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羊料理の素材

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2部分:第二章


第二章

「こちらです」
 右手をその手で指し示していた。
「こちら?」
「そうです。犬はこちらで預かっておりますので」
「あっ、そうね」
 ジェーンは言われてそのことに気付いた。流石にテーブルにまで連れて行っては他の客の迷惑になる。そのことに気付いたのだった。
「それはね」
「はい。ですから暫く預からせて頂きます」
 オーストラリア訛りの英語でこう話すのだった。残念ながらこればかりはどうしようもなかった。やはりオーストラリアにいることを実感させる。
「それで宜しいですね」
「ええ」
 ジェーンは少し寂しげに自分の腕の中に抱いているビリーを見てから答える。見ればビリーは彼女の手の中でその黒い目を奇麗に輝かせてへっへっ、と舌を出している。その動作がいかにも犬らしかった。
「御願いします」
「わかりました。それでは」
 こうしてジェーンを預けてからテーブルに案内された。テーブルもまた中華風で中央に丸い回転する台があった。そこに次々と食べ物が置かれるということはもう二人も知っていた。
「それで何を頼むの?」
「だからあれだろう?」
 デカログは丸いテーブルの向かい側に座る妻に対して答えた。天井も絨毯もそうであるせいかその場全体が赤く彼等の気持ちもその赤の中にあった。
「羊料理だよ」
「羊料理ね」
「ここは北京料理の店だからな」
「北京料理だと羊なの」
「知らなかったのか?」
 今の妻の言葉には怪訝な顔になる。
「北京といえば羊だろうに」
「そうなの」
「知らないのか。まあいい」
 それなら仕方ないとすることにした。割り切ったのだ。
「それでだな」
「羊料理を頼んでくれるのよね」
 これを夫に対して問うのだった。
「やっぱり」
「それはもうな」
 決めていた。言うまでもないことだった。
「決めている。さて」
 ベルを鳴らすと先程の金色の髪に赤いチャイナドレスの美女がやって来た。彼女はにこやかに笑って何でしょうかと尋ねてきた。
「注文が決まったよ」
「はい、それでは」
 早速注文を受ける体勢を整えてペンを右手に持つのだった。
「どうぞ」
「串羊肉と」
「はい」
 まずはそれであった。
「後羊のしゃぶしゃぶをもらおうか」
「その二つですね」
「あと主食だが」
「餅ですか?」
 小麦粉を練って焼いたものだ。中国、とりわけ北京を含めた北方ではよく食べられるものだ。
「そうだな。それと麺。あとは水餃子を」
「わかりました」
「デザートは軽くね」
 かなり食べるが見れば二人はかなり体格がある。だから老人とはいえ食べるものもかなりのものなのだった。
「胡麻団子でも」
「ではそれで宜しいですね」
「あとお茶もね」
「ええ」
 全てのメニューを頼み終えた。まずは麺類と水餃子が来たがその二つはすぐに食べてしまった。それから来たのが餅とメインである羊料理であった。
「これが中国の羊料理ね」
「ああ」
 テーブルの上に置かれた羊料理を前にして声を出す妻に対して答えた。
「これがそうだよ」
「こちらは何かオーストラリアでもよく見る感じね」
 ジェーンは串に刺された羊肉を手に取りながら言った。
「見たところ」
「普通に焼いた感じだな」
「そうね。慣れているから食べ易そう」
 あくまで彼等のいつも食べている料理の中で話すのだった。
「ただ。こっちは」
「しゃぶしゃぶか?」
「ええ。とても変わってるわね」
 しゃぶしゃぶを見て目を丸くさせていた。沸騰した湯で満たされている鍋を見て驚いているのではなくその横にある非常に薄く切られた肉を見て驚いているのだ。ジェーンにとってははじめて見る肉の切り方であった。
「これを。どうやって食べるのかしら」
「ああ、それなら簡単だよ」
 箸を使ってその肉のうちの一片を鍋の中に入れながら話をする。実は彼は箸が使えるのだ。ジェーンはそれができないので実はフォークで食べていたのだ。
 
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