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ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語

作者:マルバ
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■■SAO編 主人公:マルバ■■
二人は出会い、そして◆蘇生
  第十七話 計画

コンコン、というノックの音がマルバの部屋に響いた。ベッドに腰掛けていたマルバは膝の上の白い毛玉を横にどかすと立ち上がってドアに向かう。
「はーい?」
「あ、シリカです。あの、まだ二十七層のことを聞いてなかったなって思いまして。」
マルバは扉を開けてシリカを部屋に招き入れた。

「そうだったね。ちょっと説明してなかったな。どうする?下に行く?」
「もしよろしければここで聞いていってもいいですか?『企業秘密』ですし。」
マルバはシリカの言った『企業秘密』という単語にちょっと笑うと、シリカに道をゆずった。
ちょっと待ってて、というと部屋の隅から机と椅子を持ちだしてきてベッドの横に並べ、シリカに椅子をすすめると自分はベッドに腰掛ける。

「それじゃ早速説明するね。」
マルバはポットとカップを二つ、それから十五センチ四方程度のキラキラした宝箱のようなものを取り出した。手早く二人分のホットジンジャー(もどき)を準備する。その隙にベッドの上の白い毛玉はシリカの脚を駆け上がり、膝の上に陣取ってしまった。黒いユキしか見たことがなかったシリカは思わず小さな悲鳴を上げる。マルバが苦笑してユキをたしなめると、ユキは何故か得意げな顔でふふんと笑ってみせた。
シリカは準備できたホットジンジャーをお礼を言って受け取り、一口飲んだ。その間にマルバは宝箱のようなアイテムを操作する。すると箱の上に青く輝く立体ホログラムのような映像が映し出された。どうやらアインクラッドの全体像のようだ。

「うわぁ……綺麗……!」
「でしょ?高かったんだよ、これ。『ミラージュ・スフィア』って言うんだ。武器が新調できるくらいの値段がしたからね。」
マルバは嬉しそうに笑った。

「元々は大規模ギルドとかが作戦を立てるために使うプロジェクターの代わりみたいなものだと思うんだけどね。競売に出されてた時にあまりに綺麗だったもんだからつい買っちゃったんだ」
「そうなんですか~。こういうの好きなんですか?」
「うん。昔からこんなふうにキラキラしたものが大好きでね。なんか昔も投影式のプラネタリウムを買って組み立てたことがあったんだけどね、毎日寝る前に天井に映して楽しんでたっけな。現実だと視力悪いから眼鏡掛けたままでさ、ベッドで横になって見てたらそのまま寝ちゃってね。起きたらレンズがすごく汚れてて焦ったよ。」
思わずその光景を想像したシリカは吹き出してしまった。

「なんかマルバさんって女の子みたいですね。ケーキが好きだったり、キラキラしたものが好きだったり。見た目はぜんぜんそんなことないのに。」
「うーん、よく言われる。妹の影響もね。小さい頃から一緒に遊んでたから、それで考え方が女の子っぽいのかも。学校でも友達は女子の方が多かったしね……っと。話がそれちゃった。ええと、二十七層、二十七層……」

マルバはさらにミラージュスフィアを操作した。立体映像のアインクラッドが四つに分かれ、その下から二番目の部分が拡大される。二十六層から五十層までの様子を表しているようだ。しかしその立体地図にはいくつか黒く塗りつぶされた場所があるようだ。マルバがマッピングしたかデータを買った部分しか表示できないらしい。
マルバの操作に従ってそれは更に二十五の薄い層に分かれると、下から二番目の層のみを残して他は消えてしまった。一枚だけ残った薄い層はぐんと大きく表示されると共に立体感を増し、斜め上から見下ろすような形になるとそこで一旦表示が止まる。
「立体的な鳥瞰図(ちょうかんず)、って感じでしょ。飛行型モンスターはこんなふうにこの世界を見てるのかもね。これが二十七層。で、ここが主街区の『フリーベン』。いい所だよ、綺麗な花がいたるところにあってね、僕の定宿はここにある。で、ここから南のこの道を通って……」
マルバの説明は続く。表示される立体地図は説明に従ってスクロールし、次々と新しい場所を映しだした。その映像はとても美しく精密で、目を凝らせば往来する人々が見えそうなくらいだ。

「……この橋を渡ると、もう丘が見えてくる。その丘のてっぺんに……ッ!?」
シリカの膝の上にいたユキがきゅうっと小さく、しかし鋭く鳴いた。その目はドアの外側を見つめ、歓迎されない来訪者がいることを示す。マルバは一瞬で扉に駆け寄ると、素早く開け放った。

「誰だッ!?」
階段の向こうに何者かが駆けていく。マルバはシリカにこの部屋で待っているように言うと逃げていった人物を追いかけていった。その足元でユキの白い姿が闇に溶けるように黒くなり、マルバを追って姿を消す。

シリカは部屋に取り残されてしまってふてくされたが、マルバとユキは三分くらいで戻ってきた。

「どうでした?盗み聞きなんて一体だれが……?そもそも扉越しの声は聞こえないはずなのに、どうして……」
「《聞き耳》スキルが高いと扉の向こうの声も聞こえるんだよ。……見たことがない男だったな。もうちょっとだったのに転移結晶で逃げられちゃった。僕たちの計画なんて聞いてどうするんだろう……?」

マルバはちょっと悩んでから、シリカに向き直った。
「ごめん、ちょっと気になるから情報屋に《プネウマの花》の詳細を聞いてみるね。ちょっと待ってて。」

マルバはメール作成画面を開き、何かを打ち始めた。宛先は『アルゴ』、腕利きの情報屋だ。シリカはベッドで丸くなるとその後姿を見つめた。その姿は遠い現実世界の記憶にあるフリールポライターの父の姿に似ていて、シリカはそれを見ているだけでとても落ち着いた。彼女はその安らぎに包まれ、ゆっくりと目を閉じた。





シリカは耳元で流れる起床アラームの音楽で耳を覚ました。いつもはシリカが身を起こすと同時に止まる音楽は、しかし、何故か今日は止まらなかった。シリカの聞いたことのない音楽が彼女の耳を刺激する。懐かしい感じのする歌だ。どこから流れているのだろう、と思ってあたりを見渡すと、ベランダに人影があった。
侵入者か、と思って悲鳴を上げかけたが、その直前で昨晩自分がどこで寝てしまったのかを思い出して顔が一気に赤くなるのを感じた。
そんなシリカのことを知らずに、ベランダのマルバは歌い続ける。力強く、しかし優しく、彼の歌声は響く。

〜♪~

マルバは振り返った。シリカがこちらを見ているのを知ると、恥ずかしそうに顔を背ける。
「お、おはよう、シリカ。」
「おはよう、ございます……」

互いにぎこちない挨拶。
しばらく見つめ合い、何を言うべきか考えた後、二人が同時に発した言葉は……
「ごめん!」
「すみませんでした!」

見事にかぶった謝罪の言葉は二人にいつもの調子を取り戻させてくれた。ひと通り笑いあったあと、出発の準備を整える。シリカはマルバに尋ねた。
「朝歌ってた歌、あれなんて歌なんですか?」
「あー、あれね。『森は生きている』っているっていう曲。昔見た古いオペラの劇中歌でね、一度聞いたらすっかり気に入っちゃって、よく歌ってるんだ。」
「歌、うまかったですよ。」
「ありがとう。」
マルバは照れくさそうに笑った。

「この歌を聞くとさ、世界の全てのものが生きてるんだって気がするんだよね。現実世界では確かに風も雲もせせらぎも生きていたかもしれないって思うけどさ、この世界はそういうものって全部偽物でしょ?それでもこの世界のものも生きているって気がするのはなんでだろうね。」

シリカはマルバの言葉を聞いてしばらく考えて言った。
「そもそも生きているってどういうことなんでしょう?」
「うーん……そういえば……なんなんだろう?」

二人はしばし考え込んだ。
「生きることを『生まれて、死んでいないこと』と定義したらどうだと思う?」
「それだと、この世界でポップしたモンスターも生きていることになりますね。……あ、でも生まれたとか死んだとかが分からないものってのはどうなんでしょうか?」
「『小川のせせらぎ』とかまさにそれだよね。うーん、それじゃ、『存在しつづけること』だったら?」
「……いいかもしれません。……あ、でも、死んじゃったら『生きて』いないですよね……」
「?」
「ええと、つまり、生き物はいつか死ぬじゃないですか。でも死んでも身体は存在していると思うんですけど……」
「……!あぁ、なるほど。ええと……ううん……じゃあ、どうしよう?」
「……結局生きることってよく分かんないですよね。生きているって思うから生きているだけなのかもしれません。」
「うん、『私は生きている!』って主張できれば間違い無く生きているってわかるけど、それができないものなんて生きているとか死んでいるとか分からないもんね。多分、僕たちが『ああ、これは生きているんだな』って思うものはなんだって生きているんだ。たとえそれがこの世界の偽物でも、ね。」

マルバの膝の上にいたユキがあくびをすると、ぴょんと飛び降りた。
「この子は間違いなく生きている。僕がそう思うんだからそれでいいんだよ、きっと。」


さて、と言ってマルバは立ち上がった。慌ててそれに続くシリカ、駆け寄るユキ。
「それじゃ、そろそろ行きますか。ピナを復活させるぞー、おー!!」
「おー!!」
マルバは大きく宿屋のドアを開け放った。 
 

 
後書き
マルバ、歌います!
今回マルバが歌った曲は私が大好きな曲でもあります。著作権法に触れないため、歌詞は省かせて頂きました。『森は生きている』で検索するとヒットしますので、ぜひ見てみてください。
このシーンはのちのちのための伏線のつもりですが、どうでしょうか。生きるって考えてみると難しいですね。
……伏線張っておいて言う台詞じゃないですが、回収する自信がないです……。


裏設定コーナー。
マルバより先にユキが来訪者に気づきましたが、これは《索敵》スキルが『目を凝らす』といったようなアクションを取らなければ発動しないという特性によるものです。常に分かるものではないんです。ユキはアルゴリズム的に一定間隔で周囲を《索敵》するようになっています。圏内ではその間隔はかなり長めに設定されています。原作を読んでいて明記はされていないようでしたが、そんなスキルのように見受けられたのでそういう設定にします。 
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