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どっちが誰だか

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4部分:第四章


第四章

「やっぱりそうなるわよね」
「そうしたら見つかる可能性が大きいから」
「だから階段なのね」
「しかも素早くよ」
 語る晶子の目が鋭く光る。
「いいわね」
「イエス、サー」
 何故かここで軍隊長になる朋子だった。流石に敬礼はしないが。何はともあれ二人は素早くかつ隠密裏に最上階に向かった。そうして辿り着いたそこは。まさに目指す最終ポイントであった。
「いよいよここだけれど」
「さて、どうしたものかしら」
 晶子と朋子は最終目的地を前にして言い合う。見れば扉は左右に二つ。どちらもロイヤルスイートであるのはもう言うまでもない。
「どっちだと思う?」
「さあ」
 朋子は晶子の言葉に首を捻る。
「どっちかしらね」
「両方共泊まってるみたいだけれど」
「どっちかよね」
 朋子は晶子に対して問う。
「やっぱり。藤井さんがおられるのは」
「藤井信太郎さんはこの世に一人よ」
 二人もいる筈がないから何を今更という感じの言葉である。
「だから。どちらかよ」
「問題はどちらかだけれど」
「どっちだと思う?」
 また晶子に対して問うたのだった。
「どっちの部屋に。おられるかしら」
「さあ」
 しかし晶子の返答も曖昧なものであった。
「どっちかしらね、本当に」
「わからないの」
「わかったら凄いわよ」
 全く以ってその通りなので言い返せない朋子であった。
「どっちかどっちなんて」
「超能力があればわかるんだけれどね」
「私そんなのないし」
「私も」
 あればあればでとてつもなく怖い話である。
「とにかくよ。どっちかだから」
「カマかけてみる?」
「そうする?」
 また随分といい加減な話になってきた。
「さて、一か八か」
「当たる確率は五分と五分」
 前に進みながら言う二人であった。度胸だけはかなりのものだ。
「外れたら御免なさい」
「じゃあそういうことで」
「いざ鎌倉」
 今度は鎌倉まで出て来た。名古屋とは関係ないというのにだ。
「右ね」
「ええ、右」
 行き当たりばったりにそう決めていた。
「右に藤井さんがいるから。多分」
「チャイム鳴らしてね」
 こうして今まさに扉の前に向かわんとしていた。ところがここで。何と左右の扉が同時に開いたのであった。そしてそこから出て来たのは。
「えっ、藤井さん!?」
「こっちも!?」
 何とどちらの扉からも藤井さんが出て来たのである。どちらもリーゼントで細面でしかも皮ジャンという格好だ。服装まで全部同じである。
「両方共藤井さんって」
「若しかしてこれって」
 二人はいきなり藤井さんが二人も出て来たと思って混乱しだした。
「何!?お化け!?」
「お化けじゃないぎゃ」
 しかも名古屋弁まで出ている。
「トッペルゲンガーだぎゃ、これ」
「ドッペルゲンガー!?それってお化けじゃないきゃ?」
「それが違うという話でりゃーーーす」
「違うって何がよ」
「うちにわかるか」
「うちにもわからんわ」
「!?この娘達」
 ここで右の藤井さんがいぶかしむ顔で二人を見つつ言った。
「名古屋の娘達なのかな」
「そうみたいですね」
 左の藤井さんが右の藤井さんの言葉に頷いた。
「何かそんな方弁ですよね」
「そのわりにはちょっとおかしいような」
「気が昂ぶってるんじゃないんですか?」
 左の藤井さんが言う。
「ドッペルゲンガーとか言っていますし」
「あのさ、君達!?」
「お化け!?」
「ドッペルゲンガー!?」
「ああ、それは違うから」 
 声をかけた右の藤井さんがそれは否定する。
「僕達ちゃんとした人間だし」
「ドッペルゲンガーでもないよ」
「えっ、違うの!?」
「けれどどっちも」
「どっちが誰だか」
「全然わかりませんよ」
「だからね」
 驚いたままの二人に対して右の藤井さんが苦笑いと共に言ってきた。
「ほら、物真似のさ」
「物真似!?」
「っていいますと」
「これだよ、これ」
 不意にギターを操る動作をして歌う仕草もする藤井さんだった。
「これ。わかるよね」
「藤井信太郎さんですよね」
「それか物真似の」
 二人は少しだけ落ち着きを取り戻して述べる。
「それはわかりますけれど」
「けれどそれが?」
「だから。僕だよ」
 右の藤井さんは今度は違う動作をしてきた。それは」
「あっ、それって」
「明石焼いわしさんの物真似ですよね」
 全国的に有名なお茶の間の人気者である。明るくおしゃべりなキャラクターが日本人の間で長い間受けている。当然二人もよく知っている。
 
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