です。
証言では特別な活動状態時に起こる現象らしく、これらは本人の意思で操作が可能なようです。
活性状態はかなりの体力を消耗し、休養が必要になります。
非活性状態になれば体色は元に戻ります。


追記:1935年3月16日
度々、収容室内の物品や施設の機器や家具にまるで人と会話するかのように話しかけている姿が観察されています。
例としては書物や机、警備員が装備している小火器です。
これが一つ目の特徴に起因する何らかの反応なのか、乙姫の種における独自の宗教的感性なのかは判明していません。
経過観察は引き続き継続されます。
(聴取記録─1935年3月3日)を参照してください。







歩行訓練の途中で休憩する乙姫。敷地内にて。非活性化状態。1935年3月1日










聴取記録─1935年2月25日

伊賀崎特務調査員による聴取が行われました。

対象者:乙姫
補佐、注釈執筆:露木 洋子 研究員

※露木研究員は乙姫の生活補佐および起源の研究に従事しています。
※生活補佐を担当していることもあり組織内で乙姫の信頼を最も得ていると予想できる人物であること、また乙姫が時折喋る未知の言語の聞き取りの為同席しました。
※注釈による翻訳は完璧ではありません。執筆時点での未知の言語に対する解明は全体の3%ほどと予想されています。




伊賀崎:やぁ、■■■■■■■■。(検閲および削除) 体調はどうかな?
乙姫:伊賀崎さん。白ちゃん(※1)と呼んで。お願いしました。
    体調は良いです。

(※1)回収前に地元の子供達に付けられた愛称のようです。本人は大変気に入っている様子です。

伊賀崎:ああ、これはすまない、白ちゃん。日本語もかなり上手になってきたね。
    さて、今日は色々質問したいんだが良いかな?
乙姫:質問ってどういう意味です?
露木:あなたの事を聞きたいということよ
乙姫:わかりました。
伊賀崎:よろしい。
    じゃあ、最初に君の足についてだがそっちの調子はどうかな?
乙姫:まだ大変に難しい。歩行。
伊賀崎:歩けない事の原因に心当たりはある?
乙姫:あー、下にある茶色。乾いたり、湿ってたり。花がある。
伊賀崎:地面?土のこと?
乙姫:そう地面。土。psauhɔːri(※2)

(※2)恐怖、不気味、得体の知れないものを指す語だと思われます。

伊賀崎:土が怖いんだね?
乙姫:怖い?
露木:土には近づきたくない?不気味?
乙姫:ああ。うん、不気味。えっと"怖い"
   でも"怖い" 打ち倒せる。頑張っている。
伊賀崎:なるほど、克服しようとしていんだね。
   なぜ土が怖いのか心当たりはあるかな?
乙姫:(沈黙)
伊賀崎:いいよ。無理に答える必要はない。
   そうだな。じゃあ、話題を変えよう。
   次は君のその体の色が変わることについて教えて欲しい。
露木:ほら、前に見せてくれたでしょ。えっと、psuteŋtiʌ(※3)だったかな。

(※3)力、権威、神聖や霊的な力も指すようです。神通力?

乙姫:psuteŋtiʌ 大事なもの。でも使うと疲れる。
伊賀崎:今見せてもらうことは出来る?
乙姫:……うん。

<乙姫は活性状態になり体色を変化させる。少し苦痛の表情を見せる。>

伊賀崎:どういった事が出来るのかな?
乙姫:色々……出来る。見れる。
伊賀崎:何が見える?
乙姫:子供たち……。伊賀崎さん達は水鬼って呼ぶ。
伊賀崎:水鬼の……どんな事が分かるかな?
    たとえば居場所や今何をしているのか……見える?

<乙姫はより一層苦痛の表情を見せながら非活性状態になり体色が元に戻る。>

乙姫:無理。今、これ以上はやっちゃ駄目。
伊賀崎:なぜ?
乙姫:向こうもこっちを見てる。

記録終了

これ以上の質問(彼女の出生や出身、水鬼の正体など)の回答を拒否しました。また活性状態の疲労の為、聴取は終了しました。
この聴取以前に乙姫に水鬼の情報は全てにおいて提供されていません。
そもそも乙姫がなぜ"水鬼"という名称を知っているのか現時点でもわかっていません。
後の調査では水鬼についての情報漏洩の痕跡は確認されませんでした。



乙姫の管理されていない活性化は鎮静化され即刻中止される。
全ての警備員と担当研究員・職員は専用の鎮静器具の携帯を義務とする。─統括委員会




露木研究員の報告─1935年3月3日

ここ数週間、乙姫は水鬼に関する情報を積極的に集めようとしています。
私や他の研究員への積極的な質問や卓上書類の勝手な閲覧、看過できないものとしては立入禁止区域や役員の事務室への侵入未遂などです。
隔週のカウンセリングでも不安の兆候が見て取れます。
これは早急に解決すべき問題と提言します。
乙姫との信頼関係や彼女の精神衛生が損なわれることがあれば、我々の研究に歯止めをかけることになるからです。


提言を支持し、対策を検討する。─伊賀崎







露木研究員の報告─1935年3月10日
乙姫が度々、施設内の物品に話しかける様子が見てとれます。
ストレスによる一種の逃避行動なのかもしれません。
経過観察を続行中です。
記録の為、乙姫の関連書類にもこの事について追記するべきでしょう。




聴取記録─1935年3月15日

伊賀崎特務調査員による聴取が行われました。


対象者:乙姫

伊賀崎:今日もいくつか質問したいのだが大丈夫かな?
乙姫:<沈黙>
伊賀崎:心配いらない。水鬼についての事じゃない。
乙姫:なら……大丈夫。
伊賀崎:質問というのは君の行動についてだ。
   ほら、たまに物に話しかけている時があるだろう。
   この前だと蓄音機と話をしていた。
乙姫:彼は情熱……情熱的。
   音楽を愛している。
伊賀崎:それはどういう感じで伝わってくるのだろうか?
   声が聞こえるのかな?
乙姫:声は聞こえない。
   伊賀崎さん達とお話をする、そうゆうのじゃない。
   彼らの考えがわかる。
   説明難しい。
伊賀崎:大丈夫だ、大体……理解している。
   そうだな。じゃあ、例えば……

<伊賀崎は近くにいる警備員の所持しているライフル銃を指差す。>

伊賀崎:あの銃と話はできるか?
乙姫:やってみる。

<乙姫は約30秒間沈黙する。>

伊賀崎:何か聞こえた?
乙姫:あれは怒っている。
   早く掃除してくれって。(※1)

(※1)後の調べでこのライフル銃は書類上の漏れが原因で定期清掃を3年行っていないと判明しました。

伊賀崎:なるほど。
   まぁ、たしかに少し……汚れて見える。
乙姫:かなり怒ってる。
   早く掃除したほうがいい。
伊賀崎:じゃあこれと話はできるかな?
   私の持っているペンだ。
乙姫:それは……無理。
伊賀崎:どうして?
乙姫:考えるがない。
   物と私達違う、生まれた時から考える事ができない。
   私や伊賀崎さんから愛される。すると考えを持つ。
   露木さんが本を見せてくれた。
   えっと、つく……ちぇく……。
伊賀崎:その本はまだ持ってる?
乙姫:これ。(※2)

(※2)子供向けのホラー絵本。内容は主人公が捨てた人形が自宅に戻ってくるというもの。
   作品の中で付喪神について言及されている。

伊賀崎:もしかして付喪神の事かな?
乙姫:そう、付喪神。
   ここにも私達と同じ考え方がある。
   驚いた。
伊賀崎:その……物と話をするようになったのはいつから?
乙姫:私が生まれた時からずっと。
伊賀崎:ではここ最近の事ではないのか。
乙姫:うん、それと伊賀崎さん。
伊賀崎:何かな?
乙姫:夜更かし、伊賀崎さんが体悪くする。
   ちゃんと寝ないとだめ。
伊賀崎:それは誰が言ってるんだ?
乙姫:伊賀崎さんの眼鏡。


記録終了


観察実験一覧
乙姫に物品をいくつか渡し、その反応を見る

#1
方法
乙姫に鉛筆を提供。実験の3時間前に雑貨店にて購入。
結果
特に無し。
乙姫は「考えをもっていない」と発言。


#2
方法
医療用メス。実際に手術に使用されたもの。消毒済み。
結果
乙姫はメスを怖がった。
「悪い子。あまり近づけないで欲しい」と発言。


#3
方法
実験用ネズミの死体。死後1時間のもの。
結果
乙姫は「かわいそう」と発言し、憐れんでいる。
担当者が話をするように促すが「死んだものとは話せない」と発言。


#4
方法
大根。実験の1時間前に収穫されたもの。
結果
特に無し。
担当者がなぜ話をしないのかと問いかけた。
乙姫は「彼らはとても無口」と発言。


#5
方法
日本刀。■■■■■研究員(検閲および削除)の私物であり同氏の家に伝わるもの。
過去の合戦において実際に使用されたとのこと。
結果
■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■
(検閲および削除)







実際に人間の殺害に使われた物品の観察実験は禁止とする。─伊賀崎







会話記録─1935年3月22日
非公式聴取
■■■■■■(検閲および削除)から取得。


露木:じゃあ、今日の日本語の勉強はこの辺にして置きましょう。
乙姫:ありがとうございました。

<露木研究員が教材を片付けに入る。>

乙姫:露木さん、子供たちについて教えてください。
露木:白ちゃん……。前にも言ったけど教えることはできないのよ。
乙姫:ではどうすれば?
露木:残念だけど……。
乙姫:<沈黙>
露木:前々から気になっているのだけど、水鬼のことをなぜ"子供たち"と言うの?
   本当の意味で子供なの?
乙姫:日本語で言う子供とは……ちょっと違う。露木さんは子供います?
露木:ええ。2歳の男の子よ。

<露木研究員は子供の写真を見せる。>

乙姫:露木さん、ずっと私の傍にいる。子供に会いたい?
露木:そうね、会いたい。でも仕事が仕事だから上手くはいかないのよ。
   でも大丈夫。夫がいるし、この仕事も理解してくれている。
   白ちゃんも"子供たち"に会いたいの?
乙姫:うん。えっと……、wzink(※1)はとても大切。
   でもそれ以上に知りたいことがある。

(※1)恐らく絆、信頼。または父母、兄弟姉妹、親友など血縁者や強い信頼を寄せる者を指す

露木:それは重要な事?
乙姫:とても重要。ちゃんと確かめたいことがある
   その為にも会いたい。
露木:それについて今話す事は出来ない?
乙姫:ごめんなさい。
露木:そう……申し訳ないけど水鬼と直接会うというのは難しいかも。
   私達はその……、彼女達に嫌われているみだいだから。
乙姫:露木さん、優しく言わなくていい。
   全部分かる、あなた達とwzinkは血を流している。争っている。
   贅沢はいらない。死んでいても構わない。
露木:死体でも良いから対面したいということ?
乙姫:うん。残酷、でも対面は重要。
   会わないといけない。

記録終了

後に乙姫は今後の情報提供の条件として水鬼もしくはその遺体との対面を提示しました。
敵対的な行動は見せていませんが自身の出自や水鬼に関する質問は変わらず拒否します。




実動要請
水鬼の捕獲、もしくは遺体回収作戦の実施を要請します。─露木


要請に答えたいのはやまやまだが問題がある。
一つは水鬼との戦力差だ。こちら側の被害が大きくなる可能性が高い。
仮に無力化に成功したとしても二つ目の問題として死体消失の件がある。
要請は保留する。─伊賀崎




事件記録─1935年3月25日

午前1:07に当直の警備員が活性化状態の乙姫を確認。
器具の使用で即刻鎮静化されました。

およそ8時間後に露木研究員による聴取が行われました

聴取記録─1935年3月25日

露木研究員による聴取が行われました。

対象者:乙姫


露木:白ちゃん、活性化の状態については前に話をしたと思うのだけれど、
   勝手に使ったのはどうして?
乙姫:<沈黙>
露木:お願い、話を聞かせて。
乙姫:短い間だったけど色々分かった、"子供たち"と会えない理由。
露木:それが本当なら伊賀崎さんの仕事が増えるわね。
乙姫:どういう事?
露木:伊賀崎さんが怒られるってこと。
乙姫:それは……ごめんなさい。でも私も露木さんや伊賀崎さんの役に立ちたい。
   カッセイカは色々できる。
露木:例えば?
乙姫:"子供たち"の居場所が分かる。少しだけ見た。
   皆そこに集まってる、安全だと思って休んでいる。
   それと露木さん達は"子供たち"が消えることに悩んでいる。
   私なら止められる。
露木:それは本当?
乙姫:うん。どう言っていいのか分からないけど……。
   消えるのは"親"が"子供"を連れ帰ってるから。
   そうゆう力がある、私なら邪魔できる。

記録終了





1935年4月3日
露木研究員の要請の保留を解除、作戦計画へ移る─軍事・防衛部
 
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