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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)

作者:sorano
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第114話

~列車内~



「うわ~、なんか青々してるねー。ねえねえ、ユーシス。麦なのになんで青いのー?」

席に座って景色を見ていたミリアムはユーシスに尋ねた。



「……クロイツェン州では小麦、大麦、ライ麦が栽培されている。それを季節ごとに生産しているから今は秋収穫の小麦が実っている最中だ。」

ミリアムの疑問にユーシスは答えたが

「あ、なんか変なカカシがいた~!あはは、レクターみたいな顔でおもしろーい!」

「……ぐっ……」

まるでユーシスの話を聞いていないかのようにミリアムは景色を楽しみ、ユーシスは顔に青筋を立てたが

「お、落ち着いてください、ユーシスさん。わたくしも今の説明を聞いて、勉強になりました。」

「フン…………さすがツーヤの妹と言った所か。中々勉強熱心だな。」

自分を諌めようとしたセレーネの話に怒りを治めて満足げに頷いた。



「ま、まあ……楽しんでいるみたいで何よりだ。」

「ふふ、こうしてみると本当に歳相応に見えるな。」

「13歳……オレの弟のひとつ歳下か。」

「ふふっ、そうでしたね。」

その様子をリィン達は微笑ましそうに見つめ

「すぅ……」

エヴリーヌはエマにもたれかかって眠っていた。その後エマはエヴリーヌを起こし、リィン達と共にラウラから実習地の説明を受けていた。



「―――このあたりで今回の実習地の話をしておこう。”レグラム”は帝国南東部、エペル湖の湖畔にある小さな街だ。私の実家、アルゼイド子爵家が治め、クロイツェン州に属している。」

「クロイツェン州……ユーシスの父親が管理している州だったか。」

「……まあ、一応はな。ただ、レグラムといえば独立独歩の気風で知られる領邦だ。州を管理する公爵家の威光など気にもしていないだろう。」

ガイウスの確認に頷いたユーシスはラウラを見つめた。



「まあ、否定はしない。どうも父―――アルゼイド子爵は自由闊達すぎる所があるからな。だが増税といい、そなたの父君もいささか問題があるとは思うぞ?」

「フン、わかっている。」

そしてジト目のラウラに見つめられたユーシスは鼻を鳴らして頷いた。



「えっと……」

「……少々、微妙な問題に触れてしまったみたいだな。」

「いや、気にすることはない。」

「この程度の応酬、貴族の間では日常茶飯事の話題だからな。」

「まあ、確かに”四大名門”は絶大な権力を持っているけど……だからといって、それぞれの領地は領主が管理するのが基本だからな。税についても各地の慣習法があって色々面倒くさいのは確かだ。」

「そうらしいですね……どうやら、帝国政府は国内の税制度を統一しようとしているみたいですけど。」

「そうなると色々な問題が起こるでしょうね……」

リィンの意見に頷いて言ったエマの話を聞いたセレーネは不安そうな表情をした。



「セレーネの推測通り、貴族派と革新派が対立する最大の争点の一つだな。ちなみに俺の父に言わせれば『天地がひっくり返ってもあり得ぬ』だそうだが。」

「革新派の主張もわかるが……地方には、その土地なりの伝統や慣わしがあるのも事実だ。それを全て統一するのはいささか乱暴ではないかと思う。」

「ふむ……根深そうな話だな。」

「簡単に解決できる問題ではなさそうですね……」

ユーシスとラウラの話を聞いたエマとガイウスは考え込み

「めんどくさ。そんな下らない事、簡単に解決できると思うけど。」

「え……エヴリーヌさんは解決できる方法がわかるのですか?」

「何だと?」

「フム、一体どういう方法なのだ?」

つまらなそうな表情で言ったエヴリーヌの言葉を聞いたセレーネは驚き、ユーシスは眉を顰め、ラウラは尋ねた。



「そんなの簡単だよ。王様が一番偉いんだからこの国の王様が決めちゃえばいいんだよ。」

「それは…………」

「確かにその通りですが……」

エヴリーヌの答えを聞いたリィンとエマは複雑そうな表情をし

「……エヴリーヌの意見にも一理あるが、そのような事をすれば、間違いなく”革新派”、”貴族派”の双方の勢力の反感を買ってしまうだろうな。」

「うむ。ユーゲント陛下もお辛い立場なのだろうな……」

ユーシスとラウラは重々しい様子を纏って答えた。



「むー、そんな話より。もっと”レグラム”で面白い話はないのー?」

その時ミリアムが頬を膨らませてリィン達を見回した。



「はは、確かに俺達が頭を悩ませても仕方ないか。レグラムといえば……やっぱり”アルゼイド流”だろうな。」

「あ、ラウラのおとーさんが教えてるっていう?」

「ああ、帝国伝統の騎士武術を伝える流派……”ヴァンダール流”と並んで帝国における武の双璧だ。練武場があって、帝国各地から門弟が集まっているんだよな?」

「うむ、その通りだ。今来ている門弟は数名……それ以外は各地に散っているな。」

リィンの質問にラウラは頷いて答えた。



「そして、それらを教えているのがラウラの父君というわけか。」

「レグラムの領主にして”アルゼイド流”の宗家……アルゼイド子爵閣下ですね。」

「”光の剣匠”だっけ?ものすごく強いんでしょ?」

「ああ、娘の私が言うのもなんだが軽く人の域を超えている。少なくとも、帝国においては3本の指に入るのは確実だろう。」

「それは凄いな……」

「さすがはラウラさんのお父さんですね……」

「……噂はかねがね。」

ラウラの説明を聞いたガイウス、セレーネ、リィンは驚きの表情で見つめた。



「領邦軍や正規軍の武術師範を務めているとも聞いている。そのせいで、領地を留守にすることも多いそうだが?」

「ふう……その通りだ。今回も、帰郷するのはいいが肝心の父上がいるかどうか……」

「そうか……」

「うーん、できれば見てみたいけどなー。」

その後リィン達はバリアハートで列車を乗り換えた。



「……深い森だな。」

列車の窓から見える風景にリィンは静かに呟いた。

「……おとぎ話に出てくる妖精の森みたいですね。」

「実際、その手の言い伝えは事欠かぬ土地柄ではあるな。”槍の聖女”リアンヌもこの地の出身ではあったが……人間離れした美貌と強さから”妖精の取り替え子”と囁かれていたこともあるらしい。」

「ほう……面白いな。」

「実際、獅子戦役の終結後、彼女が謎の死を遂げたせいでサンドロット伯爵家は断絶した。そんな逸話があったとしても不思議ではないかもしれん。」

「妖精の取り替え子か……あ……」

ラウラ達の話を聞いていたリィンは景色に霧がかかったことに気付いた。



「……霧……」

「これは……」

「……たしかレグラムは霧が出ることでも有名だったな。」

「ああ、晩夏では珍しくはない。おかげで少々、涼しくなりそうだ。」

ユーシスの話に頷いたラウラは説明を続けた。



「はは、それは助かるな。」

「フフ、一体どんな町なのでしょうね?」

「むにゃむにゃ……ガーちゃん、それは壊しちゃダメだよ~……」

「すぅ……キャハッ♪今回の敵を殺した数はエヴリーヌが一番だね♪……」

ミリアムとエヴリーヌの寝言を聞いたリィン達が冷や汗をかいていると、列車はレグラムに到着した。


11:30―――



~湖畔の町”レグラム”~



「…………………」

「これは……見事だな。」

「俺も初めてだが……噂に違わぬ光景だな。」

「とても綺麗です……」

「霧と伝説の町、ですか……」

列車から降り、駅を出たリィン達は目の前に見えるレグラムの光景に見惚れ

「……まあ、綺麗なのは間違いないけど霧が鬱陶しいね。」

エヴリーヌは静かに呟いた。



「フフ、気に行ってくれたようで何よりだ。生憎、霧が出ているので見晴らしはよくないが……晴れていると湖面が鏡のように輝いて見えることもある。」

「いや……恐れ入ったよ。」

ラウラの説明を聞いたリィンが苦笑しながら答えたその時

「―――お嬢様。お帰りなさいませ。」

「え―――」

一人の執事がいつの間にかリィン達の傍にいた。



「い、いつの間に……?」

「気配を感じなかった……」

執事の登場にユーシスごガイウスは驚き

「5分くらい前からいたよ。」

「ええっ!?エヴリーヌさんはわかっていたんですか!?」

「ほう……」

エヴリーヌの答えを聞いたセレーネは驚き、執事は目を丸くしてエヴリーヌを見つめた。



(じい)、出迎えご苦労。隠形の技……衰えておらぬようだな。」

「ハハ、寄る年波にはさすがに逆らえませぬ。もはやお嬢様の成長だけがわたくしめの唯一の楽しみでして。」

「ふふ、戯言を。……しかし、この場に父上がいないという事はやはり留守にされているか。はい、残念ながら……いつお戻りになるかもわからないとのお言葉です。」

苦笑しながら言った執事の話を聞いたラウラは微笑んだ後残念そうな表情をした。



「それと今アルゼイド家には客人がいらっしゃっています。」

「客人?」

「――――かの”風の剣聖”すらも足元に及ばず、”剣皇”リウイ陛下と互角か、それ以上とも噂されているかの”嵐の剣神”セリカ・シルフィル様です。」

「へっ!?」

「その名前は確か……」

「ヘイムダルで出会ったあの美しい剣士の方ですね。」

「そして異世界では”神殺し”の異名を持つ者か。」

「………………」

「へえ、セリカがこの町にいるんだ。」

(セリカがいるんだったら、シュリとメティもいるかな~?)

執事の説明を聞いたリィンは驚き、ガイウスとセレーネは目を丸くし、ユーシスは静かに呟き、エマは真剣な表情で黙り込み、エヴリーヌとエマの身体の中にいるヴァレフォルは興味ありげな表情をした。



「……一体何故”嵐の剣神”殿がアルゼイド家に?」

そしてラウラは不思議そうな表情で尋ねた。

「ゼムリア大陸最強の剣士とも噂されているセリカ様の噂を聞いていたお館様が前々から一人の剣士として手合せをしたく、トヴァル様の縁を頼ってはるばるクロスベルからお越しいただいたのです。」

「父上が……」

「ねーねー、それで勝負はどうなったの?」

執事の説明を聞いたラウラは驚き、ミリアムは興味ありげな表情で尋ねた。



「お館様も善戦しておられたのですが、セリカ様の剣技は異名通りもはや神憑っており、勝敗はセリカ様が勝利するという形で終わりました。」

「なっ……父上相手に勝利したのか!?」

執事の話を聞いたラウラは驚き

「はい。その後もお館様は機会を見つけては何度も挑まれたのですが、残念ながら全敗でした。」

「……………」

「ふええ~っ、”光の剣匠”に何度も勝利するなんてどんな人なんだろう~。」

(そりゃ、”神殺し”が相手だとどんな”達人”も負けるわよ。少なくとも”神格者”クラスでないと太刀打ちできないでしょうね。)

自分にとって”最強の剣士”である父親が何度も敗北した事にラウラは口をパクパクさせ、ミリアムは驚き、ベルフェゴールは苦笑し

「まあ、当然の結果だね。リウイお兄ちゃんでも負ける相手だもん。むしろ人間の身でありながらセリカと斬り合う事ができただけでも十分凄いよ。」

「ええっ!?」

「”剣皇”と謳われているリウイ陛下でも勝てないんですか……」

「まさに異名通り”剣神”と言った所か。」

「一体どんな強さなんだろう……?」

エヴリーヌの話を聞いたリィンとエマは驚き、ユーシスは静かに呟き、ガイウスは目を丸くして考え込んでいた。



「……それでその手合わせの後、何故セリカ殿がアルゼイド家に滞在しておられるのだ?」

「はい。門弟の方達にも良い刺激になるだろうというお館様の頼みで従者の方達と共にしばらくアルゼイド家に留まってらっしゃっているのです。」

「ふう、クロスベルからはるばる招いておきながら、留守にするとは……ちなみにセリカ殿は今もアルゼイド家に滞在しておられるのか?私も父上の娘としてご挨拶をしようと思うのだが。」

執事の話を聞いたラウラは溜息を吐いた後尋ねた。



「いえ、門弟の方達との鍛錬に付き合った後ギルドの仕事の関係で従者の方達と共に外出中です。夜には戻ると伝えられています。それと明後日にはクロスベルに戻るとの事ですので、ご挨拶の時間は充分にあるかと。」

「そうか。なら今夜戻って来た時にでも挨拶に伺わせてもらおう。―――紹介しよう。アルゼイド家の家令を務める執事のクラウスだ。父の留守役として、アルゼイド流の師範代として世話になっている。」

「し、師範代……」

「へー、なんだか凄いおじいちゃんみたいだね?」

執事―――クラウスの説明をラウラから聞かされたリィンは驚き、ミリアムは興味ありげな表情でクラウスを見つめた。



「フフ……―――お待ちしておりました。トールズ士官学院、Ⅶ組の皆様。ようこそ”レグラム”へ。それではお屋敷の方へと案内させていただきます。」

その後リィン達はクラウスの先導に従って町を歩いていた。



「しかし、伝統的な雰囲気を残している街並みだな……」

「こちらの石碑も、精霊信仰の影響が強く残ってますね……」

「一体どれほどの歴史がこの町に残っているのでしょうね……」

町を歩いて気になった雰囲気や景色を見回していたリィンやエマ、セレーネは興味ありげな表情で呟いた。



「アルゼイド家が封ぜられるはるか以前からの物らしい。数百年以上昔の物になるな。」

「ふむ………不思議な形状をしている。」

「あー、なにあれっ!?」

何かの石像を見つけたミリアムは声を上げた。



「なるほど……”槍の聖女”の像か。]

(ん~……?真ん中の槍を持っている石象……どっかで見た事があるような??)

石像を見たユーシスはラウラに確認し、エヴリーヌは首を傾げた。



「うむ、それと”鉄騎隊”の面々だな。そちらも確か200年ほど前のものだったか。」

「ええ、聖女様の功績を讃え、作られたと聞いております。ちなみに、右下に控えているのが子爵家の祖先にあたりますな。」

「へー。ラウラのご先祖様かー。」

「フフ、十代くらい前のな。」

クラウスの説明を聞いて興味ありげな表情をしたミリアムを見たラウラは苦笑した。



「ラ、ラウラお姉様!?」

「おお、ラウラお嬢さん!お帰りでしたか!お館様からそんな話は聞いていましたが……」

「お久しぶりです、ラウラお姉様~っ!」

その時町の住人達がラウラに近づいて声をかけた。



「皆、ご無沙汰している。士官学院の実習で、2,3日ほど戻ってきた。後で挨拶に伺わせてもらおう。」

「ええ、ええ!ぜひ立ち寄ってください!」

「学院でのお話もお聞かせくださいね!」

(ふふ……慕われてるみたいですね。)

(ああ、子爵家自体も住民といい関係が築けてるみたいだ。)

(民の方達があんなに慕っているのですから、領主のラウラさんのお父様もきっと素晴らしい方なんでしょうね……)

(……………)

町の住人達の様子を微笑ましそうに見つめるエマとリィン、セレーネとは逆にユーシスは真剣な表情で黙って見つめていた。



「……おいでなすったか。ま、忙しくなってきたし、”嵐の剣神”をあんまりこき使う訳にもいかないしせいぜい手伝ってもらうかね。」

ラウラの帰郷で騒がしくなってくると遊撃士協会の支部から金髪の青年が出て来て館に向かうリィン達を見守っていたが、セリーヌがリィン達の後を追って行く様子を見つけた。

「??まあいいか、念のため課題のチェックをしとくか。」

セリーヌの登場に首を傾げた青年だったが気を取り直して支部の中に入って行った。


 
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