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犬の仕返し

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2部分:第二章


第二章

「わかったな」
「わかったよ。それじゃあ」
 メケの言葉に従い立ち上がる。すると。
「そらっ」
「あっ」
 右の前足を右から左に横に一閃させた。そうしたら真一郎は足をすくわれた。そうしてその場に尻餅をついてしまったのであった。
「いたた・・・・・・」
「こういうことだ」
 メケはこけてしまいお尻を押さえて痛がる真一郎に対して告げた。
「これでわかったな」
「ひょっとして今のも」
「そうだ、長生きして身に着けた」
 そういうことであった。
「これでわかったな」
「何かやっとわかったよ」
 真一郎は痛みを堪えとりあえず自転車に戻ってからメケに答えた。
「化け猫とかと同じだよね、それって」
「猫と一緒にされるのは心外だがな」
 それには少しムッとした様子だったがその通りであった。
「そういうことだ」
「じゃああれ?メケって化け犬?」
「馬鹿言っちゃいけない、俺はきちんとした犬だ」
 その言葉にはきっぱりと反論してみせた。
「それはわかっておくんだ」
「わかったけれど。けれど痛いよ」
「尻尾の分だ。だが怪我はない筈だ」
 こかしたことにはそう述べた。
「これでおあいこだ。いいな」
「わかったよ。けれどそれにしても」
 まだ真一郎はメケに対して言うのであった。
「まさかメケが話せるなんてね」
「ははは、知っているのは御前だけだ」
 それには笑って述べてきた。目がかなり細まっている。
「嬉しいだろ」
「別にそれは」
 首を傾げさせる。そうしたことは思っていないのである。
「思わないけれど」
「何だ、面白くない奴だな」
「一応このことは秘密にしておくね」
 真一郎はメケを気遣ってそう述べた。
「ばれたら大変だし」
「ああ。それは頼む」
 それはメケもわかる。だから真一郎にも願ったのであった。
「悪いがな」
「うん。それじゃあ僕は学校に行くけれど」
「俺も家に戻るか」
 メケはふと考えながら述べた。
「御主人と一緒にいたいしな」
「何だかんだで人が好きなんだね」
「そうさ。特にうちの御主人はな」
 真一郎の言葉に対して頷いてみせた。
「大好きさ」
「けれど。御主人には話さない方がいいよ」
 真一郎はそれも念を押した。
「驚くなんてものじゃないからね」
「それも合点承知の助だ」
 随分古い言葉を使う。犬としてはかなりの高齢なのがその理由であろうがそれにつけてもかなり古い言葉である。メケの爺むさい性格がわかる。
「安心していいぞ」
「わかったよ。それじゃあね」
「ああ、勉強を頑張って来いよ」
「うん」
「ついでに一つ言っておく」 
 メケはまた一言付け加えてきた。
「何?」
「今度尻尾を踏んだら承知しないからな」
「わかったよ。それじゃあね」
「ああ、またな」
 何だかんだで別れを告げて真一郎は学校に、メケは自分の家に向かう。だがどうしても真一郎にとっては腑に落ちない話であった。犬が人の言葉を話せて妖術も使える、長生きしているというだけで。
「何かなあ」
 そのことに釈然としないまま学校に向かう。だがそれもすぐに頭の中から殆ど消えてしまっていた。行く途中で今彼が気にしている女の子と会えたからだ。彼女を見ているともうメケのことは忘れてしまっていた。彼が人の言葉を話すことも真一郎にした仕返しも。結局彼にとってはそういう程度のことでしかなかった。


犬の仕返し   完



                   2007・11・14
 
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