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三人一組

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第四章

「別に」
「ああ、御前さんはな」
「むしろ出ている方がいいわね」
「歩くマタタビだからな」
「もう撒いてるけれどね、本物は」
 その葉や枝にキャットフードを見ての言葉だ。
「それと一緒にね」
「御前さんもいるとな」
「完璧よね」
「生きものは明るく優しい人が好きだ」
 拓篤がその由紀に言う。
「自分達によくしてくれる人がな」
「だから私は警戒しないのね」
「そもそも君は動物が好きだな」
「どの子もね」
 にこりとしたままだ、由紀は拓篤に答えた。
「そうよ」
「だからだ、君は出ていい」
「そういうことね」
「そうだ、では後は頼む」
「それじゃあね」
「僕達は隠れていよう」
「特に俺はな」
 雄輔も言う。
「隠れていないと駄目だな」
「そうだ、君もいつも通りだ」
「隠れる場所は選んでな」
「潜んでいてくれ。猫の姿は覚えているな」
「ばっちりだぜ」
 こうも答えた雄輔だった。
「この頭の中に入ってるぜ」
「ならいい、ではだ」
「ああ、出て来たらな」
「働いてくれ」
「それではな」
 拓篤は拓篤で、雄輔は雄輔で隠れた。そしてだった。
 由紀だけその場所にいてだ、そうして。
 暫く立っていたがだ、その彼女の前に。
 猫が出て来た、一匹また一匹と。
 そして集会をはじめたがだ、彼等はマタタビの葉や枝それにそれが入っているキャットフードを食べてだった。 
 その場でごろごろとしだした、その彼等を見てだった。
 ふとだ、その中に。
 黒地のさび猫がいてだ、由紀は右手を顔の横の高さに上げてだった。
 親指と人差し指をぱちんとさせた、するとだ。
 音もなくだ、雄輔が隠れていた場所から出てだ。
 影の様に動いて猫達のところに来てだ、そのさび猫を見ると。
 猫がマタタビの葉に夢中になっている間にだ、ラグビーのボールの様に抱え込んでだった。両手に確保してから言った。
「捕まえたぜ」
「お疲れ様」
「疲れてはないけれどな」
「けれどやってくれたじゃない」
 由紀は笑って彼に言った。
「だからね」
「お疲れ様か」
「ええ、じゃあ後はね」
「その猫を籠の中に淹れてだ」
 そしてと言うのだった。
「依頼主さんのところに戻そう」
「じゃあな」
「これからね」
 こうしてだった、何なく。
 三人は依頼主の飼い猫を見付けて確保した。そうしてすぐに相手に連絡をかけてだ。彼に事務所まで来てもらって猫を差し出した。
 依頼主は猫を受け取ってからだ、三人に満面の笑みでお礼を言った。
「有り難うございます、本当に」
「仕事ですから」
 拓篤は今も応接用のソファーに座っている、そこで言うのだった。
「当然です」
「そうですか」
「はい」
 向かい側に座っている依頼主に言う。
「お礼はいいです」
「では報酬を」
「それは頂きます」
 仕事であるからだ、それでだ。
 封の中の札束を受け取った、それは由紀がしてだった。 
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