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英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)

作者:sorano
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第102話

侍女控室に戻っていつもの服装に着替えたエステル達は、ヒルダとシアにお礼の言葉を言った後、自分達の部屋に戻ろうとした所、ある人物に声をかけられた。



~グランセル城内・廊下~



「……こんな時間に何をしてらっしゃるのかしら?」

エステル達に声をかけて来た人物はちょうど謁見の間から2人の特務兵を引き連れて出て来たカノーネだった。

「あ……!」

「カノーネ大尉……」

カノーネ達に気付いたエステル達は驚いた。

「うふふ、こんばんは。いくら招待客とはいえ、あまり感心しませんわね。子供が夜歩きするには遅すぎる時間ではないかしら?」

「申しわけありません。城内が珍しく見物していたらつい遅くなってしまって……」

「あら、それは結構だこと。では、30分ほど前までどこを見物していたのかしら?参考までに聞かせてくれませんこと?」

ヨシュアの言い訳に感心したカノーネはエステル達に尋ねた。

「えっと……メイドさん達がいる部屋に行っていました。」

下手に誤魔化しても無駄と感じたエステルは正直に答えた。

「……ふふ、なかなか素直で結構な事。……まあ、(たわむ)れはこのくらいにしておくとしましょうか……。実は、あなたたちが何度かメイド部屋に出入りしているのを見かけたという報告が入っているの。あんな場所を見物するなんておかしいと思いませんこと?」

そしてカノーネは不敵な笑みを浮かべて、指摘した。

「な……!」

カノーネの指摘にエステルは驚いた。

「知ってて質問するなんてずいぶん人がお悪いんですね。」

「うふふ、誉め言葉として受け取っておきましょう。それで、メイド部屋に何の用事があったのかしら?正直に答えた方がよくってよ。」

ヨシュアの言葉を聞き、不敵な笑みを浮かべたままのカノーネは続きを促した。

「それは……」

この場を逃げる言い訳が思い浮かばなく、ヨシュアが必死に考えている所を

「おお~!エステル、ヨシュア!こんな所にいやがったかぁ~!」

「ジンさん……」

酔っている様子のジンがエステル達に近付いて来た。



「ぷはぁ~、染みわたるねぇ!」

そしてエステル達の目の前で豪快に手に持っている手酌をした。

「うわ、へべれけ……」

ジンの行動にエステルは呆れた。そしてジンはカノーネ達に気付いた。

「おっと、こりゃあ失礼。誰かと思えば、ベッピンの女士官どのもご一緒でしたか。いやあ~、なんと言いますか妙な偶然もあるもんですなぁ。」

「そ、そうですわね……」

突然ジンに話を振られたカノーネは戸惑いながら答えた。

「それで、どうしました?俺の未熟な弟子どもが迷惑をおかけしましたかね?」

「で、弟子って……」

ジンの突拍子のない言葉にエステルは驚いた。

「いえ、彼らがメイド部屋にしばらくいたそうなので……。保安上の理由で、何をしていたのか聞かせてもらっていたのですわ。」

一方エステル達の様子に気づいいないカノーネはジンに事情を説明した。

「ああ、そりゃあ、アレですな。ちょうど酒のつまみがなくなって取りに行かせてたんですよ!おい、ヨシュア。なんか食えるもんはあったか?」

「いえ、もう料理人の方々は帰ってしまったみたいで……。侍女の方に聞いたんですけど、すぐに用意できるようなツマミのたぐいはないそうです。」

そして話を振られたヨシュアはいつもの調子で答えた。

「はあ、仕方ねえな。ツマミ無しで我慢するか……。おっと……いいことを思い付いた。」

ヨシュアの答えを聞き溜息を吐いたジンはカノーネの顔を見て、カノーネに近寄った。



「よかったら、俺と酒に付き合ってもらえませんかねぇ。わはは、美人の笑顔は最高の酒の(さかな)といいますしなぁ!」

「に、任務があるので遠慮させていただきますわ。先ほどの一件は不問にいたしますけど……。今夜は、もう部屋に戻ってこれ以上出歩かないことね。不審な行動をした場合、取り調べさせてもらいますよ。」

ジンに近寄られたカノーネはジンから一歩下がって断り、エステル達を睨んで忠告をした。

「わ、わかりましたってば。」

「……家族や仲間がホテルで待っているので、部屋に置いてある荷物を取ったら城を出るつもりです。」

「ふふ、素直でよろしい、では……我々はこれで失礼しますわ。」

エステルとヨシュアの答えを聞いたカノーネは特務兵達と共にどこかに去って行った。

「あらら、フラれちまったか……。仕方ねえ……とっとと部屋に戻るとするかね。」

「う、うん……」

「僕たちも一緒に戻ります。」

そしてエステル達は自分達の客室に戻って行った。



~グランセル城内・客室~



「やれやれ……。どうやら上手いことごまかせたみたいだな」

「え……!ジンさん、酔ってたんじゃないの?」

部屋に戻った瞬間いつもの口調に戻ったジンを見て、エステルは驚いた。

「ありゃ、演技だ演技。酒なんざ一滴も呑んでないぜ。」

「うそ!?顔だって赤かったし……」

ジンの説明にエステルは驚いた。

「気を巡らせて血行を良くし酔ったように見せかける……。東方武術における『気功』というものじゃないですか?」

「ほう、そんな事まで知っているとは驚きだぜ。まあ、困ってたみたいだからちょいと口出しさせてもらった。どうだ、助かっただろう?」

ヨシュアの推測に感心したジンはエステル達に尋ねた。

「もー、ジンさんてばほんと人が悪いんだから~。たしかに助かったけど本当に驚いちゃったんだからね。」

「はは、悪い悪い。それで、どうだったんだ?」

「???どうだったって、何が?」

ジンに尋ねられたエステルは首を傾げて、尋ね返した。そしてジンから出た次の言葉にエステル達は驚いた。

「決まってるだろう。女王陛下との会見のことさ。」

「あ、あんですって~!?ど、ど、どうしてジンさんが!?」

「もしかして、エルナンさんから何か聞いていたんですか?」

事情を知っているジンを見て、2人は信じられない様子で驚いた。



「受付の兄ちゃんからは何も教えてもらってないぜ。まあ、カマをかけさせてもらったというところかねぇ。」

「カマって……」

「……何の情報もなしにそんな憶測はできませんよ。ジンさん……あなたは何を知っているんですか?」

ジンの説明にエステルは呆れ、ヨシュアは冷静になって尋ねた。

「ふふ……。ようやくコイツをお前さんたちに見せられるな。」

そしてジンは一通の手紙をエステルに渡した。

「て、手紙……?」

「この筆跡は……」

「まあ、とりあえずそいつを読んでみてくれ。だいたいの事情は判るはずだ。」

「う、うん……」

そしてエステルは手紙を開いて内容を読み始めた。



「拝啓、ジン・ヴァセック殿。

ご無沙汰しているがお元気だろうか。急いでいるので、ざっくばらんな書き方になることを許して欲しい。実は、猟兵団(イェーガー)がらみの事件でエレボニア方面に向かうことになった。

しかし、リベール国内でも妙な勢力が動き始めているらしく、若手だけに任せるのは少々心許ない。そこで君に頼みがある。私の留守中、リベールの来て何かあったら若い連中を助けてもらえないだろうか?

君はリベールが初めてらしいから物見遊山しながらでも構わない。女王生誕祭の前には、外国人も参加できる武術大会も開かれるからいいカモフラージュになるだろう。突然の話で戸惑われると思うが、もし手が空いていたらお願いする。

女王生誕祭までには戻るからその時にはまた、一緒に呑もう。



カシウス・ブライト



追伸:

もしかしたら私の娘と息子に会う機会があるかもしれない。ギルドの見習いをやっているので、その時は遠慮なく鍛えてやってくれ。少々の事なら、手を貸さずに自分の力で切り抜けさせてほしい。後、できればいつの間にかできた孫娘を守ってほしい。」



「……こ、これって……」

手紙の内容を読み終えたエステルは驚いた。

「ジンさんは、父に頼まれてリベールに来たんですか……。そして父は今……エレボニアの方にいるんですね。」

「まあ、そういう事になるな。」

「そういう事になるなって……。よ、要するにジンさん、父さんとグルだったんじゃない!というかミントの事をいつ知ったのよ、あの不良中年は~!」

今までジンに騙された事に気付いたエステルはジンを睨み、そしていつの間にかミントの事まで知っているこの場にはいないカシウスを怒った。

「グルとは人聞き悪いねえ。カシウスの旦那には、あの人がカルバードに来た時に色々とお世話になったんだ。いつか借りを返したかったからこの手紙は渡りに舟だったのさ。」

「そうだったんだ……」

「いつ僕たちが父の子供だと判ったんですか?」

「最初に会った時にエステルが棒術具を持っていた事と、ミントがまだ16のお前さんを親のように慕っていた事からなんとなくピンと来てな……。キリカに聞いて確信したわけだ。」

「まったく、一言くらい教えてくれてもよかったのに……。あたしたち、父さんの行方が判らないでずっとヤキモキしてたんだからね。」

カシウスの行方を知っていたにも関わらず話してくれなかったジンをエステルは頬を膨らませて見た。

「それについては悪いと思っている。ただ、文面からカシウスの旦那がエレボニアに行くことを隠したがっているような気がしてな……。しかし、どうやらお前さんたちだけででかい仕事をやり遂げたみたいじゃないか?」

「あ、うん……。ねえ、ヨシュア。もう話しちゃってもいいよね?」

「うん、こうなったら事情を話した方がよさそうだ。僕たちだけで済ませるにはあまりにも大きい話だからね。」

そしてエステル達はジンに今までの話と、女王の依頼――クローディア姫を救出する依頼を請けたことを話した。

「なるほどな……。晩餐会での話を聞いてキナ臭いとは思っていたが……。よし、その依頼、俺も手伝わせてもらうぜ。」

「え、いいの!?」

ジンの申し出にエステルは驚いた。

「ああ、カシウスの旦那に恩返しする絶好の機会だからな。どうか俺にも協力させてくれ。」

「あ、あたし達の方からお願いしたいくらいだってば~。」

「改めて、よろしくお願いします。」

その後エステル達は城を出て、ホテルに戻った。



~グランセル城内・謎の地下部分~



一方リシャール達はグランセル城内のある場所を通って、謎の広い地下空間にいた。

「こ、ここは……」

「こ、こんな場所が存在していたなんて……」

リシャールに突き従っている特務兵達は周りの空間に驚いていた。

「フフ、予想以上の規模だな。ロランス少尉。最深部まで案内できるかね?」

「了解しました……」

リシャールの頼みに頷いたロランスが先に歩みを進み始めようとしたその時、機械兵器らしき存在がリシャール達の目の前に立ちふさがった。

「おおっ!」

「き、機械の化物!?」

初めて見る自動で動く機械兵器に特務兵達は驚いた。

「ほう……。古代の人形兵器(オーバーマペット)か。」

機械兵器を見て呟いたリシャールはロランスとほぼ同時に一閃で斬り伏せた!

「す、凄い……」

「あんな化物を一刀で……」

「フフ、君の方が反応が早かったようだな。やはり、本気の君にはあまり勝てそうな気がしない。」

「ご謙遜を。さすがは『剣聖』より受け継ぎし神速の居合い……。しかと見せていただきました。」

特務兵達が自分達の強さに驚いている中、リシャールとロランスはお互いの腕を賛辞した。

「ふふ、まだまだ未熟だ。だが、時代の流れはあまりに早く未熟者の成長を待ってはくれない。何とか、このつたなき手で王国の明日を切り拓かなくては……」

憂いが籠った表情をしたリシャールだったが、決意の表情になり、特務兵達の方に向いて、号令をかけた。

「勇者たちよ!大いなる力への道は開いた!我らが愛するリベールの輝ける夜明けはもうすぐだ!諸君の働きに期待する!」

「了解であります!」

「われら特務兵、一丸となって大佐のために尽くす所存です!」

「リベールの栄光のために!リベールの栄光のために!」

リシャールの号令に負けない特務兵達の大声が謎の地下空間に響いた。



~グランセル城内・特務部隊詰所~



「謹慎!?作戦がこれから最終段階に入るというこの時期に、何故!?」

一方グランセル城内のある部屋で特務兵を率いる部隊長――武術大会で予選敗退した隊長がカノーネに言い渡された命令に反論がある部下達を代表して、反論した。

「あら、当り前でしょう?予選敗退にロランス少尉の補佐もできず、呑気に気絶するような足手纏いがいると、作戦に支障が出る可能性があるでしょう?貴方達がいても邪魔になるだけよ。」

隊長の反論にカノーネは当然のように言った。

「しかし……!」

「言い訳は聞きませんわ。後、博士の奪還を許した貴方達。貴方達も同じ処分よ。」

「「そ、そんな……!」」

突然自分達にまで話を振られたレイストン要塞で博士の見張りをしていた特務兵達も絶望した表情になった。

「返事は?」

「イ、イエス、マム……」

カノーネに睨まれた特務兵達や隊長は悔しそうな表情で頷いた。

「よろしい。事が終わればまた任務に着かせてあげますわ。それでは。」

そしてカノーネは部屋を出て行った。

「…………………………」

カノーネが出て行き、部屋内は重苦しい雰囲気に包まれていた。

「ク……!大佐の崇高なる計画の最終作戦に参加できないなんて……!なんとか、ならんのか!?」

隊長は無念そうな表情で呟いた。

「何か、手柄でもあるといいのですが………」

一人の特務兵が隊長の言葉に答えた。

「手柄……か。」

特務兵の言葉を聞いた隊長は少しの間、考え込んだ後やがてある事を思い付いた。



「そうだ……!大佐が現状恐れているメンフィルの重要人物を人質にできれば、手柄になるぞ!」

「おお……!」

「しかし、悔しいですが我々の実力では今王都にいるメンフィルの重要人物達には敵わないのでは……」

隊長の提案に何人もの特務兵達は表情を明るくしたが、一人の特務兵が表情を暗くして呟いた。

「……確かに遺憾ながらメンフィルの皇族や武将には我々では敵わない。だが、それ以外ならどうだ?」

「それ以外……ですか?」

隊長の言葉に表情を暗くしていた特務兵は首を傾げた。

「ああ。実は少尉よりメンフィル大使館で働いているある人物には手を出すなという命令が来ていてな………その人物を攫えば、我々の汚名を返上できるかもしれん。」

「し、しかしそれは命令違反なのでは?」

隊長の提案に特務兵は戸惑いながら尋ねた。

「……少尉も恐れるほどの人物だ。その人物を手中に収めれれば、今までの汚名を返上できると思わないか?」

「確かにそれはそうですが………」

「………ついて来たくない者はついて来なくていい。これは命令違反になるからな。」

「………いえ、自分も着いて行きます……!」

隊長の言葉に迷っていた特務兵だったが、少しの間考えた後、決意を持った表情で返事をした。

「よし…………明日、メンフィル帝国大使館で働いている使用人、『イリーナ・マグダエル』の確保を決行する!みな、覚悟はいいな!?」

「イエス、サー!!」

隊長の号令に特務兵達は姿勢を正して答えた。そして謹慎を言い渡された特務兵達は作戦の決行のために静かにロレントに向かった。その行動が自分達の命を散らす事も知らずに…………… 
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