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もう一人の八神

作者:リリック
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新暦76年
  memory:01 八神家末っ子トリオ

-side 悠莉-

新暦76年の初夏。

ミッドチルダの首都から郊外に抜けて、もう少し南へ。
賑やかな街中からは少し離れた、海が見える高台。
そんな場所にある家の自室から近くの海を眺めていた。

「この世界に来てもうすぐ一年くらいになるなー……」

私の名前は八神悠莉、旧姓は小鳥遊。
昨年にここ、ミッドチルダに飛ばされた次元漂流者で、今では八神はやての義弟だ。
本当ならはやて姉さんが私を引き取ってくれると決まった時、ヴィヴィオのように養子としてということに纏まりそうになったんだけど……

―――「私はまだ19歳や。8つしか違わん子にお母さん呼ばれるんはちょっとな。それよりもお姉ちゃん呼ばれる方がええんや。悠莉君もそう思わんか?」

この言葉で八神はやての息子としてではなく、弟として八神家の一員となった。
それが今年の春先、つまりはつい最近のこと。
私がここへ飛ばされた頃はちょうどJS事件っていうのが起こっていて、それが終わって事態がある程度収拾し、その中が落ち着くまで私は小鳥遊悠莉として過ごしていた。

「ゆーりちゃん、どこにいるんですかー?」

「リイン? 自分の部屋にいるよー」

返事を返すとパタパタと廊下を走る音が聞こえ、次第に大きくなる。

「ここにいたんですか」

扉を開けて入ってきたのは青い髪の女の子、名前はリインフォースⅡ。
この子ははやて姉さんの融合騎で基本的には一緒に行動している八神家の末っ子の一人。
本当なら30㎝くらいなんだけど今はフルサイズでいる。

「リインどうしたの? 何か用?」

「はいです。お昼を作るついでにまたお料理を教えてほしいです♪」

「お昼のついでに? ん、りょーかい。そういえばアギトは?」

「アギトなら台所で準備して待っててくれてます」

「そっか。じゃあ早く行こうか」

「はいです♪」

笑顔で答えるリインに手を引かれながら台所へと向かった。
さて、今日は何を作ろうかな?



「あ、リイン! ユーリ!」

台所で出迎えてくれたのはリインと同じくらいの身長の赤い髪の女の子のアギト。
シグナムの融合機でもう一人の八神家の末っ子。
私と同じでJS事件後に八神家の一員となった一人。
最初の頃はうまく馴染めずにいろいろ悩んでたけど、今ではリインといいコンビをしています。

「アギトお待たせ。さて、今日は何を作ろうかな?」

冷蔵庫の中身を見ながら献立を考えてると、

「なぁなぁ! カルボナーラ何てどうだ?」

「カルボナーラですかぁ……いいですね! あ、でもそれじゃあ栄養が偏るから付け合せにお野菜たっぷりのコンソメスープも作って……!」

「ナイスだリイン!」

品目も決まって材料を用意する。

「それじゃあ今日のお昼は二人の言うとおりにしようか。いつものように簡単に教えて途中でアドバイスとかする程度だからね」

「おう!」「はいです!」

満面の笑みで返した二人にそれぞれ作るものを決める。
アギトはメインのカルボナーラでリインは付け合せのコンソメスープを担当することになった。
そして調理を始める。

同時に料理を作っているリインとアギトにアドバイスを返しながら見ている。
はやて姉さんが料理好きということもあって台所が一般の家よりも広い。
だからリインとアギトに料理してもらいながら教えるのが効率いいんじゃない? と思ったからだ。
まぁ、流石に同時に聞かれたときは困ったけど。



天気も良く、気持ちいい風が吹いてるのでテラスに出て三人で仲良く完成した料理を食べていた。

「うぅ…失敗した」

「多分フライパンの温度が高すぎたからいり卵パスタになったんだろうね」

「ドンマイですよ、アギト」

「そうだよ。初めてでこんだけできたんだから上出来だよ」

アギトは自分が作った料理を失敗してしまったことに軽く落ち込んでいた。

「私なんてもっと酷かったんだから。今回のアギトのようにいり卵にしたり、味付けがめっちゃ濃くなりすぎたり、パスタ自体を湯がきすぎてどろっどろにしたりね。他の料理も結構失敗したなぁ」

「そうなんですか?」

「うん。だからお師匠たちに教えてもいながら何度も何度も繰り返しやった。そのおかげでいろんな料理を作れるようになったし、ここまで上手くなったんだから」

「そっか……それじゃあ、あたしもユーリみたいに上手くなるかな?」

「そりゃね。なんたってここ、八神家には私以外にも姉さんがいるんだから上手にならないわけがないよ」

元気づけるように隣に座るアギトの頭を軽く撫でる。

「そ、そうかな? えへへ」

アギトは手を止めて気持ちよさそうに目を細めた。
まるで猫みたいだなぁ、と思っているとリインがムスッとした顔になっていた。

「むぅ、ゆーりちゃん! 私も頑張ったですよ! だから頭撫でてくださいです!」

「リイン?」

「なんだよリイン! 今はあたしがユーリに慰めてもらってるだろ! んなもん後だ後」

「アギト?」

急にムスッとした顔になったリインが自分も撫でてほしいと言ってきた。
だけどアギトはそれを許さないと言う。
そんな二人を交互に見ながら疑問符を頭に浮かべる。

「そんなことありません! 私はアギトみたいに失敗してませんから普通は一番にご褒美をもらえる資格があるです!」

「ハッ、それくらいだったらあたしにだってできるさ。だからそんなことじゃご褒美なんてねーよ!」

いや、ちょい待て。二人ともそれって私が決めることじゃないの? それにしてもなんでこうなった。私がアギトの頭を撫でただけなのにリインは何でむきになったんだろ? というか二人とも私のこと、放置というか忘れてない?

置いてけぼりの私をよそにリインとアギトの口論は激しくなっていき、言い争うにつれて嫌な方向へと進んで行った。

あー…こりゃヤバいね。二人ともむきになり始めて魔法でケンカをしだしそうな感じだ。はぁ、こんな時にヴィータがいてくれればって思うけど…そううまくはいかないか。……一応忍耐強いとは自負してるつもなんだけど、さすがにこれ以上は無理、かな? ……うん、無理だ。二人自然に止めそうにないなら……だったら…私がどうにかしないと、ね。

「んだとっ! このバッテンチビ!」

「やるですかぁ!?」

と、一触即発に近い状態の二人の背後に回る。
そして腕を広げ、一気に

「はい、ストーーップ!」

「「ひゃっ!?」」

笑顔で二人の頭を抱きしめる。

「ゆ、ゆーりちゃん!?」

「ユ、ユーリ!?」

「二人とも魔法を使ってケンカするのは勝手だけど場所と時間を考えようか。さて、リイン、ここは何処かな?」

「こ、ここは私たちの家です!」

あれ? リインの声が少し震えてる気がする。それにアギトも体を強張らしてるみたいだけど……まぁ、気にしない。

「正解。ここは私たちの家だよね。じゃあ次にアギト」

「は、はい!!」

アギトもアギトでリインのように声が震えてるけど、やっぱり気にしない。

「今私たちは何をしていたのかな?」

「みんなで作った料理を食べてました!」

「アギトも正解。……正解した二人にはご褒美を上げないとね」

―――ギギギギッ

抱きしめる腕に力を徐々に込めて二人の頭を絞める。

「「いたたたたたっ!?」」

「ここで魔法なんて使ったらどうなるかぐらいわかるだろ。それにケンカなら食事の後にやれや。ということで少しは頭冷やせ」

しばらくしてホールドを解除した。

「で、なんで二人はいきなりケンカしだしたの?」

少し間をおいて落ち着きを取り戻した私たちはお昼をとり終えて向き合って話し合っていた。

「だってアギトが意地悪言ったんですよ!」

「それはリインがいきなり変なこと言いだしたからだろ!」

「はいはい二人ともそこまで」

また熱くなりかけた二人を落ち着かせてケンカ中の二人の会話を一通り思い出す。

えっと、確か私がアギトに元気出してもらえたらなって撫でてたらリインが自分もと言い出した。
だけどアギトがそれを拒否して言い争いになった、か。ん? 結局のところ二人とも私に撫でてもらいたかっただけ?

確証のないものの何となくこれかなって思った答えを睨みあう二人にそのまま投げかけた。

「二人に聞きたいんだけどさ、もしかして二人は私に頭を撫でてもらいたかったからケンカしだしたの?」

「「!?」」

「……あれ? 違った?」

二人とも固まってるし…これって私の勘違い!? よく見れば顔が少し赤いけど……怒っちゃった?

二人は赤い顔で互いに頷きあって私にくっついてきた。

「二人とも……えーっと?」

「何してるんだよ」

「早く撫でてくださいです」

はい? なんで? 二人とも怒ってたから顔を赤くしたんじゃないの? なのに頭撫でてなんて……?

戸惑いながらも二人の頭を撫で始めた。
二人とも気持ちよさそうに目を細め、体重を乗せてきた。

しばらくして二人にさっきの疑問を聞いてみた。

「二人とも……私に怒ってたんじゃないの?」

「え? なんでです?」

「あたしたちがなんでユーリを怒んなきゃなんないんだ?」

「え? だって撫でてほしいって勘違い発言したから顔を赤くして怒ってたんじゃ……」

そう言うと……って、ええっ!? なんで二人してため息つくのさ!?

「……ユーリは何でこうなのかな」

「……ゆーりちゃんは鋭いのか鈍いのかわからないです」

「え、えーっと?」

「アギト」

「リイン」

私の戸惑いをよそに互いに顔を見合わせて頷きあって言った。

「「頭なでなでの延長を要求する(です)!」」

結局、溜め息をつかれて理由がわからないまま、二人が満足するまで撫で続けた。

-side end- 
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